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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−2.魔人の務め

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65. 魔法研究者

「セツカちゃん、家はどう?気に入ってもらえたかな」

「はい、でもちょっと大きいかなって。村長宅より大きのはどうかと」

「みんな張り切ったからね。一応止めたのよ?」

「いいですよ。ただ、あの家の一階を受付にしようかってトラドさんと話してたんですけど、折角作ってもらったしどうしようかなって迷ってます」

「気にしなくていいよ。セツカちゃんの思うように使ってあげて、必要なら改装してあげるから言いなよ。遠慮なくね」

「はい!ありがとうターナさん」

「まだ戦士たちはあまり来ないからむしろやるなら今の内だよ」

「じゃあお願いしちゃおうかな」

「任せな」

「楽しみにしてますね」


「ああ、ようやくだわ。ようやく念願が叶う」

「おうセツカちゃん、ボケっとして何してんだ?」

「いえ、今までの苦労が報われる日がついに来たと思って」

「なんだ、長年の夢でも叶いそうなのか」

「長年ってほどではないけど、そんなとこ」

「ほー、よければ聞かせてくれよ」

「人に言うほどのことじゃないんです。ただ」

「ただ?」

「受付嬢として働けるのが嬉しくって」

「はぁ?なんでまたそんなことで喜んでんだ?」

「チェスタさん」

「おうよ」

「わたしの仕事知ってますか」

「戦士のサポーターだろ?」

「違うとは言えないけど正確ではない」

「ああ、事務って言いたいのか」

「そう!でも今までは戦士に付き添ってあっちに行ってこっちに行って。だけどそんな日々とももうおさらばなのよ!わたしはこの村で事務に舞い戻るの!」

「お前自分で事務であることを否定してんじゃねぇか」

「だって、普通の事務員がモンスターのパーティに自分だけ呼ばれたり、挙げ句伝説の魔王と仲良くなったりする?」

「しないな」

「でしょー。だからこれからはそんな出来事も起きない平凡で退屈な日々を過ごすのよ!」

「どうなるか目に見えてるけどなぁ。まぁたまには夢に浸るのもいいか。そっとしておいてやろう」


「セツカくん」

「あ、ローさん。どうしたんですか?」

「今日城から高名な魔法学者が来るそうなんだが、もし来たらトラドさんの所へ案内してあげてください」

「わかりました。でもなんでわたしに言うんです?チェスタさん達が入口の近くにいるじゃないですか」

「もし気づかずに入ってきたらきっとここに来るだろうから」

「なんで?」

「普通はまず村長の所へ出向くでしょう」

「はい」

「そうしたらきっと一番立派な家を目指す」

「ああ、そういう。了解です。なんか一瞬嫌な未来図が見えた気がしたわね。やっぱりもっと小さい家にしてもらわないと。このままだと村長になってしまう」

「いいんじゃないかい?村の皆は君のことを気に入っているし、トラドさんもそっちの方が自分のやりたいことに専念できる。いい案じゃないかなセツカ村長」

「あの、わたし事務なんですけど。ちょっとチェスタさんに絶対来客を見逃さないようにお願いしてきます。万一でも私が村長と思われないように。いざ行って参ります」

「いってらっしゃい。そうやって村人に指示している時点ですでに役をこなしていると思うんだがなぁ」


「こんにちは、こちら戦士組合の村であっていますか?」

「ん?ああ、そうだよ」

「よかった、私は王国のショウ第2王子より命を受け参りました」

「おお!高名な魔法学者さんか!歓迎するよ」

「よろしくお願いします。それでトラドさんにお会いしたいのだけれど」

「あいつは今家にいるはずだから、あっちの方にある家なんだが」

「あっちの方ですか」

「ああ、すまんな、案内したいんだが今手が離せなくて」

「いえいえ構いませんよ。向こうにもどなたかいらっしゃいますよね?」

「多分いるはずだ。この時間ならどこかしらにいるだろう」

「ではその方に伺ってみます」

「そうか、悪いな。もしわからなくなったら手間だが戻ってきてくれ。その頃には手が空いてるかもしれん」

「わかりました。ありがとう」


「ここかしら。ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいますかー」

「はーい今行きまーす。はいはい、どうもこんにちは」

「こちらトラドさんのお宅ですか?」

「いえ違いますが、もしかして王子の紹介で来られた」

「ええ、そうなの。あらあなた以前にもあったことがあるわね。確かショウ王子の元で働いている、うーん。ごめんなさい。お名前まで覚えていなくて」

「あー、あ!リーメさん!わたしセツカです。お久しぶりです」

「ああ、そうそう。セツカさんね思い出したわ。あなたここに住んでいるの?」

「はい。この村で受付嬢やることになったんです。えへへー」

「あらそうなの」

「はい。でトラドさんですよね。こっちですよ」

「そちらでしたのね。てっきり」

「その先は言わなくていいですよ」

「そう?ふふふ、そう。素敵なお屋敷ね」

「くぅ、やっぱりもっと小さい家に変えてもらおう」


「トラドさーん!リーメさん来ましたよー」

「おう、ご苦労さん。そんなでかい声出さなくても聞こえてるぞセツカ村長」

「もー!なんで知ってんの」

「狭いところだからな。人づてにあっという間に広まっちまうんだよ」

「トラドさん、ご無沙汰しております」

「ああ。いつ以来だったか。来てくれて助かるよ」

「私の方こそ研究に役立つ環境をいただけそうで感謝していますよ。まだ生徒はあまりいないのかしら?」

「ぼちぼち集まりだしてる。今日も訓練に出てるみたいだからその内戻ってくるだろう。リーメの準備ができ次第魔法の講座を開いてほしい」

「わかったわ。色々試したいことがあったの」

「喜んでもらえてるようでよかった。セツカ、リーメの宿泊先と村の案内をしてやってくれ」

「はーい」


「リーメさんはこの村に住むんですか?」

「ええ。住み込みで研究させてもらうことになるわ。ただしあくまで王国からの派遣員としてね」

「どういうことです?」

「何か村に関わる重要な出来事があっても私に義務は生じないの」

「へー」

「その代り発言権も低いけれどね。要求された時くらいしか介入出来ないと思うわ」

「みんな気にしないと思うけど」

「ふふふ、そうかもしれないわね。でも立場は明確にしないと本当に何か起きた時に自分の居場所がなくなってしまうの。ほどよい距離感を保つのも大事よね」

「そうですね」

「そう言えばもう1人の子は?」

「ニーナちゃんですか?あの子は王国に残りました」

「そう。寂しいわね」

「そうですね。でも会おうと思えば会えるし、ニーナが決めたんだから仕方がないです」

「そう」

「たまに報告のために城に行くこともあるみたいだからその時会えるし、大丈夫です」

「よかったわね。友達は大切にね」

「うん。そう言えば試したいことってどんなことなんですか?」

「そうねぇ、まずは誰でも魔法が使えるようにするという点。魔法はイメージすることが大切、と言ってもなんでもそうだけど。イメージしやすいように絵を描くとか文字に起こしてみるとかですね。どうなるか楽しみだわ」

「みんなが魔法を使えるようにかぁ。事故や犯罪も多くなりそうですね」

「あらあら、そんなところに頭がいくなんて。いい発想よ。夢の世界に行ってもらった甲斐があったのかしら」

「あれはあんまり関係ないような。色んな人に会ったんです。力の強い人やモンスターにも沢山。ああいう人達が好き放題に暴れたら周りのみんなが困っちゃう」

「ええ。おっしゃる通り。倫理感も育てないといけないから難しいところね。ここではそういう教養も身につけられるように教えてほしいと王子には頼まれているわ」

「なんか戦士の訓練場というより学校みたいになっていきそうですね」

「そうですね。学ぶという観点から見ればたしかにここは学校だものね」


「魔法を使うために絵に描くってどういうものを描くんですか?わたし絵は苦手だから同じような人が苦労しそう」

「ええ、だから文字を使うことも考えたの。それに絵というよりは記号を使うつもりよ。例えば対象を縦線と見立てそれを三角で囲う。三角は魔法。そうやって対象と魔法という概念を持たせた記号を重ね図にすることで元来なかった新たな概念を作り上げる。つまりそれぞれの記号に対する認知から意図した事象をイメージして具現に至る道を作るの。言葉の場合は発現するプロセスをストーリーにして文字に起こすことをやってもらう予定よ」

「へー」

「ピンとこないかな」

「すみません、普段使わないワードで混乱中です。それに魔法は何となく出来ちゃったから」

「そうよね。今魔法を使っている大半の人はそう。でもこれからここで学ぶ人にその事を言ってはいけないわ」

「妬まれるからですか」

「はい。そうね、妬み。相手に劣等感を抱かせてしまうことで恨みを芽生えさせ、もしくは劣等感から平常心を失う。そうなればあなたが言ったように犯罪や魔法の暴発事故にもつながってしまう。トラドさんのような近衛騎士やトップクラスの戦士ならその力を見せつける事に意味がある。実力を示すことで地位を固め守護者として相対する者への抑止力を生む。だけど私達教育の場に身を置くものがむやみに力を誇示することは尊敬とは別によくない感情を生む。だから彼らの成長の妨げになることがどういうことか考えながら指導しないといけない。結果としてこの人に教われば自分は成長できると思わせることができれば成功ね。中々難しいけれど」

「彼らに寄り添っていくんですね」

「寄り添う、そうね」

「わたしの魔法の先生というか師匠がよく言っている言葉なんです」

「あらいい先生をもったのね」

「普段は無茶苦茶で困らさせられるんですが、あの人の考え方は好きです。だから未だに先生なんて呼んじゃうんですね」

「そう、そうやって慕われる先生は羨ましいわ」

「リーメさんはなら大丈夫ですよ、きっと。うまくいくといいですね」

「ええ、少しずつでも出来ることをしていくわ。セツカさんにも手伝ってほしいの。お願いできます?」

「はい!わたしにできることがあれば、なんでもとはいえませんが」

「ふふふ、期待させてもらうわね」

「はーい。じゃあ後でまた来ますね。そしたら村の案内と併せてみんなも紹介します」

「ありがとう。これからよろしくね」


「ニーナちゃんか、今頃どうしてるかな。いつも寂しそうにしてたから1人になって落ち込んでないといいけど。うー、むしろわたしが早く会いたいよー。ニーナちゃーん」

「よう、村長。何儚げにしてんだ?似合わんぞ」

「次に村長って言ったらターナさんに頼んでご飯抜きにしてもらうからね」

「あらセツカ村長、私にご命令ですね」

「うぅ、ほんとにお城の方に帰ろうかな」

「あら、帰りたいと言っても帰さないようにと王子に申し使っておりますよ。村長さん」

「リーメさんまで。なぜ」

「そうなると困るからだ。ショウにはそっちに行っても追い返してくれと頼んであるから行っても無駄だぞ?」

「トラドさんはわたしを追い詰めたいんですか」

「ははは、いいじゃないか。新しい事に挑戦する、素晴らしいことだ。だが逃げるのはよくない。言っておくがここに来ることを選んだのはお前自身だからな」

「わかってますよ!もー!ニーナちゃんに会いたいよー!」

「あいつは助けれてくれないと思うけどな」

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