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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
3−2. 魔境にて

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121/124

121. ハトの思惑

「ぽっ。やはり気になりますね。出ます」

「どちらに」

「人間の城です。報告にあった城の話しが気になります。この目で見ないとどうにも納得できません」

「お1人で?」

「いえ身軽な者を連れていきます」

「承知。人間の拠点。お気をつけて」

「留守を頼みます」

「御意」



「この目で見るまで信じられませんでしたがこれはなんと。新築同様の色艶、報告の通り新しくしたとしか思えませんね」

「イカガナサイマスカ」

「もう少し観察します。周囲の警戒を」

「ギョイ」


「これは侮れんませんね。我が進軍は今と考えていましたがこれは警戒したほうがよさそうですね。まさか短期間で城壁を新たにするほどの人材と資源があるとは。ぽっ。これはこの城の資源が豊富である、そして我が軍勢の動きも把握していると宣言しているのでしょう。人間、侮りがたし」

「アルジサマ」

「どうしました」

「ミョウナモノガ」

「妙なもの?」

「アレ」

「ぽっ。黒い、影?モンスターか」



「うーん、透明化が不安で闇に戻しちゃったけど、他に誰もいないからいいか。さて、誰もいなくてせっかく来たんだし、やはりここは何かして帰るか。さて何しよう。落書きにするか。でもそればかりは芸がないな。どうしようか」

「そこのあなた」

「うっ、ぼ、僕のことか」

「ええ」

「さっき見たハト、見えないところまで来たと思ってたのに、迂闊だった。にしてもこいつモンスターだな」

「そういうあなたは、モンスターではありませんね。しかし人間にも。何者です」

「いきなり人間の城に現れたハトの方がよっぽど怪しいと思うけど」

「私は、ハトっぽいだけの人間ですよ。ポッポッポッ」

「無理あるだろ」


「何をしていたのです」

「別に。あんたは?」

「城を見ていました。突然綺麗になり見事な所業と思いましてね。何があったのです?」

「さあ。いきなり綺麗になった」

「この城壁はそうでもありませんね。そこまでの余裕がなかったのでしょうか」

「かもな」

「それであなたは何をしにこのような場所に?そのような格好までして」

「あ、あんた、まさか騎士じゃないよな?あの村には魔王までいたし、モンスターの騎士ってことも」

「魔王?私は騎士ではありませんよ。騎士だとまずいのですか」

「べ、べつに」

「ああそういう。お互いここで会ったことは他言無用ということで。よろしいですね」

「あ、ああ。構わない、それでいい」


「あなた、騎士に恨みでもあるのですか?」

「恨み、なんていうほどのものはない。ないな」

「ふーむ。ぽっ、あなた騎士に襲われたらひとたまりもないでしょう。しかし騎士に何か一矢報いたいと見える。違いますか?」

「だとしたらなんだよ」

「これを差し上げましょう」

「なにこれ」

「強くなる薬です。飲めばたちどころに強くなります。もしかしたら並の騎士よりも。いかがです?」

「なんでそれを僕によこす」

「あなたとはどうも目的が似通っているようで」

「利用できると」

「ポッポッポッ。そうとっても構いませんよ。さあどうぞ」

「フン」


「いらん」

「おや、なぜです?」

「僕は自分の力でやり遂げる。そうでなきゃきっと満足できない。ズルしたってきっと」

「そもそも目的を達成出来ないのに?」

「これは僕にとって、きっと大切なことだ。ここでそれを受け取ったら後悔する。そうだ、ズルして得たものでいい気になったってあの騎士貴族どもと変わらないんだ。そう、だからいらないんだ」

「ふーむ。あなたは自らを蔑むものに自らの力で牙を研ぎ、喰らいつこうとしているのですね」

「え?あー、そうなのかな」

「ぽっ」

「うん?」

「どうやらあなたとは気が合いそうですね。この薬はお渡ししてきます。使うも使わないも好きになさい」

「だからいらないんだけど、僕の話し聞いてた?」

「その薬は、そうですね。元気が出る薬とでも思っておいてください」

「さっき強くなる薬って」

「それでは。ああ、私は北の領主。何か力が必要なるなら私を頼りなさい。悪いようにはしませんよ」

「だから他人の助けはいらんって。なんか急に会話が成り立たなくなったな」

「ポッポッポッ」

「また変なのに関わってしまった」


「行ったか。領主ってたしかモンスターの偉い奴だったような。だったらあいつも騎士と変わらないじゃないか。にしてもこの薬、すごく怪しい。ハァ、今日のところはもう帰るか」



「フゥ、やっといつもの市場か。今日一日歩きっぱなし、しかも妙なのにも会って緊張したせいかだいぶ疲れたな。さすがにこんなに遅い時間だと市場は閉まってるか。あれ、この花って花屋のだな。出しっぱなしか。ああ、元気がないからか。そうだこの薬は元気が出るとか言ってたし、僕は使う気もないから君にあげよう。元気になれよ。あーあ、次はどうするかなぁ。いっそ西側の端っこで一騒動でもあればやりやすくなるんだけどなぁ。どうしたものか」



「ドンさんお疲れ様」

「あぁん?シモザかぁ。午後は街中かぃ」

「うん。最近は一番やりたくない場所だよね。やだなぁ、人間って話が分かるせいでむしろ話にならないことが多くってさ。なんか妙に反発してくるんだよね。なんでだろ?」

「元々我がつえーからなぁ、人間ってのはぁよぃ」

「ほんと。あ、そうそう。さっき外で聞いたんだけど、また街に変なのが出たんだって。ドンさん知ってる?」

「おめぇーはよぉ、ほんと知らねぇのかよ、あぁん?最近色んなことが城下で起こってんじゃねーか。変態どもの狂乱によぃ、暗闇坊主の悪行ときてだ、なんと勇者の登場ってんだいなぁ」

「勇者?」

「んだぁ、まじもんで知らねぇんかいな。勇者が出たってんだ」

「でも勇者ってすでにいたような。あ、そうだよ、セツカさんが魔王討伐に行った時に勇者がいたって。まぁ僕は城壁の向こうに住んでるし、こっちには業務報告で来るだけだからよく知らないけど」

「勇者つってもそれとは別もんだわ。最近のことんだがよ、剣抜いたやつがいるってぇんだ」

「えっ、つまりもう1人勇者が出たってこと?なにそれ一大事じゃん」

「だろぅ?」

「じゃあもう剣はないんだね。だったら1度くらい見ておけばよかったかな」

「いんやあらぁ」

「は?」

「ちゃんと刺さっとるわ。だもんでよぉ、みんな困惑してデマなのか噂になってんだわ」

「なるほどー。話しの出どころは?」

「わかんねーんだわ。たがなぁ、噂によりゃ勇者ってのはでっかいヤギ連れた黒髪の小僧だって話しだよぃ。剣抜いてなーんかしてたらしぃわ」

「ヤギを連れた少年?うーん、なんか既視感があるような」



「はぁ、とりあえず仕事しなきゃ。でも今日はのんびりやろーっと。ん?なんかいい匂いがする。あっちかな」

「いらっしゃい、いらっしゃーい」

「あ、ここ昨日の市場か。いいなぁ、こういうところなら破天荒な同僚はまずいないよね。いっそあの辺の、例えば花屋にでも転職しようかな」

「あらお兄さん、たしか昨日の。今日は手持ちあるかしら、お花はいかが?」

「あはは、すみません、今業務中でして」

「あら残念」


「あれ?この花すごく色艶がいいですね」

「本当ね、おかしいわ。昨日までは元気がなくてどうしようか困っていたのに」

「あ、もしかして何か肥料でもあげたのが今更効いてきたとか」

「水しかあげてないけど」

「水だけ?いつもと変わらないってことか。それは謎ですね。うん?なんか今」

「どうかしたの?」

「この花が今動いたような気がして」

「ちょっとお兄さん、冗談にしてはイマイチよ」

「うーん、気のせいかなぁ?」


「あら、土が盛り上がったような。やだ、本当に動いてる」

「あ、根っこが伸びて、茎が太くたくましく、って花はこんなに急成長するものなんですか?」

「するわけないじゃない!」

「ですよね、こ、これなんかまずい!ドンさん!ドンさーん!」


「おうよぉ、どーしたぁ!お前がよぉ、叫ぶなんてなぁおいぃ!」

「説明は後で、とにかくこの花を遠く、人のいない遠くに投げ捨てて!」

「よーけわからんがぁまかせとけぇやぁ!おらおらぁ!見せもんじゃぁねーぞおらぁ!てめぇーら怪我したくなかたっらそこどけやぁぁぁ!こんな植木鉢如きよぉ、とぉぉぉぅりゃぁぁぁぁ!」

「うわぁっ」

「あらら」

「す、すごい。城壁の向こうまで飛んでっちゃった。知ってはいたけどとんでもない腕力」

「飛んでったのは西側ね」

「ですね。ドンさん、僕は騎士を呼んできます」

「任せたぞぃ。だがこの場ぁよ、思いの外落ちついてんじゃぁねーか。だでよ、おれぁ戻るわ」

「うん、ドンさんありがと!」



「こちらです」

「どうもですぅ。うーむ、ここに動く花の鉢植えが落ちたと」

「はい。その場に居合わせた交通課職員によると急成長を始めたため危険と判断、同じく交通課職員により、えー、街から投棄し城壁を越えてこの場所に着地。以上が経緯です」

「にわかに信じられませんね」

「はい」

「街の中からここまで投げるとはぁ」

「そっちですか」

「街の方は?」

「落ち着いています。急なことでしたが通行人などは何が起きたのかわかっていなかったようです。それに最近色々あって、皆慣れてしまったようですね、ははは」

「おやまぁ。さてさて、あとは動く植物ですかぁ」


「ブンドウ殿はどうお考えになりますか?」

「うーむ、モンスターである可能性は高いでしょうが、植物型のモンスターは初めて聞きます」

「私も同様です」

「騎士ハンドバ、あなたはどう考えますか?」

「ハトの仕業でしょうか。昨夜、城壁北東部の周辺でハトの目撃情報が上がっています。付近にいた兵が動向を密かに観察したと」

「私も読みました。ですが周囲を警戒するモンスターがいてぇ、一部分しか見ていられなかったそうですね。そしてぇその場には暗闇坊主なる者もいたと」

「例のイタズラ坊主、まさかハトと関わりがあるのでしょうか」

「わかりません。偶然出会ったのかもしれませんしぃ、何にせよ警戒は強めたほうが良いでしょう」


「ただ今回の件、この2者が関わっていると考えると動線が上手く引けます」

「というとぉ?」

「ハトが植物型モンスターを暗闇へ渡す。そして暗闇は城内へと戻り花屋に設置」

「なるほどぉ。イタズラの延長線と考えると確かにやりかねません。ハトは街を混乱させることが出来、暗闇坊主はイタズラによる満足感を得ると」

「はい。ハトはもしかすると進軍の準備を進めているやもしれません」

「以前からぁ懸念はありましたがとうとう動き出すか。この推測は十分にあり得ますねぇ。ですがまだ推測です。確定しているのは昨夜北東の城壁に現れたこと、暗闇坊主と接点を持ったこと、そして今日植物が動きだし異常な生態を見せたこと」

「そしてその現場には肝心の花がない、ということでしょうか」

「ええ」


「ここに割れた鉢植えとその土もありますが、中の花がない。ブンドウ殿、まさか移動したのでしょうか」

「誰かが持ち去ったかもしれませんねぇ」

「となるとやはりハトか」

「その可能性は、どうでしょうかぁ。元々外に持ち出す算段であればぁそうですが、実際は偶発的に外へ飛ばされました。その位置を把握してぇ回収というのはいささか難しいのでは?どこに飛んでくるかわからず、日中城壁周辺にぃ潜むなんて。しかも街中で処分される可能性の方が高い。はっきり言ってぇ今回の結果は想定外でしょうぅ。どのような経緯であれ、警戒が強まる城周辺で見つかるリスクをかえりみず待機するなどぉ狡猾なハトからすれば考えられませんよぉ」

「それは、そうですね」

「ハンドバ殿は結論を急ぎすぎておりますぅ。調査は慎重に進めねば行き先を誤りますぞ」

「う、ブンドウ殿。失礼いたした」

「いえぇ」

「経験豊富なブンドウ殿と捜査出来ることを幸運に思います」

「いえいえぇ、これは慣れです。私にもかつて急いたことで痛い思いをしたことはありますから」


「さて本題に戻りましょう。花は何処へ行ったのかぁ。それがわからなければ調査は進みません」

「可能性はどこでしょうか」

「動いたと報告にありましたね。もし自走したならば地上かぁ、もしくは地下なんてこともあるかもしれませんが、方法はさておき植物の、いえ生物の習性からするぅと基本は食事でしょう」

「水ですか?」

「候補にはなるでしょう。この近くで水場といえば、西の領地に確かありましたね」

「トノが治める土地ですか。しかも最寄りとはいえそこそこ距離があります。すぐには追えないかも知れませんよ」

「ふむぅ」


「如何なさいましたか」

「もしも、もしもの話ですぅ」

「はい」

「もしもその植物があなたの言う通りぃハトの仕業だとします。いえそうと受けとれれば良いのか。それが西側へ向かった。意図的かぁ偶然かはこの際構いません。もし西に向かっていればその事実に問題がありますぅ」

「ハトの手の者が犬猿のトノの領地へ向かったということですね。これは確かに」

「まずいですねぇ。何が起きてもおかしくない状況です。最悪を言えば全面抗争もありえます。北と西。その戦いが始まれば我々も巻き込まれますぅ。いやはや、きな臭くなってきましたなぁ」

「そうなれば安全なのは南ぐらいでしょうか」

「ええ。しかしそのような状況をハトが作るでしょうか?やはりこれは偶発的に起きた事件と考えるのが妥当?それとも何か企みがあるのか。転移できるトノに物理的な距離は関係ない。下手をすれば寝首を掻かれるのはハト。ふーむ」


「南とえいば魔族、でしたか」

「彼らの仕業も考えられますがぁ、争わせる理由は?」

「確固たるものがないことにはらちがあきませんね」

「ですねぇ。私は戻ります。団長とこの件について話してきますぅ」

「承知」


「ところで先ほどのあなたの言葉で気になったことがあるのですが」

「私の発言に、ですか?」

「はいぃ。ハトから花を受け取った暗闇を指して街へ戻ったと仰いましたなぁ。何か確信がおありで?」

「ああ、いえ根拠はありません。ただこの周辺でのみ活動していることを考えるとどうも街の中に住んでいる者が怪しいと思ったのです。先入観で話すのはよくありませんね。自重いたします」

「いえいえ。何かご存知かと思いましたがぁ、中々尻尾を掴ませてくれませんなぁ」



「報告です」

「何だ」

「西の街より文が。急ぎとのこと」

「ほう」


「なんだとっ!」

「トノ様、いかがなさいましたか」

「西の国境付近が突然植物に覆われたらしい。今尚増殖を続けていると書かれている。そしてこのことを我らの仕業と勘繰っておるようだ。我らが西と手を切ったのではとぬかしおるわ。愚鈍な人間どもめ、それで困るのはお前達だろうに。むしろよくあの踏文を持ってこれたものだ」

「大声で呼ぶ者がおり、我が配下が向かい受け取った次第」

「そうであったか。ご苦労。仕方がない、状況を確認しに行く」

「我らもお供いたします」

「いいだろう。行くぞ」



「何だこれは」

「もはや森と言っても過言ではありませんな」

「それも全て意思を持っている。なるほど、これでは西の人間では通ることは出来まい」

「払いましょう。炎が得意なものを連れ対応いたします」

「任せる。しかし突然変異か?植物のモンスターなど初めて見たぞ。だがもし意図的なものであれば、ふむ、このような仕業が出来るのはハトか、三馬鹿か。まさか西側が?自作自演とも」

「それはどうでしょうか。西に我らに対抗出来る力があるとは思えません。それと三魔は今人間と共に暮らしています。このような争いの種を生むことをするでしょうか」

「ならばハトか」

「かねてより奴はモンスターの強化を目的に実験を行っていると聞きます。その研究が成功しハトめはその成果を見せつけてきたのやもしれません」

「ふん、小賢しい。だが口惜しいことに確かにこれはオレの手に余る。力で叩き伏せるオレとは相性が悪そうだ」

「そのための我らです」

「頼りにするぞ。さて、オレは得意なことをしてこよう」

「ご武運を」

「ふん、転移も出来ん鳥如きがいい気になりおって。礼としてオレの手で身の程を教えてやろう」



「ハ、ハト様」

「どうしました、何事です」

「トノが」

「トノ?あのゴリラがどうしたのです」

「ここに現れました」

「なんと!なぜだ、均衡は保たれていたはず、奴の目的は」

「不明。しかし我が軍が壊滅」

「なんですと!まさか三下どもではなく我が精鋭を狙ったか!ンンン、ポッ!どこです、トノはどこにいるのです!」


「オレならここにいるぞ」

「き、きさま!なぜ突然、何が目的です」

「とぼけるな。先に手を出してきたのはキサマだろうに」

「何のことかわかりません。説明なさい」

「ふん。知らぬふりか。まあどちらでも構わん。弱者の努力を踏みにじるなど無粋、そう考え今まで見逃してやっていたが、いい加減目障りだ。消えろ」

「なんと身勝手な、不遜極まる。いいでしょう。ここまでやられて私も我慢など無用なもの。トノよ、その強さは認めましょう。ですが、自惚れは身を滅ぼしますよ」

「ほう、その間抜けな容姿以上に笑わせてくれる」

「お、おのれぇ!言わせておけば!生きて帰れると思うな!」

「ふん、小物のセリフだな。お前が領主など不釣り合いだ。あの時の人間の方がまだマシだな」

「最上の、我が執念の先にある者よ、覚悟するがいい!我が力をもってお前を葬り、西の地をもらってさしあげましょう!」

「やってみろ。さあ、キサマもモンスターならば口ではなく、その身で強さを示してみせよ!」

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