46. 先見の翁に氷のダルマ
「こんにちはー」
「おやセツカ殿。今日はどなされました」
「王子のお見舞いです」
「それはきっと喜ぶでしょう。では案内しましょうかな」
「ありがとうございます。三つ編み、すてきですね」
「ほっほっほ。メイ殿にほどいたら、と脅されておりましてな。やれやれ」
「随分キレイにやってあるようですが」
「やっている内になれてしまいまして」
「へぇ」
「さぁこちらです。王子、セツカ殿が見舞いに参られました。入りますよ」
「どうもー」
「おう」
「これお見舞いの果物」
「ああ」
「今回は随分ひどくやられたようですね」
「うむ」
「鼻たれてますよ」
「う、すまんちょっと失礼する」
「どうぞ」
「はぁー、しんどい」
「メイさんを怒らせるようなことするからですよ」
「仕方ないだろ。大臣がそうすべきと言い切ったんだ」
「裏切り者に鉄槌を、ですな」
「お前。その三つ編みは随分気に入っているようだな」
「まさかまさか。メイ殿に脅されておりまして」
「よく言う。セツカ、このじーさんの力がどんなものか知っているか」
「いえ、そういえば魔法大臣なんですよね。でも魔法使ってるとこ見たことないです」
「ほっほっほ」
「こいつはな未来を予知するんだ」
「えー!じゃあ、もしかして今まで何が起きるか知ってたってことですか」
「全部わかるわけではありませんよ。断片的にそしてたまにです」
「こいつ自分が何されるか、俺達がどんな目にあうか最初っから全部わかってたんだ。三つ編みにすると皆に揶揄されることになったから未来を知った時に都合よく使ったんだぞ、どうせ」
「そんな事ありませんよ。ほっほっほ」
「あー!そういえばニーナちゃんと上手くいってなかった時によこしたあの白紙の手紙!そういうことだったか」
「お役に立てましたでしょ」
「否定できないけどなんか腹立つ」
「だろ」
「ほっほっほ」
「お前の被害者が出ないように二つ名をくれてやる。先見の翁だ」
「メモしとこ。魔法大臣は、さきみのおきな」
「では旅人ショウ殿の二つ名はプリンスですな」
「いいですね。ショウさんは、プリンス」
「うー、アホっぽくてちょっとな」
「ではタヌキにでもしますかな」
「なんでタヌキなんですか?」
「おい!お前、う、頭が。なんで、予知では流石にそれはわからんだろ」
「知り合いから聞きまして。ほっほっほ」
「なんのこと?」
「ニーナちゃんおはよー」
「うん」
「なにしてるの?」
「うん、ちょっと」
「氷削ってるのね。彫刻?」
「そうだよ。教えてもらったの」
「へー」
「まだ出来上がってないけど、見て見て」
「人の顔?目がつり上がって口はいーってしてるこれは」
「うんうん」
「わかった。ニーナちゃんね。にてるーあはは」
「あははーセツなんだけど自分の顔あんまり見たことないのねー」
「これがわたしだとどこでわかるのよ」
「ほらここ」
「ん?」
「タイトル刻んだの」
「風の継承者セツカ。貸してあげたラノベにまた触発されたか」
「隠遁した老師に風の操り方を教わって自在に空を飛ぶ姿にわたしもちょっと憧れちゃった。飛べるようになった?」
「まだ。そのシーンを読んてからずっと練習してるんだけど上手く行かない。身体を浮かすってすごく難しいのよ」
「じゃあ、このセツカダルマ浮かしてみてよ」
「ふおぉぉぉぉぉ」
「気合の入れ方が変なことになってる」
「いい具合に力を抜くように教わったのよ」
「そう、セツぽくっていいんじゃないかな」
「ぉぉぉぉ、あ」
「うわぁ、ちょっと気をつけてよ。飛んでっちゃったじゃん。あーあ、また作り直しだ」
「ごめん」
「いいよーだ」
「コーヒーおごるから許してちょーだい」
「よかろう」
「ありがたき」
「どこかいいカフェあるの?」
「アンさんに教えてもらったとこなんだけど」
「もしかしてちょっと微妙なコーヒー店?」
「何だ知ってるのか」
「メイ先生に連れてってもらったの」
「あの2人そこでたまに一緒に過ごしてるんだってね」
「そうみたいね。おねーさんと一緒に過ごすって言ってたっけ」
「なんだかんだで仲いいみたいね。さすが双子」
「そのアンさんってやっぱり先生みたいな人なの?」
「にてるよー。熱血で人権無視して怒ると怖い。でもアンさんってみんな知らないんだよねぇ」
「先生が言ってたんだけど、お姉さんの魔法は先生と同格なんだけど、何故か武闘派になっちゃったんだって。実力はあるのにみんなの前ではほとんど力を使わなくって、気づいたら騎士辞めていたらしいよ」
「あー、そういえばみんなが争わなくてもいいように、もっと寄り添いたいって言ってたな。あの時は立派な人だと思ったんだが。あんな人だったとは」
「メイ先生もお姉さんの考えには共感してるらしくって、内心応援してるみたい」
「先生って皆のこといつも気にしてるもんね」
「ふふ、そうそう」
「ほんとあの2人ってそっくり」
「ただたまにすごく常軌を逸したところを見せるのが、ね」
「うん、すごく困ってる」
「わたし、実は先生に近衛騎士に仕立て上げられそう」
「わたしも。妥当トラドを掲げたアンさんに最強への道を歩まさせられてる」
「困った姉妹ね」
「誰にも止められないのが一層、ね」
「自分が事務職員であることを忘れそうだよ」
「以前は事あるごとに、あの、わたし事務なんですけどって言ってたんだけど、最近はもう言わなくなっちゃったよ」
「はぁ。帰ろっか」
「うん」
「あーここ、ここだよ」
「見るからに微妙よね」
「立地も微妙だし」
「デザインも微妙だし」
「注文おねがいしまーす」
「あいー。なになさいますー?」
「コーヒー2つで」
「かしこまりー」
「従業員も微妙」
「ある意味完璧ね」
「そういえばローさんどうなったんだろうね。心配」
「うん。わたし謝らないと。あんな風になるとは考えてなかったもん、お腹壊す程度だって思って」
「それをわたしに。ニーナちゃん、私になにか言うことは?」
「今日はおごらなくてもいいかな。友情って対当だからこそ続くものよね」
「もーそんなんじゃ」
「おまたせーす」
「提供のタイミングも微妙ね」
「そうかな、ナイスだと思うよ」
「コーヒーってさ」
「うん」
「内側に泡が浮かんでるじゃない」
「そうね」
「そこに写った自分の顔を見てるとなんだか万華鏡みたいでファンタジーよね」
「そうかな」
「明日さ、交通課に行かないと行けないのよね」
「アンさんが待ち受けてるわね」
「でさ、この泡を1つ壊すごとに自分の未来は潰えていく気がして」
「セツ、今日はおごってあげるね。だから帰ってゆっくり休んで」
「うん」




