80. 目が覚めたら木彫りの小人になっていた件
「皆さんこんにちは!池の主です。ここは静かな部屋で人間の女性が1人何か作業をしているようです。ペンを持っていることから恐らく文字を書いているのでしょう。その姿からは真面目さが伝わってきます。彼女の持つペン先から規則良く紙を擦る音が耳に響いて心地がよく眠気を誘います。しかし私は眠りません。なぜって?だってずっと眠っていたのですから。そんな私なのですが動けません。おかしな話です。眠る前はとある事情により肉体という檻から解放され自由気ままに過ごす日々。かつて住まいとした池よりもずっと広い世界という名の池を泳ぎ自由を満喫していたのです。それがどういうことでしょう。動けません。不意に女性が私を覗き込みます。その目には優しさが込められています。彼女の大きさからするとどうやら私は小さな存在となっているようなのです。果たしてどのような状況なのでしょうか。再三ですが動けないので全く状況も掴めないまま来る日も来る日も私はこの視点で世界を見ることしか出来ません。空腹を感じます。ただじっとしている時間というのは辛いものです。このような状況に身を置くと混乱をきたし途方に暮れてしまうものでしょう。ですが幸いなことに多くの方と私には1つだけ違いがあるのです。何だと思いますか?ふふふ、それはこの状況に心当たりがあるということです。ええありますとも。ふと脳裏に閃く旧友の姿。いたずら好きな彼らのことです。きっと私が眠っているのをいいことにまたいたずらをしたのでしょう。困ったものです。本当に困ったものです。困った、なんてもんじゃ。あ、あいつらぁぁぁっ!おっと失礼。懐かしい友人への想いで熱くなってしまいました。友達は大切にしましょうね。さて。そろそろ話すこともなくなってきました。またいつかこうしてお話出来る日が来ることを願っています。それでは。皆さんごきげんよう。池の主でした!」
「あれ?いま小人さんが動いたような」
「気のせいだよ」
「そうですね」
「ふふふ」




