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29. 怒りの矛先

「おいセツカ。なんだこの報告者は」

「何って起こった出来事を書いたんですけど。ちゃんと書いてあるじゃないですか」

「ちゃんとだと?これのどこがちゃんとなんだ。見出しの位置も書き方もバラバラ、分析と称して見ればわかるようなことばかり。起こった出来事の要因が何かもっとちゃんと考えろ!」

「なによ、いきなり怒鳴って!そういうのはそっちが考えて書き手に教えるものでしょ!」

「一番知見があるのはお前なんだぞ。もっと提案してこい。読み手のことを考えろ!ローもちゃんと指導しろ。じゃあな」

「何あいつ!王子だからって」

「ショウ王子は最近イライラしているらしい。だがね、セツくん。王子の言うことはもっともだと思う。もちろん言い方はよくながね」

「イケメンになったからって偉そうに」

「いや私はここの所長なんだが」

「セツ、彼がイライラしてるならそこを受け止めてあげるのがいい女ってものよ」

「だったらニーナがやってあげればいいでしょ!いつもわたしばっかり!もう時間なんで帰ります、おつかれ!」

「もう、セツまで」

「セツくんも色々あったからね。査定で付いて行くだけでも大変なんだ。そうだな、我々ももっと彼女に協力できることを探してみよう。ニーナくん、それがいい同僚であり友達ってものじゃないかな」

「猿のくせに」

「だから私、所長なんだけど」


「王子め。大変なのはわかってるけどだからってあそこまで言わなくてもいいでじゃない。わたしだって。みんなわたしにばかり押し付けてくる。自分がやりたくないからって。わたしに。わたしはただの事務だって言ってるのに!」

「おお、大分お怒りのご様子ですな」

「あ、ああ。大臣さん、こんにちは。失礼しました」

「いやいいんですよ。セツカ殿、王子があなたに言い過ぎたから変わりに謝罪してほしいと頼まれてね」

「だったら自分で言えばいいしょ。子供か」

「ははは」

「何がおかしいんですか」

「セツカ殿。相手は王子ですよ」

「知ってますよ。だからって好き勝手に」

「いえ、セツカ殿。あなたの口ぶりは友達のそれですな」

「う、それは」

「いいのです。だからこそ王子も言い過ぎたのでしょう。どんなに頭にきても家臣に怒鳴るなんてことはそうそうしません。冷静であれと王族としての教育を受けてますから」

「だからって許せるものじゃないですよ」

「そうですね。では私はこれで」

「え?」

「おや、私に何か期待でもされていましたか?」

「いえ、別に」

「では失礼」

「はい」


「おはようございます」

「おはよ」

「あれ、所長さんは」

「知らない」

「そう」


「もうお昼か。今日は外にでも行くかな」


「ニーナめ。自分だっていつも好き勝手なことばかりしてるくせにわたしが怒るとすねて。全部わたしが悪いみたいじゃない。あーもういや。いつもいつも、こうならないように気を使って。いい加減嫌になる。ん?なんだろ、なんか騒がしい。あ」

「よう。その、セツカ」

「はい。何でしょうかショウ第二王子様」

「おまえ、はぁ。実は」

「ため息つきたいのはこっちですよ」

「そうか。悪かったな」

「それが謝る態度ですか」

「お前いい加減に」

「ああ、そうですね立場が違うことを忘れておりました。申し訳ございませんショウ第二王子様」

「もういい」

「そうですか」


「はぁー、ほんとため息がつきんわぁ。ああー、もう取り返しのつかんことを。もういやだ。はぁ。何かしら、さっきより騒ぎが近いような」

「ウキィィィィィィィ!」

「え、何あれ、こっち来る!うわぁ、やばい!」

「ウッキィィィィィ!」

「危ない!」

「わっ、ショウ王子、ありがとうございます、なんですかあれ」

「ローだ」

「所長さん?あれが?だって猿のモンスターじゃないですか」

「ああ、暴走している。さっきまでは広場に鎮座していたのだが突然暴れ出した。治安部隊は何をしているんだ」

「あ、もしかしてさっきはそれを言いに」

「そうだ。だが全く聞こうとしなかったがな」

「そうやって」

「悪かった、本当にすまなかった。だが今はそれどころじゃないだろ」

「わかりました。はぁ、そうですね。わたしもすみませんでした」

「ああ、そのことは後で話しあおう」

「はい。所長さんはなんでああなったんです?」

「わからんが、モンスター研究家の見解によると半魔獣化して不安定だった状態から何か強いストレスがかかって変身してしまったのだと思われる」

「そんな、いつも落ち着いてる所長さんがストレスなんて。何があったんだろ」

「さてな。見当もつかん」

「元に戻るんでしょうか」

「わからん。とりあえず落ち着かせることしか思いつかんな。だが被害が大きくなるようなら」

「ちょっと、あれは所長さんなんですよ!」

「どうにかしたいが、どうにもできん。俺には、何も」

「ウキィィィィィィィ」

「そうだ!バナナあげたら落ち着くかも」

「お前、本当に心配してるのか?」

「そういうパンダもいたんです」

「そうか、まあやってみるか」


「おーい、ロー。バナナだぞー」

「ウキィィ、ィィィ?」

「お?効果ありか」

「いけそうね。さすが猿」

「よーしよーし、バナナだぞー、おいしいぞー」

「こっちよー、ロー所長さーん」

「ウキィィィ」

「よし、食い付いた。ふぅ、これでちょっとは落ち着くか」

「よしよし」

「ウキッ!ウッキィィィィ!」

「ちょ、ちょっとなんで急に怒り出すのよ!」

「お前何かしたんじゃないか?」

「何も、ちょっと撫でただけで」

「撫で方が気に入らなかったんじゃ」

「むー、猿なんて撫でたことないから加減がわからん」

「おい、セツカ!あぶない!」

「うわぁ、こっち来ないでよー!」


「風圧蹴り!」

「ウキィィ!」

「た、助かったー、ありがとうございます、ってアンさん!」

「こんにちは、セツちゃん。と王子。交通整理に出かけようとしたら応援を要請されて来たんだけど。何この大きな猿」

「うちの所長さんです」

「あなたの上司って猿なの?」

「ええ、色々あり」

「ふーん。猿だしバナナでもあげとけば大人しくならないかな?」

「効果はあったがセツカが撫でたら怒り出した」

「なるほど、きっと撫で方が気にいらなかったんじゃないかしら」

「だよな」

「そうなのかな。所長さん動かないけど大丈夫かな。結構痛そうだったけど」

「とりあえず、大人しくなってる今のうちに拘束するぞ」

「了解」


「所長さんどうなるんですか?」

「一旦こちらで預かる。元に戻るかはわからんがなんとかしてみるさ。世話になったからな」

「よろしくお願いします」

「セツちゃん、送るわ」

「ありがとうございます」


「所長さん、いつも温和で落ち着いてる人だったんです」

「そういう人ほどストレス溜め込んでるものよ。温和だから対人関係において発散する機会が少なくて」

「何かしちゃってたのかな」

「そうねぇ、その所長さんは案外過敏な人なのかもね。敏感な人ってみんながあまり気にしないことも強く気にしてしまうのよ。誰しも自分が被害者と思ってしまうものだけど、周りからすると誰もがみんな加害者に思えてくる。彼らはそう感じてしまう度合いが強いのよ。だからセツちゃんにとっては大したことじゃなくても所長さんには辛いことだったのかもね」

「戻ってくるかな、所長さん」

「どうかしらね。戻ってきたら気を使ってあげなさい」

「はい」

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