07. あの王子の思惑
「マルマルさん、獣の森まで行ったらその後はどこに行くんです?」
「そのまま奥地まで行く」
「奥地まで。わたしはそんなとこまで行くのか」
「ああ。正確なことはわからないが、王国付近の山頂から見た限りでは森の中に城があるらしい。そこが目的地になる」
「お城ですか」
「大昔にはそこに人間の国があったらしい。その時に建てられたのではないかと学者らが言っていたな」
「へー、詳しいんですね」
「当たり前だ。依頼はきっちりこなす。でなきゃ次なんてないからな。そのために必要なことはちゃんと知っておくさ」
「頼りになりますー。マルマルさんについていけば安心ね」
「おう」
「で、だ。その城にはな、その」
「なんです?急に歯切れ悪く」
「あー、落ち着いて聞けよ。落ち着けよ、取り乱さないようにってことだからな」
「覚悟しろってことですよね。そんなのいまさら、何があったって行かないと何だから。覚悟というより諦めだけど」
「そうか、ならよかった。魔王がいるんだ。そいつを始末するのが今回の依頼だ」
「それなら知ってます」
「なんだ知っていたのか。何も聞かされていないと言っていたからてっきり。しかしわかっててよく付いてきたな」
「だって王命って背いたら重罪なんでしょ?断りようがないじゃないですか」
「ん?そうなのか?俺の仲間は断ってたぞ」
「えー!」
「おいおい、落ち着けよ」
「あの王子ー!はぁ、驚くのにも疲れたしなんか慣れてきちゃった」
「ははは、順応するのが早いんだな」
「そうですー、そのせいでここにいるんですー」
「そうか。ま、安心しろ。君は俺達が守ってやる」
「よしなに」
「ああ。だがいいか、危険だと感じたらすぐ逃げろ。ただしチョロチョロされるのも邪魔だから基本的には魔法使い達のそばにいろ」
「はい。それユミさんにも何度も言われる。でも魔王ってすごく強いんですよね、倒せるのかな」
「導きの勇者がいる。もし倒せなくても敵地の情報を得ることは戦略上有意義なことだ。せめてそれだけでも果たす」
「わかりました。倒せるまで特攻かけるなんて方針じゃなくてよかった」
「当たり前だろ。特攻してどうにかなるならとっくにやってる」
「そうもそうか。導きの誰かさんは特攻かけてるけど」
「まだ若いんだ、徐々にどうにかなるさ」
「そういえばなんでこんな少人数なんです?もっと大人数のほうが戦力として心強いかと」
「繰り返しだが今回の最大の目的は敵情視察にある」
「ああ、だから大勢で行って見つかるよりこっそり行ってちょちょっと見ていくのね」
「そうだ」
「で、それがなんで魔王討伐に?」
「敵情視察で奥地まで入り込めたならそのまま魔王暗殺してしまえ、という話だ」
「結局特攻じゃん」
「ははは。まあ効率的なことばかり言う奴ってのは時に周りが見えてないこともあるものだろ」
「それ王子ですか?」
「いや。なんとか大臣だ」
「誰かわからのは意図的か」
「いいか、情報を持って帰ることを最重要としたのは王子だ。任務の範囲を明確にして俺達が帰還しやすいようにしてくださったんだ。さすがに感謝しとけよ」
「その王子にここに来るように仕向けられたんだけど」
「君は適任だと俺も思う。すまんな。だがこの命に変えても必ず帰還させてみせるさ。なあセツカ、魔王討伐の成否に関わらず敵地の情報を持ち帰ることこそ最重要だ。となれば君は必ず帰還しなくてはならん。とはいえ正当に評価することも大事だ。だから危険ではあるがみんなの働きもちゃんと記録してほしい」
「はい。と言ってもわたし戦いのことなんてわからないからやっぱりざっくりですよ?」
「そこは仕方がない。しばらくは俺も手伝うさ」
「ありがとうございます」
「頼んだぞ。こんな危険な任務で分前が妥当じゃなければ殺し合いになりかねん。報酬独り占めするために任務の帰りにグサリ、なんてな。実際にあったことだ」
「ひえー」
「だからこそ王子は制度を改めたいんだろう。王国の騎士達だけでは手が回らないことも多い。それを補ってくれる者たちが富のために殺し合うなんて生産性がないからな」
「なるほどー。マルマルさんって色々詳しいですよね。経験豊富というかなんか教養があるというか」
「ああ、昔ちょっと、な」
「ふーん、みんなわけありなんですね。わたしは違うけど」
「とにかくお前は自分の仕事をきっちりこなすんだ」
「じゃあしっかり守ってくださいね」
「ああ、必ずな。少なくとも情報をまとめるまでは絶対に死なせん」
「か、かえるまでが任務でしょ?ちゃんと最後まで守ってよね、ね?」
「ああ。最後まで、な」
「ちょっと、最後にこめたニュアンスが意味深になってますけど。城に着くまでって言ってほしいんだけど」
「ああそうか、城だな。魔王城まではなんとかしてみせよう」
「そこで終わったら意味ないでしょ!家に帰るまでが遠征ですよ」
「善処する」
「それ結局やらない時に言う言葉!なによじっーと見て」
「ふっ、冗談だ。お前からかい甲斐があるからついな。ははは」
「冗談に聞こえないのよ!」
「だいぶ肩の力が取れたな」
「お陰様で慣れもします」
「お陰様って、支援に来る人は普通そんな簡単になじまないんだがな」
「いつも予想外のことしてくる友人がいるので図太くなりました」
「楽しそうね」
「もー。ユミさん、この人すぐからかってくるんですよ!次こんな冗談言ったらみんなの評価最低まで落としてやる」
「悪かったよ、それは勘弁してくれ」
「ふん」
「さっきの冗談だったんですか」
「え」
「だって情報があればいいなら生存率の高い人がそれ持って帰還すればいいのでは」
「ちょっとクロ!もちろん冗談ですよ、あはは、情報持ってついでにみんな元気に生かしたまま帰りましょー」
「口から出るワードが微妙に本心でてるわね」
「シロはいつもバレバレなのわかってないから」
「やはり」
「だから僕は包み隠さず言った方がいいと」
「それも良くはないんだけど、そもそも問題はそこじゃないし」
「そうなのか。ふーむ、真理はいまだ遠く」
「はぁ、がんばって。書いとこ。マルマルさんは、すぐからかう。クロ、きわめて変人。シロ、バレバレ。できた」