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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
第3部 伝承の勇者 3−1.変わりゆく時代

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116/124

116. 酒に呑まれるヴァーレではない

「おつかれ」

「トラドか」

「おいおい、随分飲んでるな」

「たまには酒に溺れたくなる時もあるのさ」

「お前バレーのことになると見境ないもんな」

「持って生まれたサガだな」

「言葉はかっこいいんだがなぁ」

「お前も飲め」

「はっ、ヴァーレさんにお茶以外を勧められるとはな。ターナ、一杯頼む」

「はいよ」


「この村に来たのは俺に会うためなんだってな」

「誰に聞いた?」

「ブンドウだ。まだいるよ。遅くなったし最早急ぐ理由もなし、だとさ」

「そうか。ブンドウにも聞きたい事があるし、呼ぶか。西についてだ」

「いいぜ。ちょっと待ってろ」

「すまん」

「すぐ戻るから酔い潰れんなよ」

「潰されるものか。酒に呑まれるヴァーレではない」



「ヴァーレ、起きてるか?おいヴァーレ」

「ばれーがわるくてなにがすきなんだー」

「文法がおかしくなっていますねぇ」

「やれやれ」

「ヴァーレ殿はぁ何を話したがっているのでしょうか」

「西について、とだけ聞いた」

「西、ですか。領主のことを指しているのか、それともぉその先のことか」

「俺とあんたに用があるってことは、その両方だろ」

「西、隣国に動きがあったと?」

「かもな。俺もその辺りを危惧した王妃に直接依頼されたことがあって、そのことだと思う」

「なるほどぉ、ではその辺りはヴァーレ殿が起きてからですなぁ」

「そだな。おい起きろヴァーレ、ったく伝説が聞いて呆れるぜ」

「ばれーはぁ、ばれーはわるくないんだぁ、このゔぁーれがわるいんだぁ」

「意味わかんねーよ。おいおっさん、起きろ」



「さて、2人とも揃ったな」

「お前が起きる間に一杯飲んじまったよ」

「トラド。西の領主、トノに会ったのは覚えているな」

「ああ。リングオックについてなのか?」

「そうだ。我が王国の西に位置する国、リングオックとトノはずっと以前から交流がある」

「存じておりますぅ」

「もったいぶらずに進めろよ」

「わかった。だが少し整理しながら話そう」

「はいはい好きにしてちょーだい」


「ブンドウ。先日のことだ。トラドと俺達近衛は北西の砦で領主トノと出会った」

「アイズ殿の報告書は読みました」

「不思議に思わなかったか?」

「トノはなぜあそこにいたのかぁ、ですね」

「そうだ。トノにとってハトは目障りではあるが、勢力としてはトノが明らかに優勢。はっきり言って取るに足らん相手だ」

「なのにあのゴリラは北と西の境にある砦にいやがった」

「トノは城なし領主として有名だ。奴は城を持たない。転移が可能な最上の者にとって城など意味がないからな」

「邪魔ならいつでもハトを始末出来る、か。つくづく便利なこった」

「つまりわざわざ砦にこもってハトを監視する必要もないわけですなぁ」

「だとすると、なぜあそこにいた?そしてもう1つ、マルマルはなぜそのことを知っていた?」

「あいつも絡んでるってことか?」

「そこはまだわからん。ただトノに関して1つ推測が立つ。王妃と話したのだが、西の人間を砦で匿っていたのではないか、と彼女は考えている」

「へぇ、それを確かめるために俺に依頼をしたわけか」

「そういうことだ」


「なぜぇ、リングオックの者を匿っていると?何か根拠になるものがあったのですか」

「お前達は知っているだろうが、あー、いやいや。こんなところで不用心だな、俺酔ってるのかな」

「さっきしっかり酔いつぶれてただろーが。記憶ないんかい。まあターナは大丈夫だ。それとここの連中も」

「ふむ。場所を移そう」

「相変わらず用心深いな」

「諜報機関に身を置くのだ。当然だろう」

「トラドさんはぁ、むしろ不用心なのですよ」

「へいへい、ブヨージンですみませんね。じゃあ俺の家に行くか」

「では、ターナ殿だったな。ご馳走になった」

「はいよ、また明日。ただし今度はジニスと一緒に来な。今日は一緒に食事出来なくって残念がってたよ。あんたのことを随分と慕っているのが痛いほどわかったさ。天才とはいえまだ子供なんだから、気を使ってやりな」

「ああ、明日はそうさせてもらうよ」



「適当に座ってくれ。んで、さっきは何を言おうとしたんだ」

「リングオックからスパイが入っていることはお前達は知っているな」

「なんだそのことか」

「この村にもぉ、いそうですね」

「おそらくいるだろう。トラド、目星はついているのか」

「いや」

「仲間を信じたいのはわかるが、現実は甘くはないぞ」

「うるせーな。昔みたいにバッサバッサと切り捨てたくないとは思うけどな、本当にわからんのだ」

「そうか」


「ジョーやリーメ、ターナだって。あいつらには村の運用を任せている。情報を管理したり、もしくは村の出入りが多いあの3人が最有力候補とみてる」

「では先程ターナ殿の前で話そうとしたのは、彼女の動きを見るためですかぁ」

「ああ。けど疑うような挙動じゃなかったろ?ほんとに違うかもしれんから俺にはもうわからん。2人から見てどうだった?」

「俺は気にならなかった」

「酔っぱらいの言葉は信用ならん」

「私も先程の場では特にぃ」

「そっか。じゃあまだグレーのままだな」


「ヴァーレ殿、この村にいた者の中に知らない者はいましたかぁ?」

「いや。大半は騎士と戦士だった。登録されているものがほとんどだったし、どこかで見ている顔ばかりだ」

「無駄に歩き回ってるわけじゃないんだな」

「当たり前だ。俺は西のスパイが紛れていないかチェックするためにほぼ全ての人の顔を覚えている。定期的に各地を見回り続けているのはそのためだ。誰かと違って遊び半分のお使いではないさ」

「ふん、言ってくれるじゃねーか」

「なんかぁ、確執を感じますね」

「こいつはな、俺が各地を回っていることを冒険をして楽しんでいると思っているんだ」

「そこまでお気楽じゃない。色んな所に行けていいなと思ってただけだ」

「ほらな?」

「だってよ、来る日も来る日もじーさんのお使いなんて嫌気が差すって」

「俺だって昔はやらされていたさ。お前が近衛に入ってくれたからこそこうやって自由に活動出来るんだぞ。トラドには王も感謝していた」

「ふん、だったらもうちょっと好きにやらせてほしいもんだぜ」

「私達からすると自由人だったように見えましたがねぇ」

「う、うるさい、話が逸れたな。西のスパイだったよな」

「ああ。その前に、酔冷ましにお茶でも淹れるか」

「しっかり目を覚ましてくれよ。なあ、お前まさかそのためにいつも持ち歩いてるんじゃないよな」

「ははは、バレたか。ヴァーレなだけに。以前は酒で時間を潰していたんだがな、気持ちが落ち着くからといって教えてくれた奴がいた。きっかけは昔、旅の道中で知り合ったそいつから勧められてな」

「それはよかったですねぇ」

「そうだな」



「それで、スパイを匿っていたという根拠については?」

「ああ。最近変人が多発しているな」

「多発っていうのかな」

「これは偶然と考えているのだが、どうもそれに便乗している奴らがいるのだ」

「マルマルじゃないのか?」

「違う。マルマルたちの動きとは噛み合わない。あれは西のやり方だ。奴らは混乱が生じたとみるや動き出す」

「常に動けるよう準備してるってことか?」

「さあな。ただ脱走の件は計画的だった」


「それはどうやって知ったんだ?」

「偶然だ。ローの魔獣化の折に研究資料を漁るものを見つけ捉えた。そいつが西側の者で取り調べを続けていたのだが、以前城下でマルマルと騎士や魔法少女とやらが騒動を起こした件があったろ」

「あとはぁ天天とかいう謎の怪人もですねぇ」

「あ、ああ天天。あれはア、あー謎の怪人だったか、それもだな。その騒ぎに乗じて捉えた者が脱走したのだ。1人でどうにか出来るものではない。手引した者がいたのだ」

「トノじゃないのか?パッと来てサッと出ていったとか」

「監禁していた部屋の錠前が外されていた。ドアから出ていったのだ」

「そう見せかけただけとか」

「いや、兵士の1人が逃げる姿を目撃している。その日、ベスボとアイズは悪王一味の対応と並行して脱走者の捜索を行っていた。西はソノマに興味を持っているからアイズはその辺りも警戒していたらしいが」

「トノに会った日か」

「そう。そして王妃も脱走者を追って城内を調べて回っていた。王妃は魔力の動きに敏感で転移があると気づくそうだ。その日は特に感じなかったという」

「あのばーさん相変わらず規格外だな」

「お前がいうか」



「ふぅ、面倒なことになってんなぁ」

「それで近衛騎士が行き着いたのが砦ですかぁ」

「結果的にな。俺とトラド以外はマルマルに誘導された形になる。奴の目的が何かはわからん」

「結局西の入国者は見つかったのですか?」

「ああ。トノとの戦いの後こっそり戻って確認した。脱走者の衣類が捨てられていたよ。それと数日は滞在したであろう痕跡も。火を使って食事をしていたようだ。脱走の手引きをした者がそこにいたのだろう。俺達がそこまで追ってこないと思ったかよほど訳ありか。しっかり証拠を残して砦に潜んでいた奴らは、おそらくトノとどこかに飛んで行ったのさ」

「そうなると追うのは難しいですねぇ」

「ないとは思うがトノが偶然その場にいたってことはないのか?」

「奴は西の隣国と取引を行っていると見られている。関与している可能性は十分あるさ」

「ふーん」


「ああ、それでか」

「何がですぅ?」

「アイズがトノを逃した理由。王国とは敵対しているようなそうでもないようなことになったわけだ」

「ま、そんなとこだな」

「なるほどぉ。そう上手く転がっていけばいいですが」

「トノ次第だろ?まぁ大丈夫なのか俺も心配だけどなぁ」

「あれは武人だ。情けを甘んじて受けるような奴じゃない」

「だといいけど」


「今回は情報の共有としてここまでにしておこう」

「そーだな。もう眠い」

「俺は吐きそうだ」

「外に行ってからにしろよ」

「お茶の効果はなさそうですねぇ」



「よー、おはよ」

「トラド殿、ヴァーレ殿は?」

「ここだ」

「私は城へ戻りますので、これでしばしのお別れですなぁ」

「そうだな」

「昨日は随分話し込んじまったし、眠い」

「この国を守るためですよ」

「近衛辞めたのに、やってることがあんまり変わってない気がする」

「それだけお前は頼りになるってことだ」

「褒められたところで嬉しくならねーよ」


「ふむ。国を守るためか。2人はこの国に守護者がいるのは知っているか?」

「守護者?近衛じゃなくて?」

「ああそうだ。そうそう、そいつが昨日話した俺にお茶を進めてくれた奴なんだ」

「ほぅ、何者なのですか」

「本物の伝説さ。こんな逸話がある。かつてこの地に栄えた王国があった。伝承に綴られるような国だ。そこの王はより大きな力を求めた。この地のみならず周辺の土地を我が物とするために。そして部下にとある研究を命じた」

「研究?」

「非道な実験だ。決して少なくはない命が弄ばれた。そして出来上がったある薬をそいつは使った。だが副作用があったんだ。狂気に呑まれバケモノとして暴れまわったそうだ。正気を取り戻した頃には国は瓦礫とかしていた。古代の王の話しさ」

「おい、それが生きてるって、まさか」

「そいつが研究していたのが魔獣化、つまり半魔の薬だ。悪王一味が、いや今は魔族だったな。奴らが使った薬の原型となるものを生み出したのが古代の王、守護者ラガエル」

「罪の意識で守護者ってことか。バカバカしい。酒に酔って暴れまわったようなものじゃねーか」

「そういってやるな。お前だってこの国を自分が潰したら同じ事するだろ」

「まぁ、それはそうかもな」


「それでぇその者が何か?」

「ラガエルと西側で会ってな。あいつも西の動きを見定めようとしている。ラガエルはトノとも気が合うらしく情報も交換してるみたいだから、また会った時には何か掴んでいるかもしれない」

「トノと気が合うって、つまり対等なんだよな?純粋な戦闘力なら三魔を超えると言われるほどの武人だろ。それと対等なんて。俺だって近衛総出で雷使って勝ったんだぞ」

「半魔の薬の危険性が分かる話だ。魔族とやら、放ってはおけん」

「色々と厄介なことが重なってきましたねぇ。暗闇坊主など取るに足らんように思えます」

「なんだそれ」

「いま城下を騒がせている小悪党ですよ」

「そんなのいるんだ。最近変なの多いって聞くし、ショウも大変だな」

「ええ。噂ではストレスで更に太ったとか」

「ほー。よしよし、報告がてらちょっと見に行ってみるかな」

「あの坊っちゃんも苦労してるようだな」


「ではそろそろ私は帰ります。ピックァリィン殿も待たせておりますし」

「俺もその内城に行くから、またなー」

「ブンドウ殿、あまり無茶はするなよ」

「ええ。お互いに。それではぁ」


「じゃあ、俺もそろそろ行く」

「おい、ジニスは」

「安心しろ。行くのは食堂だ。アンも話したがっているし、弟子たちの面倒もたまには見てやらんとな」

「そっか、ならいいんだ」

「ジニス。あの子を見ていると次世代が台頭してきたことを感じるよ」

「俺も感じた。この村のこともそうだけどさ、新しい時代の到来が近いのかもってな」

「まったくだ。年寄はそろそろ引退かな。さて、弟子の喜ぶ顔でも見に行くとするか」

「あいつ絶対喜ぶぜ。それと、食堂に行くならもう1人喜ぶ奴がいるな」

「ん?なんのことだ?」

「行けばわかるさ。きっとジニスは煽るからな。盛大にもてなしてくれると思うぜ」



「もうじき国境だ」

「やっとかよ」

「ただ歩いてきただけだろう。音を上げるには早いぞ。ここからが本番だ」

「うっせーな。お前はポケットに入ってるだけだからいいけどな、歩くのって疲れるんだぞ。それにいきなりゴリラの群れに襲われたりしたし。なんなんだここは」

「知らん。さっさと歩け。心臓貫くぞ」

「へいへい。まったく、囚人の気分だぜ」

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