75. 黒の魔法青年カクロカ、材料欲しくてお城に見参
「呪いの杖か、どうしよう。セツに使わせたいけどまた何かあったら。もー、変な物もらっちゃったなぁ。デモクめぇ。次会ったら返そう。それにしても選ばれるってどういう基準なのかな。まさか意思があるわけないだろうし。うーん、下手に触らないほうがいっか」
「ただいまー、と言っても誰もいない。いいんだけど。空気がこもってるわね。あれ?あれって煙?あの家、燃えてる!火事じゃない!大変、ん?ちょ、ちょっとなにこれ、頭の中に変な言葉が、う、くちが、勝手に、うぐぐ、あ、赤の力を借りいま、へんっしん!マジカルマジックマジケーション!」
「ヒカル、すまない。僕のミスだ。証拠隠滅のつもりだったのにこんなに目立ってしまうとは」
「今はいい。ちっ、さっきから妙な騎士が追ってきてやがる。お前は先に行け」
「うん。ヒカル、アジトがバレるような戻り方はしないでくれ」
「うるせーな、わかってるよ。いいからさっさと行け」
「わかった」
「そこまでだ、悪党共!天に代わって悪を斬る。水の騎士参上!」
「くそっ、追いつかれたか」
「どうする?ヒカル。相手は騎士1人。2人がかりなら勝率はかなり高いと思うよ」
「さっさと行けって言ってんだろ」
「そうか。おや?あれは」
「そこまでよ!皆を不安にさせる悪い人達にはお仕置きが必要なようね!」
「女と、ネコ?なんなんだよ!あーもう、次から次へと、また面倒なのが出てきやがって!」
「アスミ!さぁプリティーモードに変身だ!」
「うん!赤の力を借り仮初の姿で歴史の力を紐解かん。プリティーモード!赤の魔法少女アスミ!明日を見据えてここに誕生!」
「ま、魔法少女、だと」
「どうしたヒカル」
「いや、なんというか、この世界だと普通っていうか」
「だまりなさい!さあ、あなた達の暗い心を明るく撃ち抜いてあげる!」
「なっ、拳銃だと!しかも2丁も。おいお前っ!言動が色々おかしいぞ!しゃべるネコもどきまで用意しやがって」
「問答無用!必殺、プリティシャワー!」
「うおぃ!なにがプリティシャワーだ、弾幕張りやがって、ちくしょー!」
「どうしてかわからないけど、珍しくヒカルが常識人に見えるよ」
「うるせー!」
「そこの人間!私はもどきじゃなくてネコよ!」
「ネコがしゃべるもんか!うわっ、あぶねー。ばかすか撃ちやがって」
「そう言われるとそうか。ネコっぽく、でも話さないわけにはいかないし。どうしよう」
「喋るネコ。モンスターだろうか?もしタダのネコが人間の言葉を話せるようになったなら。研究したい」
「なんか誰1人として噛み合ってない気がするのは俺だけか?」
「す、すばらしい!変身して戦う少女、実在するなんて!」
「ヒカル、あの感動している騎士とあの赤いの、どうする?」
「どうしよーかねぇー」
「投げやりだな」
「あー、おい。お前らまずは自己紹介しろ」
「こんな状況でそんなこと」
「いいだろう。僕は水の騎士ハモン。正義を成すヒーローだ!」
「ヒーローってお前。ああ、なんかどういう奴かわかってきた」
「わたしはさっきも名乗ったけど、赤の魔法少女アスミよ!」
「驚いた。まさか名乗るとは。ヒカル、僕も名乗った方がいいだろうか?」
「いらん。もうじきマルとダグが来るはずだ。それまで持ちこたえろ。んでダグと入れ替わりでお前はマルと逃げろ」
「そうだね。いい案だ。つまりさっきのは時間稼ぎというわけか。ではもっと喋らせてみるのはどうだろう。うん、そうだな。やあ、僕は通称、悪魔公カクロカ。魔法使いだ。いや、この場合だと僕は魔法青年と名乗るべきだろうか?」
「すきにしろ!はぁ、なんか疲れてきた。最近こういうのばっかだな、俺」
「おしゃべりはそこまでよ!あなたたち、覚悟!」
「だめみたいだ、なっ!避けろ!」
「あの射撃武器は危険だね」
「仕方がない。クロ、お前は騎士の方を対処してくれ」
「魔法少女ではなくかい?」
「ああ。銃は危険だ。弓矢以上の速さで飛んでくるものをお前が対処出来るとは思えん」
「魔法の防壁で」
「万一それを突破されたら終わりだ。あっという間に蜂の巣だぞ」
「それはつまり、穴だらけということか。それは困る。しかし騎士とて同じだと思うのだが」
「そうだが剣士なら近づけさせなけりゃ、まぁとりあえずしのげるだろ」
「なるほど。それならそこまで難しくはない。わかった」
「よし。死ぬなよ」
「ヒカルもね」
「悪逆非道の限りを尽くす罪人よ、覚悟しろ!生命の根源たる水の力よ、その力をもって我が身を守り給え。アクアアーマー!」
「なんでわざわざあんなに喋るんだ?イメージの問題か?それなら端的でいいと思うのだが。いや、そうすることで力が増すのだろうか。声を出すと力むように。よし、僕もやって確かめてみよう」
「その清らかさを示し我が身に降り注ぐ全ての災いを退け給え。アクアソード!さあ、行くぞ!この剣を振るい天誅を成す!くらえ、水一文字!」
「えーっと。我が怒りの業火よ、あの剣をどうにかしろ。フレイムゥ、えーっと、壁」
「ぐっ、なんだと、僕の水の剣が」
「特に変化を感じないな。むしろ喋ることに気を取られてしまうので実用的ではない気がする。待てよ、途中で途切れてしまったのがいけないのか?よし、もう一度試してみよう」
「まだだ!もう一度その力を示せ、アクアソード!うおぉぉぉ、水三連突!」
「我が身に宿る炎の執念よ、あの攻撃を、をー、から守って。ファイアー執念」
「なんて炎だ、まさか僕の力が及ばないというのか」
「うーん、即興で言葉を紡ぐのは難しいな。バリエーションを考えておかないといけない。しかしやはり言葉に集中すると判断が鈍る。よし、全部同じにしよう」
「追加で示せ、アクアソード!奥義、水の居合!」
「とりあえず全てを燃やせフレイム炎」
「くっ、こいつ僕の動きを先読みするかのように、まさか!どうやら知らない内に奴の術中にはまっていたということか」
「彼は何をするのか事前に教えてくれるから対処しやすい。いや、もしかしてわざとやっている?なんのために。そうか、僕の力を推し量るため。だとすれば僕は罠にハマってしまったのか。なるほど、策士のようだね」
「あいつら何やってんだ」
「プリティキィィィック!」
「おっと」
「プリティラッシュ!」
「ちっ、こいつ魔法少女名乗るだけあってだいぶ厄介だな!」
「なあマル」
「なんだ?」
「いつ入ったらいいと思う?」
「そうだな、早い方がいいのは間違いない」
「あの場にか?」
「ははは、他にどこがあるんだ。じゃあ頼んだぞ」
「マルが行けよ。おれついて行くから」
「あの場にか?」
「他にどこがあるんだ」
「ははは、見ろ。大丈夫そうだ。なんとかなっているから俺達は帰るか」
「そうだな」
「そうはいかないわ」
「なんだ?誰だこいつ」
「いつの間に。気をつけろ」
「ああ」
「君は誰だね。俺達に何か用なのかい?」
「私はテル、いや、うーん。私はミサキ、青の魔法少女よ。悪王一味、覚悟しなさい!」
「おかしな奴はこっちにもいたみたいだな」
「魔法少女ねぇ」
「青の力を使いこの世界に真の姿となりて顕現しよう。プリティーモード!青の魔法少女ミサキ!先を見通しここに参上!」
「ダグ。クロと逃げる。頼んだぞ」
「おい!あっ、ったく。マルってほんと判断が早いというか、ためらわないというか」
「悪人さん!どこに隠れているの、出て来なさい!」
「ヒカル」
「マル。ああ、お前の存在に現実を感じる。ほんとおせーよ」
「すまん。こっちにも厄介なのが出た」
「やっぱさすがに城に潜入は厳しいな」
「話は後だ。クロと逃げる」
「任せた。ダグは?」
「青の魔法少女と戦っている」
「そっちにもいるのかよ」
「剣を持っていたからおそらく近接タイプだ」
「わかった。こっちは拳銃、中距離だ。逃げるなら背後は気をつけろよ」
「そうか。だいぶ厄介な相手のようだな」
「色々とな。はぁ、あんなの一体どこから湧いて出てきたんだ」
「ははは、まったくだな。あの騎士はこちらで引き付けて引き剥がす」
「りょーかい」
「じゃあ、魔法少女に目にものみせてやってくれ。悪の幹部殿」
「うるせー」
「クロ、こっちだ」
「来たか。助かる」
「むっ!新手か。悪人どもめ、正義の鉄槌を受けてみろ!水五連突!」
「とりあえず全てを燃やせフレイム炎」
「騎士を連れて外に向かう。途中引きはがす。行くぞ」
「了解」
「ところでその呪文はなんだ?」
「彼がやっていたから真似てみた。非効率の裏には何かあるように思う。奴は策士だ。気をつけろ」
「たぶん違うと思うぞ」
「ヒカル!」
「おせーよ!」
「こっちにも面倒なのがいるんだ」
「待ちなさい!プリティアタック!」
「こいつか。チェンジだ」
「わかった」
「気をつけろ、あいつは」
「射撃だろ」
「見てたのか!遅いと思ったら、くそっ」
「そっちはよろしくなー」
「悪王ヒカル。この街にまで入り込むなんて随分と好き勝手しているようね」
「おお!ちゃんと会話出来そうな奴だな。よかったぁ」
「余裕ね」
「まーな。戦いに関してはそうそう遅れは取らねーからな」
「どうかしらね。プリティスラッシュ!」
「なっ、速い」
「いつまで避けていられるかしらね!」
「ちっ、素早い連撃、こういうの嫌いだぜ」
「あまい!」
「しまった、なんだ?斬られたのに傷がない」
「当たり前でしょ」
「なんで?」
「だって魔法少女だもん」
「ちゃんとプリティしてるな。じゃあ気にしなくていいじゃん」
「どうかしら。その右腕、血色が良くなっているみたいだけど」
「ん?人間の腕になりつつある。バカな、魔王の腕だぞ」
「悪王、浄化してあげるわ」
「こいつ。思っていたより厄介だな」
「はっはっは。当たってもちょっと痛いくらいなら気にしなくても、痛っ。おい最後まで言わせ、痛っ」
「ふふーん、浄化されなくてもデコピンくらいには痛いでしょー」
「このぉ!痛っ。や、やめろ!」
「プリティナックル!」
「うおっ、急に殺伐としやがって」
「覚悟しなさい、この悪党!」
「こいつら、プリティとか全然かわいくないだろ、なんかもやもやするなぁ」
「こいつら?」
「ん?なんだ、向こうの青いのは仲間じゃねーのか」
「青い、魔法少女?」
「おいおい、仲間でもないのに同類が出てくるとか。もしかして結構いるのか」
「アスミ、相手は隙だらけにゃ」
「そうね、プリティレイン!」
「痛っ、痛っ、痛いって!こ、このぉっ」
「ダグ撤退だ!こいつ、やばい!」
「逃さないわ!青の力よ、煌きの刃に愛を込めて浄化せよ。一刀両断、プリティプリズムストライク!」
「ぐわぁぁぁー!」
「ヒカル!」
「う、腕が、いやそれだけじゃない。なんか身体が軽くなってきた。世界が明るい。ああ、なんか生まれてきてよかった。ありがとう世界。ダグさん、俺達はなんという過ちを犯してきたのでしょうか」
「ヒカルが清らかになっとる。正気に戻れバカ」
「痛っ。お、俺はいったい」
「しっかりしろよ。まったくよー。まったく。なんだろーな、この気持ち。なんていうか許せん、許せねーぞ!そうだ、何でもかんでもプリティとつければ済むと思いやがって!おいヒカル!やるぞ!」
「お、おお。なんでそんなやる気なのかわからんが引き離せるだけの事はしねーとな。ただこいつら手強いぞ」
「だからなんだ!おれは決めたぞ。ああ決めた。このおれが、世界のかわいいはおれが守る!」
「は?」
「かわいいは正義だぁー!」
「急にどうした」
「魔法少女、覚悟しろ!」
「何こいつ急に。ええーい、プリティスラッシュ!」
「あまい!一点突破、カワイ過ぎ!」
「きゃっ」
「青の人!この、プリティシュートッ!」
「飛び道具ならおれにもある!水平投法、カワイ苦無!」
「そんな、銃弾を相殺した!ありえないでしょ!」
「さあ覚悟しろ!かわいいの力を借り今、必殺の、カワイ去ね!」
「うわぁっ」
「どうだ!おいヒカル!ぼーっとしてないでお前も戦え!」
「え?あ、ああ、そうだな、戦いの最中だった。そういえばそうだった。なんかカオス過ぎてもう。ていうかダグ、お前ってそんなに強かったんだな」
「うっ、今のわたしの力では敵わないのか、あなた一体何者!」
「おれの名はダグ。この世界をかわいいで満たす者」
「させないわ!みんなを思い通りの姿に変えるなんて、絶対にさせない!みんはわたしが守る!」
「そうだにゃ、アスミ!魔の手から皆を守るにゃ!そんなラブリィな世界にさせちゃだめにゃ。人間は現実の中でもがき苦しむ姿がいいんだからにゃ」
「あーもー、俺いい加減こいつらの主張についていけねーよ」
「そうねぇ、さすがに私も同感だわ」
「魔法少女、お前たちのことは覚えておこう。いつか相まみえるその時まで首を洗って待っていろ!それとそこのネコもどき!とりあえず語尾に、にゃ、をつければネコになれると思うなよ。別にかわいくないからな!行くぞヒカル!」
「はぁ。こういうの、次からはマルに押し付けよ。もうやだ」
「うーん、はっ!ここは、わたしの家?えーっと、たしか火事が起きてるのを見て、その後で急に変な言葉が。あぁ、なんてこと。記憶が微妙に残ってる。は、はずかしい。なに、マジカルマジケーションって」
「ニーナ」
「え?うわぁ、ってさっきのしゃべるネコか。これモンスターよね、よし」
「ちょ、ちょっと待って、私は魔法少女をサポートするため魔法の国から女王の代わりでやって来たかわいー使い魔だよ」
「どこから入り込んだのよ。戸締まりはちゃんとしてあるのに」
「いいかい、ニーナ。君は魔法少女アスミとして世界の平和を守るんだ!」
「やだ」
「なぜ」
「だってあんな格好恥ずかしいじゃん」
「記憶は曖昧になるから何も問題ないでしょ」
「色々あるわよ。もー、治安維持は騎士や戦士にやってもらえばいいの。それに、ふふん、わたしは子供じゃないもん。あんなごっこ遊び、いい年した乙女がすることじゃないのよー」
「大丈夫だよ、変身すれば見た目は少女だから」
「年齢詐称じゃん」
「バレなきゃいいんだよ。青はもっとひどいし」
「ざっくりとしたネコね。ねぇあなた使い魔って言ったわね。じゃあ晩御飯の用意するからお使い行ってきて」
「えー、私ネコだよ?」
「それこそ大丈夫よ。はい、これ。買ってこなかったら晩御飯抜きだからね」
「うー、しかたないなぁ。私の好きなものも買っていい?」
「はいはい、いいですよ。じゃあいってらっしゃーい」
「はーい」
「でも、ケーキはほどほどにね」




