28. みんなで一緒にトレジャーハント
「よし。約束通り見逃してやる。行け」
「ちっ、偉そうに」
「勇者くん、やめなさい機嫌を損ねたら面倒よ」
「そうです。わたしは真っ先に殺される」
「安心しろ。彼は約束を守る。じゃあ行こうか」
「おいセツカ。お前一緒に来ないか?」
「わたしに犯罪集団に入れと?」
「ああ」
「いいんじゃないか。奇しくもここにいるのはあの遠征で一緒だった仲間だ。あんたがいれば勢揃いだ」
「いやよ。わたしは犯罪集団の仲間入りしたくない」
「ここまで関わったんだし。今更だろ」
「今更って、わたしは何もしてないでしょ。ただ居合わせただけだけっていうかただ査定してるだけ。忘れてるかもだけど、あの、わたし事務なんですけど」
「あんたそれこそ今更だな。ははは」
「未だにターナさんしか事務としてみてくれないわね。自分を見失いそうだわ」
「行ったな」
「ですね。これでよかったのかな」
「いずれ捕まるさ」
「適当ね。ねぇトラドさんってすっごく強いじゃない。魔王さんよりも上手なように思うんだけど」
「そういや君は魔王と面識があったんだっけ。確かに俺のほうが強い。王にお使い頼まれて一度あいつの城に行ったことがある」
「そんな近所を訪ねるみたいに簡単に行けるものじゃないでしょ」
「そこまで難しくはないさ」
「わたしたちの苦労はいったい。というかこの人どこまで規格外なのよ。それで魔王さんに会ってどうしたんです?」
「ボコボコにして王になった理由を聞いた。自分はまだ死ねないと。話を聞くと納得だったんだ。あいつはモンスターの情勢を保つために必要な存在なんだってな。詳しく言うと長いんだが」
「それなら知ってます。大山羊さんに教わったもん」
「大山羊。あの山羊の魔導士か。君、魔王と大山羊と話したことがある人間なんてそうはいないぞ。ほんとにただの事務員か」
「事務ですぅ!」
「ふーん、まあいいか。魔王がいなくなった今モンスター達の動きが読めなくなっている。今はまだその兆候は出ていないがそう遠くない内に荒れるだろうな」
「どうにか出来ないんですか。あ、トラドさんが新しい魔王として君臨するとか」
「それならユミが適任だろ」
「大魔王様がお怒りになられますよ」
「ははは。さてそろそろ俺達も帰るか。モンスターのこともここのことも王子達にまかせればいい。そうだろ、事務のセツカさん」
「はーい、そうでーす」
「こんなことになるなんて、ショウ王子も大変ですね」
「まあな。それにあいつは今切羽詰まってるからな」
「そうなんですか?割と暇そうに見えるけど」
「さっきモンスター側の情勢が危険であると言ったよな」
「はい」
「それは以前から懸念されていたんだ。俺が魔王から聞いた話を報告した後は特にな」
「でも魔王討伐しろって人もいたんでしょ?」
「ああ、国の産業を活性化させるのには争いは便利だ。軍事産業は金にしやすい。だから魔王がいなくなれば奴らは荒れ、戦士達の活躍の場が増える。そうなれば人も物も動く」
「それって王子が今進めてる戦士の雇用改善と被るんじゃ」
「そうだ。王と第一王子は過激な連中が何をしでかすかわからんから一旦聞きつつ、その影で第二王子に君も関わっている事業を進めさせたんだよ。本当は魔王を討伐したいやつなんてそうはいなかったんだ」
「わたしも同感です。魔王さんは怖かったけど、いないといけない人だって思いました」
「だが今はもういない。第二王子もそれで焦っている。いつモンスターたちが動き出すかわからない。だが戦士達の運用がまだ上手くいかない。予算がほしいのに出してもらえない」
「なんで?王様たちもショウ王子に期待してるんでしょ?」
「だからだ。実際は予算はあるだろう。だがあの王子の手腕を試してるんだ。あの王ならそうする。第二王子もそれがわかってるから金策に悩まされてこんな財宝に手を出したんだろうーよ。かなり焦ってる証拠だ。なんとかなるかもしれないが、国からの評価は得られるわけもない。それもわかってるからあいつは苦しんでいる」
「わたしにも責任があるのかな」
「君は気にするな。ショウが君に依頼してばかりなのは頼れるからだ。その性格、君の存在に救われている所もあるだろう。そのままあいつを支えてやってくれ」
「なんかニーナちゃんが喜びそうな言い方で嫌ね」
「ん?なんのことだ」
「いえこっちの話。王子とは親しんですね、名前で呼ぶなんて」
「まーな。あいつの面倒見てやったこともあるから」
「へー。さすが元近衛騎士」
「近衛騎士なんて大したことはない。頑丈なハリボテにすぎん。俺はさ、ショウのやってることと同じようなことをしたかったんだ。国がどれだけ頑張っても救済できない奴らがいる。だから騎士をやめてトレジャーハンターなんてのを始めた。ユミやダグを拾って、もっと大勢を救いたかった。戦うだけじゃない、冒険の楽しさってものを味わってな」
「ただの冒険や野郎じゃなかったのか」
「冒険は好きだ。マルマルの提案を呑んだのは本心から抗い難いと感じたからではあるな」
「それで犯罪者を逃しちゃってもいいのかしら」
「俺は自治組織に属しているわけじゃない。それがやりたいなら騎士を続けているさ。やれることはやるがな」
「だけど見逃したじゃない」
「徹底する気がないってだけだ」
「都合がいいことで。最強は、冒険好きで、適当だっと」
「なんだそれ?」
「査定に使うのよ」
「査定?」
「うん。うん?そういえば今回って何しにきたのかっていったら」
「夢のお宝げっと!みんなで一緒にトレジャーハント!」
「本当に事務関係ないじゃない!あの王子ー!っとにもー、本当にもー!」
「なんだ今頃気づいたのか、君は流されやすいんだな。ははは」