13. 王子への報告会
「お前達、よく戻った」
「ショウ王子。この度は目的を遂行できず申し訳ございません」
「うむ。報告を聞こう」
「承知いたしました。今回の遠征では獣の森中腹まで進行、同森にてランドマークとなる遺跡を発見。その後歩を進めましたが主要メンバーの喪失により撤退を判断、現在に至ります」
「そうか。ご苦労だった。被害は」
「ランドマークにて強力なモンスターによる不意打ちを受け勝利するも指揮官マルマルの戦死、続いて進軍中に勇者が謎の光に包まれ消失、これは原因が特定できず撤退の決め手にもなりました」
「わかった。マルマルほどの者がやられるとは、相当の手練れか」
「え、ええ。その通りにございます」
「なんだ?答えにくいことでもあるのか」
「いえ、何も」
「ふーん。まあいい、本題に戻ろう。ここにいない者は今どうしている」
「ダグは私の所属先に報告に向かいました」
「ふむ。まずはこちらに来てもらいたいものだが」
「ユミ殿、ああ王子、横から失礼。サシロサとカクロカのことが気になってしまい」
「そうだな。聞かせろ」
「あ、あの。2人については魔法大臣という方宛にお伝えすることがあります」
「おや、伝言ですか。私がその魔法大臣ですよセツカ殿」
「ではお伝えします。えーと、あった。私達は、激しく戦死しました、と言って北の森に向かいました。以上ですー」
「そ、そうか。激しく、戦死。まあ、元気ならいいんだ。北の森ね、一応監視は付けておくかな」
「あの2人、切り捨てるつもりだったんじゃ」
「まさか。才ある者達だ。そう簡単に切ったりはしませんよ」
「じゃあなんで遠征に?」
「あの子達なら帰ってくるだろうとふんだのです。それにあれだけの実力があれば君達の助けにもなるだろう。あわよくば仲間と共に死戦を抜けたことで命の大切さにも気づくやもしれん、とね」
「たしかに助けてもらったわね」
「納得かな」
「丸め込まれてるような」
「ふふふ、好きに受け取りたまえ」
「セツカ、頼んでおいた査定表を見せてくれ」
「あ、はーい」
「お前、私は公務中だぞ。かしこまった態度を心がけるようにしろ」
「はい」
「あからさまに嫌そうな顔をするな。さて、これか。ふむふむ。ほう、中々上手にまとめているじゃないか」
「はい。マルマルさんが色々とレクチャーしてくださいました」
「そうか。あいつがいれば感謝するところなのだがな。本当に残念だ。ん?提案、これはお前が?」
「はい。魔王とか勇者とか別名があって、なんだかその人らしいというか自己紹介みたいで、みんな得意なこととかポジションとかあるからいきなり集まった時にパッとわかるからいいかなって」
「なるほど別名か。二つ名や称号、いいかもしれんな。セツカ、その発想は実に素晴らしいぞ。戦士は誉れを求むるものだ。それを形にしたようなその二つ名の制度。名が与えられるものはそれだけ成果を残した者である証明になる。国もしくは管理団体を設け、そこが発行したものとして簡易的な身分証明書替わりにもなる。仕事の獲得率の向上、つまり収益の安定。モチベーションにつながるか。そしてお前の言う通りメンバー募集者にとっては効率よく適切な人材を集めやすくなる。よく思いついた」
「いえいえ、ちょっとシロさんと話してる時のほんの思いつきです。えへへ」
「そういった遊び心を活かすのも仕事の醍醐味だ。励めよ」
「はい!」
「ちなみにサシロサとはどんな会話をしたんだ」
「え?それはその、だい、えーと」
「あらセツカちゃん、いいのよ?はっきり言ったら」
「言ってみろ」
「大魔王ユミ様ご降臨」
「は?」
「いたっ!うう、もー、あたま叩かなくてもいいじゃないですかー」
「言われ続ける鬱憤を晴らす機会って中々ないものなのよ」
「自業自得」
「いい度胸ね」
「お、おうじの御前ですよ、ユミさん」
「お前が言えたことか」
「外へ出るまでに覚悟しておきなさい」
「しかし大魔王ユミか。二つ名第一号として命名するのもいいかもな」
「ちょっと、ショウ王子!」
「ははは」
「それ冗談ですよね?まったく。ちょっと、王子?絶対にやめてくださいよ!」
「ふぅ、報告は一旦こんなところか。ユミ、少し話したいことがある」
「はい。セツカちゃんはもう帰してもよろしいでしょうか」
「そうだな。セツカ。この度の遠征、誠にご苦労であった。ゆっくり休めよ」
「はい。それでは失礼します。と言いたいところですが」
「なんだ、何かあるのか?」
「まさか本気で直訴する気?」
「直訴?」
「何か報酬が欲しいですー」
「がめついな」
「だって、いきなり魔王のところまで行けって言われて、なのに遠征のことなんにも教えてくれないし」
「そうか。そうだったな」
「もー、そんだったなって忘れてたんですか」
「ふーむ。今回のお前の報告書、だいぶ役に立ちそうだ。よし、何か用意させよう」
「やった、ありがとうございます!」
「では、下がれ」
「はい、失礼します」
「おや、これは?」
「え?あ、それは」
「これは、お前の所感か。あん?マルマル、サンタの気分わからず戦死。気分わからず戦死?導きの勇者、矢に撃たれここで眠る。さらば、勇者光の彼方へ。おい、勇者が2度死んでいるぞ。ユミア、どういうことだ」
「セツカちゃん。やっぱり残りなさい」
「ユ、ユミさん、わたし何も言いませんから、帰してください」
「なんのことかしら」
「ユミ、お前何したんだ」
「何も。ただ真摯に仕事に取り組んだだけです。ね、セツカちゃん」
「はい。おっしゃる通りにございます」
「わかりやすいやり取りしおって。なるほど。大魔王ユミ様、ね」
「あー、つかれたー。おつかれさまー、セツカただいまもどりましたー」
「セツ!お帰りなさい」
「ただいまーってそんな抱きついてこなくても。と思ったらなんですぐ離れるのよ」
「くさい」
「ニーナちゃん、その言葉は地味にショックだよ」
「一度帰ってシャワー浴びてきなさい。サービスカットだ」
「誰に見せるものか。あれ、私の席は?」
「あー、セツくんおかえり」
「所長さんただいま戻りました」
「城には行ったかい?」
「はい。先に報告してその帰りです。で、私の席は?ニーナちゃん、必ず守るって言ってなかったっけ」
「わたくしでは力及ばず」
「あら、新人さん。こんにちは。つまりこの子に渡ったと」
「そう。ごめんね」
「所長さんがわたしは戻らないと思って人員補充したのか」
「いやいや。ニーナくんが1人じゃ無理だからと。席も空いているからとね。私じゃないから」
「いいの。きっとそうかと思ったから」
「あれ、セツ?いつもみたいにツッコミ入れないの?」
「もうそんな若くないのよ。わたしは」
「そっか。わかった。セツの席はね、ほんとはちゃんと確保してあるの。あれよ」
「なんだあったのか、って学校の勉強机じゃん!こんなちっさい机で仕事できるか!」
「あはは、リハビリするなら初心からと思って」
「もー!きっとまだ何かあると思ってたわよ!」
「さすがセツ。ニーナのこころはお見通しね」
「まったく」
「おかえり、セツ」
「はいはい、ただいま」