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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
1−2.勇者と魔王

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18/124

18. いきなり魔王城

「セツ、あれなんだろ」

「なんか集まってるね。あ、看板がある」

「伝説の勇者のみ引き抜ける伝説の剣、へー」

「そういえばあったわね」

「急にどうしたんだろ?」

「あー、勇者くんがいなくなったから次の勇者を探してるのかもね」

「なるほどー」

「ニーナちゃん行ってきなよ。きっと引き抜けるよ」

「えー、かさばるからいらない」

「伝説は永遠に伝説のままか」

「その勇者くんってあれが抜けなかったのかな?」

「それ本人生きてても絶対言っちゃだめだからね。特にニーナちゃんは」

「気を付けまーす。じゃあまた明日ね」

「うん。おつかれー」



「はー、今日もがんばったわたし。ご褒美に何か美味しいもの買ってかーえろっと」

「それでしたらこちらはいかがでしょうか」

「うわ、びっくりした」

「こんばんわ。露店で色々売っているんです。何かお一ついかがでしょうか」

「そうねぇ何か美味しいものはあるの?」

「それでしたらこちらはいかがでしょうか。毎日お水をあげ続けるとなんとすくすく育つ植物」

「じゃあがんばってね」

「ああ待ってください、冗談です。会話の導入みたいなものですよ。こちらが本命。願いが叶う魔法のブレスレット」

「美味しいものが欲しいって言ったはずだけど」

「はい、ですので美味しい話しを」

「腹が満たされるものが欲しいのよ!」

「でしたらこちら。食べ出してもなくならないパン生地」

「へー、それはちょっと興味あるわ。どういうカラクリなのかしら」

「すごく苦味があるので中々食べ終わらないという」

「まずいだけでしょ!もー、時間を無駄にしたわね。お腹すいたから帰る。周り誰もいないし」

「そんな、それじゃ私が何も食べられない」

「それで買ってあげたらただの寄付でしょ。ちゃんと働きなさい」


「ちゃんと働く、ですか。私は今の仕事が好きでして」

「どんなとこが?」

「騙されたと知らずに満足気な顔で帰るお客さんを見るのが嬉しくて」

「なぜわたしには変な人ばかり寄ってくるのか」

「私が変なのではなく皆さんが変なのです。だってこんなことに簡単に引っかかるんですから」


「あれ?なんか変な感じがしません?」

「そうね、なんかピリピリする」

「あ、なんか光っていますよ?地面が」

「うわ、何これ、なんか足元が光ってる」

「ちょっとこっち来ないでください」

「いやいや、助けてよ」

「やばそうだから近づかないでください」

「薄情なやつね。あ、そうだ、これ勇者くんが消えた時の感じだわ!」

「消えた」

「やだやだ、ちょっと待ってよ、っておい!別れを惜しむような顔して手振ってんじゃない!ちょっとー!いやぁぁぁぁ」



「ぁぁぁああ、れ?生きてる?ここどこ?」

「おいお前」

「は、はい。抵抗しないから剣突きつけないで欲しいです」

「何をした」

「何って何も、むしろこっちが聞きたいくらい。いきなり足元が光ってここに。ここどこですか?」

「魔王城だ」

「へ?それって魔王のお住まいのあの?ということはもしやあなた様はかの有名な」

「そう魔王でありここは私のお住まいの魔王城だ。お前は、むっ!」

「わわ、今度は何」

「後ろか!」

「ちっ勘のいいやつ」

「ふん、勇者のくせに音もなく背後から不意打ちとはせこいな。真正面からの力試しに来たんじゃなかったのか?」

「うるせー。戦いの途中でおしゃべりなんかするからだろ。てかそいつ誰だ」

「それを今聞いていたんだ。まったく。野蛮な奴だ」


「あ、あれ?あんた勇者なの?確か光に包まれて、ていうかさっきの私と同じ感じの。そうそうやっぱりさっきのってあんたの時と同じ、にしても勇者くんずいぶん雰囲気が違って見えるわね」

「はぁ、白けちまったな。魔王、一旦仕切り直しだ」

「いいだろう。だがこの女の話が気になる。続けろ」


「どうした、続けろ」

「え、ああ、はい。勇者くんなんか前より老けて見えるような気がするけど何があったの?」

「それ今話すことかよ。ったく。異世界転移だよ。そこで10年近く過ごした。ま、そのおかげで師と呼べる人と出会えたし、強くもなった。へへ、槍使いのウォリアーって呼ばれた最強の戦士なんだぜ、師匠は」

「なんだかんだでよくしゃべるわね。異世界ねぇ。よくわかんないけどそこで老けたってことか」

「変な言い方すんな。普通に10年過ごしただけだ。お前は年取った感じがしないな」

「だって10年なんて経ってないし」

「そうなのか?ふーん、まあいいか」

「いいのか」

「ああ。向こうはもっと不思議なことばかりだったからな」


「おい、勇者。私が聞きたいのはお前のことではない。女、お前のことを聞いている」

「わ、わたしですか。わたしはその、えと、なにをおはなしすればよいのでしょう」

「名前。ここに来た経緯」

「わたくしめはセツカと申します、です。皆にはセツって呼ばれておりますです。えへへ。えとえっと、ここに来る前はお買い物しようとしてたらいきなり足元が光って気づいたらこちらにおりましたです」

「変な喋り方をするな」

「だってこの状況でタメ口聞いたらどうなるか」

「お前バカだろ。魔王相手に気を使ってどうする」

「バカはあんたでしょ!」

「あん?戦えばいいだろ」

「あんた変わってないわね。わたし非戦闘員なの。わかるかしら」

「知るか。適当に剣振り回しときゃいいだろ。持ってんだろ、剣」

「あの、わたし事務なんですけど!事務が当たり前のように帯刀してるわけないでしょ!」

「待て。事務とは何だ」

「うー、めんどくさい。デスクワークよ。もー、脳筋さん達にいつも聞かれる」

「仕事のこと書いた札をいつも首からさげときゃいいんじゃねえか」

「帯刀するよりないわ、バカー!」

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