70. 完全無欠の受付嬢
「あー、私がもう1人欲しい」
「いきなりどうしたの」
「ターナさんは自分がもう1人いたらいいなって思うことないですか?」
「うーん、ないねぇ。そんなに忙しいのかい?」
「うん。忙殺されそう」
「そりゃ大変だ。はい出来たよ」
「いただきますー。おいしー。ターナさんのご飯がなかったら今頃どうにかなってるよー」
「トラドに事務要員を増やしてもらったら?」
「頼んではいるんだけど、全然来ないんだって。募集してはいるけれど、っていつも言われる」
「ふーん。まぁこんな所にわざわざ来る人はいないわな。だからこそ選んだ場所だし」
「もー、排他的なのも程々にしてほしいですよ」
「今は大分変わったでしょ。ほらほら、行儀の悪い食べ方してないで、ちゃんとしなさい」
「はーい」
「セツカちゃんは自分がもう1人いたらどうすの?」
「全部まかせてのんびり過ごす」
「というもう1人の自分と戦うわけか」
「わたしがオリジナルなんだからコピーは働くべし」
「どっちが本物とか関係無いと思うけど。結局どっちも同じ主張で平行線。最後は別々で生きる。見え見えな結果だ」
「だってー」
「おいセツカ!」
「はい!って、なんだトラドさんか。なんでしょう」
「後輩だ」
「へ?」
「ついにお前に後輩ができるぞ!」
「えー!ターナさん、これは夢ですか」
「おもいっきり顔はたいてあげようか?」
「夢どころじゃなくなるわ。トラドさん!いつ来るの、その人」
「いつだと思う?」
「明日!」
「はっはっは。紹介しよう。セツカの後輩として新たに加わる新人受付嬢」
「おお!」
「あ、あの、こんにちは。よろしくお願いいたします」
「ふ」
「ふ?」
「どうだセツカ」
「フレッシュ!」
「はーっはっはっは。どうだ。俺に感謝の言葉しか出てこんだろう」
「トラド村長には頭が上がりません」
「気にするなセツカ村長。じゃ、色々やることあるから後でな」
「し、失礼します」
「はーい」
「よかったじゃない」
「はい!噂をすれば、ですね。うーっ!ついにハードワークから解放される時が来たのね!」
「そう上手くいくかなぁ」
「あ、そういえばあの子の名前聞くの忘れてた」
「名乗ってなかったね。ちょっと引っ込み思案というか、大丈夫かな」
「ふふふ。この完全無欠の先輩がフォローしてみせましょう」
「そういうの最初だけだよー。ちゃんと自分でやらせないと後で困るの自分だからね」
「わかってますよ。別に後輩ができるの初めてじゃないし」
「そ。ならがんばって、セツカ先輩。お昼一緒に食べましょ」
「うん。どんな子なんだろ、楽しみだなぁ」
「セツカ、いるか?」
「はーい。なんですか村長」
「こっちのことは終わったから後輩の面倒を見てやってくれ」
「あいよ!」
「変なキャラだすと逃げられるぞ」
「親しみがあっていいでしょ」
「まぁいいけど。その余裕、いつまで続くかな」
「どういうこと?」
「すぐわかる」
「ふーん。あの、改めてよろしくね。わたしはセツカ」
「はい、あの、よろしくお願いします。私はジョーといいます」
「ジョー」
「そう。お前の後輩として受付嬢となる受付のジョーだ」
「まさかそれで選んだわけじゃないでしょうね」
「王子の紹介だ」
「あの人ならやりかねん」
「ふっ。まぁせいぜい先輩を頑張るんだな」
「むー」
「あの、足を引っ張らないようにがんばります」
「うん、一緒にがんばろ!」
「ようターナ。受付嬢が増えたんだって?いつもみたいに入口にいたんだが、どうもタイミング悪くて姿が見れなかったよ」
「セツカちゃんと同じくらいの歳の子よ」
「へー。そんな子がよくこんなとこに来たな。なんて子なんだ?」
「ジョーっていうんだってさ」
「受付の」
「ジョー」
「なるべくして、だな」
「王子のことだからわかっててやってるんだろうけど」
「なんだ、ショウの紹介なのか」
「みたいよ」
「大丈夫かな」
「内気な感じがしたからちょっと戦士達の相手は難しいかもね。モンスターもいるし」
「長く続くといいんだけどなぁ」
「どうなるかねぇ」
「おかえり、新人さんは?」
「もうじき来る」
「ん?どんな感じだい?やっていけそうなの?」
「え、あー、うん」
「どうしたの」
「別に」
「あの、先輩」
「はい」
「これはどうすれば」
「ああー、それは、それはわたしがやっておくからいいわよ、とりあえずお昼にしましょ」
「わかりました。この書類置いてきます」
「うん、置いたらここでご飯にしましょ」
「はい」
「なんだか、もしかして、ハズレ?」
「いや、別に、大丈夫だよ」
「ほんとに?大丈夫なの?この村の皆に関わることだからちゃんとしてほしいんだけど」
「ようセツカちゃん。噂の後輩ちゃんを見に来たぜー」
「来なくていい!さっさと持ち場に戻ってご飯でも食べてて」
「お、おお。どうしたんだ?」
「さあ?」
「戻りました」
「あらおかえり。こっちで一緒に食べましょう」
「はい。おしいそうですね。いただきます」
「どうぞー。仕事はどう?といっても今日の今日だからまだ何も出来ることないでしょうけど」
「そうですね。でもセツカ先輩が丁寧に教えてくださるのでなんとか今日から働けそうです」
「え?」
「最低限のことは問題なく出来そうです。書類の分け方や記載に関しては、まだ主要なものだけしか把握できていませんが数日あればちゃんとお役に立てるかと」
「あー、なるほどねぇ。そりゃ、なんだ、まぁがんばって」
「はい!」
「はは、は。よかったなセツカちゃん。優秀な後輩が出来て」
「そうそう、自分がもう1人ほしいって言ってたもんね。叶ったんじゃない?まぁ自分以上かもだけど」
「うぅ、トラドさんのがんばれの意味をかみしめてます」
「あはは、あー。まさか完全無欠の受付嬢が現れるとはね。セツカちゃん。ご愁傷様」
「うわー!」
「どうされたんです?」
「念願の後輩が出来て感極まってるだけだよ。気にしなさんな」
「そう、ですか。あの、私皆さんのお役に立てるよう尽力します!」
「期待してるよー。でもそれ以上はやめといてあげて」
「追い詰められてる奴が1人いるから」
「どういうことです?」
「ま、のんびり取り組みな。ここはそんな忙しいところじゃないから。ね、セツカちゃん」
「うん。努力してがんばります」
「どっちが新人かわからんな。やれやれ、ショウのやつ全部わかっててやってんな」
「セツカさんはいますか?」
「あらリーメさん。あの子ならいないよ」
「あら、いつもならお昼はここかと」
「いつもならね。今日は、というかしばらくはあんまりいないかもね」
「何かあったのですか?」
「ふふっ、あったのよ。とびっきりの事件が」
「まあ」
「学者の君」
「あら大山羊さん」
「事務の君が2人になっておる」
「そうみたいですね」
「山羊さん、こんにちは。何か食べていきます?」
「うむ。ミルクをいただこう」
「はいよ。あんたが連れてきた山羊達のおかげで毎日美味しいミルクが飲めるよ。ほんと、ありがとね」
「うむ。気にすることではない。供物を捧げるのは当然のこと」
「はははっ。その供物、大切にさせてもらうよ。はい、お待ちどーさん」
「うむ。それで事務の君はもしや引退するのではないかと心配なのである」
「どうなのでしょう」
「どうなんだろうねぇ。このままだと確かに引退コースになりかねないわね。後輩じゃなくて後任が来てしまった感じはする」
「うむ。窓から覗いて観察しておったのだが実に優秀である」
「それはありがたいことです。テストの準備など手伝っていただけそうですね」
「だね。私らも事務周りが一層楽になりそうで、さっき皆に伝えたら喜んでたよ。ただ1人を除いて」
「セツカさん、大丈夫でしょうか」
「自分を見失わないといいけどねぇ」
「先輩、これはこうすればいいんですよね?」
「はい、おっしゃる通りです」
「こっちはここに。あら、この記載、間違っていませんか?先程見た資料と違った内容になっています。記載ミスですかね」
「はい、おっしゃる通りです」
「ではこちらをこーして」
「どうだ、セツカ村長」
「やることがないって、自分が不要な人間みたいでつらいです」
「村長、やるか?」
「やだ」
「その気になったらいつでも言いに来い。待ってるぞ、次期村長」
「あの、わたし事務なんですけど!うおぉぉぉっ、負けてなるものかぁぁぁ!」
「お前の持ち味ってそのバイタリティだよな」




