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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
3−2. 魔境にて

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123/124

123. 4次元で先見てる

「う、うーむ、ううう、うはっ!今のは、夢ですか。それとも。いやはや何という」

「どうした、居眠り大臣」

「私はどのくらい意識を失っていたのでしょうか」

「ぐっすり30分ほどか」

「そんなにも意識が」

「ああ、だいぶ遠のいていたな」

「鼻ちょーちんも出来てたにゃ」

「大臣さん気持ちよさそうでしたね」

「ほらノラもニーナもこう言っている。認めろ居眠り大臣」

「むぅ、重要な予見を見たかもしれないのに酷い言われようですな」

「疲れているなら今日のところは休んでおけ。無理に働く必要もないだろう。お前はよくやってくれている」

「私は大臣なのです。このくらいのこと出来なくては務まりません」

「だからといって日中に寝入ってしまうほどでは出来ることも出来んだろ。ズルしている者ならともかくお前の事業貢献は十分なものだ。命令だ。今日は休め」

「承知いたしました。何かあればすぐにお呼びください」

「ああ」


「折角王子より頂いた時間、有効活用するとしましょう。まず先ほど見たあれは私にとってとても重要な気が。寝入っていた、か。確かにいつもより朧気なものですね。漠然としていていまいち何が起きていたのか理解できそうにない。今日はどうしようか。ふむぅ、よし。マジカルマジックマジケーショーン」


「これでよしっと。魔法少女ミサキ、しゅっぱーつ」

「待つにゃ」

「あらノラちゃん。何か用?」

「うにゃ。魔法少女と共に行動するのが私の務めにゃ」

「アスミと一緒の方がいいんじゃないの?」

「ダメにゃ。全然変身してくれないから全く出番がないにゃ。実はアスミの変身中は私も変身してるけど最近まったくその機会がないのにゃ」

「そうなんだ。そういえばネコっぽい見た目で二足歩行してたことあったっけ。じゃあいいけど、ケーキは買わないからね?」

「けち」

「嫌なら来なくていーよーだ」

「にゃにゃ、意地悪だにゃ。仕方ないから何も求めずついて行くことにするにゃ」

「ノラちゃんが何も求めないなんて信じられないけど、とりあえず行きますか」

「んにゃ」



「ミサキが動く時は何か視た時にゃ。何を視たの?」

「よくわからないのよ。黒いモヤしか見えなくて。でも私にとって重要な何かって気がする。このモヤのことを考えると何かを忘れている気がしてならないの」

「気のせいじゃないの?」

「かもね」

「それで今日はどうするつもり?」

「いつもどーり」

「知らないにゃ」

「パトロールよ」

「たまにいないと思ったらそんなことしてたのか」

「偉いでしょ?」

「えらいにゃーすごいにゃー」

「ちゃんと褒めたらケーキ買ってこうかと思ったんだけどな。今日はなんだか当たりそうな予感が」

「よっ、ステキ大臣、青い魔法少女さいこー」

「ふっふーん、悪い気はしないわね」

「じゃあまずはケーキ屋さんへ直行にゃ。ガチャにアタリが含まれているのか調査だにゃ」

「趣旨が違ってきたけど、まぁいっか。いやこれはやめた方が」



「キャー」

「うっそー」

「なんの騒ぎにゃ?」

「いかない方がいいと思うよー」

「事件にゃ。どうしたのにゃ?」

「レアチーズケーキでアタリがあたっちゃったの」

「わたしもー」

「ま、まさか、そんなはずないにゃ、アタリに当たるなんて絶対ないと」

「絶対ないと思って買い続けてたのか。涙ぐましいというか愚かというか」

「今日始めて買ったのに2人共一緒にあたるなんてラッキー」

「とかいってほんとは結構あたるんじゃない?」

「かもねー、あ、これおいしー」


「ば、ばかな、私はあれほど買い続けているのに、一度も当たったことがないのに、そんなはず、そんなはず」

「語尾のにゃがなくなってるわよネコさん」

「う、うう、そんなはず、うおーん、小娘どもめぇ、ちょっとみせろぉぉぉ」

「きゃー、何このネコ」

「これは!ち、ちがう、色がビミョーに違う。いつも見ているケーキの色と中の色がちゃんと違う。そんなことって」

「だからやめた方がいいって言ったのにー」

「私の、今までの私の苦労は一体。はっ!そうだ、この店の店主は私からお金を搾り取ろうとしているに違いない。なんて悪どい商いの仕方なんだ」

「ノラちゃん鏡写って知ってる?」

「閃いた、この店を買い取って私がオーナーになっていつもアタリが当たるようにすれば」

「根本的に間違ってることにも気づかないほど追い詰められてるなんて哀れねぇ。というかさっきのそのままかじっちゃえばよかったのに」

「あっ、そうだった」

「さーて、アタリがあることは確認出来たから任務達成ね。はりきって次行きましょー」

「すみません、もう歩く気力がありません」

「ほらほら、ケーキ買ってあげるから。当たり外れなんてヤクザな商売してないのにしましょ」

「はい」

「よいしょっと。抱っこしてあげる、あとはケーキ食べて元気出しなよー」

「うん、ありがとうミサキ。もう居眠り大臣なんていいません」

「いい心がけね。ふふっ、ノラトナって以前とは大分変わってるから比べるとちょっと面白い」

「そんなに変わったでしょうか?」

「変わったのよ、だいぶね。以前はもっと怖かったのよー」

「よくわからないにゃ」



「次はどこに行くにゃ?」

「そうねぇ、市場にでも行ってみましょうか」

「らじゃー」


「なかなか賑わってるにゃ」

「こういうところにいると何だか楽しくなってくるね」

「そう?」

「ならない?活気があって色々買いたくなっちゃう」

「ふーん、そういうものかにゃ」

「ふふっ、商売してるくせにうといのね」

「人間の感じ方はまだよくわからないところがあるにゃ」

「悪魔だもんね」

「はい。あれ?そこまで知っていたのですか?」

「私は色々視えちゃうから」

「あなたに隠し事は出来そうにありませんね」

「悪用しないから大丈夫よ。今までがその証明かな」

「でも必要なら」

「視た未来に必要ならね。だけどね、私に出来ることなんてたいしてないのよ。ノラちゃんならわかるでしょ」

「どうでしょうか」


「運命って本みたいなものよね」

「本ですか」

「うん」

「それは頷けます。私も以前出版した本と魔王で同じようなことを書きました」

「ネコのくせに手広くやってるのねぇ。ま、共感してもらえるなら早いわね。本は刊行されたら読み手の目に入るでしょ。その時に始まりから結末までが確定される」

「たとえ編集しても先に出したモノは残りますからね」

「そうそう。私がやっているのは再編にならない範囲で刊行される直前、その本に少し加筆とか修正を入れているだけ。結末が変わるようなことしたらそれはもう別世界だもの。別の運命をたどる世界。だからそうならないようにほんの少しだけ手を加えているの」

「私には無意味な行為に感じます。意味があるのですか?」

「きっとね。著者が作った話を勝手に変えたら怒られちゃうからこっそりとやるの。でも時には著者と対峙することもある。そしてそんな争いに巻き込まれた人がいる」

「それは、ミサキはどこまで知っているのですか?人の身で知る事の出来ることではないでしょう」

「ふふっ、視たモノ全てを知ってるわ。でね、その人は何度も何度も同じ世界を巡り続けるの。以前いた場所のことを忘れて覚えてまた忘れていく。悲しい定めに囚われた人。いつかその呪縛から逃れることを願い、だけど逃げて捕まってそれでも逃げ続けることを永遠に繰り返し続ける」

「滑車で回るネズミのようですね。ですが終わりがあるはずです。永遠などありえません」

「そう、それこそが私の意味。だってもしかしたらだよ?私が修正を加えた事を著者が気付かないまま、しかも自分で作ったものを忘れて加筆された設定のまま続きを書いてしまったら。そうしたら元の筋書きは変わっていくかもしれない。だとしたら私のやってる事には意味がある。永遠を終わらせる事で非情な苦しみから救う事が出来たのかもしれない」

「そうだとわからないのでは結論が出ませんね。やはり無意味に思えます。無為な事に人生を費やすのは賢いとは思えません。嫌いではないですけど」

「いーの。自分のやった事に意味があるかなんて自分じゃわからないじゃん。関わった相手がどう思うか次第でしょ。そもそも意味のある人生にする方が難しいんだから。ま、運命ってそうやって変えていくしかないのかなって、私は考えてるってことよ」

「気の長ーくなる考えですね」

「でもやらないよりずっといい。わずかでも活かされることがあるならって、それを信じる気持ちを私は大切にしたい」

「ミサキはロマンチックなのが好きなのですね」

「意味はなくてもロマンあっての人生よ」

「ふふふ、悪魔もそれを求める者が多いように思います」


「あなたとは話が合いそうです」

「アスミから乗り換えてもいいのよ?」

「ダメです。アスミは、ニーナは私の大切な友人ですから」

「ふふっ、そうね」

「わかってて言いましたね?」

「ところでさっきからネコっぽくないぞー」

「うー、魔法少女は意地悪ばかりだにゃ」



「そういえば」

「なぁに?」

「もやもやで思い出しましたが、そういうものを売りつけた方がいました」

「へー、じゃあその人を視たのかな」

「かもね」

「その人どこにいるか知ってる?」

「うんにゃ、知らんにゃ」

「じゃあ適当に歩いてみますか」

「会えるかにゃぁ?」

「私が視たものなら会えるわ」

「いっそプリティモードになって人暴れしてみたらいいにゃ」

「自分がモードチェンジしたいだけなんでしょー」

「だってー」

「その内できるから」

「ミサキが言うと聞き流せないにゃ」

「適当に言ったんだけどなぁ」

「ん?あれにゃ」

「え?」

「あのおにーさんにゃ」

「あれは、あの人は」

「知り合いかにゃ?」

「いえ、だけどあの人が暗闇坊主なのね。視えちゃった」

「あ、そういえばそうだった。バレるのは時間の問題だったにゃ。仕方ないにゃ」


「声をかけるのかにゃ?」

「そうね、せっかく見つけたし、よーし私の魅力でい、ち、こ、ろ、よ!」

「正体を知った時の絶望に歪んだ顔が楽しみだにゃ」

「あの」

「わっ、どちらさん?」

「あ、僕はシモザといいます」

「はぁ、こんにちは。突然湧いて出てきたわね」

「ミサキ、この人なんか変な感じがするにゃ」

「え?僕って変ですか?」

「うーん、なんというか魔力が驚くほど感じられないにゃ」

「ああ、それはもう、まったくありませんよ。Fランクですから」

「あははー、で、私に何か用です?」

「いえ、見かけない方だったのでつい」

「よくここにはいらっしゃるんですか?」

「僕は最近来るようになったんです。先日ちょっと騒ぎになったことがあって、それが気になって暇な時に来てたら、来る人ってほぼ一緒だから覚えちゃったんですよ」

「こいつ暇人にゃ」

「へぇ、それで私は見かけない顔だから不審者だと」

「え、えーっと、そこまで露骨に思ったわけじゃないですよ?ただ見ない人だなぁって」

「それで声かけるなんてウソね」

「えっ、ウソってわけじゃ」

「きっと私がかわいすぎて声かけてきちゃったのよ、私ってば罪な女ね。うっふふー」

「冗談はその辺にしておくにゃおじいちゃん」

「あ、あはは、変わった人たちですね。ていうかネコが喋ってる」

「今更気づいたのか」

「頭の中まで暇人にゃ」

「いやぁ、最近色々あって生半可なことじゃ驚かなくなってしまったようで。はぁ、自分の感性が何かに侵食されているような心地だ。何かとは同僚のこと」

「よくわからないけどごめんなさい、私ちょっとやることあって」

「あ、それはすみません」

「いえー」

「ミサキ、もやもや君が行っちゃうにゃ」

「もやもや君?」

「なんでもないんです、ふふっ、ちょっと追っかけをしてるだけなんですー、それじゃー」

「そうですか、ではお気をつけて」

「ノラちゃん行こっか。ねぇ、もうわかってるし、デモクって呼んだほうがいいのかにゃ?なんちゃって」

「うー、そんな事言うならロリっ子じじいって呼ぶぞー」

「ふふふー、あなたのことニーナちゃんに言っちゃおっかなー」

「くぅー!人間はみんな悪魔だにゃ!」



「変わった人達だなぁ。いや人ではないのか。でも悪い感じではなさそう。ミサキさんと、ノラ、いやデモクかな?はて、デモクってどっかで聞いた名前のような。うーん、あれ?あの男性は以前、そうだ戦士村で会った人だ。この辺りに住んでるのかな。花屋に寄っていってる。うーん、看板の時といい、事件の現場で見かけるなんて、なんか怪しい。それにさっきのお姉さんとネコも彼のところに向かった、追ってるって言ってたし。これらを偶然で片付けることが出来るだろうか。彼は花屋に何か恨みでも?もしかしてこの街そのものに恨みが?そもそも戦士村にまでくるなんて、彼は何者なんだ?」

「こらシモザ」

「あ、ナミチさん」

「探偵ごっこしてないで仕事しなさい」

「あはは、やだなぁもー。破天荒な同僚と上司に代わっていつもしっかりきっちり働いているんですけどね」

「そうかそうか、そりゃ素晴らしい。じゃ、引き続きよろしくね」

「ほらこれだよ」

「あん?なんか言った?」

「いつかこの悪を裁いてやる」

「平和目指してがんばれ勇者さま。さて、西門で物資を乗せた馬車が事故ったとかでごたついてるらしい。暇なら一緒に来な。整理しに行くよ」

「その手には乗りませんよ。僕は持ち場がありますし、何よりモンスター関係なさそうだし、僕らの仕事じゃ」

「騎士団長が来てるって聞いたけど、そっか、いいならいいんだ。じゃあ私だけで」

「行きましょう。グズグズしていては皆さんが困ってしまいます。そしてきっとモンスターが絡んでいるに違いありません。その可能性がごく僅かでもあるのであればモンスター交通課として行かないわけにはいきません。さあ、急ぎましょうナミチさん」

「はいはい。扱いやすい素直な子は好きよ」



「まったくもー、見失っちゃったじゃない」

「暇人の相手をすると忙しくなってかなわないにゃ」

「さっき見た時はこっちに歩いてたわよねぇ」

「花屋の方に向かってたにゃ」

「よし、聞いてみましょっか」

「聞き込みだにゃ」


「あのー」

「いらっしゃいませー、あなたはお花買ってくださるのよね?」

「えーっと」

「買わないお客は冷やかしって思わない?」

「それは見解の相違というかなんというか」

「いいのよ、この間の事もあってもう、お店たたもうかしら」

「この間のこと?そういえばさっきの人も言ってたにゃ」

「何があったのかしら」

「何って、花がね、急激に成長して暴れそうになったのよ」

「へー、そんなこともあるんですね」

「あるわけないじゃない。何が原因かわかってなくて、私の商品に問題があるって」

「何か心当たりはないの?」

「騎士にも聞かれたけど、何もないのよ」

「そっかぁ」

「事件があった時に居合わせた交通課の方が即座に対応してくれたおかげで大事にはならなかったんだけど、そうでなければどうなっていたか。あまり儲けもないし、ここらで辞めちゃう方がいいのかもね」

「もしケーキ作りが上手なら惜しみなく自分の資産を投げ売ってくれる人を紹介出来るんだけどねー」

「ミサキ、私の心の傷をえぐるのはやめてください」

「じゃあ何か解決案をだしてあげてよ。商人仲間でしょ」

「全然接点ないのですが、まぁいいでしょう」

「このネコちゃんが何かしてくれるの?」

「はい、このネコが店の前でパフォーマンスを」

「やらないにゃ」

「ニーナちゃん今なにしてるっかなー」

「うぐぐ、三つ編みロリ大臣め。ちょっとだけにゃ!」

「さっすがー」


「で?何すればいいにゃ」

「簡単よ」

「んにゃ?」

「何をされるんです?」

「宣伝すればいいのよ。ノラちゃんが」

「それだけ?」

「うん、それだけ。はい」

「仕方ないにゃ。おっほん」


「あー、みーなさーん、ここのお花は善良だにゃー!とーっても心優しいお花ばかりでとーってもリーズナブルだにゃ!買って損するのはサボテンを枯らすような奴だけにゃ!さー買うがいいにゃー!」

「なんだぁ?」

「おいネコがしゃべってるぞ」

「かわいいー」

「四の五の言っとらんとさっさと買うにゃー!」

「きゃーかわいいー、これくださーい」

「いえそのネコは商品ではなくて」

「私を買い取るなんてお目が高いけど買うのはお花だにゃー!」

「えー」

「文句言っとらんと買うにゃ。おねーさんはこの赤い花を買うにゃ」

「なんで?」

「なんでって、うー、なぜならばぁ、そう!未来を見通すこのミサキがそう言ってるにゃ」

「私も巻き込むか。よかろう。そのお花を買うと運気アップよ」

「ほんとかなぁ」

「にゃにゃ!おねーさんは最近上手くいってないことがあるにゃ!そしてそこにはいつもと違う物が必要だにゃ。それがこの花だにゃ!この花を家に飾るだけで運気アップなんてお値打ちにも程があるにゃー!」

「まぁたしかに安いから買ってもいいか。これくださーい」

「はーい、ありとうございますー」


「次!隣のお店のおじさんにゃ!」

「え、おれ?」

「野菜ばっかりに囲まれてるにゃ。文字通り花がないにゃ!買え!買いたくなくても買え!にゃ!」

「なんか雑になってきたな。まあ苦しい時は助け合いが大事だよな。よし、この黄色の花をくれ」

「はい、ありがとうございます」

「いいってことよ。いつも野菜買ってくれてるし。たまにはおれも、だな」

「さー次にゃ!どんどんさばかれていくにゃー!」


「つかれたにゃ」

「ごくろーさん」

「喋るネコちゃんのお陰であっという間に売れました。ありがとう」

「気にするなってことにゃ」

「ねえ、ネコちゃんはなんてお名前なの?」

「ふっ、通りすがりのただのネコだにゃ」

「タダなら持ち帰っちゃおうかな」

「うー、ミサキ、もう反論する元気もないのです。たすけて」

「はいはい。ところでおねーさん」

「はい?」

「お礼をしてほしくって」

「いいわよ。私に出来ることなら」

「ちょっと付いてきて。ノラちゃんはここで留守番しててね」

「あいあいさー」



「ただいま」

「早かったにゃ」

「ネコちゃん、これ、お礼です」

「これはケーキですか。ミサキはトドメを刺しにきたのですね」

「いーから食べてみなさい」

「はい。せっかくです。いただきま、ま、ま!まさかこのケーキは!これはアタリのケーキ!」

「喜んでもらえそうですね」

「私が食べていいの?」

「はい、そのために買ってきました」

「うー、涙で前が見えないよー」

「よかったねー、頑張ったかいがあったわねー」

「うん、うん、私は今日という日を忘れません。それとミサキ、私はこの恩を絶対に忘れません」

「悪魔王の恩ってちょっと怖いけど、気にしなくていいのよ。よく考えるとまたふさぎ込むから。ささ、どうぞ召し上がれ」

「はい、うう、おいしーです。これが追い求めていた味。素晴らしい味です」

「ネコちゃん、事情は少し聞きました。本当によかったですね。いつか必ず報われる。私ももう少しこのお店続けてみます。元々利益はないのはわかってて、好きで始めたことだから。ノラちゃんだっけ、決心がついたわ、ありがとう」

「いえ、これからは私もたまに買いに来ます」

「はい、待ってますね」

「ふふっ、もう天使になっちゃいそうだねー」

「うー、ミサキは意地悪です。でも、こんなにも優しい人間は天使の生まれ変わりなのかもしれないですね」

「私が女神だなんて言い過ぎよー」

「言ってないし。そもそもミサキのことじゃないにゃ」

「じゃあさっきのおにーさん探し再開しよっか」

「はいにゃ!」


「さっきのおにーさん?」

「はい、なーんか辛気臭ーい顔したおにーさん。知ってます?」

「それってもしかして」

「知ってるのね!」

「よくここを通るのよ。いつもお店を眺めていくだけなんだけど、なんか放っておけないというか、ちょっと寂しそうで。だからお花をおすすめしてるんだけどまだ買ってくれないの」

「お、そいつならおれも知ってるぞ。たまーに野菜とか果物買っていってくれる。前はくらーい顔してたんだが最近ちょっと明るいと言うか、生気が湧いてきた感じがするな」

「そうそう、いいことあったのかなぁ」

「その人ってどこに住んでるか、とかどっちから来るかとかわかります?」

「住んでるとこまではわからないけど、いつもあっちの方から来てたかな?」

「ああ、向こうから来てるのを割と見るな」

「あっちか。路地のほうね。ありがと!ノラちゃん、行こう」

「んにゃ。じゃあね、お花のおねーさん」

「うん、ノラちゃんまたねー」



「ここね」

「ここは」

「何かあるの?」

「はい。ここは私がいつもお店を開いている場所です。まさか私の商品を目当てに?」

「あらら、だとすると今日は買えそうにないのだにゃー。ね、ノラちゃん」

「ミサキは嫌味の達人だにゃ」

「でもいないね。露天がないから諦めて帰ったならいいんだけど。つまりこの辺に住んでるってことだから。ていうかあなたのお客さんなんだから何か知らないの?」

「知らないにゃ。面白そうなお客だからマークしてるけどどこに住んでるかなんて興味ないし、そこまでしたらただのストーカーだにゃ。私はミサキと違って変人じゃないのだ」

「そうね。変人ではない」

「何その含みは」

「変なネコだもんね」

「うー」

「あ、いた!あそこ」

「ほんとだ!よーし、もやもや君に突撃してここまでのモヤモヤしたやり取りをぶつけるにゃ!」

「わかったわノラ、つまり八つ当たりね!」

「うにゃ!」


「あの」

「僕ですか?」

「ええ、あなたに聞きたいことが」

「くらえー!」

「うわぁ!何だこのネコ!ぼ、僕が何かしたとでも」

「いえいえ、ちょっと聞きたいことがあるだけなんです」

「さっきにはネコなりのコミニュケーションにゃ」

「そうか、フゥ、びっくりした。ネコって意外と過激なんだな」

「黒いモヤモヤのこと知りませんか?」

「もや!し、しし知らない!何も知らない!暗闇なんて知るもんか!知るもんかぁー!」

「あちょっとー、まってよー。行っちゃった」

「早とちり、でもないけどせわしない奴だにゃ」

「暗闇ねぇ、何か知っていそうだから追いましょうか」

「うん」

「おにーさんまってー」

「まつにゃー!」


「ぜぇ、はぁ、う、うぐへぇ、もう走れない。早くなった僕の逃げ足なら、さすがにここまで来れば追って来ないよな。もしかして僕のことがバレたのか」

「まだ何もバレてないよ」

「う、う、うわぁぁぁっ」

「そんなに驚かなくたっていいじゃない」

「驚くというか恐れてるのでは。ミサキが恐すぎるんじゃない?」

「恐れるほどの美しさ。神々しさに溢れているのね、私ってば」

「そんなこと言っても伝わる奴はいないにゃ。にしてもこいつ挙動不審にもほどが」

「お前達、僕に何の用なんだ」

「だからー、暗闇について聞きたいの。何を知ってるの?」

「暗闇についてなんて、そんなの、そんなの簡単だ。真っ暗なんだ、それだけだろ」

「じゃあモヤモヤは?」

「フン、そんなこと知るか。僕には関係ない」

「ちょっと落ち着いてきたからって開き直ったものねぇ」

「こういう奴を相手にすると意地悪したくなるにゃ」

「同感ね」


「ところこんな路地に何か用なのかにゃ?」

「別に、お前たちには関係ないだろ」

「当ててやるにゃ。君は露店商を探しているんじゃないかな?」

「なっ!なぜそれを、いや、そんなことはない。僕はここに散歩に来ただけだ」

「へー、こんなところに散歩。へー」

「にゃにゃ、あ!あそこに露天商が!」

「何?あっちにいたのか」

「うっそぴょーん、だにゃ」

「クッ!このネコめ、やってくれる」

「おにーさんは何か欲しいものがあったの?」

「別に、ちょっと暇つぶしが出来たらいいなって思っただけだ」

「なーるほどー。きっとかっこいい道具を使って、オレ、主人公。みたいなことがしたいのね。おっとこのこー。でもいいと思うわよー」

「う、うるさい。そんなんじゃない。さっきからなんなんだ。初対面なのに馴れ馴れしいというか冷やかしてきてばっかり」

「初対面だなんて、私のこと忘れちゃったのね、ぐすん」

「いや知らない。悪いがまったく記憶にない」

「ミサキは適当なことしか言わないにゃ」

「ふーんだ」

「とにかく、用がないなら僕はもう行くからな」

「あ、待つにゃ。露天商は明日のお昼にはいるはずにゃ」

「なんで知ってるんだ?怪しい奴め」

「まっくろぼーずが言えることかにゃ?」

「な、なんのことを、あーもー!このやり取りはもういい!明日の昼だな!いなかったら文句言ってやる!じゃ、僕は帰る。もう追ってくるなよ!じゃあな!」

「ばいばーい」

「明日はネギ背負って来てにゃー」


「いいお客さんにゃ」

「善良ではないけどあまりだまし取っちゃダメだからね」

「善処するにゃー」

「あれが暗闇坊主かぁ」

「そうにゃ。今から捕まえに行くの?」

「まさか。そのつもりなら帰さないわよ。彼にはやることがある。今捕まったら本の筋書きが変わっちゃう気がする」

「やること、うーん。もしや、このあと猛烈に覚醒して急に魔王になるとか。あ、さっきオレ主人公とか言ってたからまさか主役の座を取っちゃうのかにゃ。さらばセツカ、永遠なれ」

「何勝手に言ってんのよ。モヤモヤも晴れたし、帰りましょー」

「はーい。帰りにお花買ってもいい?」

「いいわよ。じゃあ一輪ずつ買って帰ろうーか」

「わーい。おっはなー、おっはなー」



「おいニーナ」

「何でしょうか王子」

「今朝来た時から俺のデスクのど真ん中とイスの上に置いてあるこの植木鉢はお前が用意したのか?新手の嫌がらせか?」

「ノラですよ」

「ノラが?おーい、花なんて置いてどういうつもりなんだ?」

「キレイにゃ」

「うんうんそうだなぁ。で、なぜ俺の居場所に?」

「一番不要な場所だからにゃ」

「はっはっはっ、ノラのジョークが段々鋭くなっていくなぁ」

「ノラ殿は花がお好きなのですよ王子」

「なんだ訳知りか居眠り大臣」

「大臣が居眠りなら王子は役立たずだにゃ」

「なっ」

「やけに大臣さんの肩を持つのね。ほんと何があったの?」

「何もないにゃ。ただしばらくはケーキはやめて花を買う事にしただけ」

「ふーん、じゃあ今日の帰りにいつものケーキ屋さん寄ろうかと思ってたけどもういいのね」

「いらないにゃ」

「えっ、本気なの?」

「ネコはちゃんと恩を返すもの。毎日買ってここを花でいっぱいに満たすにゃ!」

「ほっほっほっ、美しい職場になりますなぁ」

「いやここ俺用の職務室なんだが。というか王子って何か知ってるか?偉いんだぞ?」

「こつこつとがんばってここをお花畑にするにゃー!よし、王子は花の世話係にゃ。光栄に思うがよいのだ」

「素晴らしいですなぁ」

「あと枯らしたら死刑にゃ」

「これが王子直属の部下、所詮は第2王子ってことか。ふふふ」

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