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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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85. ヒカルが強さにこだわるここだけの話

「うお!なんだこれ!」

「おい、どうした!」

「ちょ、ちょっと、勇者くんの足元すごく光ってるわよ」

「なんか変な模様が、な、な、なんなんだー!うわぁぁぁぁぁぁ」


「な、なんだ?何が起きたんだよ、おいっ!だれかいねーのかよ、おい!だれか、だれもいねーのか?また、おれだけ。なんなんだよ、ここ、どこだよ、どこなんだよ」



「今回のクエストは科学満載で大変だったね」

「お前はいつも大変そうだけどな」

「そ、そうかな?僕だって大分慣れてきたんだけど」

「ユウヤ君は戦闘向きじゃないもんね」

「誰にだって得手不得手はあるさ。君が得意なことを探すといい」

「ですよね!僕にできるかことかぁ」

「それならここを離れた方がいい気がするけどな」

「もー、トモヤはいつも水さすんだから。ヒースさんを見習って励ますとかしてよ」

「へいへい」



「こっちは何もなさそうね」

「そーだな。報酬もぱっとしねーし。骨折り損だ」

「えー、だったらそれ僕にちょうだいよ」

「どうしよっかなー」

「けち。あれ、急にみんなどうしたの?」

「何かいるわ」

「ユウヤ君は下がって。トモヤ君はユウヤ君のカバー、アノメちゃんは俺に続け」

「りょーかい」

「ヒースさんには悪いけど、前に出るのは私よ!ん?子供?」

「なんだ?科学系には見えねーけど」

「宇宙人が実験用に捕まえた子じゃないかしら」

「魔改造だとめんどーだな」

「でもあの子、なんかすごく不安そうにしてるよ。あの、ヒースさん」

「彼を助けてあげたいのかい?」

「その、はい」

「わかった。出来ることはやってみよう」

「あんたほんとユウヤには甘いよな」

「ははっ、そうかな?」


「君、どうしてここにいるんだい?」

「うっせーな、知るか!こっちがききてーよ!」

「そうか」

「話が通じるようにみえないわね。こういう相手の対処法って言ったら、力づくよね?」

「あ、待て!」

「じゃあ行っくわよー、そーぉれっ!」

「くっ、あぶねーだろ!なんなんだよ、いったいなんなんだよ!なんでオレばっかこんなめに!このっ、このぉっ!」

「がむしゃらねー。でもそんなじゃ当たんないわよー」

「う、うぅぁぁぁあああ!」

「アノメちゃん、剣を収めてここは俺に任せてくれないかな。頼む」

「ふん。わかったわよ」

「くそっ!この、くそったれ!みんな、みんな消えてなくなれぇっ!」

「今は不安で一杯だろう。気が済むまで暴れるといい」



「落ち着いたかな?」

「なんなんだよおまえら、ちくしょう、ちっくしょう」

「俺はヒース。ウォリアーのヒースだ。君の名前は?」

「名前なんて。オレは、ゆうしゃだ」

「ゆうしゃ君?」

「勇者じゃねーの?どっかの世界の」

「そうなのかい?」

「そう言われた」

「へー、あんた勇者なんだ。じゃあそれまではなんて呼ばれてたの?」

「雑用」

「あー、踏み込まないほうがよさそうな感じね」

「うっせーな。ゆうしゃでいい」

「うーん、でもそれだと誰かわからなくなりそうですね」

「他にもいるもんねぇ」


「じゃあとりあえずの名前でもいいから名乗ったら?」

「なまえ、オレのなまえか?」

「そ。自分で気に入ったの名乗っておけばいいのよ。どうせあんたを知ってる人は多分いないからどんな名前でもいいと思う」

「オレのなまえ。なまえってどうやって決めるんだ?」

「そんなもん特にねーよ。好きなのにすりゃいい。憧れてる奴とかなんかしらあるだろ」

「ない」

「ないって、あー、じゃあ俺達で考えてやるか」

「はいはいっ!可愛いのがいい。エリザベスとか」

「男だぞ」

「エリー君とかいいと思ったのに。だったら何か気のきいた名前つけなさいよ」

「偉そうに。ユウヤは何かあるか?」

「え?僕は、うーん。勇者君だし、それっぽいのがいいんじゃないかな」

「勇者っぽい名前ねぇ」


「はい、勇者になりぞこなったアノメさん。勇者といったら?」

「トモヤ君は喧嘩売ってるのかしら?」

「事実だろ。未だ名前のわからん称号持っちゃって。確か3文字なのはわかってるんだったな。ああきっとこうだ。称号。ま、ぬ、け」

「あはは。もう一回死にたいみたいね」

「ははっ。やってみろよ」

「2人ともそこまでだ。やれやれ。この子の名前だが、勇者らしい名前でいこう。何かあるかい?」

「ふん。いつかその口黙らせてあげるから。勇者ね。だったら明るい名前がいいんじゃないかな」

「希望とか光とかですか?」

「それでいいじゃない。ヒカリ君」

「だったらヒカルのがいいんじゃねーか」

「ヒカル。いい名前だ。世界を照らす名。勇者は希望の象徴だからね、ふさわしいと思うんだがどうかな?」

「それでいい」

「じゃあ決まりですね。ヒカル君、僕はユウヤ、よろしくね」

「ああ」



「さて、俺はそろそろ失礼するよ」

「どっかいっちまうのか」

「すまない、用事があるんだ。だけど戻ってくるよ」

「本当にもどってくるのか?おいていったりしないよな」

「約束する。必ず迎えに行くよ」

「本当だな」

「もちろんだ」

「おいおい、ヒースさんがこいつ引き取るのか?」

「誰か一緒に住んでくれるのかい?」

「あー。ユウヤ、お前言い出したんだから」

「母さんに聞いてみないとなんとも。マノーもいるし、大所帯になっちゃうから」

「べつに、お前らのせわになんかならねーよ。べつに」

「ユウヤ君、ヒカルを頼む。用事が片付いたら迎えに行く。それまでは君のところに頼めないかな」

「わかりました、きっと大丈夫だと思います」

「よし。ヒカル、ユウヤ君のところでしばらく過ごしてくれ」

「わかった。まってる」

「ああ、じゃあまたな」

「また」


「さーて、俺達も帰ろうぜ」

「そうね。さっさと帰りましょ」

「あ、僕の家はここからちょっと遠いから電車に乗るんだけど、ヒカル君は乗ったことないよね?あれ、ヒカル君?」

「え、ああ。オレの名前か。意識してないと聞きのがしちまう」

「ちょっとずつ慣れていこうよ」

「うん。ヒカル。オレの名前。ヒカル。へへっ」

「そうだ。ねえヒカル君、ハンバーグは好き?」

「ハンバーグ?」

「ふふっ、美味しいから楽しみにしててね」

「う、うん」



「君と会ってから大分経ったなヒカル。これでお別れだ」

「師匠」

「そんな顔するなよ。戦士が出発する時は力強く送ってくれ」

「うん。わかった」

「けどな、ヒカル。そういう顔をするのは悪いことじゃない。そんな君なら、俺に出来なかったことが出来るかもしれない」

「できなかったこと?」

「この世界を、俺は結局どうにも出来なかった。だが君なら出来るかもしれない。もしくはユウヤ君なら」

「師匠にできなかったことをあんな弱っちいやつができるかのよ」

「そんな気がしただけさ。でもそうだな、これは贔屓なのかもな」

「だったらオレが代わりにやってやるよ。師匠の代わりに!」

「はははっ、頼もしい事を言ってくれるね。嬉しいよ。じゃあ強くなれ。そしてその力で」

「ヒース!急げ!」

「ああ、すぐに行く!まったく、ケンジさんはせっかちだな。もう少し話していたかったがすまない。じゃあ、皆とうまくやれよ。君に気の合う仲間が出来ることを祈っている」



「師匠。こっちに戻ってから負けてばかりだ。強くなる意味。今更引くに引けねーじゃん。急いでても大事な事はちゃんと言って欲しかったよ、師匠。気の合う仲間、か」

「なに気取ってんだヒカル」

「いってーな。ちょっと昔を思い出してただけだ」

「異世界ってやつか?」

「ああ」

「ははは、異世界ねぇ。ヒカルが行った所はどんな世界だったんだ?」

「ここと同じで魔法があって、あと超科学っていうモノづくりがすげー進んでて、よくわかんねーモノばかりあったよ」

「異世界、私も興味があるのですがいまいちイメージが湧きません」

「そうね、私も。ずっと遠い場所ってことなのかしら」

「いや、遠いとかじゃない。切り離されてるんだ。うーん、イメージねぇ。そういや世界は本みたいって言ってる奴がいたな。誰だったか忘れたけどブックって。本があるだろ、その中の物語ってその中だけなんだよ。違う本を開いたら全然違う物語だろ?出てくる人も時間も場所も全然接点がない。異世界ってそんな感じなんだとよ」

「なるほど。僕達の世界とは在り方が違うのか。興味深い」

「どこかにかわいいだけで満たされた世界があるかもしれねーのか、いいなぁ異世界」

「お前はそればっかだな。まぁあるかもしれんけど」


「お前が懐かしむなんてよっぽどいいところだったんだな」

「ああ。俺にとってあそこが帰る場所だったよ。師匠の知り合いの人の家でさ、そこのじーさんがめっちゃ強くて全然勝てんかった」

「ヒカルってなんだかんだで結構負けてるよな」

「負け癖がついてしまったのではないですか?」

「うるせーな。しかたねーだろ、あの家の人達みんなやたらと強かったし。ケンジさん、ホウカさん、あと三木のばばあ、というかあの金魚。それに師匠。みんな一度も勝てたことがねーんだよ」

「ははは。ん?金魚?どんな世界に行ったんだ」

「ったく、けどもうそれも終わりだ」

「ああ、そーだな」

「皆さんいいですか?一度使ったらもう元には戻れませんからね」

「僕はすでに改良済みだから問題ないよ」

「私も、これでいい」

「よし。じゃあ皆。俺達の未来に乾杯だ」

「ゼリーだけどな。魔獣化したら俺達は悪王一味あらため魔族と名乗る。ここまで来たんだ。強さを求めた者の末路をこの世界にしっかり刻んでやるぜ」

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