74. デモクといいます
「メイ先生、さよーならー」
「ええ、気をつけて帰りなさい」
「大丈夫ですよ。その辺の暴漢に負ける私じゃなくなりましたから」
「そうよ。だからよ。私の元で学んでいるんだから絶対に気を抜いて負けるようことがないように」
「そっちでしたか。はーい」
「免許皆伝したらこの竹刀をあげるわ」
「いらない」
「そんな、そう。聞いた話だと大臣が数日休んでいるそうじゃない。あなたも病気になったら大変だから気をつけてね。じゃあまたね」
「はいー。今日も疲れた。お給料もたくさんもらえるようになったし、がんばってる私にご褒美だー。あのケーキ屋さんに行ってみよっと」
「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、今満席でして」
「えー、やっぱ人気なんだ。ざんねんね」
「すみません。相席でよければどこかあるかもしれません、伺ってみましょうか?」
「そうねぇ、折角だからそうしようかな」
「わかりました。少々お待ち下さい」
「お願いします」
「お客様、あちら、窓側の角の席の方が相席でも構わないとおっしゃっていました。若い女性の、常連の方ですがよろしいでしょうか」
「はい、常連さんならおすすめとか教えてもらえるかもしれないし、いいですよ」
「ありがとうございます。ではあちらへどうぞ」
「どうもー」
「すみません、相席させてもらいますね」
「ええ、どうぞ。あれ?」
「ん?あ、露店の」
「どうもこんにちは。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「そうね。ふーん、露店で稼いだお金でこんなところにいつも」
「うふふ、とても美味しいですからね。やめられません」
「贅沢してるわねー。あの商売ってそんなに儲けるの?」
「まぁぼちぼちですよ。たまに大きな額で買ってくださる方がいるので」
「へー。詐欺の現行犯で捕まらないといいね」
「大丈夫ですよ。お互い納得して取引してますから。例えば、たまに外でお店出すこともあるのですが、先日ベルトが売れました。仕事中にベルトが切れてしまったらしく、適当に代わりのものを探していたそうです。そこそこの値がついたのです」
「そうなんだ。ベルトってそんな簡単に切れるものかな」
「荒仕事をされていると言ってました。女性の方でしたね」
「ふーん」
「他にも身なりの良いおじいさんが杖を買っていかれました」
「杖ねぇ」
「ええ、ちょっと短い青色の杖です」
「ふーん、意外と売れてるのね」
「ぜひあなたも来てください。お待ちしてますよ」
「気が向いたらね」
「ねえ、おすすめのケーキって何?」
「このお店のおすすめですか。そうですねぇ、初めて来られたんですよね?」
「うん」
「でしたら、こちらでしょう。ハート・オブ・クイーン。黒と赤のラズベリーでトッピングされたケーキです」
「ふーん、なんか普通ね」
「まぁ騙されたと思って」
「あなたの場合ほんとに騙されるからなぁ」
「まぁまぁ。じゃあ美味しくなかったら私が奢ります」
「えっ、そこまでいうなら。すみませーん、これください」
「かしこまりました」
「どうですか、と聞くまでもなさそうですね。口元がほころんでますよ」
「うん。おいしい」
「ふふ、奢らなくて済みそうですね」
「もともとそんな気はないよーだ」
「そうですか」
「誰かに奢ってもらったら気兼ねなく食べれないもん」
「わかります、私もそうなんです。自分でちゃんと稼いだお金で買ってこそ美味しいのです。労働の対価としては最高です」
「ちゃんと、ね。まあご褒美は自分で用意してこそだよね」
「はい!あの、名前聞いてもいいですか?」
「私?ニーナよ」
「ニーナ。また今度一緒に来ませんか?他にも美味しいお店知っていて、誰かと一緒に楽しみたかったんです。よければですが」
「いいよー」
「やった!うふふ、楽しみです」
「あらら、なんかかわいいわね。いつもとは大違い」
「いつもはちょっとした暇つぶしですから。人の困った顔が好きなんです」
「そういばそんなこと言ってたっけ。そんなに楽しいかな?いや楽しいか。私もセツにいつも、ってこのくだり前にも」
「やはり同類でしたか」
「ふーんだ。その内誰かに怒られるんじゃない?」
「えへへ、買ってくれないといたずらしちゃうぞっ。と言っておけばおじさん達なら誤魔化せます」
「小悪魔か」
「小悪魔?私が?あはははは!ニーナ、それは面白い冗談です」
「そう?」
「うん。うふふ、私が小悪魔か。それもいいかな」
「そういえばあなたはなんて呼べばいいの?」
「私ですか。私は」
「あなたは何を頼んだの?」
「私が今ハマっているのはチーズケーキでして。このお店にはレアチーズケーキがあるのですが、ほとんどが普通のレアチーズケーキなのです」
「普通の」
「はい。しかし極稀に、ウルトラレアチーズケーキにあたることがあるのです!略してUR、それは至高の逸品と称されており、URを引きたくて私はここに通っているのです」
「レアってそういう意味じゃないでしょうに。そういうのは程々にね」
「どんな味なんだろうか考えるとついつい」
「それ誰から聞いたの?」
「以前私のお店で品を購入された方ですよ」
「それって。騙した相手とかじゃないよね」
「いえいえ、さっき話した杖を買われた方です」
「ふーん」
「あとはタワーモンブランや1000層ミルクレープ。りんごが微笑むアップルパイとか酔うほどおいしいコーヒー店」
「段々怪しくなってきたわね」
「ぜひ行きましょう」
「まぁいいけど」
「ニーナ。私はあなたに会えて嬉しいです」
「唐突ね」
「そうですね。ずっとあなたのような人と好きな事を話したかった」
「ふーん、周りにいなかったんだ」
「はい。兄がいるのですが、器用だけど無頓着でして。それに私がこう言った話をしても間に受けてくれません。何かイタズラされると警戒されてしまって」
「自業自得な気がするけど」
「小さい頃はそりゃ無邪気に過ごしましたけど今はさすがにね。怒った時くらいですよ」
「へー」
「信じてもらえてませんね」
「実績が積まれてるからね。けどイタズラしちゃうのはよくわる。もう2度としないけど」
「ふふっ、ニーナと私はよく似ています」
「そうかな」
「さて、ケーキも食べてしまいましたし帰ることにします」
「じゃあまたね」
「はい。ニーナ、プレゼントしたいのですが」
「え、いやさすがにいいよ」
「これまでのお詫びです」
「あー、まぁ結構しつこい営業だったもんね」
「じゃじゃーん。赤いステッキ!実にステキな一品です」
「ダジャレか。何この赤い杖」
「青の杖と対になるものです」
「へー。見た目より軽いのね」
「実はそれ、呪いの杖でして」
「もー!そんな事だと思った」
「あはは!その杖は持ち主を選びます。選ばれた者は杖に取り込まれて戦いの運命を背負わさせられるといいます」
「そんなに有名な杖なの?」
「作り手が言ってました」
「ふーん、まぁ選ばれなければいいのよね。そうだ、セツにあーげよっと」
「ふふ、選ばれなければね」




