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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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92/124

92. 近衛のちゴリラにつき

「改めてのお願いなんだが、見逃してもらえないかな」

「何のメリットがある。利がある話しなどあるまい」

「つまりあればいいんだな。では白鳩の居場所」

「把握しているよ」

「奴の狙い」

「話にならんな。他にないのか?」


「なら西の領主の居所」

「ほう?本当に知っているのか?」

「教えたら見逃してもらえるかな」

「うーん。アイズに聞いてみないとなぁ。だから一旦一緒に来てもらおうか」


「クロ、時間を稼げ、集中する」

「了解。やあ近衛騎士。今僕の状態をわかりやすくいうと非常にイライラしている。だから刺激しないでほしい」

「奇遇ですね。私もこの終わらない雑務のせいで同じ気持ちです。ささ、早く終わらせようではありませんか」

「君達はお喋りだな。余裕からか。さっきの騎士は話す間もなく襲いかかって来たのに」

「話して解決するならその方がいいでしょう?」

「僕らの関係性を考慮すると平行線で終わるだけだ。ああ増援待ちか。早く逃げた方が良さそうだよマル」


「そうだな。行くぞ。タイミングを」

「わかった」

「ベスボ。今日はこれで失礼するよ。だが最後に、とっておきだ!」

「ふむ、何をする気だ」

「小さなダンジョンで迷ってろ!」

「なにっ!」



「さっきのはすごいね」

「疲れたがな」

「騎士ごと岩の箱に閉じ込めるなんて確かに大技だ」

「中は簡単な迷路だが、まぁ壊してくるだろう。ただ下手に壊すと生き埋めだ。そうなれば出るのも少しは苦労してくれるんじゃないかな」

「なら時間は稼げる」

「ああ、わずかしか稼げないがこの平原だ。進路が掴めなければ早々見つからんだろう」


「勉強になったよ」

「何がだ?」

「奥の手は誰にも見せない。例え身内であっても」

「ははは」

「何がおかしいんだ?」

「いや何でもない。身内ね。さて、北東寄りに回り込みながら拠点に戻るぞ」

「そうだね」



「だいぶ距離を稼げたか。さすがに今回は疲れたよ。ところで鎮静剤は」

「あるよ」

「ふぅ、苦労が報われるな」

「これがあれば薬は完成に近づくかもしれない」

「魔獣化か。いよいよだな」

「後戻りはできないよ。ヒカルは少し躊躇いがあったように見えたけど」

「強さを求める者としては元々持っているもので勝負したかったんだろうな、あいつは」


「どうも、こんばんは」

「うわっ!なっ、い、いつの間に、あんた誰だ」

「旅をしている者でして、今は南東に向かって旅をしているところなんです」

「その旅人が何の用だ」

「ええ、実は人を探しておりまして」

「すまないが急いでいるんだ、近くに騎士がいたからそいつに聞いてみるといい」

「そうですか」


「あの」

「悪い、ではな」

「いえいえ、私がその騎士なのですよ。少しお話をさせてください」

「断る」

「私が探しているのは大怪盗マルマルという者です。心当たりありませんか」

「さあな」

「そうでしたか。お急ぎのところ失礼しました」

「いやいい。気にするな。ではこれで。行くぞ」



「追ってこないね」

「クロ、しばらく拠点に戻れなくなった」

「なぜだい?それはとても困る」

「あ、あれは、あれも近衛騎士だ。風のヴァーレ。あれに見つかったとなると、このまま戻ればどれだけ目眩しをしたところで必ず拠点を見つけられる」

「危険だね。でも待てない」

「くそっ、なんだってこんな時に限って。仕方がない奥の手だ。クロ、遠回りする。いいな」

「仕方がない。でも時間がかかりすぎるなら僕は自分の考えで動く」

「頼むからそう困らせないでくれよ。目指すは西の砦だ」



「ふむ。このまま行くと、確か砦がありましたか。まさか籠城?そんな愚策をとるだろうか。行ってみるしかないか」

「あれ?ヴァーレさん」

「おやベスボ殿。こんなところで会うとは珍しいですね」

「もしかして悪王か」

「ええ。西の砦に向かっているようです」

「どっちが行きます?」

「2人で行きましょう。油断できない相手です」

「そうですね。はぁ、また今日も帰れそうにないか」

「いいではありませんか。旅は楽しいですよ」



「夜が明け始めていますね」

「ですね。おかげで見えてきましたよ。あんなところに逃げ込んだんでしょうか」

「道に逸れるような動きはありませんでした。この平原です。見逃すことはないでしょう。ですのでここに入ったのは間違いないですよ」

「目的が謎ですね」

「ですので油断されないように」

「承知」


「あれ?ヴァーレさんにベスボまで」

「あー!おいアイズ、お前が来るなら俺が来る必要ないじゃん」

「いやぁ、僕も来たくなかったのですが王妃に見つかってしまい」

「ほう、まさか彼女も来ているのですか?」

「まさかですよ。あの人が来るならそれこそ僕は今頃ベッドの中でぐっすり」

「いいご身分だな」

「感謝していますよ?ベスボさんのおかげですから」

「くぅ、トラドがいなくなったとたん俺に。後任、誰かこないかなぁ」


「アイズ殿はどうやってここに?」

「そうだよ。俺はヴァーレさんと合流できたから足取りがわかったけど」

「北に向かうのはわかっています。でも西と北は警備がちらほら。なら東側を通るでしょ?それで東から北上していたら誰かさんが派手にやられていたので進路よしとわかりました」

「いちいち棘があるな」


「その後は偶然です。途中騎士が1人いましたので東西に分担して、目立つものを目印に来ただけですよ」

「アイズが西を?どう考えたって面倒事がありそうなのに」

「はは、は。その騎士のよすぎる判断力に負けまして。あっという間に東に行ってしまい」

「なるほど。まさかこんな砦に逃げ込むわけがないと思って来たのですね」

「ですがそのまさかだったようで。一応弁明しておきますが、ベスボがいるなら問題ないと思ってのことですよ?」

「結局押し付けるつもりだったのかよ」


「さて、砦に着きましたね」

「どうする?」

「うーん、ベスボが突撃。ヴァーレさんが出て来たところを捕える」

「アイズは?」

「指揮官というのは常に全体が見える位置に陣取るものです」

「楽ばっかり。ん?何だ、交戦中って感じだぞ?」

「本当だ。あ、なんか飛んできましたよ。ベスボ、打ち返してよ」

「いやいや、あれは、人間?」


「いってぇー!あのゴリラよくも!」

「おやおや、今度はトラド殿ですよ」

「あん?あれ、何で近衛が揃ってんの?ヴァーレにアイズまでいるの珍しいな」

「むしろ何でお前がいるんだよ」

「またあのじーさんから依頼されたんだよ。西のゴリラがコソコソなんかしてるから調査してこいって」

「騎士やめてもこき使われてるのか、あはは」

「ギルドへの正式な依頼だ、出なきゃ受けるか!」

「いいように使われてんじゃん」

「ていうかアイズ、どうせお前だろ。お前自分で来るなら依頼なんかするなよ」

「えー?依頼なんかしたっけかなぁ」

「とぼけやがって」


「おいベスボ。どうせ俺の代わりにお使いさせられてんだろ。今回こいつに全部任せようぜ」

「グッドアイディアだトラド。というわけだアイズ。頼んだぞ。俺達はやらないからな」

「いやいや、ベスボさんはともかくトラドさんは依頼したんだから遂行してくださいよ」

「お前さっき知らないって言ってたろ」

「ですが王からの依頼があったんですよね?じゃあやらないと」

「近衛騎士が出張ってんのにわざわざやる必要もないし、俺が受けた依頼は調査だ。ゴリラが砦にいました。その場に居合わせた騎士に報告して任を終えました。以上、だ」


「じゃあベスボさん」

「嫌だって言ったでしょ」

「いいではないですかアイズ殿。折角現場に来たのです。その苦労をよく知るいい機会ですよ」

「さっすがヴァーレさん」

「懐かしいですね。私も昔、アイズ殿の前任者によくお使いに駆り出されたものです」


「はぁー、仕方がないですね。トラド、状況は?」

「ゴリラがいた」

「それは聞きました」

「手下が数人、いや数匹か。目に入ったのは4かな。全部ゴリラだ」

「計5匹、わかりました」

「よろしくなー」

「待っている間お茶でも淹れましょうか。悪王一味も出て来てないようですし」

「お、ヴァーレさんのお茶なんて久々」

「上等なものはありませんけどね」

「疲れてる時にほっと一息できるのは最高ですよ」

「じゃあ俺はこの辺簡単に片付けておくかな」

「自由人どもめ。次回もっとこき使ってあげますよ」



「まだ来るか人間。なんだ、さっきと違うな」

「どうも。わけあって交代しました」

「ふん。逃げたか」

「外でお茶飲んで談笑してますよ」

「何が狙いだ」

「それは僕が聞きたい。なぜ西の領主が西と北の境めにいるんだい?」

「人間には関係ないだろう。他に用がないなら消えろ。必要なければ手を出す気はない」

「いいですね。外の連中より気が合いそうだ」


「君は西の領主のトノだよね」

「おい人間!気安いぞ!」

「そうだ!我らがトノ様に気安いぞ!」

「トノ様、この者は我らが片付けます!」

「トノ様ご指示を!」

「慕われていて羨ましいですね」

「本当にそう思うか?」


「さて、目的を教えていただけないなら仕方がないですね。僕は戦うの好きじゃないんだよ。疲れるし、面倒だし、汚れるし、何よりぶってもぶたれても痛いんだよ?こんなことが楽しいなんて正気じゃない」

「ふん。戦士とはとても呼べんな。安心しろ小僧。二度とそう思えないようにしてやる」

「それは素晴らしい。ぜひそうしてもらいたいね」

「お前達。いけ」


「1人に対して4人とはずるいね」

「文句があるなら俺達を倒してから言うんだな!」

「覚悟しろー!」

「やれやれ。おっと危ない。あらら、壁壊しちゃったよ。こわいねー」

「おのれぇ、ちょこまかと」

「君が大雑把すぎるんだよ」

「バカにしおってぇ!ウッホー!」

「あはは、何その雄叫び」

「きっさまぁー!」

「うわぁこわい、たいさーん」

「待てコラァー!」


「アイズ殿が出てきましたよ。ゴリラ達と一緒に」

「あーれー。みんなたすけてー」

「おいトラド」

「ああ。こっちに押し付けるつもりだな」

「逃げるか」

「よし」


「あ、ちょっと2人とも、逃げないでくださいよ」

「お前はそうやって俺達に押し付けるつもりだろ!手の内はわかってんだぞ」

「そうだそうだ。俺達はお前の召使じゃないんだぞ!それにどうせ押し付けるならトラドにしろ!俺はやらないからなー!」

「ずるいぞ!騎士の務めくらい果たせよベスボ!」

「お前だって依頼を最後までこなせよ!」

「待ちやがれぇー!ウッホー!」

「げ、ゴリラがこっちに」

「手を出したら終わりだ、逃げろ!」


「いやぁ、危なかった」

「お疲れさん。アイズ殿、お茶飲みます?」

「ぜひ。軽い運動をした後の一服はいいですね」

「そうでしょう。ですが、お遊びはここまでですね」

「ふぅ。もう少しゆっくりさせてくれてもいいのに」

「呑気だな、人間」


「一つ訪ねたい。人間が2人、中に来ませんでしたか?」

「お前達以外は見ていない」

「おかしいですね。あなたならすぐに気づくでしょう」

「ふん。そういえば気配を感じたことはあったな。姿がないから気のせいかと思ったが、それかもな」

「アイズ殿。どうやらマルマルの方が一枚上手だったようだ」

「そのようですね。どんな手を使ったのやら」


「おい、アイズ。ゴリラーズは片付けたぞ」

「おおご苦労さん」

「いい加減自分でなんとかしろよな」

「ですので適材適所で進むようにしました」

「ヴァーレさんなんもしてないじゃん」

「お茶を入れていただくたに残ってもらいました」

「生きた伝説を配膳係に使うなよ」

「それは構わないが、ゴリラ殿が待っていますよ」


「僕の調べだと、この西の領主は最上の者と呼ばれ、かの三魔烏にも匹敵するんだそうだ」

「へー。デモロや大山羊と同格か」

「どうするんだ?」

「いつも通りでいきましょう。前衛トラド、中衛ヴァーレさん、後衛ベスボ、指揮は僕」

「承知した」

「指揮してても戦えよ」

「呑気にしてたら俺の剛速球が飛んでいくからな」

「はいはい頑張りますとも」

「よーし、ゴリラ。俺は元だが、本気の近衛騎士を相手にどこまで保つか見せてみろよ」

「ふん。望むところ!」

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