44. ニーナの冒険
「遅いなぁ。大臣さんのところに行こっかな」
「あいやぁ、待たれよ」
「人違いです急いでいるので失礼します」
「いやいや!怪しい者ではなく本日同行するポールと申す!というかただ待っておってだけでは」
「声が大きすぎる知り合いはおりませんので失礼します」
「待った待った!ニーナ殿ですよな?こちらを向いてほしく」
「違います。わたしはセツカです」
「えーと、今日ここを待ち合わせ場所としておりしかし他に誰もおらず、あなたでないとするなら待ち人が遅刻している事になるのだが」
「遅刻してきたのはあなたでしょ!」
「おおやはりニーナ殿ですな、いやーすまんすまん、朝バタバタしておりましてな。はっはっは」
「つい迂闊なことを。あなた社会人としてそれじゃだめでしょ」
「面目無い」
「大臣さんのところに行って変わってもらいます」
「ああ、待たれよ!確かに遅くなったことは申し訳なくこの通りにございます!何卒」
「勢いで乗り切ろうという魂胆か。一番嫌いなタイプが来たわね。まさか、仕組んだのか大臣め」
「では行きましょう。さっと行ってさっと帰る」
「了解です」
「ちなみになんで遅れたんですか」
「趣味がありまして、没頭していたら遅くなりました」
「自己管理能力はなしか」
「ご安心ください。依頼はきっちりとこなしますので」
「遅刻した時点できっちり出来てないでしょ」
「う、うむ。仰る通りです」
「あなたへの依頼内容は把握してますか」
「もちろんにございます。村まで送り城まで戻る」
「ちゃんとやってね」
「お任せを」
「任せられないわよ」
「ニーナ殿、今回たどる道ですが最近モンスターの出没を確認しております。それに指名手配犯の目撃情報もあります。気を引き締めていきましょう」
「いちいちうるさい」
「それとここいらのモンスターは知性に乏しく凶暴であることが確認されておるようです。危険性が高いので」
「わかってます!事前に把握していますのでちょっと黙っててもらえますか」
「おお、それは失礼しました、申し訳ない」
「モンスターですね。こっちに気づいて唸ってます」
「そうですな」
「さっさと片付けて下さい。それが仕事ですよね」
「承知」
「立ち回りは悪くないわね。そういえば元騎士だっけ。こんなずさんな人でも騎士にはなれるのかな」
「しまった!ニーナ殿そちらへ!逃げてください!」
「全然だめね」
「ニーナど、の」
「ふーん、ブルバラさんに比べたらかなり見劣りする。格下の騎士だったのかな。こんなモンスター相手に手こずるなんて。下級騎士とか」
「お待たせいたした!えいやぁ!」
「力任せか。いまいちね」
「ふぅー、お怪我はありませんか!」
「ないです。あなた護衛として役に立ってません」
「いや、全くすまぬ。それにしても見事な身のこなし、あ、ニーナ殿、お待ちを」
「待つ必要ってなに」
「周囲の警戒を」
「もういないでしょ」
「そう、ですか、わかりました」
「ついてくるなら邪魔はしないでください」
「はい。この突き放した感じはメイ殿を思い出すなぁ」
「先程は申し訳ございません。しかしその身のこなし、ニーナ殿は実は騎士なのでしょうか?」
「違います」
「それにしては」
「もともと運動してたからです。話さないといけないことではないでしょ」
「そうですが、ニーナ殿、私の落ち度は認めますが連携が取れないのはこの先よくない結果に」
「落ち度を認めているなら人に言う前に自分を見つめ直してください」
「しかし!」
「いい加減にしてください」
「わかりました」
「護衛の仕事くらいはまっとうして」
「承知」
「またモンスター、しかも大型ね。今度はちゃんとやってください」
「ニーナ殿」
「戸惑ってないで早く行って」
「わざわざ戦う必要はないかと。迂回する方法も」
「早く終わらせたい。今回は私が依頼人の代理。つまり依頼人。わたしの要望は聞いて役立たずさん」
「あいわかった」
「力比べなんてしてる。本当に元騎士なのかな。なんか動きもいまいち。大臣はなんでこんな人をわたしの護衛にしたのかしら。はっきりいって評価にあたいしない」
「ぐふっ、こやつかなりの、だが止めねばニーナ殿が、ぐぬぅー!」
「はぁはぁ。どうにか、なったか。ニーナ殿、お怪我は」
「ないです。では行きましょ」
「しょ、承知、しました」
「今日中に帰りたいので止まらず行きます」
「今日中ですか!さすがにそれは無茶ですよ!」
「もしかしたら可能な距離だったのにあなたが遅れてきたからギリギリになりそうなんです」
「ですが」
「あなたと野宿なんて絶対に嫌です」
「わかり、ました」
「質問があるんだけどいいですか」
「ええ、なんなりと」
「あなたって本当に元騎士なんですか?」
「はい、王国の名誉にかけて嘘偽り無く」
「名誉を汚すことしかしてないように思うけど」
「返す言葉もございません」
「この護衛の依頼はどういった経緯で受けたんです?」
「王子からということでした」
「大臣が来たの?」
「いえ、城の使いという者からです。手紙には王国の印が記されていたので間違いはないかと」
「今あったら見せてほしい」
「おお、それでしたらこちらに。どうぞ」
「ほんとだ」
「わたしの実力を懸念されているのはわかっております。その点について弁明をさせてください。ですがその前にお伝えすることが」
「弁明はどっちでもいいけど、何ですか伝えたいことって」
「実を言いますと今回の依頼、妙な点があります」
「妙な点?」
「ええ。城の使いという者でしたがフードで顔を隠しておりました。いぶかしく思い顔を見せることと所属を確認したのですが、今回は極秘であり自分の顔は見せられないと言います。大臣に確認をする旨を伝えると私を押し戻すようにそれはダメだという」
「妙なっていうか明らかにおかしいじゃない」
「はい。ですので一旦受領しました」
「なんで」
「確認のためです。断ってしまうとその意図がわからなくなりますので。そして何よりも妙なのは、後日大臣の元へと参り事の次第を話したのですが、そのまま依頼を受けてほしいと仰せになられました。そして大臣はそれが私のためだというのです」
「わたしへの嫌がらせかしら」
「それはないかと。大臣は私の目を見ておっしゃいました。ニーナ殿を必ずお守りすること、それは何よりも優先しろと」
「何か企んでるわね」
「でしょうな」
「セツならともかく、わたしでそういうことしないでほしいな」
「それと、懸念された私が元騎士であるか、についての答えとなりますが」
「はい」
「わたしは任務中に負傷し退役したのです。そのため思うように身体が動かないこともあります。大変お見苦しいところをお見せてしまいました」
「それって最初に言うべきではないですか?そうしたら城を出る前に大臣に話してたのに」
「うむ、その、大臣からは今話したこと全てニーナ殿に伝えてはならないと口止めされておりまして」
「それで言っちゃうあたりやっぱり」
「ニーナ殿との関係性を考慮した上で、ですよ!もちろん私とて元は騎士です。誓いを守ってこそ騎士です。木偶の坊とてその程度の矜持くらいは持ちあわせております。しかしこのままではあなたを守るという約束を守れない可能性があると判断しお伝えしました」
「そう」
「この命に変えても必ずやお守します。動きは悪くとも盾にはなれましょう。あなたの軽やかな動きでしたらそれで十分役に立てそうです」
「わかりました。とにかく行きましょう。今日中に城に帰るのは無理だけど少なくとも村までは行きたい」
「ええ。参りましょう」
「無事たどり着きましたなぁ、いやーよかった」
「預かったものを渡してきます。その間に宿をとっておいてください」
「承知いたしました。ニーナ殿行ってらっしゃいませ」
「はい」
「遅かったですな」
「色々あったので」
「そうでしたか」
「これ」
「なんですか?おや薬ですか。ん?こ、これは!エリクサー!もしや大臣からですかな!」
「いえ、さっき作った塗り薬です。靴擦れの」
「く、靴擦れの?いやしかし、これはどう見ても」
「いらないなら使わなくていいです」
「何を仰る!仮に効能が無くとも無下になどいたしません!しかし端的に申しても最高級の薬です。おいそれと手に入らず、調合するのは厳選した材料と熟練の技で」
「適当に作っただけです。それっぽく見えただけでしょ。じゃ、おやすみ」
「あ、はい」
「明日もよろしく」
「おまかせください!」
「やっぱりうるさいわね」
「ニーナ殿、おはようございます」
「おはよ。いないと思ったら、わざわざ外で何してるんですか」
「実は私は趣味で彫刻をしておりまして」
「へー」
「まだ作り途中ですがこちら」
「なにこれ。もしかしてわたし?」
「ええ、旅の記念に」
「それはいいんだけど、なんで頭だけなの」
「顔がわかった方がいいかと」
「完成形を思い浮かべるとちょっと。生首が置いてあるのよね」
「ははは、そうなりますな。そ、その、これは止めておきましょう」
「ぜひ」
「いやはや、メイ殿そっくりですな」
「生徒ですから」
「へ?」
「メイさんはわたしの先生です」
「あはは、なるほど、道理で、ははは」
「どういう意味よ」
「いえ!その!優秀であらせられると」
「はいはい。朝からうるさいわね。趣味があるっていいですね」
「まさしくそう思います。おかげで王子には丸太削りなんて二つ名を拝命してしまい」
「嫌なの?」
「まさか!ありがたく」
「ふーん」
「ニーナ殿もやってみますか?」
「彫刻?難しそうだからいい」
「始めは何でもそうでしょう。やるかやらないか。始めれば当然何かの形になります。そこから少しずつ整えていけばいいのです。何事においてもそうでしょう」
「そうね」
「さて、朝食にいたしましょうか」
「そうね。おなかすいたー」
「では宿の者に用意をしてもらいましょう」
「よろしく」




