17. 勇者セツカの冒険
「セツー、助けてー!」
「ニーナちゃんがんばってー」
「なんでこのゴリラわたしばっかり狙うのよー!
「きっとニーナちゃんがかわいいからよ」
「もー!こういう変なのはセツが担当でしょ!」
「勝手に担当にしないでー」
「ゴラァァァァァ」
「きっと戦えって言ってるのよ。ついに解放される勇者の力。うーん、熱い展開になってきた」
「そんなことできないよー!ちょっと、ゴリラさん!あ、あの、わたし事務なんですけどー!」
「ニーナちゃん、それわたしのセリフ」
「セツカ、ニーナ、こっちだ」
「なにあれ、セツ退治してよ」
「うわ、タヌキがしゃべってる」
「ウインクしちゃって。あれで可愛いつもりなのかしら」
「助けに来たのに。女子ってどうしてこう傷つくことを平気で」
「ていうかあんたどうせリーメさんのお使いでしょ」
「大体こういうピンチの時に現れていまいち役に立たないけど愛嬌で最後まで乗り切るタイプのマスコット気分の子ね」
「助けるのやめようかな」
「わー!ごめんなさーい!ゴリラから助けてー!」
「はぁ。とりあえずこっちに来なよ」
「あの小さな肩を落とす姿がちょっと可愛いわね。もうちょっといじめてみようかしら」
「あのタヌキ、まるで自分を見ているようだ」
「はぁはぁ、さすがに疲れたよー」
「まったくね、ゼブラ1号が恋しいわ」
「で、このタヌキは何かしら」
「ああ、僕は聖なるタヌキでタフツタウタのスーデソウ」
「なんかすっかりやさぐれてるわね」
「うふふ、優しく接してあげたくなるな」
「それで心を開いたところで突き落とすんでしょ」
「うん」
「じゃ。あとは2人でがんばって」
「タヌキさんごめんなさい、まってまって」
「どうせ役に立たてず愛嬌でその場を濁すことしかできませんから」
「心の傷は深いわね」
「ちょっとからかっただけなのに」
「ニーナちゃんはこれを機に人の心をもっと学ぶべきよ」
「ふーんだ。目の前にいるにはタヌキだし」
「ではさようなら」
「ああー、タヌキさーん!」
「行っちゃた」
「どうしよう」
「ニーナちゃんが悪いかと。謝ってきなさい。そうじゃなきゃこのイベント終わらないよ」
「むー。そもそもここで何をすればいいのかしら」
「タヌキとゴリラと戯れるとか?」
「なんのために」
「多角的な視野を得るため異種族交流を行えというリーメさんの思惑を打ち破ることがこの世界から脱出する鍵なのでは」
「えー、めんどくさいなぁ」
「そういえばここってカップの中なのよね。壁よじ登ったら出られないかな」
「そうだった。カップの中はこんなワンダーランド。何が入っているかわからないのにそれを知らずに飲んでいたわたし達。ふふっ、これは使える」
「なんか言った?とりあえずさっきのタヌキ探しに行こうよ」
「わかったわ」
「タヌキさーん、おーい、謝るから出てきてー」
「それが謝る人の態度でしょうか」
「出てきた」
「ニーナちゃん」
「はーい。タヌキさん先程は大変失礼いたしました。この度の非礼深くお詫び申し上げます。ごめんね」
「いいですよ。もうどうにでもしてください。それで何か用でしょうか」
「そうそう、どうやったらでられるの?ここってカップの中なんでしょ」
「ああ、その内出られますよ。じゃ」
「ちょっとー、もう少し具体的にお願いします」
「じゃあ、そうですね。他人への思いやりを持つことです」
「そのうち出られるのに具体的に出した事例が自分に都合がいいとか、よく言ったものね」
「まったくだわ」
「おまえら」
「あ、あそこに何かいる」
「フワフワした生き物ね。チラホラと数種類いるわ」
「違うわニーナちゃん。あれはモフモフよ。触りたい」
「お好きにどうぞー」
「お前らほんと自分本位な言動しかしないな」
「うふふふふ、覚悟したまえ。モフモフー!」
「ゴァァァァァァァ!」
「ええー!なんで急にゴリラが出てくるのよ!」
「セツがかわいすぎたからでしょ」
「キャー!タヌキさん助けてー!」
「どうせここは現実世界じゃないから大丈夫だろ」
「だって。どうせ現実の世界じゃないだからなんでもできるわ。勇者セツカよ、存分に魔力を解き放つのだー」
「できるか!ああもう、こうなればやけよ!くらえー!あら?」
「わぁ、ほんとにすごいの出てきた」
「まさかできるとは。魔王も滅ぼせそうなビームね」
「セツだけずるーい!わたしもー、えーい!」
「できるんかい。お前らほんと無茶苦茶だな」
「なにこれー、たのしー」
「ちょっと!そんなに撃ったらメルヘンランドが世紀末なデスランドになっちゃうでしょ!もー、わたしの分も残してよね!」
「はぁ、俺はなぜここに来てしまったのか」
「待てー!みんな並んでセツさんにモフモフさせろー」
「うひひひひー、毛皮剥いでやるー」
「ぎゃー!来るなバケモノー!」
「誰がバケモノよ!嘘つきタヌキめー、待てー!」
「まてー、うにゃうにゃ、毛皮よこせー、うーん、ん?」
「あらニーナさんは起きたのね」
「あれー?さっきまでカップの中にいたような」
「さ、お水を飲んで」
「はい、いただきます。セツは?」
「まだ寝てるようですね」
「セツー、起きろー」
「にくきゅうよこせー、むにゃむにゃ」
「もう、セツったら。ふっ、笑っちゃうわね」
「あなたも似たようものだったけど」
「起きろー。起きないな。よーし、花束持った王子が愛してるって」
「いらん!う、うーん、あれ?モフモフパーティは?」
「おはよ」
「おはよー、あ!リーメさんすみません、いつの間にか眠ってしまったようで」
「いえいいのよ。それでどうだった」
「どうっていうのは」
「カップの中で何か得たことがあるんじゃない?」
「そうですね。単独で戦える強さがあれば確かに独断先行してしまう気持ちがよくわかりました」
「そういう身勝手な人をフォローする人の気疲れを体験しました」
「えーと、想定していた回答とは随分違うのだけれど、何があったの?」
「ゴリラに襲われてモフモフパーティ」
「やたらと気取ったタヌキが出てきたので見ぐるみ剥いで庶民というものを味わわせてあげようかと」
「そ、そう。よくわからないけれどこれまでと違う視点がもてたならとりあえず成功かしら」
「そうですね、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「それじゃあそろそろお暇しましょ」
「そうね。リーメさん、今日はありがとうございましたー」
「ええ、よければまた遊びに来なさい」
「やれやれ、元気な子達だったわね。あら?媒体にしたカップにヒビが。よほど強い魔力に当てられたのね。あの子達かしら。ふふふ、王子も大変ね。そう思わない?スーデソウ」
「さあな。俺はもう2度とやりたくない」
「本当に何があったのかしら」