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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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88. 愛ってなんだかわかりづらい

「ヒカル。まずはどういう動きだったか思い起こしながらそれをなぞっていけ」

「わかった。まずは師匠、ヒースの戦い方だ」

「その人はどんな戦い方だった」

「師匠は、槍をいつもただ握っていた。あまり構えってものを見たことがないな」

「本気で戦っているところを見たことがないのか?」

「いや、ある。そうだあの時の師匠は。右手で槍を持って左手は中頃に添える。右足を引いて、重心を少し落とす。あの時使ったスキルは」

「よし。こい、ヒカル」

「雷光」


「いいぞ、今までと動きが違う」

「とか言いつつちゃんと対応できてんじゃねーか!」

「まだぎこちないからな」

「ちっ」

「それにその技は高速の突撃だ。圧倒的なスピードがあって成り立つものじゃないか?狙いがバレバレ。自分が使えるように変えてみろよ」

「自分の」

「集中してきたな」

「一撃、必殺」

「お、おい、俺を殺すなよ?」

「魔刃!」

「うおぉぉっ、あぶない!魔力の刃か。さっきのと全然違うが、まぁいいんじゃないか」

「やってて思い出したんだが、そういえば向こうで色々使ってたものがあったなーって」

「そうか。だったらそれも思い出してみろ」

「スキル頼みだったのが嫌ですっかり忘れてた。さすがにデバイスがないから使えないけど、真似るくらいなら」

「ははは、調子が出てきたな。さぁもう一度だ!」

「ああ!」



「どうだ。何か掴めそうか?」

「うーん、師匠って相手を見る余裕がいつもあったんだなぁってくらいかな。打ちながら観察していた」

「いい気づきだ。違う戦い方には慣れんだろうが、行き詰まった時は違う事をするのはいいと思うぞ」

「けど根本的にはまだ変わってないだろ」

「今はそれでいいさ。ちょっとずつ変化を加える中で自分のやり方の良し悪しにも気づけるだろう」

「ふー。そうか、忘れてたけど師匠にも言われたな」

「ちょっとは頭を使えって?」

「お前なぁ」



「いいかい、ヒカル。君はすぐに飛びかかってしまう。まずは相手を観察するんだ」

「戦ってる最中にそんな余裕あるわけねーじゃん」

「なら色々試してみるんだ」

「色々って?」

「剣の軌道やタイミングとかかな」

「隙があるとこに剣で斬るだけじゃダメなのか」

「その考えで今まで。いいセンスしてるのかもな。じゃあ問題だ。隙のない相手と出くわしたらどうする」

「いや、どうするって」

「よーし、ここからは実践だ。かかってこい」



「あれは何もできなかった。そうだ、だから不意をつくやり方にしていったんだ。なぁ次試したい事があるんだけどいいか?」

「おう。構わんぞ」

「今度はじじいだ」

「その人は?」

「器用だったな。なんでも使いこなしてた。状況に合わせて戦い方を変えていた。そんなに見た事はないけど」

「あのじじい、目潰しばっか使ってた」

「随分と姑息だな。効率重視なのか」

「かもな。実力はある。ヒースの師匠でもあるから」

「目潰しか。それやってみろ。あ、でもほんとに潰すなよ?わかってるよな?」

「あーもちろんだ。けどうっかりってこともある。頭使わねーからさ」

「意外と根に持つな」


「うーん、どうやるかな」

「具体的にはどんなやり方だったんだ?」

「目前でちょっと光を放ったり、ああこれは光を放つ道具なんだけど」

「ふーむ、なるほど、ねぇ」

「けどよ、俺は魔力はあっても魔法は苦手なんだ。どうやりゃあんな風に火を起こしたり水出したり、意味わかんねーよ」

「視界を覆ったり潰す必要はないだろ。要は相手の気を引いて注意を逸らす。その隙を狙う事を目的にしたらいい」

「注意を引くか」


「ヒカルは魔力を撃ち放つだけしか出来ないのか?」

「棘のある言い方だな」

「ははは。お前がそんな事言い返してくるとはな」

「うるせーな。気にしないわけないだろ」

「悪かった、どんな事ができるか知りたくってな」

「うーん、撃ち放つだけだな」

「よし。じゃあそれをどうにかしよう」

「気を引くのに使うのか?」

「まずはそうだ。例えば、魔力をその場に留めるとか。どうなるのか気になるだろ」

「まー、気にはなるか」

「やってみよう」

「おっし」


「うぉ!あぶねー、顔に当たるとこだった」

「ははは、上じゃなく前に向けたらいいんじゃないか」

「そ、それもそうか」

「感覚的には、きっと手の前に貯める感じじゃないか?」

「いつもなんとなく撃ってるからなぁ」

「時間がかかりそうだ。じっくり取り組むといい」

「わかった」



「その爺さんは実力者なんだよな。格闘はしたのか?武器とか」

「ああ、もちろん。いつもボコボコにされたから。よし格闘もやってみるか」

「その意気だ」


「おっ、なんか面白そうな事してんじゃねーか」

「お前は来なくていーんだよ。かわいいものでも探してろ」

「煙たがらんでもいいだろー。うちのリーダーにはもっと強くなって欲しいからな」

「リーダーはマルだろ」

「何言ってんだ、世の中には悪王一味で通ってるんだぜ?」

「ははは。俺もヒカルがリーダーだとばかり」

「適当に言いやがって」


「今ヒカルの戦い方について過去相対した人を参考にしていたんだが。ダグ、お前は細やかで器用だ。その辺りレクチャーしてやってくれ」

「あいよ」

「ちっ。マルはどっか行くのか」

「すまんな。数日で戻る」

「そっか」

「お?なんだなんだヒカル君は寂しいのかな?」

「うっせーな!てめぇ訓練だからって手ぇ抜かねーからな」

「ははは、仲良くなー」

「よーしかかってこーい。おにーさんが受けとめてやるぜー」

「このやろぉ覚悟しやがれよ、一撃必殺のぉ、魔刃!」

「おっとっとー、やーいやーい」

「うぎぃー!」



「真面目な話なんだが、どんな訓練してるんだ?」

「ふん。相手に動きを読まれねーよにする方法を模索中だ」

「なるほど」

「また茶化すんだろ」

「しないから安心しろよ。おれもその辺は苦労したな。すぐ読まれるからあんまり真っ向勝負しなくなった。そんでこそこそ戦うようになったよ」

「へぇ」

「結局今もよくわからん」

「なんだよ、俺と変わらんのか」

「かもな」


「今はどうやってんだ?」

「とにかく慎重に動く事を心掛けてる。ちょっかいかけて隙が出来るのを待つ」

「けど最近は思い切りいーじゃん」

「ははっ、そうだな。おれの場合は慎重すぎたからやり方を変えて上手く行ってるだけだ。参考にはならんだろ」

「難しいーな」

「まったくだ。凡人なりの戦い方ってのを学ばんとな」

「俺は」


「お前は非凡なものを持ってる。けどよ、今後のためにはっきり言っておくが天才じゃない。だからただ努力してもそんな奴らには勝てないとおれは思う」

「努力は無駄だってのか?」

「必要だ。でもそれだけじゃずっと勝てないままだ。騎士はバカみたい奴もいるがそれでも実力はあるから騎士なんだ。才能は皆お前と同列ってこった」

「そいつらを出し抜くには」

「皆努力する上を行くには、わからん」

「はぁ、どうすりゃいいんだろーな」

「すまん、せっかくやる気になってたのに」

「気にするな。はっきり言ってもらえて良かったさ。わかってても意固地になって認められないとそれこそ先がない」

「ダメな自分を認めるのって辛いなぁ」

「でもやってやるさ。昔じじいにも色々言われた」

「なんだじじいって?」

「師匠の師匠だよ」



「いいかヒカル。わしもお前も天才じゃない。ヒースのようにはなれん」

「うっせーな」

「それをまず認めろ。常に欠点を見据えておけ。上を見ず自分を見ろ。できる事を学べ」

「できねーことに取り組んだ方がいいんじゃねぇのか?」

「それは後でいい」

「けっ。オレは強くなる。そのためには何でも出来るようにならねーと、師匠どころかトモヤ達に勝てない」

「ヒースは槍しか使っていないだろ」

「一個だけ頑張っても、それこそ凡人じゃさがつかないだろ。オレは凡人じゃないけど」

「得意なものをおろそかにしたら元も子もない」

「ほんとにそれで強くなれるのかよ」

「わからん。お前次第だ。だが焦るな。時間をかけろ」

「あんた師匠よりすごいじゃねぇか。どんだけ時間をかけたんだ?」

「ははは。そうだなぁ。ま、途方もない時間だな」

「長生きかよ」



「よっヒカル。特訓はどんな感じだ?」

「マル、おかえり」

「お、おう」

「見てろ。光よ」

「おっ、魔力を留める事ができるようになったか」

「僕のおかげだ」

「私のおかげです」

「ははは。双子は魔法が得意だからな」

「ああ、助かったよ」

「な、なぁダグ。ヒカルがやけに素直なんだが」

「ああ。いつもありがとうマル」

「ダグ、何のつもりだ?」

「へへっ。冗談だよ。おれは。感謝してるんだろ」

「そうか」

「あら、私だけ除け者なのかしら」

「ユミアさんお疲れ様であります」

「おいユミ、シロはまた何かしたのか?」

「ちょっと間違えて私の弓を素材にしちゃいそうになっただけよ」

「そ、そうか」


「上手くコントロール出来るようになったか」

「まだ手の上に浮かべるだけだ」

「進歩してるんだ。いいことだろ」

「その魔球、どう使うつもりなの?」

「囮にしようかと」

「囮?」

「浮かべて相手の気を引くんだってよ」

「隙を作るためであります」

「定型の言葉を作るといいんだ。そしたらできたんだよ。僕が教えた」

「ははは、その呪文がまさか役に立つなんてな」

「なるほどねぇ。それってもっと細かいものをたくさん出せたりするのかしら」

「どうかな。なんせ今のが出来るようになったばかりだ」

「ふーん」


「いい案でもあるなら教えてやれよ」

「魔法や矢が飛んできたらそれをぶつけるのもありかなって」

「それなら最初から盾を作った方がいいのではないかな。その魔力を薄く伸ばすんだ」

「そこまで出来るならいっそ剣にでもしちまえよ」

「ははは、魔力の剣か。いいんじゃないかな、魔法で剣を作る騎士がいたし、出来るだろう」

「簡単に言ってくれるな。やるのは俺なんだぞ」

「ふふん。私は魔力のコントロールが上手ですからもっとレクチャーしてあげますよ」

「そりゃどーも」

「シロちゃんはもっと理性をコントロールしたほうがいいと思うけどねぇ。私の弓」

「はい。その通りであります」

「ははは。ヒカル」

「何だよ」

「上手くいきそうだな」

「どうかな」


「お前はさ、世界に愛されてるよな」

「俺が?マル、んなわけないだろ。もしそうなら親に捨てられねーよ」

「そうだなぁ。どんなに人間の悪意にさらされて辛い状況になっても世界が助けてくれる。だからお前はいつも何かの助力を受けている。違うか?」

「助力って、思い当たらんけど」

「1人になっても孤児院が迎えてくれた」

「雑用だぜ?」

「そんなお前を王国が見つけ出した」

「勇者と称した捨て石だろ」

「だから権力の及ばない異世界に行った」

「それこそ何もかもが違う所にたった1人で」

「そこで師と呼べる人、家族、友人を作ることが出来た」

「だけど、またここに戻って来た」

「お前の目的を果たすため。強さを証明するにはもってこいだろ?」

「証明。今はもう、1人じゃない、か」

「な?愛されてるって思えないか」

「うるせーな。さーてどーだかな」

「お前は世界に愛されている。世界を巡り見た俺が保証してやるよ。だから、あまり下を向くな」

「へいへい、今日は疲れた。もう戻る。みんなかいさーん」

「ん、ああ、おつかれー」

「そうねおやすみ」

「僕はもう少し研究室にいるよ」

「わかりました。手伝うことなければ戻りますが、よさそうですね。おやすみです」

「みんなお疲れ。ヒカル。ゆっくり休め」

「そーする。その、ありがとよ」

「いいさ。いつでも相談してくれ」


「俺も寝るか。灯りよし、戸締まりよし」

「なぁ」

「ん?なんだ、部屋に行ってなかったのか?」

「お前の名前って偽名だよな?本当はなんて名前なんだ?」

「さぁな。忘れたし、もう必要ない」

「ふーん、そっか。ならいいや。んじゃおやすみ、マル」

「ああ。おやすみ、ヒカル」

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