81. 王子と友達と
「ではセツカ君、ショウ王子の元へ行きましょうか」
「はい。皆久しぶりだなぁ」
「くれぐれも失礼がないようにね」
「わかってますって」
「今回は馴染みのなる方ばかりだからいいですが」
「だからわかってますって」
「ならいいのですがね」
「もー」
「ニーナちゃんが抱きついてきてもいいように準備しーとこ」
「王子と大臣を前にそんなことはしないでしょう」
「感極まって来るに決まってますよ」
「ないと思うけどなぁ」
「会いたかったよぉー!ニーナちゃぁぁぁん!」
「結局自分で行ったか」
「はいはい。こんにちはセツ」
「なんか冷めてる」
「もう何度目かだもん」
「私は寂しかったんだけど」
「よしよし」
「どういうことだ。いつもはセツーって抱きついて来てたのに、ニーナちゃんに何があったんだ」
「ニーナ君、こんにちは」
「ローさん。こんにちは、お元気そうですね」
「ああとっても元気だよ。君は上手くやっているようだね」
「はい、なんとか」
「君のことだから仕事で困るような事はそうそうないとわかってはいるけどね」
「ニーナ殿は優秀ですから。先日秘書の1人が抜けてしまいましたが大きな問題もなく助かっていますよ」
「もしかしてジョーのこと?こっちでは秘書やってたんだっけ」
「彼女も優秀な方です。ここを去られたのは残念でなりません」
「仕方がないだろう。それぞれの考えというものを尊重した結果だ」
「わかっております。そのおかげでニーナ殿が来てくださったのです。ありがたいことですね」
「わたくしのような身分の低い者をお使いくださり感謝の言葉もありません。お役に立つことが出来て恐縮の至りにございます」
「ニーナちゃんって口は達者だよね。まったく思ってもいないことをすらすらと」
「そういうお前はいくらか見習った方がいいな」
「別に王子相手ならもういいじゃないですか。ていうか王様もあんなだし」
「これセツカくん。君は王族への態度が悪くなるばかりですね」
「えー、いいじゃないですか。王子たちって」
「ふふっ、そんなだからセツは」
「セツカ殿がいると賑やかになりますな」
「ああ。本当にこいつらは変わらないな。初めてあった頃が懐かしい」
「ショウ王子はおのぼりさんでしたもんねー」
「セツ君。言ってるそばから君という人は」
「ふっ、ははは」
「楽しそうに笑っちゃって。やっぱりセツがいいのねぇ」
「ほっほっほっ、そうですなぁ」
「ロー、構わんよ。確かに今更だ。それに、たまには気の抜ける会話もいいだろ?」
「ショウ王子がそうおっしゃるのでしたら」
「ふっふっふっ、わたしはこのままでいいってことですね」
「君は」
「いいでしょう。元上司として帰ったらみっちり礼儀を教えて差し上げましょう」
「う、それはやだ。メイ先生に最低限のことは教わったもん」
「最低限でしょう。そんなことではジョーさんに仕事を全て持っていかれてしまいますよ」
「いいもん。どうせわたしより優秀だし。もう半分以上取られてるし。いいもん」
「セツが抱きついてきた理由が見えてきたわね」
「まったくですな」
「お前、そういうところは成長しろよ」
「ショウ王子は最近会うことがないですけど、外には出てないんですか?」
「ああ。最近はこの執務室にこもっていることが多いな」
「王子」
「なんだ?」
「ずっと気になっていたんですが。少し、太ったんじゃないですか?」
「はっはっはっ。俺が?太る?まさか」
「申し訳ありません王子。実は以前から言わねば、と思ってはいたのですが」
「なんだ。おい、うそだろ?」
「フォルムが変わっております」
「だが、しかし服はまったく問題なく着れているぞ」
「こっそりサイズアップしておりましたから」
「バカな、そんな事に気づかん俺では、俺では、ないはずだ。そんなはず」
「最後に鏡を見たのは?」
「鏡?いや、最近見ていないな」
「意図的に隠しておりましたから」
「ショウ王子」
「なんだ」
「あなた疲れてるのよ。諦めなさい」
「いやだ」
「ぽっちゃりさーん」
「聞きたくない」
「恰幅が良いのは富の象徴とも」
「うぁぁぁ、そんな、俺が、太ったなんて」
「ふふーん。王子も怪人や魔法少女のこと言えたもんじゃないですね」
「なぜニーナが得意げになる。そしてそれは関係ないだろ」
「ふふーんだ」
「まぁ、ここにこもることになったというのはショウ王子が戦士ギルドから手を引いても問題ない段階まできたということではありませか?」
「ああ」
「みんな努力したもんね」
「そうだな」
「トラドが上手くやってくれているおかげで俺は次に進める。今は兄上と内政の強化を進めているところだ」
「ゴウ王子とですか」
「ああ。戦士ばかり優遇されはじめているからな。鞍替えする者も相次いでいる。下位の騎士達は特にな。どうにかして騎士の離職率を低下させねばならん」
「ふーん」
「ニーナちゃん」
「セツ」
「なんだ?」
「収入に不安を感じる騎士たち」
「戦士になったとしてそれは解消されるのか」
「そんな気持ちでいっぱいになっていると、ふと目に入った王族が」
「ぱんぱん」
「富の象徴たる腹を抱え歩む姿に騎士達は格差を感じ絶望する」
「ああっ。この国は所詮、権力者のものなのだと」
「痩せればいいんだろ!痩せれば!」
「では明日から運動をいれるようにいたしましょう」
「メイ先生に竹刀借りてこようかな」
「お前ら、今に見てろよ!」
「次会う時は痩せといてくださいねー」
「セツはどこに泊まるの?」
「街の宿に泊まってるよ」
「そっか」
「なんで?」
「数日でしょ?ならわたしの家に泊まればいいのに、って思っただけ」
「いいならそうしたい!」
「ローさん、いいですか?」
「はい構いませんよ」
「わーい、ニーナちゃんと一緒だぁ」
「今日はずっと幼児化してるわね」
「たまの息抜きだ。好きにさせてやれ」
「はーい」
「ロー。お前1人で宿に泊まるのは大変だろう。客間を空けるからそこで過ごすといい」
「ご厚意感謝いたします。この姿を見られて騒動にでもなったら大変ですものね。お言葉に甘えさせていただきます」
「気にするな。それも今更だろ」
「ありがとうございます」
「そうだお前達にも伝えておかんとな」
「何をです?」
「夜な夜な街に現れる怪人の噂だ」
「怪人?どんな人なんですか?」
「詳しくは知らんが、妙なことを口走りながら背後を執拗に追いかけてくるらしい」
「こわいですね」
「騎士は対応出来てないってことですか」
「その通りなのです。恥ずかしい話しですが相手は屋根から屋根へ飛び移り、果ては壁を走るとさえいわれています。その姿を捉えることすら難しいようなのですよ」
「壁走り、すごいですね」
「その怪人は、この子達を狙うような者なのでしょうか?実害はあるのですか」
「なくはない」
「セツカ殿とニーナ殿なら問題はないかと思われます。かの怪人は犯罪者ばかりを襲っているようなのです」
「いい人じゃないですか」
「確かにやっていること自体はそうですが、法というのはその権限を持つ者が行使しなければなりません」
「まぁ、そうね」
「権限を持たない者が自由に行使すればそれはもはや暴力です。犯罪者と変わりありません」
「人のためでも犯罪者、か」
「怪人の目的が明確なら対処もできるのですが」
「目的ねぇ」
「ま、お前達なら問題はないだろう。実力はもはや騎士級だからな」
「そんなことありませんよ」
「そーですよ。わたしただの事務だもん」
「お前がただの事務ならそこらの戦士はただの村人だろ」
「なわけないでしょ」
「わたしはともかくセツは近衛騎士にもなれそうですよね」
「あー!またわたしに矛先向けてぇ」
「事実を言ったまでですよー」
「ニーナちゃんのほうがよっぽどすごいのに」
「そんなことないもーん」
「怪しい人物といえば先日騎士から報告があったのだが、魔法少女と名乗る謎の魔法使いが現れたそうだ」
「ニーナちゃん、魔法少女だって」
「う、うん」
「敵意はなく人のためだと力を振るっていたそうだ。劇に出てきそうな変わった格好をしてこれまた変わった武器で戦っていたらしい」
「へー、見てみたい」
「突然現れて騒いでいった変な少女。ま、怪人の同類と言って差支えはないだろう。一応気をつけておけ」
「か、怪人と同類」
「どうかしたの?」
「別に」
「気にしてはなりません。ほっほっほっ」
「あれはやっぱり。よし、あの杖は捨てよう」
「じゃあもう帰りますね」
「ああ。気を付けてな」
「はーい」
「ニーナちゃんの家に行く前にさ、懐かしいからちょっとだけ寄り道してってもいい?」
「いいけどあんまり遅くならないようにしてね」
「わかってるって」
「ならいいけどー」
「ふふっ、懐かしいって、いいね」




