23. 勇者の進む道
「馬車、行っちゃったわね」
「そうみたいだな」
「うん。ま、次のに乗せてもらえばいいか」
「そうだな。そんでさっさと帰れ。ったくよー、いい加減自分で戦えるようになれよ」
「あの、わたし事務なんですけど!いい加減にするのはあんたの方でしょーに。もう、覚えてよね」
「知るか、そんな仕事」
「勇者くんには出来ないもんね、字の読み書きできないから」
「うるせーな」
「そうだ、これあげるから文字の練習でもしなさい」
「ペンか」
「さすがにそれはわかるのね」
「バカにするな。剣は持ってねーのにこんなものいつも持ってんのかよ」
「そうよ。いつも持ってるお気に入りのペン」
「いらねーよ」
「ペンは剣より強しっていうの知らないの?」
「これがか?」
「そうよ」
「ふーん、そうは見えねーけど。そうなのか」
「チョロいのも相変わらずか。ていうかさすがに疑え」
「まずは名前くらい書けるようにならないとね。そういえばあんた名前なんて言うの?」
「今更だな。ヒカルだ」
「なんだ、あるんじゃない。なんで今まで言わなかったの?」
「聞かれなかったし昔のは気に入らない名前だったからな。この名前は向こうの世界で使ってた名だ」
「へー、気に入ってるのね。その名前」
「ああ。師匠やみんなが考えてくれたんだ。勇者は希望の象徴だからって」
「そっか、優しい人たちがいたのね」
「どうだかな。見ろ。村もだいぶ近い」
「またどっか行くつもりなんでしょ」
「ああ。必要なら呼べ。すぐに行く」
「ふふ、ありがと。頼りにしてるぞ」
「あのー、すみませーん」
「ん、なんだ?」
「馬車がさっきまであったと思うんですが、もし行く方向が一緒だったら乗せてもらえないかと思いまして」
「馬車なんてここにはねぇよ。残念だったな自力でどうにかしてくれ」
「あれー。さっき確かにあったじゃないですか。馬が2頭でホロ付きで、確か荷物とか数人乗ってたように見えたけど」
「ふーん」
「お前、それをどこで見たんだ」
「あの辺」
「あの辺てどこだよ」
「あの草原の真ん中らへんの道からです」
「おいおい、草原ってここからそこそこ離れてるぞ。そこから馬車が見えるわけねぇだろ。本当はどこから見ていた」
「いやほんとにそこからなんですけど、なんか乗れないわけがあるなら無理にとは言いませんので大丈夫です。忙しいところすみませんでした」
「待て。乗せてやる。こっちだ」
「え?どうも、です」
「ここで待ってろ」
「ここって、なんか倉庫っぽいような」
「ああ、夜になったら迎えが来る。それまで待ってろ」
「え、ってちょっとまって閉めなくても。ん?あれ開かない、ちょっと開けてよー!」
「もう、どうなってるのよ。これじゃまるで監禁じゃない。まったく。」
「まるでじゃなくて監禁されてるんですけど」
「おおっと!びっくりした」
「ああ、こんにちは」
「どうも、こんにちは」
「あなたも捕まってしまったんですか」
「いえ、わたしは自分で来たんですが」
「自分からですか、正気ですか?」
「だってそうと教えてくれる人いなかったし。ここってなんなですかね」
「ここは非合法の売人の取引場だよ。よくこんなところに来たね」
「ええまぁ。まずいところに来ちゃいましたね。わたし」
「そうだねぇ」
「ところであなたは」
「私はブンドウ。うっかり捕まっちゃったんですよ」
「それはご愁傷さまです」
「いやーまったくですね」
「これからどうするんです?」
「売られるのを待つかなぁ」
「それでいいんですか」
「だって他にどうしようもないですから」
「まぁそうですけど。おーい、ヒカルー!たぁすけてー!」
「知り合いですか?来てくれたら頼りになりそうですね」
「でも来ないわね。すぐ行くとか言ってたくせに。肝心なところでいないんだから」
「とにかく夜まで待ちましょう。しりとりでもしません?」
「いいですよ、わたし強いですからね」
「とりしまり」
「り、り、りー、ダメですね。もう思いつきません。また負けた」
「ふふーん。どんなもんです」
「王者の貫禄を感じます。おや、もう夜ですね」
「ほんと?よくわかりますね」
「お迎えが来たようなので」
「ああ、ほんとだ。馬のいななきが聞こえる」
「さてさてどうなることやら」
「あ、なんか開けてもらえそう」
「ふむ」
「お前ら、出ろ」
「はーい。んー、やっと出られた。じゃあ行きますか」
「そうですねぇ」
「なんでそんなくつろいでんだ」
「えっと、馬車はあれですね」
「ああ。乗れ」
「はいはい」
「どこに行くことになるのかねぇ」
「ステキな場所だ」
「遠ざかってないといいんだけどなぁ」
「どちらに行く予定なんです?」
「王城に戻るところでして」
「おい、お前は城の関係者か」
「関係者ともそうでもないともいえるかな?」
「ふーん」
「どこから来たんですか?」
「わたし?戦士の集落からですよ。その前は魔王城」
「魔王城?戦士の集落?お前気は確かか」
「むー。ほんとなのに」
「ははは、それが本当ならすごいですねぇ」
「お前らあまり和んでんじゃねぇぞ。立場考えろ」
「説明されてないからどういう状況なのかわからないんですが」
「これから売られるんだ」
「誰に?」
「へっへっへ、悪どい魔法使いだ」
「怖いですねぇ」
「それって、なんかやばそうね。あの、無理を承知で降ろしてもらうことは」
「いいわけねーだろ。諦めろ。そろそろ着く頃だ。それまで黙ってろ」
「降りろ」
「うう、今更危機感が湧いてきた。結局あいつ来てくれなかったし」
「手遅れですねぇ」
「ブンドウさんってなんでそんな落ち着いてるんです?」
「え?かなり焦っているんですが」
「そ、そうなんだ。マイペースなのね」
「みなさんがせっかちなだけですよ」
「おい、いい加減黙ってろ!これでも被ってろ」
「なにこれ、なにも見えないじゃない」
「こういうのはもっと早くやるほうが良かったと思いますよ」
「ちっ、ほんと口の減らん奴らだ」
「おお、こんばんは。今回は追加で2人です。いかがですか?」
「いいですね。なんだか若そうな人ですね」
「ええ、若い女です。もう1人はおっさんですが」
「わかりました。2人ともいただきます」
「へへ、毎度あり」
「中に入れておいてください」
「あいよ。お前らこっち来い」
「こっちってどっちでしょうか」
「さあ」
「ったく、こっちだこっち。おら、このロープの先を持ってろ」
「あ、これですね」
「階段があるから気をつけろよ」
「意外と丁寧な案内ね」
「真っ当な仕事も出来そうですね」
「そんなちまちま働く気になるかよ。おらここだ。どうもー、追加で2人連れてきました」
「追加ですか。わかりました。ここに座っていてください」
「あのー、そろそろこれ外してもらえます?」
「私も同意です」
「はっ、見ないほうがいいと思うけどな。自分らの末路なんて」
「え、ど、どういうことかしら」
「ああ、その覆面は不要ですので持って帰ってください」
「覆面じゃないんですが、まぁわかりました」
「はぁー、息苦しかった。って、なにここ、うっ吐きそう」
「これはこれは。人体実験場ですか」
「ええ。これからあなた達を、おや?セツカさんですね。こんばんは」
「ん?あ、クロじゃん!じゃあ上にいたのってシロ?」
「ええ。そうですよ。そうか、まかさセツカさんが僕らの研究に貢献してくれるとは。感慨深いものがありますね」
「相変わらずね」
「言っておくけど、わたしは禁術の研究に貢献なんてしないわよ」
「そうなんですか?ではなぜここに」
「そこのおじさんに捕まって無理やり連れてこられたのよ」
「ああ、拉致ですか。それはよくないですね。ですが折角来ていただいたことですし、ぜひ実験体になってください」
「なるか!」
「あれ、聞き覚えのある声だと思ったらセツカさんではないですか」
「シロ!助けてよ!」
「残念ですが見られた以上返すわけにはいきません」
「あのー、支払いを」
「はい、これです」
「まいどあり」
「みなさん、そこまでですよ」
「ブンドウさん?」
「わたしは王国の騎士、あなた達を拘束します」
「クロ!」
「わかってる。燃えろ」
「ぐわー、あつい、なんて貧乏くじ、ぐふ」
「ふむ、売人を焼くとは。ひどい臭いですね」
「わ、わたしはもう無理」
「あとは騎士だけです。セツカさんはいつでもどうにでも出来ますから」
「シロ、騎士相手は分が悪い。引こう」
「はぁ、ここまで揃えるの苦労したのに」
「残念でしたな、これで終わりです」
「ひー、わっ!ちょっとこっちに撃ってこないでよ!わたしは関係ないんだから帰してよー、ていうかこのドア開かないし。それにしてもブンドウさん、すごいわね。魔法のスペシャリストってとこかしら。シロクロの魔法を全部防いで反撃までしてる。大山羊さんもこんな感じなのかな」
「セツカさん、私達のこと売りましたね!」
「知らんわ!ちゃんと言われた通りに伝えただけですよ!」
「友達だと思っていたのに」
「禁術研究する友達なんていらん」
「ふむ、この子達なかなかやりますね」
「シロ、押し負ける。僕が囮になるから逃げろ」
「いやよ!クロを置いてはいけない!」
「だが、むう、もう無理だ」
「観念なさい。む、なんだ?後ろか!」
「ちっ。魔王といいどうしてこうも気づかれるんだ」
「ヒカル!何やってたのよ、ていうか何してんの」
「うるせーな。おいシロ。この研究について、教えろ」
「どちら様?」
「勇者って言えばわかるか」
「勇者?あなた消えたと思っていましたが、研究に興味がおありですか」
「失った右腕を治せるか?」
「まぁそれくらいなら可能です」
「このまま助けてやるから俺の腕を治せ」
「わかりました、取引成立です」
「ちょっと!もう、あん達はどうしてそう」
「ふむ、これは厄介な相手、劣勢になってしまいましたね。逃げても無駄ですよ。あなた達は監視されています。外に兵士が」
「ふん。そいつらなら外でのびてるぞ」
「なんと、まさかそこまで」
「出てこないと思ったらそんなことを」
「うるせーな、そいつらの方から襲ってきたんだ。おいセツカ。城まではそいつに送ってもらえ」
「せっかく勇者として認められることしたのに、犯罪者になってもいいの?」
「オレの目的は言っただろ。強くなるにはこの腕を取り戻す必要がある。名声は後でいい」
「そう。本当に勝手なやつ」
「ではセツカさん、騎士さん、さようなら」
「では失礼します」
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
「ふぅ、外の空気は新鮮でいいですね。いやはやなかなか危ないところでしたねぇ」
「そうですね」
「あの勇者とやら、もしや遠征で消えたという?」
「はい、ご存知なんですね」
「そりゃまぁ騎士ですからそのくらいは知っていますよ」
「これって潜入捜査ってやつですか?」
「そうです。後少しだったのですが。あの双子の魔法使いは知っての通り禁術のため人を拉致してまして、その人達を研究材料として殺害。発覚したころには十数人もの被害者が出ていました」
「そう、ですか」
「城まで送ります。ただ取り調べを受けていただきますが、大丈夫ですか?」
「はい。そんなに言えることはないけど」
「助かります」
「勇者はどうなりますか」
「双子と一緒に指名手配されるでしょう」
「そうですか。わかりました」
「では行きましょう」
「もう。これじゃ魔王さんの犠牲が全く意味ないじゃない。あのバカ、なんでこんなこと」




