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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
第2部 クエストと魔族と 2−1.魂と成り果てて

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64/124

64. 誕生

「おかえり!やっと帰ってきた。ねぇソラ、見て見て元気な男の子よ」

「ははは、勇ましい泣き声じゃないか!」

「これからは家族3人ね」

「ああ」

「ねえ」

「うん?なんだレミファ」

「この子に名前をつけてあげて。考えてあったんでしょ?」

「もちろんだ」

「キラキラしてなかったら却下よ」

「キラキラ、まぁいいやきっと気に入る。いいか、この子の名は」

「うん」

「カナタだ」


「却下」

「なぜ!」

「どっか行っちゃいそうな名前だから」

「いいだろ、自由な感じがして」

「もっと素敵な名前にしてよ」

「素敵って、漠然とした要望だな」

「無い頭使って考えて」

「酷い言われようだ。カナタはカナタがいいよな?」

「大声で泣き出したわね」

「気に入ったんだ」

「気に入らなかったんだわ」

「いやいや、気に入ったから今できる最大限のアクションで応えて」

「それはどっちとも考えられることでしょ!もう」

「じゃあお前だったら何て名前にするんだ?」

「この愛らしさ。まるで天使のような」

「悪魔の子だぞ」

「うるさいわね。じゃあ私達に習ってこの子の名前は」


「この記憶は、これは両親か?俺が生まれた時のようだな。こんなにも喜んでくれていたのか。しかし父は悪魔だが、母は、母はまさか人間か?だとしたら俺はあの猿のように半人半魔ということになる。俺の半分は人間。じゃあ、いや、なるほど。そうか、自分の性格に関しては悪魔らしくないと思っていたが合点がいった。そうだったのか。腑に落ちるとはこのことか。他には、なんだこの記憶は。俺は何を思い出しているんだ?この姿は母か、母が襲われている。ああそうか、それ故に母は殺されたんだ。悪魔と共にいるから。そして父は俺達を守り通そうとして。なんてことだ、この記憶が正しいなら俺が探し続けていたのはモンスターじゃない。俺の両親を殺したのは最上の者じゃなかった。こいつらは人間じゃないか。なぜ、なぜそんなことに気づかなかったんだ、どうしてモンスターの仕業だと、いつからそんな勘違いをしていた。なぜ?なら俺が覚えているあの大きな影は一体誰なんだ?あれが人間?違う。人間にしては大きすぎる。だがしかし、人間が仇ならもうこの世にはいない。とっくに。だとしたら俺は今まで一体、一体何のために、何のために!」


「はぁー。整理しよう。まず俺の仇は人間だった。そしてそいつらはもういない。今となっては俺がなぜそう勘違いしたかを知るくらいか。手がかりはない。唯一俺の居た家に行ってみるくらいだろうか。しかしもう何もないかもしれんしこの状態じゃあどうにも出来ん。セツカに頼むこともまだ出来そうにない。この子の力は少しずつ強くなっている。このままならもしかしたら俺とも話せる程になるかもしれないがどのくらいかかるかわからん。もしかしたらその前に年老いて朽ち果てるかもしれん。今できること、そしてやりたいこと。よし、一度この子から離れて記憶にあったものを見るだけ見て回ってみよう。思い立ったらすぐ行動あるのみだ。しばしの別れ、名残惜しいな。達者でな、セツカ」


「魔王城か。久しいな。誰もいないのか?そういえばデモロがまた魔王になるんだよな、あいつじゃここを使わないのか。俺はここで死んだのか。なんとも言えん心地だ。俺の身体は、さすがにないか。大山羊が片付けてくれたのかもな。もしかしたら崖の方か」


「あった。俺の墓か。自分の身体が収まった墓を見るのはなんとも言えんな。自分の墓に対して黙祷を捧げるべきなのだろうか?うーむ。死者を想ってか、その当人なんだからまあいっか。ん?これは、掘り返したような跡がある。先に墓を用意して後で収めたのか?大山羊と話せたらなぁ。言っても仕方がない。さて、次は生家に向かうか。果たしてまだあるのだろうか?」


「やっと付いた。疲れはしないが思っていたより時間がかかるものだな。大分朽ちてはいるが残っているとは。ま、こんなところに住むやつもいないし、わざわざ来ることもないか。改めてみると静かな暮らしに適した場所。両親がどういうつもりでここに居を構えたのか容易に想像がつく。それを、人間は。はぁ、俺は何を恨めばいいのかな、人間という種か?それともこの結果を生み出した知性、もしくは本能か。そんな事をしたら俺は生物を全て恨むことになる。さすがにそんなエネルギーは湧いてはこない。今思うのはただ、ただ虚しい。何か残っているかな。ふむ、ほとんどが風化している。仮に手がかりが残ったのだとしても今はないだろう。やはり無駄足だったか。しかし、懐かしい。それだけでも来て良かったのかもな。この感傷は人間故か。デモロに聞いてみたいものだ。悪魔ならどう感じるのか。それだけじゃなく俺は皆と話したい。なぜ今になってこんな事を思うのだろう。もっと話しあっておけばよかった。ショウが言ったように、セツカのように気兼ね無く、皆と話せばよかったんだ。皆か。うん、来た甲斐はあった。よし、帰ろう。誰も待ってはいないけれど俺はあの場所にいたいのだ。セツカ達がいるあの場所が俺の帰りたいところなんだ」


「なんだ、どういう状況なんだ?戻ってきてみればこの有り様。セツカは誰と対峙しているんだ。あれは、勇者か?雰囲気が大分違うが勇者だ。かつて俺を殺した非道の者。それが魔王になる?何をバカな。セツカも怒っているようだ。わかる、わかるぞ。あの傲慢でわがままな考え方。強さのみ追い求めることの愚かさ。対して理不尽で暴力的で思慮にかける者の在り方への怒り。そのどちらも俺にはわかる。そうだ、そうだろう。お前のその言葉は俺なら理解できる。だがそれ以上は危険だ、奴に近づくな!ああだめだ。いつか見たこの光景、どうにかしたいのに手が出せない。あの時は母が、父が!やめろ、やめろぉ!」


「セツカ、死んだか。しかしこれは魔王になるために必要なこと。もっと強くなるために、俺が頂点に立つために。お前のことを想うとどうにも道が反れる。仕方がないんだ。だけど忘れはしないよ。俺にとってお前は」

「黙れ」

「生きている?そんなはずは」

「死んださ。だから俺が身体を貰い受けた。この子を手に掛けたお前を許しはしない」

「セツカの姿をしたお前。お前は誰だ、名乗れ」

「俺はシドだ。魔王シド。元勇者よ、お前如きが魔王を名乗るな。しかもお前はまだそんなくだらないことを続けているのだな」

「うるせーな。てめーが魔王だと?」

「ああ。ちょうどいい、いつかのケリをつけよう。そのつまらない理想、引くに引けなくなってるだろうから俺が終わらせてやるよ。セツカに代わって」

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