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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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86. 少し遡ってからのシロとクロの永遠

「はぁ、はぁ。ま、待ってください、ここまで来ればもう、いいでしょう」

「あのブンドウという騎士も追ってきてはいないね。シロ、大丈夫かい?」

「ええ、さすがにここまで走るのは大変ですねー、はぁー疲れました」

「勇者、ありがとう。君のおかげで助かった。拠点と売人を失ったのは痛手だけどどうにでもなる。悪くない状況だ」

「助かったと思うのは気が早いぞ。腕を直せ。出来なきゃ殺す」

「わかっている。約束は守るよ。かつて研究所として使われていた廃屋があるからそこに行こう」

「いいだろう」


「しかし君は消えてしまったとばかり思っていた。それにこの短期間で随分成長したようだね」

「わけありなんだよ」

「わけありか、なるほど」

「腕ですけれど、どんな腕をお望みですか?」

「元の腕と同じのがいい」

「元の腕ですか。クロ、できそう?」

「どうだろう。似た体格の人間の腕をベースにして、モンスターの部位を合成して」

「はぁ、やっぱ俺の腕じゃなくて他人の腕くっつけんだな」

「再生させる技術はないんだから仕方がない。嫌かい?」

「良くはないが仕方がない」

「ああ。なるべく強い腕になるよう努力しよう。どんな腕になるか楽しみだね」

「お前、そうか研究バカだったっけか。まぁそれなりに期待はしておくぞ」

「最善を尽くすよ」



「ここか?」

「そうだよ」

「こちらです」

「どのくらいで腕の取り付けが出来るんだ?」

「一から作ることになるから当然すぐとはいかない。材料集めからだね」

「難儀なもんだ」

「仕方がないさ。腕をなくすほうが悪い」

「うるせーな。ちっ、やなこと思い出しちまった」

「それはすまない」

「まったくだ」


「まずは材料からですね」

「作る腕のモデルだけど、特性はどんなものいい?」

「力が強くて、強い魔力にも耐えられる。それでいて俺の体格にちゃんとフィットするものだ」

「意外とワガママだ。そうだな。何度か失敗すると思う。最良を求めるならそこは我慢してほしい」

「わかった」

「シロ。最適な素材集めだけど、ダグに連絡を取ってほしい。何かいい案がないか聞いてほしいんだ」

「わかりました」


「ダグって、確か遠征の時にいた奴か?」

「そうだよ」

「まだつるんでんだな」

「使えるからね」

「ふーん」

「勇者君、君も働いてほしい」

「まぁいいけど。俺の腕づくりに必要なんだよな?」

「もちろん。今僕たちに必要不可欠なものがある」

「なんだ?」

「金だ」

「切実だな」

「そう、切実な問題だ。なんせ僕達は文無しだからね。今日のご飯をどうしようかというほど」

「はぁ、適当に食いもん探してくりゃいいんだな」

「よろしく頼む。できれば美味しいものがいい」

「ったくめんどくせーな」



「という経緯で僕らは再会したんだ」

「ははは、偶然だったのか」

「そうだね。ヒカルとは偶然だった。でもダグとユミアは違う。魔王討伐遠征の頃から連絡を取っていたんだ。あの2人は王国に組するようには見えなかった。それでいて所属は王国に近いところにあったから上手く利用できると思ったんだ」

「なるほどねぇ」

「クロは認めませんが私達は知らずに仲間として行動をともにするようになっていましたね」

「仲間か。いいね」


「私達のことよりどうしてマルはあの場に居合わせたのですか?」

「偶然というには出来すぎている」

「ああ、偶然じゃないからな。トラドがダグとユミを警戒しているのは知っていたんだ。あの2人を迎えにいくつもりでしばらく見ていたからトラドのこともすぐに気づいた。あいつはどうにも隙がなく近づけなくて、それで言うに言えなかったんだよ」

「彼は危険だね。先日出会った槍使いにも劣らないほどの武力。僕達にないものだ」

「槍使い?ま、トラドは王国最強と名高いんだ。そうそう勝てる相手ではないさ」



「マル、ちょっといいかしら。鳩からの要求について相談したいんだけど」

「ああわかった。行くよ。じゃあまた後でな」

「うん」

「また来るのですね」

「僕も思ったよ」

「何しに?」

「さあ。きっと年だから喋りたがるんだろう」

「そうですね。老人は皆話すと止まりませんから」

「シロは好かれてたね」

「そうね。懐かしさも忘れるほど忙しい日々です。もはや遠い過去ですね」



「お、2人ともまだいたな」

「本当に来たよ」

「暇なのでしょうか」

「ははは、辛辣だな。魔獣化したらどうなるかわからないんだ。その前にお前たちのことを聞いてみたくてな」

「ふーん。僕からも聞きたい。マルの目的は2人を迎えることなのはわかったけど、その後どうするつもりだったんだ?」

「皆で仲良く冒険の旅でしょうか?」

「ははは、そうだな。それもいいかもしれない。正直特に考えていなかったよ」

「マルは深く考えているようでいて案外何も考えていないことが少なくない」

「知ってるか?人生を程よく楽しむコツがあるんだそうだ。むかーし、一緒に旅した奴らが言っていたよ。1人は適当であることだと。そしてもう1人が言ったのは、死なないことだそうだ」


「お前たちこそ、妙に長生きにこだわっているじゃないか。シロはどうして永遠を手に入れたいと思ったんだ」

「永遠にこだわっているわけではありません。私の大切な人が傷つかないようにしたいのです」

「他の者を傷つけてもか?」

「はい」

「お前らしいな」


「だがそれなら永遠なんて途方もない事考えなくてもよかったんじゃないか?」

「そうかもしれません。ですがそれではダメな気がするのです。自分でも何故なのかわかりません。もしかするとその理由を知りたいのかもしれませんね」

「きっかけもないのか?」

「うーん。夢を気にしていたように思います」

「意外と根拠にない事なんだな」

「夢は自分の願望を映すともいわれています。その夢ではクロと私は永遠を手に入れていました。毎日愉快に過ごしています。ですが何かのきっかけでクロのお気に入りのおもちゃが壊れてしまうのです。そしてクロは全てを壊してしまうのです」

「ならむしろそうならないように延命なんて」

「違います。そうならないようにここで永遠というものを手にする必要がある、そう思えて仕方がないのです」

「シロ、お前は」

「僕はそんな駄々っ子じゃないよ」

「そうですね。でもクロは純粋なんです」


「クロはどうなんだ?なぜ永遠を手にしたい」

「気兼ね無く研究が出来るからだよ。研究者にとって時間は有限であることをいつも突きつけられる。求める結果に行き着くまでにどれほどの時間がかかるものか。しかしもっと色々なテーマを追いたい。人生は短い。テーマを絞らないと望む結果全てに行き着けない」

「だから永遠を手にするのか。研究のため」

「そう」

「てっきりシロのためと言うのかと。あまり大切にしていないんだな」

「そんなことはない。僕はシロを大切に想っている」

「そうは見えないぞ」

「もっとよく観察してほしい。僕は大切にしているよ」

「そうなのか、シロ?」

「ええ。私達双子はお互いを大切に想っていますよ。誰がなんと言おうとも」

「永遠を手に入れればシロが死ぬ確率が下がる。そうすれば研究にもっと意識を向けられる。ぶれていないはずだ」

「ふーん、正直なところお前達の事は未だによくわからんな」


「とはいえ、窮地に立たせたり危険が迫っても助けなかったことには怒っています」

「仕方がなかった。その場を切り抜けることが出来なかったんだ。だけど僕は大切に想っているよ」

「知ってます。手段を選ばなすぎるのも知っています。それでいいとも思っています。でも腹は立ちます」

「複雑だな。難しい問題だ」

「兄弟というよりも恋人みたいだな」


「永遠か。なぁ、この薬は延命措置と言っていいものだろう。だがもしも思わぬ結果になって不死にでもなったら、お前達はどうする」

「何か問題でもあるの?」

「嫌になったら永遠を終わらせる方法を探します」

「ははは。いや、聞いてみただけだ。そうだな、お前達ならそう言うよな」



「マル、ちょっといいか?」

「今度はダグか。仕方がない」

「なんだよ、おれじゃ話したくないってのか?」

「そうは言ってないさ。ただ、あの2人とじっくり話す機会なんてなかったからな。色々聞いてみたかったんだ」

「そんなのいつでも出来るだろーに」

「そうだな。だが、いつまでも続くことなんて中々ないものだよ」



「今いいか?」

「いいですよ。結局この間は戻ってきませんでしたね」

「もしかして待たせたか?」

「いえ」

「キリのいいところで終わって部屋に戻ったよ」

「そうか。来てたら誰もいない部屋に1人」

「寂しいおじさんになりますね」

「寂しいね」

「2人で言うなよ。寂しくなるだろ」


「しかしよくこんな研究始められたな」

「倫理観においては危険視されたために随分とやりづらかった」

「それもあるだろうが、いくらお前達が優秀とはいえこの結果を出すのに時間がかかったはずだ。その若さで得られる成果ではないだろう」

「文献があったんだ。かつて同じ研究をした者がいた。どこかの王様で、その人も永遠を欲しがったんだ。そしてこの薬を調合した。苦労したよ。どうすればいいかわかってもどうやればいいのかわからなくて。だけどヒントが現れた」

「ヒント?」

「そう。王国にいる査定員だ。その査定員が作ったものでモンスター化した人間がいた」

「なるほど、その配合を参考にしたわけか」

「いや違う。ポイントはモンスター化だ。モンスターエキスの配合方法自体はすでに出来ていた。だけど人体に投与しても効果が発現しなかったんだ。だけどあの査定員は可能にした」

「発現させた方法ねぇ」

「そう、それはゼリーだったんだ!」

「ゼ、ゼリーが?」

「そうなんだ。ゼリーに混ぜ流動食として口に入れることで効果が現れる。素晴らしい発見だね」

「急に内容が、まぁいいか。結果が出てるなら。なぁこの薬、ほんとに大丈夫だよな?」


「マル。僕の中で1つ明らかになっていないことがある」

「明らかじゃないこと?」

「セツカが君が生きていることを知っていた。だけど言わないように指示したのは君だとも言っていた。なぜだ」

「魂になってしまった時のことか。実はあまり良く覚えていないんだが、思い当たるのは大した理由じゃないな」

「理由の価値は僕が判断する」

「元々俺は罪人だった。だから死んだことにした方が都合がいいと思ったんだ。魔王討伐なんてあのメンバーじゃ無理だったのはわかっていたし」

「なるほど。確かに僕にとっては大した理由ではないね」

「だろ?」


「マル。あの戦士村の者達の活動によって人間とモンスターとの関係が以前と違ってきている。僕らと鳩、そしてモンスター。人間とそしてそこにモンスターが加わった組織。勢力図は複雑になっていく。それに伴って戦いも増えるだろうね」

「そうだな」

「私達は大丈夫でしょうか」

「戦力に関しては魔獣化によって大分縮まるだろう。投与した者は全員が近衛騎士並になれるかはわからんが騎士級になることは間違いない」

「僕が自分に施した改造でもそれは証明されている。きっと対抗できるけれど、例えばあの槍使いの相手が出来るだろうか」

「そんなに強かったのか?」

「ヒカルが遊ばれていました」

「いつものことだろ」

「それもそうですね」

「ははは。ま、戦わなくてもいい方法を探せばいいさ」

「はい。ですが、いえ、そうですね。そう出来ればいいですね」

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