91. 悪王ときどき近衛のち
「集まったな。次のプランを決めた。王城に向かう。目的は魔獣化のリスクを抑える鎮静剤だ」
「それって、どこにあるかわかってるのか?」
「ははは。ダグ、それはお前が今から調べるんじゃないか」
「そんな気がしたよ。ついでに潜入ルートも確認だな」
「さっすが、優秀な人材がいると助かるよ」
「へいへい」
「ダグの調査が完了次第、行動に移る」
「王城への潜入だな」
「編成はヒカルとクロが鎮静剤。俺とダグはサポート」
「私は?」
「ここで待機。シロを見ていてくれ。危なくなるようなら逃げろ」
「それなら僕が残る」
「ダメだ。実物はクロにしか判断出来ない可能性もある」
「手当たりしだい持ってくるわけにもいかねーもんな」
「それは、仕方がないか」
「ユミ、決行時にはここで待機だがそれまでに手配してほしいことがある」
「いいわよ」
「金で使っている奴らにまた出番を与えてやってくれ」
「いいけど、どの辺りで騒いでもらうの?」
「まだ未定だ。鎮静剤のありかにあわせる」
「了解。準備だけしておくわ」
「よろしくな」
「マル、鎮静剤に関して情報が入った」
「時間がかかったな」
「しやーねぇだろ。城なんてある意味この辺で一番危険な場所なんだぞ」
「おお、それは知らなかった。すまなかったなごくろうさん」
「あー、そうゆーこと言うんだな。じゃあ次はマルが行けよ」
「ははは、俺ここのブレーンだから無理。それで?」
「ふん。魔法大臣が管理しているらしい。だから研究楝にあると思う」
「わかった。じゃあヒカルとクロにそのことを伝えよう。準備が整い次第決行だ」
「でだ。マル」
「ん?」
「お前が興味持ちそうなものを見つけた」
「俺が興味を持ちそうなもの?」
「ああそうなんだ」
「なんだよもったいぶって」
「どうしよっかなーと思って」
「さっきのは悪かった、教えてくれよ」
「よしよし。へへっ、これだ」
「これって、ソノマのマーク、まさか!」
「王国はどうやら隠してるみたいだ」
「マークつきってことは」
「ああデカいだろうな」
「城に鍵が保管してあるんだな?」
「そういうこった」
「よし、俺とお前で回収しに行こう」
「サポートしつつ、な?」
「もちろんだとも。俺達の目的は鎮静剤だからな。ふふふ鍵か」
「準備は整ったわ」
「ああ。皆それぞれの役割を果たしてくれ」
「なぁ、マルたちは囮なんだよな?」
「そうだが、何か気になることでもあったか?」
「いや、なんでお前らまで城に行くんだろ、と思って」
「ははは、さすがだヒカル。えーとそこがポイントなんだ。あのマルマルが城に現れたらみんなびっくりするだろう」
「それはまぁそうだな」
「だからだ」
「いやだからそれなら外で」
「よし行くか」
「おい」
「みんなの無事を祈る、出発!」
「今度は何隠してんだろうーな。ユミは知ってるか?」
「何かしらねぇ。上手く行けばなんでもいいけど」
「僕もそう思うよ」
「ダグ、見つかったか?」
「ダメだ、貴重品管理してる倉庫ならあると思ったんだが、ねぇな」
「やはり王族だけが知っているとかか」
「うーん、でも兵士と騎士が話してるのを聞いたんだぜ?」
「今更なんだが」
「ああ」
「良く考えたらそんなもの下っ端が知っていたら俺が知らないわけない」
「つまり?」
「はめられた?」
「まさかー」
「ははは、だよな、考えすぎだよな」
「はっはっはっ」
「ようこそ、盗賊さん」
「誰だ!」
「それはむしろ僕が言う立場でしょう」
「う、アイズだと」
「近衛のか」
「最近悪王一味を名乗る者が付近で目についていまして」
「金で雇った奴らか?頼んでもいないのに名乗ってたってことか」
「そのようだな。撹乱にいいかと放っておいたのが裏目に出たか」
「君たちが探しているのはこの鍵でしょう?」
「お前が持ってたのか」
「マルマルをおびきだすならこれかなって。君はソノマには目がないから」
「くっ、策士だな」
「誘っといて何だが、お前って案外チョロいよな」
「さて、どうしましょうか」
「なあ、奴はなんで何もしねーんだろうな?」
「時間稼ぎだな」
「だったらさっさと逃げちまおうぜ」
「いいかダグ。アイズは筆頭近衛騎士だ。トラドは純粋な戦闘力がずば抜けているが、真に恐ろしいのはこいつだ。誰かが無理やり評していたのを聞いたことがある。力のトラド、スピードのヴァーレ、技のベスボ」
「アイズは」
「万能だ」
「さてそろそろ動きがないとつまらないでしょう」
「だったらとっておきを見せてやる」
「おやなんですか?」
「ふふふ、準備するから目をつぶっとけ」
「わかりました。なんて言うわけないでしょ」
「へっ、後悔するぜ?くらえ、特注臭い玉!」
「う、臭い、というか目に染みる」
「はっはっは、どうだ」
「ダ、ダグ、つらい」
「ボケはいいから逃げるぞ!」
「ひー危なかった」
「アイズはすぐに追ってくるぞ、急げ」
「ああ、っと待った誰か来る」
「うぅ、目がかすんでよく見えん、兵士か、騎士か?」
「んー、身なりのいい女だ」
「ここに身なりのいい、女だと」
「ああ追いつきました。まったく、水で洗い流してもまだ痛い。おや?王妃ではないですか」
「アイズ。何をしているの。この者は?」
「賊です」
「あなた近衛騎士でしょう。早く片付けなさい」
「はいはい、仰せのままに」
「マル、この王妃さんを人質にしようぜ」
「だめだ、ダグ、この状況はまずい。まずすぎる」
「王妃だろ?たいしたこと」
「たいしたことあるんだよ。彼女は元筆頭近衛騎士、アイズの前任だ」
「えーっと、それって、まずくね?」
「どっちも交渉出来る相手じゃない、これはまずいぞ」
「その辺の窓から」
「背中を狙われて終わりだ」
「じゃあ臭い玉を」
「アイズにそんなものが2度も通じるものか」
「潔く投降」
「その先は死刑だな」
「ど、どうすんだよ」
「お二人さん、どうしますか?出来ればそのまま投降してください。面倒なのは嫌なんです」
「ふん。騒がしいからさっさと終わらせてちょうだい。出来ないなら私がやる。で、あなたはクビね」
「やりますやります。やりますからちょっと待ってください」
「あなたはいつも口ばかりね」
「頭脳はですから」
「回りくどいだけでしょう。手間のかかることをいちいち。あら?」
「皆、伏せて!」
「うおっ!なんだ、魔法か?」
「何にせよチャンスだ!」
「おう、あばよ!やばいお二人さん!」
「危ないわね。誰かしら」
「こんばんは。私はミサキ。あの2人が捕まると良くないみたいなの。いい未来のために見逃してあげて」
「だめですよ、お嬢さん。悪人を見逃すなど面倒でも出来ません」
「アイズの知り合い?あなたはいつも面倒ごとばかり起こすわね」
「いえいえ、僕は知りませんよ。王妃の知り合いでしょ。だからあとお願いします」
「いやよ」
「そこをなんとか」
「なんとかするのがあなたの仕事でしょうに」
「で、今のも逃げちゃいますよ?」
「構いません。では、捕まえてくるまで戻ってこないように」
「はぁ、わかりました。こういう時にトラドがいてくれたらなぁ」
「ヒカル、鎮静剤は手に入った。こっちは順調だね」
「ああ、ダグ様々だな。おかげで成果は上々だ」
「これがシロに効果ありなら、僕らへの投与も行う事ができる」
「いよいよ、か」
「ためらいがあるように見える」
「俺はこのままで強くなりたかった。変身しちまったらなんだかずるしてるみたいだからな」
「なら使わなければいい」
「いや。どんな手を使ってでも強くなるって決めたからいいんだ。ちょっとだけ、気持ちか揺れたんだよ」
「だったら今の内に満足いくまで強い相手と戦っておくといいかもしれないね」
「おいおい、そんなこと言ったら面倒なことになりそうじゃねーか」
「おい、そこのお前達、止まれ」
「ちっ、兵士か」
「どうする?」
「とりあえず適当に話して誤魔化すか」
「ふーむ、お前達を何処かで見たような」
「僕は君を知らない。人違いだと思うよ」
「うーん、どこだっけ」
「止める理由がねーならもう行くぞ」
「失礼するよ。行こうヒカル」
「おいクロ、お前こういう時に名前を呼ぶなよ」
「ヒカルにクロ、あ!お前達悪王一味か!こら待てー!」
「ったく、名前を呼ぶ奴があるか!」
「ヒカルだって呼んだじゃないか」
「い、いやぁ、つい」
「いい加減観念しろ!」
「しつこいな」
「騒がれると困る。始末しよう。炭にしてどこかに詰めておけばそうそう見つからない」
「そーだな。ってそこまでする必要ある?」
「なんだかそうしたいんだ」
「む?なんだお前達、抵抗する気か!」
「バーカ、しないとでも思ったか」
「燃え尽きろ」
「なっ、うわぁ、うわー!」
「あっけないな」
「兵士はあまり強くはないからね」
「騎士が異常なだけか」
「くっ、まだ、だぁ!くらえぇ!」
「しまった、クロ!」
「大丈夫だヒカル。だけど、おまえ、僕の邪魔をするな!」
「ぐ、ぐわぁー!」
「クロ、落ち着け!いくらなんでも火が強すぎるぞ、ほんとに炭にするつもりかよ」
「跡形もないほどに燃やしてしまえば」
「落ち着けよ」
「なんだ!そこの者たち、何をしている!おのれ、邪悪なる者であるならば正義の鉄槌を受けよ!清らかなる聖なる雫よ、我が正義の力となりて」
「くそっ、新手か。なんか立ち止まってるから今のうちに行くぞ」
「わかった」
「ヒカル。あの騎士はこちらで引き付けて引き剥がす」
「りょーかい」
「ヒカル!」
「おせーよ!」
「こっちにも面倒なのがいるんだ」
「気をつけろ、あいつは」
「射撃だろ」
「見てたのか!遅いと思ったら、くそっ」
「そっちはよろしくなー」
「ヒカルとダグは大丈夫だろうか」
「適当に逃げるだろう」
「ヒカルは強さにこだわりすぎている。引き戸機を謝らないかが問題だ」
「そのためのダグだ。それよりこっちはあの変な騎士だ」
「騎士は皆個性的だね」
「まったくだ。一旦東を通ってから北に向かう。その途中で引き剥がすぞ」
「具体的にはどうやって?」
「ふぅ、とっておきの大技を使う」
「へー、そんなものあったんだ」
「まーな。切り札ってものはここぞって時に使うもんだよ」
「今がそうなのか?」
「アイズが待ち伏せていた。嫌な予感がするんだ」
「だれのこと?」
「見つけたぞ!悪人めぇ、覚悟しろ!」
「来たよ」
「準備万端だ」
「穴堀っただけじゃん」
「こういうのは古典的なのがいいんだ」
「かかるかな」
「見てろ」
「我が激昂を解き放て!アクアソード!うおぉぉぉ!うぉ?うおぉぉぉぉぉ」
「ほら落ちた」
「意外と深いね」
「ああ、そこは頑張った」
「よし行こうか」
「後は土を固めて岩にしてっと。よいしょ」
「蓋か。なるほど。封印したも同然だ」
「完璧だろ?」
「うん。気に入ったよ」
「じゃあ行くか」
「なんとか逃げ切ったね」
「ああ」
「さっき言っていたアイズというのは」
「近衛騎士だ。何か仕掛けてあるんじゃないかと思っていたんだが」
「何もないならいいんじゃないかな」
「そんなこといってると、出てくるんだよなぁ」
「あれは、誰かいるよ?」
「ほらね」
「なぁ、君たち。見たところ悪王一味だね」
「いえ人違いですよ」
「そうか」
「ところであなたは?」
「私は騎士です。ちょっとパトロールを命じられていましてね」
「ほう。近衛騎士がこんなところにパトロールか」
「そうなんですよ。なんでも罠にハマってやってくる愚か者がいるとかでここ最近ずっと見回りをしていまして」
「大変だな」
「おっしゃる通りですな。でも、それも今日で終わり。お覚悟を」
「あれは?」
「近衛騎士のベスボだ。やはり予感的中だな」




