47. 魔導師から告げられた真実
「最近のことですが、王国から数日の位置にある草原を行列をなして進むモンスターの一群が確認されています。かねてより警戒されていたモンスターの戦に関する動きと思われます」
「今回は王国の騎士と野外の地理に詳しいモンスター交通課に助力をいただき調査を進めて行く方針です」
「少数での調査となります。皆さんには騎士に合わせていただき、随時意見を出しあっていきましょう。何か質問がある方はいらっしゃいますか?」
「あの、わたし事務なんですが、わたしは何を?」
「あなたは査定員として今回のような緊急性の高い調査をどう評価するか、ご自身の持つ知見を活かしながらまとめてもらいたいと王子からは伺っております」
「わかりました」
「他になければチーム分けに移ります。3チームに分けます。各チームごとに分かれて今後の詳細を確認してください。まずはリーダーですが、私騎士長カーバンが1Tのリーダー。2Tは騎士ハンダバ。3Tは騎士リューク。メンバーはここに書きましたので確認して各リーダーのもとへ集まってください。セツカ殿は私のところに」
「はい」
「我々は互いを視認できる距離を保ちながら進みます。今回の調査は危険が伴うものと想定しておりますので状況に応じてフォローしあえるように陣形を組み調査します。このチームでは私を先頭に後方を交通課のお2人にお任せします。セツカさんは私のそばにいてください」
「わたし先頭なんですか?」
「はい。実はセツカ殿に1つお願いしたいことがあります。関係者からあなたは非常に視力がいいと聞いています。各チームの動きを見ていていただきたいのです」
「わかりました。やってみます」
「ありがとうございます。では皆さんよろしくお願いします」
「カーバンさん、前方にモンスターの群れがいます」
「モンスターの群れですね、わかりました。もう少し進めば見えてきそうですかね」
「このペースならきっと数分以内には見えてくると思います」
「了解です。ああいえ見えましたね。確かに列をなして進んでしますが、報告されているより規模が小さいように思えます。セツカさんいかがですか?」
「同感でちょっと少ない気がします。他には見当たらないですし、規模はまちまちなのかもですね」
「規模を問わず進軍を続けているということは何処かに集結し、その後何か事を起こすつもりなのかもしれませんね。さてどうしたものか」
「それにしても、モンスターの様子が少し緊張感があるようで高揚もしてるようで、まるで戦士のみなさんが戦い始める時と同じ」
「戦に出るのだとするならむしろ納得ですよ」
「やっぱり大掛かりな戦いを進めてるのかな」
「それを確かめるのが今回の調査ですよ。さてその調査ですが他のチームと一度合流して今後の方針を決めましょう」
「モンスターを確認しました。報告にあったようにどこかを目指し集団で行動しています。交通課から見て彼らの動きはいかがでしょうか。例えば数など」
「数についてであれば、一連の話しがなければ見過ごしているかと思います。集団で行動することは決して珍しいことではありませんから、先程確認した数なら気にもしていませんよ」
「なるほど、ではあれより多い数で行動している者達を不審に思えばいいわけですか」
「はい。ただ、気になるとしたら集まって行動する場合、近い種族で集まることが通常です」
「そうなると先に見たあの集団は統一性はありませんでした。その点も解せませんね」
「はい、今回の動きが異様というのも頷けます」
「わかりました。ここからですがリューク、ハンダバの2名はスニーキングを続行。私と交通課の皆さん、セツカさんは一度報告に戻ります」
「もう戻るんですか?」
「ええ。モンスターを早期確認出来たこと、その集団が少数だったことが幸いしました。後は彼らについて行きその目的地を確認さえすれば調査の目的は達成できます。ですが確実にそうなるとは限りませんので皆さんとはまた別エリアを確認しに行きます」
「了解です」
「では2人とも、気を付けて」
「はっ!」
「皆さん先日はありがとうございました。引き続きの調査となりますが今回は王国東側を中心に行います。理由は東側は比較的穏やかであるためです。恥ずかしながら騎士の手が足りず同行できる者がおりません。ですが皆さんの安全は私が必ず確保いたしますのでご安心ください。騎士長の名に恥じない働きでお守りいたします」
「今回はみんなまとまって動くんですか?」
「はい、そのため人数は前回より減らして参加頂いております。今回はシモザさんとナミチさん、セツカさん私含め計4名で行きます」
「騎士長さん、私らのことはあんまり気にしなくていいよ。交通課は普段から荒事にも慣れているから自分の身を守るくらいのことはできる」
「そうおっしゃっていただけると心強い限りです」
「あのナミチさん、わたしは荒事慣れてませんから」
「何言ってるんだ。セツカちゃんは歴戦の強者ってみんな知ってるんだから謙遜しなくていいんだよ。な、シモザ」
「うん。おそらく戦闘に立ち会った経験で言えば僕達よりずっと豊富にお持ちですよ」
「そうですね、あの魔王とも対峙し王国最強とも名高いトラド殿とタッグを組んだこともある程だと伺っています」
「もう好きにしてって思うのは諦めなのか慣れなのか。むー」
「この草原、なんか久しぶりだなぁ」
「セツカさんは多くの現場に出向いていると聞いていますが、ここはあまり依頼の対象になりませんか」
「はい、やっぱりここって穏やかだからあんまり問題が起きないみたいで」
「交通課は忙しいけどね。ま、私らの対応で済んでいるあたり平和ってことか」
「そうですね。こちらは騎士もあまり出向いてくることはありません。主に西と北。ですが魔王がいない今はモンスター間の均衡も崩れいずれはこの東側も荒れると言われています」
「でもトラドさんたちがいますから」
「ええ。彼らの存在は頼りになります。魔王とまでいきませんがモンスターの争いにも介入できれば少なくとも現状維持は出来ると言われています」
「早く戦士組合が運用されるといいですね」
「まったくです。そうなれば王国の四方を戦士と騎士で守護し王国の守りはより強固になりましょう」
「そうなったら交通課も助かるよ。それに土木課もやりやすくなるだろうし」
「街道整備してる部門でしたっけ」
「そ。あそこの親方もやたらと強いからモンスター自体は大して問題じゃないんだけど、作業を見物しにくるし、なんなら真似して地面掘り出す奴もいて整備する範囲が増えて困るって言ってた」
「ふふ、あの子たちってかわいい子もいて、なんかモンスターっていっても憎めないですよね」
「悪い奴だけじゃないのは確かだね。いつも接触してるけど、血なまぐさい事件になるようなことも滅多にないくらいこっちは落ち着いてる。みんな東地区担当になると喜ぶよ」
「ですが獣の森には近づかないようにしなくてはいけません。あの森に入ると途端に凶暴な種が増えますから」
「だねぇ。うちの課でもパトロール強化期間にはあの辺まで様子見に行く事があるけど、中まで入ることは絶対にしてないよ」
「それが懸命です。騎士も少人数で入ることは基本しませんから」
「遠征の時に少数で入っていったわたしたちって、かなり危ないことしてたんじゃ」
「前回のようにはいきませんね。このあたりで休憩しましょうか」
「はーい」
「シモザ、周囲の警戒よろしく」
「いえ、それは私が」
「いいんだよ、若い子には色々やらせりゃいいんだから」
「そう言って雑用ばっかりやらせんるんですよ。この人」
「ではなおさら私が」
「いえいえ、僕がやります。騎士長さんは必要な時に動けるようにしていてください」
「それは騎士間ではそうしますが、守ると言った手前」
「いいんだよ。美人の前で張り切ってるだけだから。いつもはジャンケンで決めてるし」
「そうですよー。美人もそうだけど礼節のある人って貴重ですからね」
「いつも礼儀正しく指導してやってるだろう」
「そのセリフがすでに」
「ふふ、交通課は素敵なチームですね」
「まーね」
「そういえばセツカさんはどこですかね?」
「あれ、いない」
「なんだろうこの感じ。なんだか懐かしいような不思議な感覚がする。魔王さん?」
「ンメェー」
「うわっ!でかいヤギが寝転がってる」
「ん?これは人間であるか」
「と思ったら大山羊さんじゃないですか!お久しぶりです」
「おや、事務の君。奇遇である」
「こんなところで何してるんです?あたかもヤギのようですよ」
「うむ。何を隠そうヤギであるからな。最近色々と雑務に追われておるのだ。疲れたので本能の赴くまま草原で休憩していた次第。こう見えて脱走は得意技である」
「本能の赴くままですか。雑務って、モンスターにも何か管理業務みたいなものがあるんですね」
「うむ。近々大きなイベントがあるのでその調整に追われておるのだ」
「もしかしてモンスターが集まって移動してるのってそれですか?前に聞いたら戦の準備だって言ってましたけど」
「戦?はて。ああ、確かにそうである。気合入っている者からすればそうであるな」
「もしかしてそんな大層なことじゃないのか」
「どうであろうか。今度、北の領主ホワイトカラーの白鳩さんのもとで行われる大運動会と夜会があり準備が大変なのだ。生真面目な方だからきっちりやらないとポッポされてしまうので気を使っておる」
「ポッポ?」
「うむ。怒っているのだが鳩ゆえの形相。皆堪えるのに必死である。パーティもあるから周辺の領主や力あるものは集うのだ」
「つまり百鬼夜行と見せかけた大名行列だったか。この事実を知った王国はどうするかしら」
「うむ?」
「セツカさん!無事ですか!」
「え、はい大丈夫です」
「突然いなくなって心配しましたよ!何があったんですか」
「えーっと、なんか魔王さんがいるような感じがして」
「魔王が!そんな、討たれたはずでは」
「あー、勘違いです、かわりに大山羊さんがいて」
「大山羊、とはあの魔導師の大山羊ですか!なぜ助けを呼ばなかったのです!」
「大山羊さんは大丈夫ですよ?」
「何を、あの大山羊が大丈夫などと」
「それより大山羊さんから聞いたんですけど、モンスター達の目的がわかりました」
「ブン王。騎士長カーバン殿が報告に来たようです」
「うむ。通せ」
「はい」
「騎士カーバン報告に参りました」
「ああ。どうだった」
「はい。今回の調査でいくつかの情報を得ることが出来ました。まず北側への調査を行なった際モンスターの一群を確認。規模は少数。騎士2名に後をつけさせたところ北のモンスター領へ向かっていったとのことです。そこはすでにかなり多くのモンスターがおり、奥まで入り確認することは出来ませんでした」
「ほう。他には」
「はい。これは同行した査定員セツカ殿から聞いたことなのですが、その、一連の動きは、なんというか」
「なんだ、はっきり申せ」
「はい。失礼いたしました。一連の動きはモンスターらが主催するイベントの集まりとのこと」
「イベント?」
「運動会だそうです」
「なに?運動会?そのためのわざわざ集まっておるのか」
「それと夜会が開かれるとも」
「運動会にパーティか。北の領主が何か催しておると。セツカはどうやってその情報を知った」
「魔導師大山羊と接触したようです」
「なんと!大山羊と」
「セツカのやつ、以前魔王のところで仲良くなったらしい」
「これはトラド殿、ご無沙汰しております」
「ああ、ポールの後釜で上手くやってるらしいな」
「恐縮です」
「これこれ話がそれる。しかし大山羊と懇意にしているとは。なぜだ」
「さあ。ただ内通してるって感じじゃないから心配はいらんぞ。何かする気なら彼女は俺が預かる」
「待て待て、逸るな。純粋な疑問だ」
「魔王の死に様を記録してほしいと言われて叶えてやったことで随分感謝されてるみたいだ。調査した時にモンスターの口からその話がたまーに出てきた」
「ほう。セツカか、やはり一度会ってみたいな。さて今の話トラドの報告とも一致するな」
「トラド殿も調査をされておりましたか」
「まーな。俺が調べた内容も、近くイベントがあるから集結している。人間と戦を起こす気はないというものだった」
「なるほど」
「運動会か。トラド、出てみたいものだな」
「そうだな。北の領主といえば白鳩だったか」
「ふざけた見た目に反しかなりの実力者だという。試合形式でもいいから一戦交えたいものだ。いいなぁ」
「ブン王、話がそれてますよ。それでどうしますか?遊戯大会とはいえモンスターの大群。民が気づけば騒動になりかねませんよ」
「ふむ。カーバンよ、引き続き交通課及び査定員を使い警戒しろ。可能な限り近くで監視を行い何かあればすぐに軍を動かせるように準備を進めろ」
「かしこまりました。その、査定員を含める理由は」
「面白いからだ」
「おいおい」
「ブン王、彼女は一般市民ですよ」
「騎士長がいる。なんならトラド、アイズ。お前たちが守ってやれ」
「はぁ、必要ならそうする。今あいつにいなくなられるとかなり困るからな。まったくいつも面倒ばっかり言ってきやがるなあんたは。早くゴウにその席を譲れ」
「トラド、口の聞き方には気をつけてください。これでも我が国の王ですよ」
「お前が一番適当なくせに」
「ははは!生意気なくらいが丁度いいってものだ。なぁカーバンよ」
「私にはなんともお答え出来ません」
「お前は本当に生真面目だな。ちょっとくらい気を緩めてもいいのだぞ」
「騎士の見本としてありたいので」
「おいアイズ。お前騎士らしくないってよ」
「これは反論が難しい」
「いいぞカーバン。お前ら、わしを敬え」
「敬ってほしいなら相応のものを示してみせろってんだ」
「まったくですね」
「そんな事言ってるとわし、怒っちゃうぞ。なんてな、がはは」




