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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−2.魔人の務め

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77. 風の騎士

「お待ちどうさん」

「どうも」

「旅の途中ですか」

「ええ。そんなところです」

「この辺りは何もないでしょう。東の王城近辺の方が面白いですよ」

「そっちから来たんだ。何もないならいっそこの西の荒地を越えるか」

「あの一帯を抜けるのですか。隣国へ行くのはいいかもしれませんがおすすめできません」

「モンスターですか」

「はい。危険です」

「ただのモンスターなら問題はないでしょう。慣れています」

「最近モンスターが徒党を組んで襲ってくるそうです。油断していると痛い目を見ますよ」

「ほう。もう少し聞かせてくれ。油断しそうだ」

「構いませんよ。あいにくと客足は遠のくばかりですから」

「そのモンスターのせいですか」

「その通り。奴ら計画的に襲ってくるそうです」

「おお、それはおそろしい」

「そうでしょうとも。私共はこの地で商いをして暮らしております。動くに動けませんが身の軽いものは東へ向かっていく者が少なくありません」

「難儀だな」

「仕方がありません。そうと決めたのは自分ですから」

「そうか」

「もう行かれるので」

「ああ。是が非でもそのモンスター達に会いたくなってな」

「危険です。ですがもしやあなた様は」

「ただの旅の者ですよ。ではご馳走様」

「ご丁寧にどうも。どうぞ道中お気をつけて行ってらっしゃいまし」

「ありがとう」


「店主、いるかい」

「おお、どうした」

「聞いたかい、西の一帯を騒がせていたモンスター共が一掃されたらしい」

「そうかい」

「なんだ、あまり驚かないんだな」

「ははは、そうなる気がしていたからな」

「なんだ、何か知っているなら教えてくれよ」

「なぁに。数日前に旅人が足を止めてくださってね」

「ほぉ。そりゃまさか噂で聞く世直しの」

「さてどうかな」

「どんな人だったんだ」

「どうだったかな。どこにでもいるような人だったよ」

「へぇ、おれも見てみたかったよ。噂の放浪騎士様を」


「シモザ、お疲れ。ちょっと落ち着いてきたわね」

「ほんと疲れました。やっぱり西側はあんまり来たくないです。この街道は往来が多いので特に」

「そうね。でもモンスターも平行して歩く道ってどこか平和的で私は好きよ。数日したら東で勤務でしょ。次が見えてるうちは気が楽でいいじゃない」

「ですね。アンさんは担当するならどこがいいですか」

「風土でいえば東なのは言うまでもないけど、理想を追うならこの西側かな」

「ここをなんとか出来れば、ですか」

「そうよ。それだけの事が成せたなら。そう思えれば自信に繋がるしね」

「ですね。ところで、アンさん」

「ええ。あの人、気になるわね」

「はい。自然体なのに隙がありません。只者ではありませんよ」

「いや、あれは」


「こんにちは」

「おや、こんにちは。交通課の方ですか」

「ええ。ここは私達が管轄しています。大きな問題が起こることはそうそうありませんよ」

「そのようですね。確かにあなたがいれば表立って何か起きることは少ないでしょう」

「何もさせはしないわ。だからあなたが来る所じゃない」

「安心してください。ここは旅の途中で通りすがっただけですよ」

「ならいいんです。どこに向かっているのかしら」

「北の方に」

「北は危ないわよ」

「危ないですか」

「ええ」

「そういえば妹さんはお元気ですか」

「元気よ」

「そうですか。それは良かった。それでは」

「ええ。道中お気をつけて。先生」


「知り合いですか」

「彼は、いえ。旅の途中らしくて道を聞かれただけよ」

「へえ。どこに向かっているんですかね」

「さあ。聞いたけどよくわからなかったわ」


「ヘイ」

「ユー」

「やあこんにちは」

「イエス」

「デス」

「君たちは以前にも会ったことがあるね。あの時は3人でいたはず。もう1人はどうしたんだい」

「オレタチウマレタトキカラ」

「ツインデコンビ」

「そうか。息が合っていていいな」

「アー」

「ウン」

「北に向かっているのだが、この辺りのことに詳しくなくてね。何か面白い話はあるかな」

「ナニモナイ」

「ソンナトコロガイイトコロ」

「なるほど。では旅をしながらのんびり見て回るか。ありがとう」

「タビビトカ」

「オイラダゾ」

「仲がいいね」

「ウム」

「ソウデアルナ」

「君たちといるといつも賑やかで楽しいな」

「ナイトトフィーバー」

「アンタトフィーバー」

「フィーバーだな。じゃあ俺はこれで失礼するよ」

「オタッシャデー」

「ダブルデコンビデシター」

「デモヤッパリトリオガイイナ」

「ソウダナー」

「アイツドウシテイルカナ」

「シテルカナ」


「怪しい人を追ってきてみれば、あれは悪王一味のユミアですか。白鳩とまだ組んでいるようですねぇ。あとは証拠を」

「動くな」

「おおっと。これはしまった。私を見つけるとは只者では」

「久しいなブンドウ」

「おお、あなたは」

「姿が見えたので挨拶をと思ってな。しかし俺に見つかるんだ。他の誰かにも見つかるかもしれん。油断大敵だ」

「ははは、ご冗談を。私を見つけられる者などそうはおりません。むしろあなたから隠れ通せる者などいはしませんよ」

「そんなことはない。すまん、邪魔をした」

「いえ。あなたは何故こちらに」

「面白い噂を聞いてね」

「なるほど。どうやら目的は同じようですねぇ」

「だが君がいるなら問題はない。俺は手を引こう」

「そうおっしゃらずに。あなたがいれば百人力ですよ。ぜひご助力願いたい」

「そうか。状況は」

「悪王一味と白鳩の関係性がみえたところです」

「目的は」

「まだ何も。活動内容がわかるなるようなものがあればいいのですが」

「そうだな」

「とりあえず後を追いましょう」


「これは完成品ですか」

「ええ。実験では問題ないわ。ただし劣化は早いから使うならお早めに」

「ポッ。良好ですね」

「あなたの協力には感謝しているわ」

「互いに利のある話しでしたからね」

「騎士達に見つからずにここまで来れたけど、少し引っかかるわね」

「そうですね。いつもならどこかで横槍が入るのに。泳がされているのだとばかり」

「ええ。これだけ餌を撒いて来ないところを見ると、気づいていないのかもしれないわ。警戒しすぎたかしら」

「楽観視は出来ませんよ」

「わかっているわ」


「やあこんにちは」

「あら、どなたかしら」

「通りすがりの旅人です」

「旅人が来るようなところではないでしょう」

「狭い道が好きでして。ここまで来てしまいました」

「あらそう。なら引き返しなさい」

「そちらの方は、随分と鳩のようなお姿ですね」

「そんなことないポッ。人間ポッ。生まれつき鳩っポイのです」

「そうでしたか。それは失礼しました。さて」

「え」

「この容器に入っているものは何でしょう」

「なっ、いつの間に」

「昔から駆け足は得意なんです」

「返してもらえるかしら」

「何が入っているのでしょうか」

「あなたが知る必要のないものよ。泥棒さん返しなさい」

「では騎士に訴えますか。俺は構わないですよ」

「しないわ」

「ほぅ、その弓で奪えるかな」

「待ちなさい。それが欲しいなら差し上げましょう。強盗さんそれで見逃してもらえるかな。それともこの命を差し上げねばなりませんか」

「わかりました。お互いのためにも物騒なことはやめておきましょう」

「懸命な判断かと。では私達はこれで失礼しますよ。行きましょう」

「お気をつけて」


「上手くいきましたねぇ。中には何が」

「何かの溶剤だな。だが話からすると内容物を確かめるのは難しいかもしれん」

「そうなると、今回は特に収穫はありませんでしたか」

「だが奴らが手を組んでいることはわかった」

「引き続き監視します」

「いつもすまない」

「いえ。これが私の職務です。あなたこそ」

「俺はたいしたことはしていない。皆に揶揄される通り放浪しているだけだ」

「ですがあなたは。いえ、そうですね。あなたには名高い名声など不要ですね」

「自分でもそう思うよ。では後は任せたよ」

「はい。ヴァーレ殿はこの後どちらに」

「まだ決めていないんだ。おすすめはあるかな」

「それでしたら南東がいいでしょう」

「南東か。そうしよう」

「ではお気をつけて」

「ああ。東を経由するならのんびり行くか」

「それがいいでしょう」

「じゃあ君も気をつけて」

「はい」


「こんにちは、お嬢さん」

「こんにちは」

「ここはのどかでいいところですね」

「そうですね」

「そちらの方は随分と大きな身体をしていらっしゃる。もしや名の通った戦士なのですか」

「いえ。彼は戦いはしません」

「そうでしたか。それにしては随分と」

「あなたは旅の方ですか」

「ええ。南を目指していまして」

「そうなんですか。何かあるんですか」

「どうでしょう。何かあれば見てみたいものです。面白そうなものはあるでしょうか」

「さあ」

「お嬢さんはどちらに」

「お城に行くところです。友達に会いに」

「ご友人は城に勤める方でしたか」

「はい」

「なるほど。あなたもしや騎士ですか」

「いえ違います」

「そうでしたか、失礼しました。てっきり」

「ではそろそろ」

「そうですね。では」

「お気をつけて。ローさん、わたしたちも行きましょ」

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