73. 三魔烏誕生秘話
「どう?」
「美味いのである」
「やった。よぉーし。あの伝説の魔導師も唸った、戦士村の美味しいチーズ!完成ね」
「うむ。いいキャッチフレーズである。しかし作る暇はあるのか?」
「時間か、たしかに最近村に来る戦士が多くなったから難しいのよ。お手伝いさんがほしいわね」
「村長に頼んでみてはどうであろう」
「トラドは最近忙しいみたいであんまりいないのよ」
「ふむ。お務めご苦労であるな」
「思ってたよりリーメさんの魔法講座が人気出たおかげなんだけど、急な変化に設備がついていけてなくて。そのために村の運営に必要な人の増員とか、設備の増築とか、色々課題が多くなってるみたい」
「嬉しい悲鳴とやらであるか」
「だといいけど。あとモンスターも1人?というのか登録があったそうじゃない」
「うむ。熱い奴がいたものだ」
「その子やゴブリンズのためにも宿泊施設を整えないと、って笑ってたわ」
「そうか。ありがたいことだ」
「だから食堂に人を増やすのはまだ先になりそうよ」
「いっそこのチーズを城に売って稼いだ金で雇ってみるのはどうだろう」
「時間かかりそう」
「ふむ。商売は難しいのである」
「ほんとにね」
「ふぃー、ホットミルクが身にしみるのである」
「ターナさーん、こんにちはー」
「あらセツカちゃん。今日は村にいたのね」
「はい。今度お城へ行くことになったんです。それで近況の報告と依頼があるらしくて、その資料作成に時間とっていいと村長に言われまして」
「よかったじゃない、友達に会えるわね」
「うん!えっへっへー。どんなお土産持っていこうか考え中。何かいいものがあったら教えてほしいんだけど、この辺の特産品とか何かある?」
「うむ。店主の君。アレの出番である」
「早くも、ね。セツカちゃん、とっておきの品があるわ。安くしておくわよ」
「事務の君から金を取るのか」
「大山羊くーん!大変だぁー」
「おやデモロ君。君が取り乱すなんて珍しい」
「聞いてよ。デモクに解雇されたんだ」
「な、なんと!それは一大事である。デモロ君」
「うん」
「あっちに行ってくれたまえ。巻き添えくうのはごめんである。しっし」
「三魔烏の仲じゃないか、死なば諸共だよ!」
「いやである。吾輩まだやりたいことがあるのだ」
「僕だっていやだよ」
「して、デモクは?」
「さあ?」
「うむ?」
「ねぇなんで解雇されるだけでそんなに慌ててるの?」
「デモクのことだから、もういらないと言って僕を消してしまいかねない」
「妹でしょ?」
「そうだよ」
「2人ともすごく強いじゃん」
「事務の君は頂点を知らんのだな」
「知らないけど。ターナさんは知ってる?」
「いや、そんなワード初めて聞いたよ」
「だよね。頂点って、デモクが一番強いってこと?」
「そうだよ、僕ら三魔烏が一緒に挑んでも勝てない」
「うむ。連携など出来ないから足の引っ張り合いである」
「昔みたいに協力しようよ」
「したところで勝ち目はない」
「うわー、僕はどうすればいいんだー!」
「ちなみになんで解雇されたのよ」
「わからない。いきなり言われたんだ。お兄ちゃん、もうご飯作らなくていいよって。しかも最近は全く暇とかつまらないって言わないんだ。おかげで平和ではあるけど」
「ふーん。それって何か気を引くものが出来ただけなんじゃ。デモクって会ったことないけど、どんな人なの?」
「悪魔だ」
「悪魔である」
「悪魔なのは知っとるわ」
「根っからの悪魔なんだよ」
「根っからの悪魔ってなんだ」
「あの子をよく知る僕らからすると、まったく容赦ってことを知らない真の悪魔なんだよ。他人に気を留めることなんてない子だよ」
「うむ。彼女との闘争の日々は忘れない」
「そうだね。いつも傷だらけになったものだよ。誰かが苦しむ様を見ては喜ぶんだ」
「あんたもでしょ」
「思い出すなぁ、僕と大山羊君と池の君が三魔烏を名乗りだした頃のこと」
「おお、懐かしいのである」
「あら、伝説と謳われた三魔烏の誕生秘話ね」
「えー!ちょっとそれ聞きたい」
「いいよ。僕の死後、語り継いでくれ」
「気が向いたらね」
「あれはずっと昔のこと」
「あ、待って。ターナさん、ホットコーヒーほしいです」
「だろうと思って用意してるよ。ほらどうぞ」
「やた。こういう話の時はやっぱり温かい飲み物がないとね、お待たせ。どうぞー」
「じゃあ始めようか。昔のことなんだけど、デモクは暇になると何か面白いことしてってねだってくるんだ」
「いきなりやってきて難題をふっかけるのである」
「そうそう、あの子の要望はとても困難なものばかりで、付き合う内に僕らは力を増していった」
「逆らえば下手をすると死、であるからな。デモロ君は何が一番記憶に残っておる?」
「僕の場合は手足を硬直させられたことかなぁ」
「ねえお兄ちゃん!」
「ん?なんだい?」
「あの丸太、おもしろい!」
「ああ、谷底に転がっていったね。まるで絶望して転がり落ちる哀れな人間のようだ。ふふっ」
「お兄ちゃんあれやって」
「あれ?ちょ、ちょっと!う、うわぁぁぁぁぁ」
「転がり落ちる中、絶望的な状況の中で僕は強くなっていった」
「うむ。吾輩は業火に身を焼かれたのである」
「うぉぉぉ!熱い、熱いのである!このラノベが熱い!ん?この炎は?」
「山羊さんサンバ踊ってー」
「何故!あ、あちち。よっ、ほっ、はっ」
「あははー、じょうずー」
「も、もうやめたまえ。ヤ、ヤメェェェェェ!」
「吾輩も身を守るために魔法が極まった。危うくヤム肉にあるところであった」
「池の君は身体食べられちゃったんだよね」
「うむ。眠くなるといつも愚痴っておった」
「そうそう、池で泳いでたらってやつね」
「おっれぇはあるじー、こぉのいっけっのー、いけいけあっるっじー、ごーぉごー。あん?なんだこの団子、美味そうだな。どれ」
「ふぃっしゅおぉーんっ!」
「うがぁぁぁぁ、針が、いたいぃぃぃ!」
「食べられる前に抵抗してたら、うるさいって言われて魂を剥がされたんだよね」
「うむ。それが池の君の最期であった」
「まだ存在はしてるけど」
「うむ。その後、使い魔がほしいといい出して吾輩たちをカラスに変えたのであったな」
「そうそう、魔女ごっこやった時だね」
「ごっこではないがな」
「その挙げ句、三馬鹿烏と言いふらされてさ」
「周囲に馬鹿にされて大変な目にあった」
「僕らは序列がはっきりしてるからね。仕方がないから語呂の似た名前で上書くために三魔烏って名乗って強者に戦いを挑む日々」
「過酷な時代であった」
「そうして僕らは三魔烏と呼ばれ恐れられるようになったのさ」
「うむ。最上の者となり君臨したのだ」
「伝説の誕生秘話がひどすぎる」
「懐かしいねぇ」
「懐かしいのである」
「はぁ、僕の命もここまでか」
「まだどうなるかわからないじゃない」
「仮に生存出来たとしても、もう」
「なんだい、あんたもしかして妹の世話をするのが生きがいだったとか?」
「違う。暇なんだ。死ぬほど暇なんだよ」
「うむ。デモロ君は一度死んで出直してきたまえ」
「じゃあもしデモロ君に出来ることで暇から解放されてそこそこ面白い状況用意してあげたらお願い聞いてくれる?」
「いいよ。そんなことが君に可能ならね」
「だそうですよ」
「決まりね」
「うむ。よかったのであるな」
「皆してなに?」
「はい、これ」
「えーっと、エプロン?」
「そ、今日からデモロ君はこの厨房で働くのだ」
「それのどこが楽しいのさ」
「君はわかってないのである」
「なにが」
「ここがどういう場所なのか」
「人間の戦士が頑張ってる場所でしょ?なんか色々やってるみたいだけど」
「そう。デモロ君。君が楽しいと思うのは?」
「皆が苦しそうに」
「そう。ここにいる者たちは皆何かを抱えて中々苦しんでおる」
「あー、なるほど」
「私はターナ。ここの、まあ店主よ。よろしくね」
「いいよ。やってあげる。魔王の力をみせてあげよう。よろしく、ターナ」
「よかったのである」
「これで人員不足が解放されるわー」
「でもいいんですかね」
「何か懸念でもあるの?」
「だって、この村の最終目標って魔王討伐でもあるんでしょ?」
「まあいいんじゃないかな。眼の前に目標がいた方がどこまでやればいいのかすぐわかるからね」
「うむ。超えるべき壁がわかっていれば対処することも出来よう」
「超えられる高さならね」
「わかってないわねぇ。セツカちゃん、そもそもなんだけど」
「うん」
「周り見て、そんなの今更でしょ」




