41. 王子がやりたいこと
「ニーナちゃん、また王子から招集だって」
「最近多いね。わたしは通常業務もあるからあんまり行けないけど、セツがいつまでもいないのはさすがにちょっと困る」
「ローさんの代わりの所長さんも未だ来ないし。ほんとどうなってるのかしら。とりあえず行きましょ」
「うん」
「あ、そうだニーナちゃん聞いてよ」
「セツさんなんですかいねぇ」
「なぜ急に老婆風」
「どうせ大した事ない話しだから適当にのんびり聞こうかと思って」
「むう。ならば心して聞くが良い」
「うむ。よかろう」
「なんと風の魔法がコントロールできるようになってきたのだ」
「まあ!なんてすごいの!セツはてんさいね!」
「オーバーリアクションが腹立つわね」
「だってわたしからすれば今更だし。しかも出来たじゃなくて良くなってきたって程度でしょ」
「そうだけど、ふふん。たとえば熱い日でも風を起こせば涼しくなる」
「わたし氷作れるよ?」
「新鮮な空気を生み出せる」
「周りの空気を集めてるんでしょ?そもそも淀んでたらダメじゃん」
「ううーん、なにか、なにかあるはず」
「あ、セツ、いいこと思いついた」
「なに?」
「ちょっと風おこしてみて」
「うおぉぉぉぉぉぉ」
「毎回そんな気合入れてるの?」
「それで?」
「そのまま維持しててー、でわたしがそこに細かい氷を送れば」
「おお、めっちゃ涼しい」
「成功ね」
「でもこれわたしがずっと風起こしてないといけなくてぇ、しんどいんだけど」
「これはコントロールするための練習よ」
「とか言ってわたしを困らせたいだけでしょ。はぁつかれた。これって部屋を涼しくするとかそんな時じゃないと使うことないわね」
「メイ先生のところでやってみるとか」
「部屋中を氷にしたほうが早いって実演すると思う」
「そうね。すごく寒くなるからやらないでおこっか」
「ショウ王子の前でやってみる?」
「暴発したらわたしも同罪になっちゃうからダメ」
「用途が見つからないわねー」
「ちょっと考えておこっと」
「あ、お城見えてきた。果たしてセツカとニーナはショウ王子からどんな過酷な任務を与えられるのか」
「南の海岸沖に大怪獣が現れた。セツカよ、新たに得た力で討伐に向かうのだ!」
「それこの間貸してあげた本からとったのね」
「なかなかよかったよー」
「でしょ。流れ星から生まれた怪獣が空に帰りたくて暴れちゃうお話」
「最後のみんなでお星さまを飛ばして怪獣が帰るシーンにはぐっときちゃった」
「でしょー。でなんでその話からわたしが討伐に向かうことになるのよ」
「だってせっかく風の魔法使えるようになったんだから、ね」
「ね、じゃない!まったく毎度々々過酷なシーンを要求しおって。その台本じゃ怪獣がお星さまになっちゃうじゃない」
「セツの話しならそんなもんでしょ」
「もー」
「門番さんこんにちはー。ショウ王子に呼ばれてきましたー」
「おう、いつもご苦労さん。2人とも荷物はほとんどないな。よし通っていいぞ」
「はーい」
「王子、2人が来たようですよ」
「そうか。通せ」
「わかりました。お2人とも中へお入りくだされ」
「大臣さんこんにちはー」
「はい、こんにちは」
「ショウ王子。セツカ、ニーナただいま到着いたしました」
「ああ。メイのところに通ってから少しはマシになったな」
「ありがたき御言葉。メイ様のご指導の賜物にございます」
「メイ様は騎士並の教育を施すと仰せになり我々は日々精進しております」
「騎士並?そんな要求した覚えないんだがあいつは何をやっているんだ」
「王子」
「なんだ」
「メイ様に口ごたえされるのでしたらご自身でどうぞ」
「うっ、別に異論があるわけじゃない。お前達がそれでいいならいい」
「よくなくてもねぇ」
「ねぇ」
「とりあえず礼儀が身について何よりだ。では本日の要件を伝える」
「ごくり。変な所に送らないでくださいね」
「実はな、王国の証明書等の発行に関して支部を設けるという話がようやく形になった。東にある村で使わなくなった建物があったからそこを使うことにした。以降は西、南、北の順に同じものを設けていくことになる」
「へー、それでわたしがそこに行けばいいんですか?」
「ニーナに行ってもらう」
「えーなんでわたしだけが」
「ニーナちゃんがんばってねー」
「むー、セツが行かなくてわたしが行くのってなんか納得行かない」
「お前だって査定員だろ」
「へへーん。たまにはニーナちゃんだけ行ってきなさいな」
「もう。仕方がないなぁ」
「セツカには別の依頼があるからお前はそっちに行け」
「結局行くんかい。そしてなんか雑」
「すまんなニーナ。お前が事務仕事で忙しいことはわかっているんだが」
「いえ、大丈夫です。行ってきますね」
「助かる。元騎士が護衛として同行する。道中危険な場所もあるだろうから十分に気をつけてな」
「はい。今回はその人の査定という名目で行けばいいんですね」
「そうだ」
「ちょっと聞いてー!わたしのこと無視しないでー!ていうかあの、わたしも事務なんですけどー!」
「うるさいなぁ、お前はいつものことだろう」
「もうちょっと気を使ってほしい。でも支部ができてよかったですね」
「ああ。ようやくだ。だがここからだ。ここから始まるんだ」
「ふーん、なんか最近機嫌が良かったのってこれのおかげなんですか?」
「それわたしも気になってた」
「私も気にはなっておりましたが教えてくれないのですよ」
「ちょっと教えてくださいよ。何があったんですか」
「ふふふ、もう少しだけ秘密にさせてくれ。ただなセツカ。お前はじき知ることになる」
「え、なんかまた巻き込まれるのは嫌ですよ」
「どうかな。どうなるかはお前次第だ」
「なにそれ」
「とにかく行ってきてくれ。頼んだぞ」
「わかりましたー」
「行ってきまーす」
「セツーおはよ」
「おはよ。方角は一緒だけど道は一緒じゃないんだね」
「そうみたい。わたしは同行人を待つからセツが先に行くことになりそうね」
「うん。うん?そういえばわたしは1人なの?」
「いまさら何を」
「いやだって」
「セツなら行けるって、風魔法使えるようになったんでしょ。がんば」
「かんばってどうにかなるか、というかどうにかしたくない。このままじゃアンさんの望む未来が訪れてしまう。ど、どうしよう」
「あれ、誰か来た。あの人かな今回の護衛の人」
「2人いるね」
「1人だったはずだけど」
「ていうか、ちょっとあれ」
「ようセツカ。準備はできてるな」
「ショウ王子、なぜここに」
「もしかしてセツの方に王子が同行されるのですか?」
「ああ。安心しろ。腕利きの護衛を連れてきた」
「はじめましてセツカさん。私はベスボと申します」
「はじめまして、よろしくお願いします」
「はは、2人ともそんなにかしこまるな。今回の旅は気楽に行くぞ。俺のこともショウと呼べ」
「気楽にって、王子なら馬車を用意してくれればいいのに」
「今回の目的地には一度行きたかったのと、お前の査定や戦士達の普段の姿を見てみたかったんだ」
「じゃあベスボさんの評価表つくればいいんすか?」
「ああ。それでいい。ふふふ、まあ書くことはほぼないだろうがな」
「なんで?」
「あの、王子様、わたしの方はまだ来ていないのですが」
「そのうち来るはずだが、たしかに遅いな。すまんが少し待っていてくれ。もし昼過ぎても来なければ大臣のところに行ってその旨を伝えろ。代役をよこすはずだ」
「わかりました。みなさんどうぞお気をつけて」
「ああ」
「ニーナちゃんお先ー」
「あの、ベスボさんは元騎士なんですか?」
「いえ現役の騎士です」
「近衛騎士だ」
「は?近衛騎士ってたしか王様のおつきの、トラドさんがやってたっていう」
「ええ。トラドは元同僚です」
「えー!そんなすごい方が、いやまぁ王子の護衛だから当然か」
「ははは。だから言っただろう。何かあってもすぐ終わるだろうからお前が書くことも少ないとな」
「そういうことか」
「セツカさん、ショウさんの評価をして差し上げてください」
「いいですね、それ」
「おいお前ら」
「ふっふっふ。この査定の旅でわたしを敵にまわすのだけは避けたほうがいいですよー」
「別にお前の評価などなんの問題にもならんがな」
「それを使って王へ報告します」
「お、おい、それはさすがに、まずい」
「ショウさん、口ばかり、態度大きい」
「お前、仕方ないだろ!俺が戦うわけにもいかんのだし」
「じゃあそのほか旅の道中には野営などもありますからしっかり働いてくださいね。戦士のみんなのこと知りたいんでしょ」
「わかったわかった。やれやれ」




