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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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90/125

90. 鳩の策謀、マルの戦略

「さて、シロの魔獣化についてどうするつもりだ?」

「僕としてはとにかく早く投与したい」

「それはそうだろうが薬はまだ不安定だろう。確実に魔獣化するとは限らない」

「ある程度のリスクは覚悟の上だ。どのみち長くないんだから。より安定させる方法はある」

「なんだ?」

「強い魔力を帯びた素体だ」

「へー、つまり強いモンスターってことか」

「そうだよダグ。素体が良ければ効果も高い。その分安定しやすくなることがわかっている」

「なるほどねぇ」

「今ある中に候補になるものは?」

「あるけれどもっと強いものがいい。叶うなら最上の者」

「それは無理だろう」

「わかっている。あくまで理想だよ。数日以内に手に入る最上級の素体で薬の投与を行う」


「ねぇ、魔獣化でこの傷がなんとかなるのかしら」

「わからない」

「前例は」

「いくつかの被検体で傷が修復される事象を確認している。ただし、どの程度修復されるかまでは不明だ。あくまで副産物として記録していたから徹底して調べてはいないんだ」

「そうか。投与した後だが、暴走する危険性は高いんだろう?」

「うん。強い素体を使ったらそのリスクが高まる。だから実験ではやらなかったんだけど、今回は悠長な事は言っていられない」

「あー、つまり魔獣化の成功率は上がっても副作用の危険性が高まるってわけか?」

「うん。その理解であっているよヒカル」

「ふーん」

「クロ。はっきり言っておくが、暴走して手がつけられなければ」

「大丈夫だ。その時は僕がこの手で止めるよ」

「わかった」


「最上か。誰か心当たりはあるか?」

「あの鳩なんてどーだ?」

「いやだ。いずれ実験に使ってやるけどシロに使いたくない」

「ふむ。他の候補は」

「居場所はわからんけど、思いつくのは大山羊かな」

「おいダグ、どこにいるのかわかんねーなら無理だろ」

「大山羊に間してはお前が一番知ってんだろ」

「知らねーよ。城で会ったきりだ」

「お前達落ち着け。ヒカルは魔王城に行ったんだったな。その時のことでいい、候補になりそうなモンスターはいたか?」

「いや。魔王以外ほとんど見かけなかった」

「だとしたら、あとは西の領主かしら」

「白鳩が言っていた奴か。西の領主、ゴリラのトノ。だがあれは武闘派だそうだ。ヘタをすると返り討ちにあうぞ」

「ちっ、手詰まりじゃねーか」


「なあヒカル。お前さ、魔王倒したんだよな」

「ああ」

「その遺体、どこにあんだよ」

「多分魔王城に」

「なるほど。それを使うのね」

「クロ、だいぶ前の素体だが問題ないか?」

「うん。腐敗しているだけなら特に問題はないよ。ただ例えば土葬していると面倒だ。その場合、腐敗した肉体に土などの不純物が多く付着していると除去するのに時間がかかる」

「あー、ボロボロだから丁寧にやらないとか。でもまあ素材としては文句ないんじゃないか?」

「じゃあ決まりね」

「よし。ヒカル、ダグ、お前たちは魔王の遺体を回収に行ってくれ」

「りょーかい」


「マルはどうするんだ?」

「鳩の動向が気になる。今はまだ関係性を崩すわけにはいかないからな。詫びも含めて顔を出してくる」

「私も行くわ」

「わかった」

「僕はシロから離れるわけにはいかない。魔王がダメなら周囲のモンスターで魔力の高そうな素体を手に入れてきてくれ」

「おう、任せろ」

「魔王城か、ちょっと遠くないか?」

「全速力で行けば数日で戻れるだろ」

「まぁそうか。仕方ねー、行くか」



「ようこそマルマルさん。それと従者のユミアさん」

「白鳩殿、先日は大変失礼いたしました」

「いえお互い様でしょう。それで?何か御用でしょうか」

「はい。非礼のお詫びにと思いまして」

「お詫びですか。そうですねぇ。あなた方から私に何か有益になるものを用意出来るので?」

「わかりません。ですのでお伺いに上がりました」

「ぽっぽっぽっ。考えもなしに来たと。まったく何をしに来たのかと思えば」

「何かお力になれることはないでしょうか」

「そうですねぇ」


「では西の領主を潰してきて下さい」

「トノですか」

「ええ」

「それは、さすがに困難というよりも無理でしょう」

「力になりたいと言ったのはあなたですよ」

「はい。ですが他に何か」

「では代替案を用意しなさい」

「西を潰す代替案ですか」

「白鳩殿、それはつまり勢力図を書き換えることが出来ればよろしいのですか?」

「ええユミアさん。それでも構いませんよ。出来るものならね」


「先日運動会のお話をされていましたね」

「それが何か?」

「この地で開催してみてはいかがでしょうか」

「ぽっ。本来魔王城で行う行事をここで。なるほど先手を打って私が魔王の代わりだと」

「はい。モンスターは強者に従うのが常。モンスター全体に号令を発する事ができる者を王として見るのは無理のない話かと」

「従うのであれば私の配下も同然」

「参加を拒否するのであれば敵意ありとなります」


「そうすると西との対立が一層深まりますね」

「北の地は白鳩殿が掌握されています。イベントの参加をお断る者はいないなず」

「ええ」

「西は一枚岩ではないでしょう。そこから流れてくる者を取り込めたなら勢力は増します」

「その考え、単純過ぎませんか?そこで誰もこなければ内々で騒ぐだけの実に滑稽な領主となってしまいます」

「ですのでサクラを用意します」

「どこに」

「南と東です」

「周りに合わせる群集心理を利用するのですか」

「はい。南と東から動きがあることを見せられれば」


「ぽっぽっぽっ。小細工ですね。今ひとつ足りない」

「で、では」

「いえその話、のりましょう」

「え?」

「実は大山羊からこの地で開催することを提案されていたのですよ。魔王がいない今誰かがまとめる必要があると。ぽっぽっぽっ」

「な、なるほど」


「いいことを思いつきました。マルマルさん、お願いがあります」

「どのようなご依頼でしょうか」

「運動会の前後でモンスターは行列をなして移動します。その動きを見た人間は必ず出張ってくるでしょう」

「おっしゃる通りかと」

「そこで、西側で騒動を起こしていただきたい。なんでも構いません。ただし西のモンスター達を巻き込むことが条件です」

「西以外には?」

「不要です。彼らに西は問題があると思わせればいい。そしてこの北の地では彼らを暖かく迎えようではありませんか」

「よいお考えかと」

「ではお願いします」

「承知しました」


「ところで、こちらを差し上げます。先日の一件は私にも非があると思いますのでその謝罪に」

「これは」

「ピジョンブラッドです」

「ありがとうございます」

「これは私の血で出来たもの。ぜひご堪能ください。それと、薬の完成をお待ちしておりますよ」

「御意にございます。それでは我々はこれにて」

「ええさようなら」



「どういうつもりかしら」

「元々考えていたことなんだろう。西で騒動を起こす。だがこれが北の仕業とわかれば面倒になる」

「そこで私達の出番ね」

「ああ。万一俺達の身に何かあっても痛くもないからな」

「ただし、薬さえ出来たならか」

「だからこれを渡してきたんだろう。早く仕上げろってことだ」

「いいように使ってくれるわね」

「まったくだ。俺達の拠点に来たのも、そこで暴れたのも、もしかしたら」

「考えすぎじゃないかしら。だけど、もしそうなら鳩の分際でやってくれるわね。いつか後悔させてやるわ」

「まあ奴が仕組んだ状況かもしれないが、おかげで欲しかったものが手に入った」

「そうね。これでシロちゃんを。本当に、魔獣化で本当に助かるのかしら」

「さぁな。やってみないことにはなんとも言えないさ」



「マル、いるか?」

「まだ戻っていないよ。おかえりヒカル。魔王は見つかったかい?」

「あー、すまん」

「いいんだ。正直期待はしていなかった」

「シロはどうだ」

「落ち着いている。徐々に衰弱しているがそれ以外は特に何もないよ」

「早くしねーとだな」

「ダグは」

「まだ探してる。一旦状況を伝えた方がいいと思って俺だけ戻ってきた」

「いい判断だと思う。となると、もう決断する時かもしれない」


「投与する薬は出来たのか?」

「うん。とりあえず見込みがありそうな素体を使ったよ。今日中にマルが戻ったら手伝ってもらいたいけど、戻らなければ僕だけで始める」

「大丈夫なのか?」

「なんとかするよ。時間はあまりないからね」

「クロ」

「ヒカルはなんだかんだで優しいね。でも僕らは犯罪者だ。極悪人と呼ばれても否定できないことをしている。だからこうなるのは因果として当然なんだよ」

「そうか」

「だけど、その因果というものを超えてみたいものだね。そうだ、僕らの永遠はそれを超えることを目的とするのも面白いかもしれない」

「じゃあ早くシロを起こさないとな」

「うん、そうだね」



「クロ!戻ったぞ、朗報だ!」

「どうしたんだいマル」

「最上の者の媒体が手に入ったぞ」

「どうやって手に入れたんだ?」

「白鳩から手に入れた」

「まさか始末したってこと?」

「いや、やつから提供してもらった。先日の詫びとしてな」

「マル、折角だけどそれは受け取れない。言ったはずだよ。僕はそれを使う気はないと」

「だが最も確実な方法だろ?」

「ねえクロ。シロちゃんを失うのとポリシーを曲げるの、どっちがあなたにとって安いのかを」

「そんなこと。言うまでも、ない。わかったよ」

「早速薬の調合を」

「わかっているさ。だけどね、僕はあの鳩を絶対に許しはしない。必ずこの手であの首を絞めてやる」



「すまん、遅くなった」

「ダグ!本当に遅かったじゃない。あら、その袋はもしかして」

「ああ見つけた。墓があって埋めてあったんだが、その」

「なんだ?」

「骨しかなかった」

「それなら問題はないよ。もう不要だからね」

「どういうことだ?まさか、シロは」

「安心しろ、白鳩の血液を提供してもらったんだよ」

「そ、そういうことかよ。びびらせんな」

「さっき投与が終わったところだ」

「回復してくれるといいな」

「今は待つしかないわね」



「ユミ、ダグ来てくれ。運動会で騒動を起こす手筈になっているんだが」

「ええ」

「集団で動いている者を何度か小突いてやれ」

「わかった。おれの出番ってわけか」

「任せる。当日、隙をみて実行だ」

「りょーかい」

「それとユミ。俺達は目をつけられ始めている。そこでだ、金をばらまいて適当な奴らに悪王一味を名乗らせてくれ」

「いいけど、囮になるかしら」

「大丈夫だ。目的もなく暴れてもらって、結果俺達の目的が見えないように出来ればそれでいい」

「わかったわ。暇そうな犯罪者でも使っておく」

「頼む。これでシロが回復するまで、少しくらいは撹乱できるだろう。それと運動会で俺達は表向き鳩と手を切ることになる。俺達は運動会のスポンサーとしてその場に居合わせただけということになっている」

「裏で取引は続行なのね」

「今はな。いずれ本当に手を切るさ」



「よっ、運動会はどうだった?」

「無事終わったよ」

「この話は字面だけだと呑気な会話だな」

「ははは。だが少し先が読めない状況になってきた」

「何かあったのか」

「三魔烏は知っているな?」

「大山羊とかだろ」

「そう。そしてもう一体、デモロがイベントに来ていた」

「悪魔の王だっけ」

「ヒカルが打ち取った魔王とは比較にならない強力なモンスターだ。それが今一度魔王として君臨するという」

「おいおい」

「今後情勢はどうなるかわからない」

「面倒なことになってんな」

「ははは、帰り道ではため息しか出なかったよ」

「ごくろーさん」

「だが今に見てろ。このまま振り回されるだけの俺じゃないさ」

「頼りにしてるぜ?マルマルさん」



「投与から数日、経過はどうだ?」

「マルか。意識はまだ戻らないけど魔獣化は進行している。その点は問題ない。ただ現時点ですでに暴走の兆候が出ている」

「どういうことだ?」

「低く唸っていることがあるんだ。痛むわけでも苦しいわけでもない。ただ抑えられないという感じだね」

「となると、意識が戻る前に一暴れするかもしれんな」

「うん。タイミングは魔獣化の完了間際だと思う」

「完了はいつ頃になるかはわかるか」

「はっきりとはわからない。言えるのは、すぐではないけれど数日後には動き出すだろうね」

「わかった。しばらく全員が待機するようにしよう」



「ねぇマル。以前城の方で魔獣化した人がいたでしょ?」

「らしいな」

「その時に使われた鎮静剤があるみたいなの」

「城か」

「忍び込むのは大変だけど、今後を考えるなら手に入れておいたほうがいいと思う」

「そうだな。全員を集めてくれ」

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