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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
第3部 伝承の勇者 3−1.変わりゆく時代

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117/124

117. 西の国境だぴょん

「これからどこに行ったもんかな」

「行きたいとこに行けばいい」

「自由は今のオレには重荷だ」

「ならば魔王城へ向かうがいい」

「何しに?」

「俺の墓参りだ」

「俺って、お前の?」

「俺以外の誰だというのだ。元勇者よ、我が御前で手を合わせ敬うがいい」

「墓に行くのか、えーっと、シ、シドってさ」

「なんだ」

「自分の身体が近くにあるとわかったりするのか?」

「うーむ。なんとなくわかるが、何故だ?」

「いやいや、なんでもないさ、ははっ。じゃあ行くか。魔王ボディはもう跡形もないけど」



「ふへぇ、やっと着いた。魔王城かぁ、懐かしいなー」

「人間にとって魔王城って懐かしむものか?」

「あの時はがむしゃらに強者と戦って、はぁー今思うとアホだなオレ」

「ようやく気づいたか」

「うっせーな」

「それは成長の証だ。誇るがいい」

「お、おお。けなすのか褒めるのかどっちかにしてもらえると助かる。どんな表情すればいいか迷うんだよ」

「謙虚にしてろ。さ、あっちだ」

「へいへい。シドはさ、どんな事実であっても真実を知りたいと思うか?」

「ああ」

「そうか。じゃ、心配ないな」



「お、おおお、俺のボディがなくなっとるじゃぁぁぁん!」

「気にするなよ。今のお前は立派な万年筆なんだから。全部忘れて第2の人生を精一杯書き記せばいいんじゃね?」

「誰だよ!俺の墓荒らした奴!せめて埋めていけよ!わからないようにしておいてくれたら、ぐぐぐ、それはそれで、うおぉぉぉぉぉ!」

「ダグだからなぁ。にしてもうるさいペンだな」

「お前にこの気持ちがわかるか!」

「どんな真実でも知りたいって言ってたじゃないか。忠告しようとしたけどなんか大丈夫そうだったし」

「自分の墓荒らされて平常心でいられるか!」

「普通は自分の墓荒らされてもわからねーだろ」

「俺のボディは、ボディはどこに!待てよ?そういえばお前、なんか俺の魔力に似た感じになってないか?」

「妄言書くペンはもてないぞ」

「おまえかぁぁぁ、かえせぇぇぇ、俺の身体をかえせぇぇぇー」

「もう諦めろよー。ほら、リサイクルされたと思えばなんか嬉しくないか?」

「なるかボケー!」



「魔王城はすっからかんだな。誰もいねーじゃん」

「王がいないのだ。いるわけがないだろう」

「そりゃそうか」

「はぁ、俺の身体」

「ペンのくせにため息つくなよ。ちっ、辛気くせーな。お?見ろよあれ、お前の玉座だ。懐かしいなぁ。ここでお前を殺したんだよなぁ」

「恨みしか湧かぬ。2度も殺しおって」

「しつこいなー。そうだ、もしかしたら骨の一本くらいはクロが残してるかもしれないから、それでペン作ってもらえばいいんだよ。名案だな」

「迷案だ」

「つってもあそこに戻りたくないからやめとくか。なんか遺品とかないのか?」

「俺の遺品なんて、大山羊がまとめておいてくれたら残ってるかもしれんな」

「あのヤギか。あ、そうそう。あいつに腕ねじ切られたから変わりの腕欲しくてお前の身体使ったんだからあいつに文句言えよ。もとはと言えばあのヤギのせいなんだから」

「また会う機会があったらな」


「なー、魔王城なんだしなんか隠し財産とか財宝の類をどっかに隠してないのか?」

「さあな」

「あるんだな」

「あるとは言っていない」

「ないとも言ってねーな。ないのか?」

「さあな」

「よーし、探すかー。この辺の瓦礫が邪魔だから適当に魔法でふっとばすかな。よっと!」

「俺の思い出マイルームがぁぁぁぁぁぁ」

「どこにあるんだ?」

「椅子の下です」

「早く言えばいいものを」


「ここを押すのか?あん?どーなってんだ?」

「バカモノ、そこじゃない、もうちょっと裏側に」

「ここか」

「ちっがーう」

「わっかんねーよ。ん?お!動いた動いた」

「ふぅ、ヤキモキさせてくれる」

「んで何があるんだ?正直金があるといいんだけど。オレ文無しだから」

「そんなものはない」

「役に立たんなぁ」

「魔王に金がいると思うのか?」

「なんだ、お前も文無しかよ。貧乏魔王め」

「くぬぅー!」


「えっと、短剣?ふーん、結構いいものなんじゃないかこれ」

「当たり前だ。俺の秘蔵の品だからな」

「秘蔵って、他に何もないじゃん」

「ふん。どうせ大山羊が好きなだけ持っていったんだろう。あいつがめついから」

「まぁいいや。最悪これ売って路銀にしよーっと」

「お、お前はどこまで俺の魂を削るつもりなんだぁ!うわーん」

「冗談だって、泣くなよ。ペンの涙ってインクかな。さってと、これからどうしようかな。とりあえず外行くか」



「これでよしっと」

「墓を整えてくれたことは礼を言おう」

「いいってことよ。この墓石にさ、お前自身でなんか書いとこーぜ」

「よかろう。俺、ここに眠る」

「いや、おかしいだろ。寝室で今寝てるみたいじゃねーか。起こすなよ!みたいな」

「じゃあ、最強の魔王、ここに眠る」

「墓荒らし、許すまじ。とかでいいんじゃねーか」

「お前喧嘩売ってんの?」


「さーて、どこ行くかな。おお、ここって海が見えるんだな」

「ああ。ん?お前は海を見たことあるのか。この国の人間は南に行くかこの魔王城まで来ないと目にすることは出来んのだが」

「まーな。ちょっと昔に海に囲まれた島国で生活してたんだ。懐かしい。この海の向こうには何があるんだ?やっぱ大陸か?」

「それは、ふむ。よし、それはお前の目で確かめてみろ」

「めんどいなぁ」

「いい雰囲気を出しといてロマンがないなぁ」

「ロマンねぇ、んじゃそーするか」


「おい」

「なんだー?」

「俺の生家が西にある」

「そっか」

「そっちにも海があるんだが」

「わかったよ。西だな」

「ああ」

「よーし、いざしゅっぱーつ」

「ヒカル」

「ん?」

「感謝する」

「おう。っていうか初めて名前呼んだな」

「ふん」



「でだ」

「うむ」

「やっと西の領地に着いたと思ったらいきなりゴリラの群れに襲われるし」

「うむ」

「やっと巻いたと思ったらだ」

「うむ」

「今いる場所はお前の知らないところだと」

「うむ」

「つまり?」

「迷子になっちゃった」

「なっちゃったじゃねーよ!」

「人生とは迷い生きるもの」

「うっせーよ!」

「まー、とりあえず西っぽい方に向かえばその内いい感じにいけるだろ」

「具体的なところが1つもなかったな」

「見ろ。太陽がのぼっている。ということはあっちの方が西だ。たぶん」

「へいへい。もーどーにでもなれってんだ」



「なー」

「うむ」

「あれってたしか王城だよな」

「人間の城だな。どうやら東に向かっていたようだ」

「おい」

「これで進むべき道がわかったな。素晴らしい」

「知ってるか?伝説の剣って地面に突き刺さってるもんなんだと。お前さ、伝説のペンになってみないか?」

「わ、わるかった、地面に刺して放置はやだ、もうしないから」

「ちっ、とりあえず西に戻るか」

「おー」

「調子のいい奴」



「はぁー、なんでこうもゴリラばっかり出てくるんだ」

「ゴリラ領だからな」

「もう見飽きた。たまにはドラゴンとか出てこないかなぁ」

「そんな架空の存在を信じるとは、ヒカルはおこちゃまだな」

「へし折るぞ」

「お、おお、俺だって見たことないんだぞ」

「あーはいはい。こっちではな。ん?」

「誰かいるな。気をつけろ。あの雰囲気は只者じゃないぞ」

「わかってる。あれは、オレじゃ勝てんな」

「どうする?」

「決まってる。逃げるぞ!」



「追ってくる気配もない。よかった」

「ヒカル」

「あん?」

「お前の選択は正しい。お前は成長している。だが、だめだ」

「なにを」

「小僧」

「ちっ!こいついつの間に!」

「やるしかないぞヒカル!」

「うっせーな、どうするよ」


「まぁ待て」

「お?平和主義か」

「そんなところだ」

「じゃ追ってくんな、さいならー!」

「おいこら小僧!待てっつってんだろ!」



「面倒なことをいちいちさせる」

「だったら追ってこなきゃいいだろ」

「話しがあるんだ」

「手短にな」

「偉そうに。お前たちは西の隣国に行くつもりか」

「そうだと言ったら?」

「頼みがある」

「聞くだけ聞いてやるよ」

「態度悪いのぉ。西の様子を見てきてくれないか」

「なんで」

「西側の動きが活発化している。何が起こっているのか気になるのだ」

「自分で行けばいいだろ」

「この地を今は離れるわけにはいかん。頼めんか?」

「うーん」


「ヒカル、受けよう」

「なんでだよ」

「どうせあてはないんだ。目的があった方が動きやすいだろ。その中で気になったものをその後で追ってみればいい」

「まぁ、それも悪くはないか。お前にしてはいい案だ」

「はっはっはっ。この魔王シドを敬うがいい」

「魔王シドだと?どこにいる」

「これ」

「ペン?」

「うはははは、我が名は魔王シド。ひれ伏すがよい!」

「お前そういうのは相手を選んで言えよ。ん?おい、どうしたんだこいつ?」


「どういうことだ、なぜシドがペンになっている」

「死んだから」

「俺は転生したのだ。世界最強のペンとしてな」

「まぁ、嘘ではないか。あ、でも超頑丈なペンがあったら負けるかもな。ライバルと出会ったらどうする?」

「ならば書きやすさで勝負だ。魔王の書き心地を恐怖するがいい。ふはははは」

「ペンまっしぐら」

「はぁ。小僧、すまんがちょっと説明してもらえんか。めまいがする」

「なんであんたにそんなことしなきゃいけねーんだ。頼み事ってだけでも厚かましいってのに」

「そうだな。悪かった。俺の名はラガエル。そいつの父、ソラは俺の友人なんだ」



「あー!思い出した!あんたあのイタズラツインズにいたずらされてた悪魔」

「くっ、ぬうぅ、あ、い、つ、らぁー!思い出しただけでも腹が立つ」

「もしかして、またなんかされたのか?」

「留守にするとすぐイタズラを、この間も俺の大事なデザートをぉ!プリーン!」

「引っ越せばいいのに」

「ついてくるんだよ!」

「なんのことかオレにはわからんが、仲いいんだな」

「いいわけあるか!」



「で、あんたの友達の悪魔の息子だったこの悪魔は死んで喋るペンに生まれ変わったってわけだ」

「シドよ、なぜだ、なんでペンなの?もっとマシなものにすればいいだろ。せめて剣とか」

「その場にはこれしかなかったのだ」

「はぁ、ソラに合わせる顔がない」

「関係ないだろ。俺の父と友であったからといっても俺には関係ない」

「そうもいかん。頼まれたし、お前の父の死の原因は俺にもある」

「どういうことだ?」

「お前の父、魔王ソラは魔獣化の材料として連れて行かれたのだ。人間達によってな。あいつは強力な力を持つ悪魔だったから。なんせ魔王だ。いや、人であるレミファのおかげでもしかしたら天使になっていたのかもな。だから人間を傷つけなかったのかもしれん」

「ああ、あの光景はそういうことか」

「覚えていたか」

「まあな」

「その時にソラからテレパシーが飛んできたんだ。お前を頼むと」

「ふむ。母は?」

「巻き込まれて、彼女は」

「わかった」

「ソラはそのことをおそらく知らない」

「そうか」

「ああ、俺はあの時のことを忘れられない。大切な友人を失ったのだから」



「ソラ、なぜ抵抗しなかったのだ。レミファまで巻き添えになったのに」

「やあラガエル」

「デモロか。何をしに来た」

「ソラが人間に連れて行かれたみたいだね」

「お前にも声が届いたか」

「うん。友達だから、じゃあなって。笑ってた」

「あいつは最後まで陽気な奴だったな」

「ほんとソラらしい」


「人間はキライだ。品性にかける」

「気に入らんのは同じだ」

「よく言うね、君だって元は人間じゃないか」

「そうだな。わざわざ来たのは、まさか仇でもうつつもりか?」

「やらないよ。人間達は半魔を作っている。あれは厄介だ。デモクも復讐なんて悪魔らしくないと言ってやらない。だから僕は勇者を渇望するよ」

「渇望したところでそんなもの、おとぎ話だろ」

「僕が造る」

「勇者を?」

「そうだ」

「出来るものか」

「やるさ。魔王は僕が継ぐ。いいね」

「好きにしろ」

「必ずやってやる。勇者に救世を」


「人間達はキライだ」

「さっきも聞いた」

「奴らとは美学が違う。悪魔はね、静かな湖面を見てると波紋をお起こしたくなる奴なんだ。小石をなげて起こる波紋は綺麗だ。静かで規則正しく波打ち広がる。自然が生み出す真円を描く現象。それを色んな場所に起こすと波紋同士がぶつかって新たに波を作る。その輪の重なりが美しいんだ。だからさ、ばちゃばちゃやったり大きなものを投げ込むのはダメ。波は乱れる。そんな波紋を起こすのが人間だ。品性を損なうから僕は人間がキライだ」

「悪魔ってのは難儀な種族だな」

「いまや君もそうだろ」

「半分だし、そんな美学を抱いたことはないんだがな」

「ふん、半魔め」



「もしかしてシドって天然の半魔なのか?」

「そうなるな」

「ってことはオレって半魔の半魔なのか」

「ヒカルはクォーターということだな」

「今のオレってどんな存在なんだろ」

「悪魔みたいな人ってとこじゃないか?」

「字面がすげー嫌な奴になってる」


「そういや、しばらく行ったら海を渡るんだよなー。なーラガエルだっけ、いい方法あるか?」

「海か。海を渡るのは大変だったぞ」

「へー」

「かつて外の世界を巡った時のことだ。この国と違って魔力が乏しいようで、うまく力が使えなかったんだが、そんな時に船が沈んで海の上を走ることになった」

「そりゃ大変だ」

「ふん、俺はモーレツに走れば沈むことなく進めると気付いた。半魔である俺には転移は使えんが強靭なこの身体がある。海を渡るくらいどうということはないのだ」

「全然参考にならねーよ」

「やったなヒカル。次の目標ができた」

「海を渡るのは決めてたことだろ?」

「そうじゃない。猛烈ダッシュで海上を走れるようにするのだ」

「できるか!」


「シド、名前がわかればテレパシーくらい届くかもしれん。困ったら声をかけろ」

「気が向いたらそうする。ではな、ラガエル」

「ああ。2人とも達者で」

「あんたもなー」

「いいとこに引っ越せよ。ポジティブふぁいとー」

「くっ!」



「ソラか。久しいな。シドも元気だったし。身体はなかったが、まぁ魂は活力に満ちていた。だから元気ってことにしておこう。そうだ、久々にデモロに会いに行ってみるか。あいつは今どこにいるんだろうなぁ」



「遂に到着だ!さあここから隣国だ」

「パッと見じゃ境目はわからんけど。じゃー行くか」

「待て!」

「おおっと。なんだよ」

「お前は今どこにいるのかわかっているのか?国境だぞ」

「わかってるけど、んで?」

「そのまま渡るつもりか!」

「つもりも何も、なんかあるのか?実は結界みたいな」

「そんなものあるわけないだろ。もうちょっと頭を使え」

「このっ、うっせーな。じゃどーしろってんだ」

「国境を渡る時の常識を知らんのか。まったく」

「いいからさっさと言えって」

「国境を渡る時はだな」

「おう」


「じゃあいくぞヒカルー」

「はいはい」

「はいそれじゃ」

「せーのっ」

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