05. 戦いに時には
「セツカ」
「はい、なんでしょう」
「今から戦闘に入るのだがお前にはやってもらうことがある。危険がない範囲で全員の動きをチェックしろ」
「あ、はい。査定のためですね」
「そうだ。チェックするポイントがわからんだろうからとりあえず追える所だけでいいから見ておけ。状況を見て問題がないと判断したら俺も一緒に査定をする。その時にレクチャーしよう」
「了解です」
「ユミ」
「ええ、わかってるわ」
「やっと出番だな!」
「セツカちゃん」
「はい、なんですか?」
「魔法使いのそばから離れないでね」
「は、はい」
「心配すんな。あれは食料にする程度の相手だからよ。ぱぱっと終わらせてくる」
「サシロサ、カクロカ。セツカを頼んだぞ」
「わかりました」
「サシロサさん、相手はあの獣よね。あれはライオンかな。ぱぱっと終わるような相手かしら」
「問題ないでしょう。ただの大きなネコですよ」
「あれをネコと呼ぶか」
「こっちに来ることはないと思いますが、気を抜かないで下さい」
「うん、よろしくね。みんなはどうやって戦うのかな」
「マルマルさんが近づいて気づかれなければそのまま襲いかかる。それが戦いの合図。もし途中で気づかれたらユミさんが弓矢で牽制。それを合図に戦闘開始。あとはダグさんが全体をフォローする。ざっとこんな感じになるかと」
「なるほど。で、あの勇者くんは何を」
「えーと。なんでしょう。ただ突っ込んでいるように見えますね。あ、気づかれた。アホですね」
「勇者は、アホ、と」
「査定ですか?」
「うん。気づいたこと書いておこうと思って」
「そうですか。時として真実は何よりも鋭い武器になる。導きの勇者がアホとか希望がないですね」
「アホに、希望なし、っと」
「セツカ、すまん。予想より手間取った」
「アホ勇者のせいですね」
「ア、あーまあそうだ。どうだ、動きは追えているか」
「はい」
「よし、じゃあ査定のポイントを確認していこう」
「お願いします」
「まずは全体の貢献度合いだな」
「ダグさんやユミさんのように全体を調整する役とかですね」
「おお、そうだ。飲み込みいいな」
「サシロサさんに教えてもらいました」
「そうか。サシロサ、ありがとう」
「いえ。暇ですから」
「次に的確な行動を取っているか。ここは難しいことろだ。チームワークを得意とする者もいれば個人主義の者もいる」
「マルマルさんと勇者くんの違いですね」
「ああ。ははっ、教材にはいい人選だな。的確という場合、たいていその状況を有利に進めるような行動を指す。評価しづらいのはそのやり方だ。例えば、効率を重視して味方を犠牲にする奴もいる」
「そうなんですか、それはなんか嫌ですね」
「そうだな。だがそれはお前が気にすることじゃない。査定する場合は感情的にならないように事実だけ記載するようにしてくれ。主義思想で左右されるような評価であってはならない。可能な限り平等に、それが王子から求められたものだ」
「わかりました」
「まあ、それとは別にお前が思ったことを書いておくのはいいと思うぞ。主観的な意見ではあるがその言葉次第では査定内容に偏りがあることもわかるだろうし」
「なるほどです」
「さて、とりあえずこんなところか。これを元に一旦やってみてくれ。出来たものを見ながら今後に向けて項目などを設定しよう」
「フォーマットは作ってないんですか?」
「ああ。最初は用意するつもりだったんだが、そうすると今までのものとあまり変わらない内容になりかねんという結論になってな。だからさっきもざっくりとしたことに留めたんだ」
「へー、結構本気なんですね、ショウ王子」
「結構どころじゃない。かなり、だ。あの人は俺達のことを真剣に考えてくれている。国の戦力として捉え上手に運用する方法を模索しているんだ。俺はその真剣さに惹かれて王子の手伝いをすると決めたってわけだ。だからなんとかこの遠征で今後の役に立つものを作りたい」
「そうだったんですか。もー、ちゃんと説明くらいしてくれればいいのに、あの王子」
「ははは、あの人のことだ。イタズラが好きなのと現場の判断に任せたってとこだろう。俺達を信頼してくれてるわけだ。だから未来の皆のために俺達に出来ることを、な」
「はーい」