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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
第2部 クエストと魔族と 2−1.魂と成り果てて

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62. 三魔烏

「デモロの言う通り大山羊は随分変わったな。俺の影響か。ふふふ。さすが魔王、俺。大山羊をもその配下にしたのだ。ああ、思い出すなぁ。大山羊やデモロに挑んだ日々。何度も心身ともにボコボコにされたんだよな。大山羊には一度も勝てず、デモロにもいいように遊ばれて。そういえばあの頃の奴らは三魔烏なんて呼ばれて恐れられてたっけ。懐かしいなぁ。最初に挑んだのは誰だったか。あーそうだそうだ、最初はデモロだった」


「ふん。コイツが魔王か。王座にふんぞり返っているのかと思えば。おい、何をしている?」

「料理だよ?」

「魔王ともあろうものが、か」

「妹が美味しものを用意しろってうるさくて」

「威厳も何もないな、デモロ」

「僕にはそんなもの必要ないもの。別に無くても皆寄ってこないし邪魔なら排除すればいいだけでしょ。威厳なんてものいらないよ」

「ちっ、その余裕、ぶち壊してやろう」

「余裕をみせたわけじゃないんだけど、何の用なの?僕、家事やらないといけなくて忙しいんだけど」

「お前を殺しに来た」

「えー、なんで?」

「俺を慕う者達のためにも世界を変えたい。そのために理不尽の体現者たちを駆逐する」

「はぁ?」

「お前のような傍若無人な奴がいると安心して過ごせない者が多いのだ。苦労も知らないようなバケモノにはな、消えてもらう!」

「まるで人間だ。理不尽ねぇ、僕にもその気持がわかるよ」

「お前にわかるものか」

「作りたくもない手料理用意させられたり、お気に入りの服に汚れがついたからどうにかして消してこいとか言われたり、傍若無人の体現者のお世話をいつもしているからね」

「そ、そうか、それは大変だな。いやそうじゃなくて!とにかくお前がいると困るんだよ!」

「何それ、滅茶苦茶じゃん。気に入らないから死ねって?それこそ理不尽じゃないか」

「だったら他の誰かのため、に、苦労してるのか。うーむ」

「やれやれ。ちょっとだけだよ。よいしょ。遊んであげる。おいで」


「鋭い切っ先が僕の喉元をかすめる。紙一重でそれを躱した僕は」

「この、この!」

「身を翻しオタマを振りかざして攻勢に出るのだが、相手はそれを見越して距離を取っていた。そして僕はオタマを机に置くと、代わりに鍋の蓋を手に構えた」

「死ねぇ!」

「放たれる魔法の連撃。唸る炎が僕の大事な鍋の蓋を焦がさんと迫りくる」

「くっ、鍋の蓋で防いだだと!これならっ!」

「巻き起こる風は嵐のごとく部屋を蹂躙して散らかしてゆく。僕は嘆く。ああ、掃除のやり直しだ」

「うがぁぁぁぁっ!」

「絶え間なく繰り出される剣戟と氷の乱舞。涼やかに煌めく乱舞はすさんだ僕の心を和ませてくれた。ありがとう、乱舞」

「ぜぇ、はぁ、よ、余裕振りやがって。おい魔王、遊んでんのか!」

「だから遊んであげるって言ったじゃん。どお?ナレーション上手だったでしょ?ヒノキの棒があればもっとよかったんだけどなぁ。勇者ごっこ、皆でよくやったんだよねー」

「こ、このぉ!舐めやがってぇ!」

「あーあ、こんなに散らかして。料理は守ったけどまたあの子が機嫌損ねちゃうよ。君、ちゃんと片付けてから帰ってね」


「つ、疲れた。ちくしょう、相手になっていない」

「つまりは、だ。僕を殺してこの魔王の座を奪い取りたいってことなんだよね?面白くもない冗談だ。そんな冗談デモクに聞かれたら殺されるよ」

「黙れ」

「強気でいれば敵うとでも思ってるの?」

「知るか、お前達最上の者を始末した実績が欲しいんだ!」

「なぜ?さっき言ってた皆のため?」

「それもあるが、力が欲しいのは両親の仇を討つためでもある」

「親の仇って、そんなもののために戦うの?君も悪魔だよね?」

「そうだ。だが許せんのだ。理不尽な存在が!」

「悪魔にそれを言うか。やっぱりつまらんなぁ。小さい頃にね、親ってだけで偉そうにうるさいから実力の差を身を持って教えてあげたんだけど、うっかり首をはねちゃってさ。家事する奴がいなくなったってデモクには怒られたっけ。親なんてその程度だよ?」

「お前と俺では考え方が違うんだ。一緒にするな」

「うーん、君は本当に悪魔なのかな。ん?ふーん、そうかそういうことか。人間ぽいわけだ。君さ、この玉座が欲しいんだよね?」

「玉座もだが俺はお前の」

「はいはい。その辺はいいや。この玉座、欲しいならあげるよ」

「は?」

「だからこれからは君が魔王だ。よろしくね」


「魔王の玉座を渡されたが、結局それを理由に掃除までさせられてとんでもなく疲れたな。これも全て自分の弱さ故か。くっ、もっと強くなりたい。さて次は魔導師を始末しに行くか。正面から接近戦を仕掛ければいけるだろう。ははっ、一番楽な相手だ。居場所は確か草原にいることが多いんだったな」


「あの山羊の群れか?あ、いた。お前が大山羊だな。俺は新たなる魔王だ。お前を殺しに来た」

「小僧、出来ぬことは口にせぬことだ」

「黙れ。今出来なくてもいずれやってみせるさ」

「いずれか。時間さえあれば貴様が我を屠ると。つまらん冗談である」

「デモロにも同じ事を言われたよ」

「ほう。奴と対峙して生き残ったか」

「興味が湧いたか?」

「少しな。だが奴は死んでおらんようだが」

「ふん。だったらなんだ。何度でも挑む。そしてお前達最上の者を根絶やしにしてやる」

「そんな事をしてなんになる」

「俺が最上の者となる。そして俺を慕う皆が安心して過ごせる環境を作る。王だからな。そのためには理不尽を強いる存在を皆殺しにしなければならん」

「うむ。我にとって実に理不尽な考えだ。貴様とて同じではないか」

「黙れ。問答する気はない。死ね」

「哀れな小僧だ」


「メェー。小僧、その程度か?やはり口だけだったな」

「バカな、お前は魔導師だろ、なんでこんなにも接近戦が出来る!」

「頑張ったからだ」

「俺だって頑張っとるわ!」

「小僧、貴様のポテンシャルは素晴らしいものを秘めている。最上の者に手が届くかはわからんが上位に立つことなら可能であろう。だがな、お前では我には勝てん。魔導師はな、全てを魔法で行うほどに卓越した魔法使いなのだ。些事であれ魔法を使うことで物事をこなす。今の戦いにおいてもそうである。貴様が近距離戦を挑んだとて我が魔法でコーティングしたこの身体を傷つけることは叶わん。そしてこの華麗なる我がステップ。天晴である。いかなることも魔法でこなすとはどのようなことを指すか。何か例を見せよう。ほれ、蹄では孫の手は持てんがこの通り、魔法を使えば悠々と使いこなすことが出来る。見事であろう。これが魔導師の魔導師たる所以である」

「くっ、凄さがわからん例えをしおって。俺を見下しているのか!」

「なんと、山羊が孫の手を使ったという事実は驚嘆に値するであろう。字面を見たら、そんなことが!となること請け合いである」

「ただの山羊ならな!おのれぇ、もう一度だ、もう一度勝負だ!」

「うむ。よかろう。相手をしてしんぜよう。暇故に」

「暇つぶしかぁぁぁ!」


「そろそろ飽きてきたな。どれ首を引きちぎって終わりとしよう」

「なんだと、う、ぐ、ぐああぁぁ、やめ、ろ」

「大山羊君、そこまでにしてくれ」

「おや、デモロか。なんでだね」

「それは僕の新しいおもちゃだから。壊したら怒るよ」

「ほう。どれ、止めてみよ」

「君のそういうところは気に入らないね」

「おれ、は、まだ!うあぁぁ、ああ」

「ふむ、気を失ったか。つまらんな。もうよい、好きにしたまえ」

「まだ生きてるかな」

「気に入ったのか?」

「ちょっとね。これ、面白い成り立ちをしてるんだよ。言うことは一遍通りでつまんないんだけど」

「そうであるか」


「くっ、なぜ勝てん」

「大山羊君の魔力を君の力じゃ打ち破れないからじゃないかな。単純な出力の差だ。だから何度やっても同じだね」

「うむ。もう何度目であろうな。貴様は確かに学習し我が魔法を超えんとする勢いである。そこらのモンスターでは最早敵わんだろう。だがしかしまだ未熟であるが故に我を超えるその事実を作るに至らんのである。残念であるな」

「まだだ、俺はあんたを超えてみせる。ここで勝てなきゃ次に繋がらないんだ!」

「うむ。やってみよ。デモロ同様に我も興味が湧いてきた。その熱意故に。おお、胸が高鳴る!さあ、我を楽しませよ。我が前に立ちふさがりし精悍なる魔王よ。この三魔烏が1人、魔導師大山羊を超えてみせよ!」

「うおおおぉぉぉぉぉ!」

「いいぞー、がんばれー」


「デモロが言っていたのはこの森か?何もないな。水は流れているとはいえ、せせらぎが聞こえてくる程度。池となると、本当にここなのか?ふぅー、仕方がない。おい!池の主!いるなら出てこい!出てこーい!」

「うるさいぞ」

「ふん、いたか。だが姿が見えんぞ。俺は魔王だ。お前を始末しに来た。どこにいる!」

「黙っていろ。眠たいのだ。騒ぐなら喰うぞ」

「う、なんだこの全身を包むような殺気は。だが、ここで引く気はない!姿を表せ!」

「いい加減黙れ、小僧!」

「池の。ちょっと待ってもらえるかな」

「デモロか。邪魔をするならそいつを黙らせろ」

「眠いのかい?」

「ああ」

「ならお休み。邪魔はさせないさ」

「そうしてくれ。小僧、次はないぞ」


「魔王君。それ以上はしゃいじゃだめだ」

「奴はどこにいる」

「ここにいるけどどこにもいない」

「どういうことだ」

「そのままだよ」

「わけのわからんことを」

「意気込むのはいいんだけど君を殺さず生かしてあげたんだからさ、しっかりあがいて僕を楽しませてくれなきゃ。簡単に死なれたらつまらないでしょ。いいかい?毎回止めに入る身にもなってよ」

「ふん、知ったことか。池の主、聞いていた以上にわけがわからん奴だ」

「彼には眠ってもらってた方がいい。起きてると面倒だからね。さ、帰りなよ」

「ちっ、いちいち指図するな」

「はいはい」


「やれやれ、折角出来たおもちゃがいきなり壊れるところだったじゃないか」

「まだいたのか」

「今度はどのくらい眠いの?」

「かなりだ。沢山食べたからな」

「ここ最近は規模の大きな戦いが頻繁に起こってたもんね」

「ああ。あぁ眠い。デモロ、眠りを妨げるなよ」

「しないよ。お休み」

「ああ」

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