11. 光の彼方へ
「出発するわよ。準備はできたかしら」
「はーい」
「みんないい返事ね、よろしい。ここは魔王領よ。マルのような犠牲は覚悟の上ではある。でもみんな生きて帰るわよ」
「ユミさんがそれを言う」
「ですね」
「僕も同意です」
「オ、オレはべつにこわくねーぞ、ねーんだぞ」
「お前ら、それ絶対聞こえないようにしとけよ。多分聞こえてるけど」
「ねえシロさん」
「なんでしょうか」
「ユミさんが先頭を歩くようになってから気のせいかモンスターとのエンカウント率が下がったような」
「きっと彼らも怖いんでしょう」
「だよね」
「生物としての本能が危険を察知しているのかと」
「これなら魔王城も簡単に行けそう、というかあの人なら魔王もやっちゃいそう」
「ですね。世界最恐、魔王城に降り立つ」
「あ、それいいですね、書いとこ」
「魔王も恐れる人類の切り札。導きの勇者を射抜き定めを捻じ曲げる存在」
「いいですねー。モンスターデストロイヤーとか」
「そうですね。いえ、モンスターだけではないですよ」
「そうね、恐怖の象徴」
「それはもう魔王ですよ」
「大魔王ユミア」
「くふふ、歩きながら笑いを堪えるのってちょっと辛いですね」
「あらそう。緊張感が足りないようだからあなた達が先頭を歩いてみる?」
「あ、あの、わたし事務なんですが」
「で?」
「いえ、先頭ですね、シロさん、一緒に行きましょう」
「はい、行きましょう、ぜひ」
「まったく。あの子達を見ていると現状にまいってる自分がおかしいのかと思えてならないわ」
「たしかにな。シロはともかくセツカはなんであんなに落ち着いてんだろうな」
「マルが倒れた時、驚いてはいたけど取り乱すこともなかったし。変な子」
「そういえばセツカのやつ、マルを埋めたところで何かしてたな」
「何かって?」
「なんというか、何もないところをじっと見てたり、独り言口にしたり」
「もしかしたらすでに精神に異常があるんじゃ」
「だとしても無理はないかもな。ユミ。この遠征、あまり長くは続けられないぞ」
「そうね。せめて魔王城が見えるところまでは行きたいものだけど、あの子達の様子を見て決めましょう」
「ああ。お前、あんなに怒ったふりして悲観しないよう仕向けたんだよな。わざと悪役をやるなんて意外だよ」
「え?ええ、そうね」
「お前。はぁ、ほどほどにしとけよ」
「この森、どこもかしこも変わり映えがしないですね」
「ああ、地図もいまいち上手く書けん」
「何かランドマークになるようなものがあればいいけれど」
「おっしゃる通りです。何かあるといいですね、ユミ様」
「そうね、シロちゃん。ふふふ、悪くないわ」
「ん?あれ?なんか変な感じがする」
「急にどうしたのセツカちゃん」
「なんか、妙なピリピリする感じがします」
「特に私は感じないけど」
「うお!なんだこれ!」
「おい、どうした!」
「ちょ、ちょっと、勇者くんの足元すごく光ってるわよ」
「なんか変な模様が、な、な、なんなんだー!うわぁぁぁぁぁぁ」
「勇者くん!ちょっとー!」
「みんな!戦闘体制をとって!あの子、いないわね。どこにも見当たらない」
「えーっと、いきなり消えちゃった。勇者くん、おーい!」
「近くにいそうにないな」
「モンスターもいない。少なくとも気配はない」
「クロ、さっきの魔法どう思う?」
「僕には検討もつかない。そういうシロこそ何か心当たりはないの?」
「何も。いきなり問答無用で消してしまう魔法なんて。この間のスフィンクスみたいに未知の魔法かもしれない」
「だとするなら僕らにはどうにも対抗手段がない。この状況、危険だ」
「ユミさん、どうしますか?探しますか?」
「ちょっと待って。マルもいなくなった。勇者くんまでいなくなっちゃったし。といってもあの子この遠征に必要かしら?」
「おい」
「冗談よ、これはもう引き時かしらね」
「そうだな、これ以上はもう無理だ。ここから無事に帰ることさえできるかどうか」
「ダグ。それは口にしてはダメよ。士気に関わる」
「すまん。さすがに動揺しちまって」
「みんな聞いて。これ以上進むのは危険と判断したわ。悔しいけど撤退します」
「勇者くんは探さないんですか」
「セツカさん。それは危険です。理解不能な現象を前にした場合、調査を行うのがセオリーです。ですが僕らは先程の現象を含め魔王領の最奥という脅威の中にいます。落ち着いて調査などする余裕はないと考えます」
「そんな、かわいそうじゃない」
「セツカちゃん、この周囲にいたらあの子ならすぐに分かる。それがないってことはここにいないか、もう」
「セツカ」
「わかりました。でもあの子はまだ生きてると思う。だから、書くとしたら。勇者、光の彼方へ」