61. 魔王、勇者に敗れたり
「ショウ王子か。中々見込みのあるやつじゃないか。しかし俺に会ったことがある?記憶にないのだが。ふむふむ、なっ!おれが酔っ払っただと!いや、言われてみると飲んだ後の記憶はいつも曖昧か。そうか。ま、まあたまには酒に溺れたくなることもある。ん?こいつ、もしかして一緒に星空を見に行った子か?あー、思い出してきたぞ。たしか、そうかあの時の少年!大きくなったものだ。しかし、俺ってそんな馬鹿っぽい様子だったかな。そんなはずは、よーく思い出すんだ。確かあの時は、ああ、周りの奴らに散々に言われてむしゃくしゃしていた時だったな」
「ただ力ある者だけが優位に立つというのはおよそ理性の欠片も感じない考えだ。モンスターは他の生き物に比べかなり長命、それ故に強い者が多い。しかし長命なためなのか人間に比べると考えがルーズだ。つまり欠点として変化に疎い。だから時代の流れに聡い者もほとんどいない。このまま行けば人間はやがて大きな力を持つ存在になるかもしれない。奴らは集団による力の使い方を学び活用している。現段階では個の力が優位を占めているが遠くない未来に逆転するだろう。だというのに、領主の連中は何もわかっていない!自分達がいつか追い詰められた時にその領地に住む者達がどうなるか考えてもいない。はぁ、ダメだ。ストレスが溜まったら口に出してみるといいというが虚しくなるだけだな。まぁ怒りは確かに薄れたか。よし、飲みに行こう。こういう時はぱーっとやるのが一番だ」
「でな、聞いてくれよぉ。みんなおれの言うこと真に受けてくれねーの。みんなのためにっておもってるのによー」
「おお、わかりますぞー。私も長を務める身。皆言う事聞いてくれないのはいつものことですなぁ」
「わかってくれるかい」
「もちろんですとも!」
「そうか分かってくれるか!」
「はっはっは、もちろんですとも!」
「いやー飲みに来たかいがあったよーははは」
「わはは」
「だれもおれの言う事聞いてくれないんですけどぉ、ちなみにおれ、これでもまおーなの」
「わはは!わたしはキシダンチョーですぞ!」
「てきじゃねーか、ははははは!」
「まおーなんてちょちょいのちょいっ、わはははは!」
「ふいー、たのしかったぁ。なに話したかよくおぼえてねーな。まいーか。ん?なんだ子供か」
「不審者だ」
「あーん?不審者だとぉ?おらぁまおーだぞぉ、おそれおののけー」
「アホがいる」
「んだとぉ、今何か余計なこと言っただろぅ」
「適切なことを言っただけ」
「なんだそうか、んならいいんだ。適切な言葉を選ぶとは実に適切だぁ」
「兵士を連れてくる」
「いやいやぼっちゃん。まおーあいてにただの兵士で相手が務まりますか。キシダンチョー呼んできなさいキシダンチョー。いいですかぁ?魔王っていうのは恐怖の象徴で」
「わかったとりあえず」
「いーやわかってない、おらぁーな、モンスターの在り方を変えてやるんだ!」
「がんばれ」
「おまえもかぁ、おまえもおれの話きかねーんだなぁ!」
「じゃあどうするの?」
「よくぞ聞いてくれましたなぁぼっちゃん。きみはみどころがあるぅ!」
「めんどくさいなぁ。で?」
「まずはみんなが付いて来てくれるように俺が強くなる!」
「どういうこと?」
「きみぃ、もうちょっとちゃんとかんがえなさいよー」
「じゃあいい。別に聞きたいわけじゃないし」
「あ、ちょっとまって、仕方ない。説明してやろう。強くないとみんなこっちみてくんねーの。だれもはなしきいてくんねーの。実績ってやつぅ?それがないんからきいてくんねーのよ」
「それは大変だな」
「そうたいへんなのよ。たいへんなへんたい、なんちってぇーはっはっは」
「こいつが魔王なら今やっちゃえば全部解決する気がする」
「おれにいどむってか?やめとけやめとけ、子供じゃかてねーんだわこれが。見ろよあの星空を、あそこにきらめく星がおめーらならおれはおっつきさまってわけだ」
「今日曇ってるから星見えないけど」
「あんだとぉ、そこらにキラキラしてんだろ」
「見えないよ」
「だったらよぉ、だったら絶対見えるとこにつれてってやる」
「わ、なにをする、離せ」
「いっくぞー。とぅ!」
「どうだー、ここなら見えるだろう。周りなーんにもない山のいただきだをいただきだぁ」
「ほんとだ、すごい。すごくきれいだ。星も森も海も見える。でもここどこ?」
「しらん」
「おい」
「いつも1人になりたい時にくるとこだ」
「そうなんだ。本当に大変なんだね」
「ああ」
「ねぇ、さっきの話だけど、強くならないと本当にみんな聞いてくれないのかな?」
「どうだろうな。もしかしたら強くなる必要なんてないのかもしれん。だが、他に手段がおもいつかねーんだ」
「みんなで協力して考えればいいんじゃないの?」
「それが出来たら、それが出来たらきっとその悩み自体なくなってるよ」
「魔王なんでしょ?家来とか何か呼べばいいじゃないか」
「呼んでも誰もあてにならないのだ。協力はしてくれても誰も、知恵がないのだよ」
「そんなことないでしょ。きっとみんなに聞いて回れば何か案が出てくるよ」
「出てくるかもしれん。だがな、おれたちには威厳ってものがとーっても大事なんだ」
「王様だから」
「お?そうそう。わかってるじゃないか。だから頭下げてみんなに聞いて回るなんてしたらそれこそ誰もついてきてくれないんだよ」
「苦しいね、そのジレンマ」
「ああ。だから強くなるしかない。強くなって誰も彼もが俺の言う事を聞くようになれば、そうしたら皆に意見を聞いて回っても何も言ってこない」
「みんなちゃんと話してくれるかな?一番上に立ったら余計聞きにくくなるんじゃないの?」
「そうだなぁ、そうかもな。実際はやっぱり弱い姿勢なんてしたら誰も着いてこなくなる。さっきのは、その、そうか。きみじゃ理解出来ないと思ってそうだったらいいなってことを口にしてしまったようだ」
「いいんじゃない?そういうのを言ってるうちに考えがまとまっていくことがあるって兄上が言ってた」
「おにーさんか。学のある人なんだな」
「うん。兄上はとても立派な人なんだ。父上よりもずーっと尊敬してる」
「父親よりもか。そうか、父親か」
「魔王にも親っているの?」
「いたよ。母もいた。でも2人とも強ーいモンスターに殺された」
「そっか、辛いね」
「そうだな。思えばあれがきっかけだったんだろうな。両親を殺された恨みから力のままに蹂躙する存在が許せなかったんだ」
「なんだか僕達と同じだね。僕達がモンスターを倒すのは自分たちを守るためなのと恨みをもっているからってポールが言ってた」
「同じか。そうかもなぁ」
「ねぇ魔王」
「ん?」
「僕が大きくなったらみんなを幸せにするんだ。人間を幸せに出来たら次はモンスターも一緒に幸せにしてあげる」
「ははは!嬉しいこと言ってくれるねぇ。期待しているよ坊や」
「うん。見ていてよ。いつか必ずなしとげてみせるから。そうしたら魔王も一緒にがんばろうよ」
「人間と手を組むってか?はっ。冗談にもならん。それこそ誰も聞きはしないさ」
「だったらどっちが先にみんなを幸せにできるか勝負だ、僕は必ず魔王に勝つ!」
「勇ましい少年だ。かつて魔王に挑んだ勇ましい者をそのままに勇者と呼んだ。きみはまさにそうだな、少年よ」
「ショウだよ」
「ん?」
「名前」
「ああ、なるほど。覚えておこう。勇者ショウ」
「よし。僕もがんばるから魔王もがんばれよ」
「なんだ慰めてくれてたのか」
「そうだよ。げんきだせー。ところで」
「なんだ」
「そろそろ帰らないと怒られる」
「そういやだいぶ遅い時間だったな。けどもーちょっと待ってくれ」
「なんで」
「いい気分だからいっぱい飲みたい」
「おい、帰らせろ。いっぱいって沢山って意味じゃないよね?」
「ふぅー、うめぇなぁ。へへ、いい気分になってきた」
「えー、もう酔ったの?こいつ酒に弱いな。魔王の弱点、おぼえとこ」
「ほら、ちゃんと立って。ったくすぐ酔うならこっち来てから酔ってくれよ」
「あーん?おれぁ酔ってませんよー、ちゃんとたってますから。ほらほらここ、街にもどってこれたでしょ」
「たしかに。でも酔っぱらいに任せたのは危険だった気がする。気をつけよう」
「よーし坊っちゃん、気おつけてかえれよぉ」
「むしろ魔王の方が心配だよ。ちゃんと帰れるのか?お前がここで朝を迎えちゃうと困るんだからな?魔王がいるとこの人の家がラストダンジョンになっちゃうんだぞ」
「ふはははは、よく来たな町民よー、ってんなことにならねーよ。だってちゃんとかえれるし。いいかぁみてろよー。いくぞぉ。おれはぁー、でんせつになるぅー!」
「ちゃんと消えたか。よーし帰ったら兄上に色々聞いてみよう。どんなことしたら王族として役に立てるのか。魔王なんかに負けないぞ!」
「うっ、いてて、なんだ?なんで椅子の前で寝てるんだ?うーん、そういえば昨日飲んだんだっけ。いまいち覚えてないな。まあいい。なんだかいつもより気分が晴れやかだ。よし、今日も王様として張り切っていくぞ!」
「うーむ。今思い返すと色々突っ込みたいことばかりしているな。魂になってからというものやけに記憶力がいいというか色々思い出せる。ショウか。そうだった。こいつ俺と会ってたんだな。まったく覚えていなかったが、なるほど。勝負か。俺は果たすことが出来なかった。だがショウは前に進んでいる。つまり、俺の負けか。魔王、勇者に敗れたり、なんてな。しかしまだだ。俺は魂としてここにいる。そしてショウはまだ道半ばだ。俺は必ず返り咲いてみせる。そして、そして、俺は。俺は結局何がしたいんだ?ショウの言うように皆の幸せを実現したいのか。それとも私怨、両親の敵討ちなのか。俺は、どうしたかったんだ?」




