63. 出会いは大切に
「セツカはモンスターに対して全く警戒しないな。どういう感覚をしているんだ。危険と思わないのか?幸いこのモンスター達は好戦的ではないが、運動会を前に気が高ぶっている者もいるだろう。まったく、この人間がいなくなったら俺はただ漂うだけの幽霊になってしまうではないか。とはいえ、人間と比べるとモンスターって結構陽気なやつが多いよな。セツカが気軽に話すのもわからなくはない。まぁ、それだけに会話に困ることもあるんだよな。あー、なんか思い出しちゃったよ。あいつら。なんかイラッとする奴らだったな。だが、そうだったな。あいつのような理知的な者もいた。ああ、魔王になってから奴と話せたらどんなによかったか」
「ハハハ!恨むなら自分らが弱いことを恨むんだな」
「ブギー」
「ウギー」
「ユウシャサマー」
「おいおい、こいつら歯向かう気だぞ」
「遊んでやれ」
「ほらほらかかってこーい、ハハハ!」
「いいんだな?」
「あ?何だお前」
「そいつらの代わりに遊んでくれ」
「気取りやがって。おいお前ら」
「仕方ねぇなぁ」
「ちゃちゃっとやっちおう」
「数人がかりか。まあいいや」
「後悔なんてする気も起きねぇようにしてやるよ」
「どうかな。いじめにならないか心配だ。弱すぎて」
「お前がな!」
「はっ、態度ばかりで大したことのない奴らだったな」
「ナンテアリガチナテンカイ」
「コセイニカケルナ」
「シュジンコウミタイダ」
「ふん、俺はああいうのを始末するために渡り歩いてるだけだ」
「オオ」
「カッコヨ」
「シゴトニンダ」
「じゃあな」
「ナマエオシエテ」
「ゼッタイワスレナイカラ」
「ユウシャダヨナ」
「俺か?俺は魔王だ!」
「ダサ」
「ワスレヨウ」
「ザンネンナヤツダッタ」
「なんでだ!」
「まーったく、俺が魔王名乗って何が悪いんだ。ん?何だ?おい、なんで着いてくる。というかいつから付いてきたんだ?」
「さっきの戦いから」
「お前を助けた覚えはないぞ。それに助けるために戦ったわけじゃない」
「知ってる。これから助けてもらうんだ」
「やだよ」
「お願いします魔王様」
「仕方ねーなー」
「ちょろ」
「今なんて言った」
「ちょ、ちょーろー、に会っていただこうかと!」
「長老?」
「そ、そう、ちょーろー」
「なんで」
「詳しい話はちょーろーがするものでしょ」
「そんな決まりないだろ。お前が助けてほしかったんじゃないのか?」
「最初はそうだったけど今はちょーろーが助けてほしいのだ」
「どういうことだ?なんかわけがわからんくなってきた」
「ささ、こちらへ」
「ああ、まーいいか」
「ふぅ」
「かえったよー、ちょーろー」
「おかー。ちょーろーってなんだ?」
「年寄りのことだ」
「年寄りっていくつから年寄りなんだ」
「さあ」
「お前ら会話が成り立ってないぞ」
「この少年は?」
「ちょーろーではないな」
「若いからな」
「おい!もういい。邪魔したな」
「ちょーっとまったぁ!」
「じゃあさっさと用件言えよ」
「西に剛気なやつがいてそいつがいつも食料を取ってくんだ」
「あー、あいつか。最近来たあいつ。そうそう取ってくんだ」
「ふーん、嫌なやつだな」
「そそ」
「やなやつ」
「で?」
「え?」
「どうしてほしいんだ?」
「あー」
「どうと言われると」
「何か困ってるのか?」
「いや、だって食料取られるってどうよ」
「困るじゃんよ」
「まぁそうか。で?」
「え?」
「このやり取りもういいから。わかった。どんなやつか見てくる。ムカついたら始末する。それでいいな」
「いえーい」
「話しはやーい」
「なんかこいつらがムカつくな」
「おいお前」
「なんだ?小僧」
「東の方にいる2人組がお前に食料取られて困るって騒いでるんだが本当か?」
「あいつらまたか!」
「またかって」
「いつもイタズラをして困らせてくるんだ。まったくよ、どうにかしてほしいぜ」
「あー、その気持ち、短時間接しただけなのにとても共感出来るよ」
「わかっちまったか」
「ああ」
「それでお前は何しに来たんだ」
「お前がムカつく奴だったら始末しようと思った」
「ヤンキーか」
「ちげーよ。俺は魔王だ」
「はぁ、変なのばかり来る。安らかな土地を探して引っ越そうかなぁ」
「いい考えだな」
「ふーん、強くなりたいか」
「ああ」
「理不尽を強いる者を、ねぇ」
「なんだ?」
「そのために強くなって、だろ?」
「そうだが」
「それって結局お前も同じ事することになると思うぞ」
「そんなことしーねよ」
「ふむ。なあ少年。個人の力で立ち向かうばかりではないだろう」
「どういうことだ」
「集団で立ち向かうのも強さの在り方だ」
「複数人でか?卑劣な真似を。個人の強さで勝たなきゃ最上の者になれねーじゃんか」
「まー別にいいけど。お前、その内死ぬぞ」
「上等だ」
「上等なものか」
「ふん。強くあれと父に言われたんだ」
「へー父親がいるのか」
「だが最上の者に殺された」
「そうか」
「だから俺は強くなって奴らを打ち負かす」
「まっすぐだなぁ」
「あの2人組はどうする?」
「放っておけ」
「いいのか?また困らせるようなことするんじゃないか」
「構わん。そんな連中相手にし続けたら俺が疲れる。ここを出て別の地に行けばいいだけだろ」
「逃げるのか。悔しくないのかよ」
「嫌な心地にはなるがその方が賢い選択だろ。いいか少年。物事が思うように行かなくて苦しくなっても楽しみを見つけるようにしろよ」
「ポジティブかよ」
「そうだ。俺の場合は新しい土地を探す工程、その土地での暮らし。そんなことに思いを馳せながら旅をする。これって楽しいだろ?事象そのものに楽しみが見いだせなくてもそこから派生することに目を向ければ面白い道が見つかるかもしれんのだ」
「かもなんて」
「お前はいつか行き詰まる。必ずな。その時力任せに振る舞えばお前が忌み嫌う最上の者になれるだろう。だが本当に目指すべきものが見えたならお前は、そうだな。真に王と呼ばれるはずだ」
「わかったようなこといいやがって」
「まー経験者だからな。出会いを大切に、なんてお前には伝わらんか」
「他者など必要ない。デカくて強そうなモンスターのくせに日和ってんな」
「ははは、日和見で何が悪い。俺は俺が大事だ。なんせ俺はモンスターだからな。自分のことだけ考えればいいのだ。だがお前は人の道を歩むといい。慕われる事をしろ。そしてその者達を守る事に尽力しろ」
「守る?」
「そうだ。強くなった先を見据えて動け。自分がいなくなった後のことを考えろ。自分だけ良ければそれでいいならお前は魔王になる。いいか、繰り返しだがお前は人の道を行け。そして魔王ではなく王となるのだ」
「あんた本当にモンスターか?」
「どうかな。お前は見たところ悪魔か。悪魔が親を慕うのは珍しいな。それに話に聞くお前の父は特殊な奴だろう。俺の知り合いにもよく似た奴がいたが、家庭を大切にする悪魔なんて滅多におらんぞ」
「まあ変な奴だとは子供ながらにも思ったよ」
「そうか。お前が親から受け継いだものが何か、よく考えるといい。何を大切にしていたのかよく思い出すんだな」
「父の場合は、家族だ」
「そうか。なら家族を守れ」
「じゃあ俺はそろそろ行く」
「え?いきなりだな」
「別に荷物なんてないしな。目的と道筋を見つけたなら後は行動あるのみだ。お前が失敗したのを知ったらあいつらまた何かしてきそうだろ。さっさと行くのにかぎる」
「たしかに」
「頼みがある」
「なんだ?」
「あの2人組には俺を始末したと伝えてくれ」
「すぐ気づきそうだが」
「構わん」
「わかった」
「助かる。じゃあな」
「じゃーな」
「守るか。誰かを守るという考えに行き着いたのはこの者との出会いがあったからだな。未だにこいつのようなモンスターに会ったことがない。この出会いがなければ俺は確かに最上の者として魔王になっていた。そうだな。朧気に覚えている父の姿はいつも俺達を守ろうとしていた。母が殺された時も。あの時のことは、仇の姿は今でも脳裏に焼き付いている。あの大きな影。だが顔が見えない。今なら記憶を鮮明に思い出せるのに不思議だな。何か足りない気がする。もう一度しっかりと思い出してみるか。俺の家族の姿を」




