104. がんばれ、僕らのダークネスシャドー
「よし、ようやく腰の痛みがなくなったな。中々辛い目にあったが僕の思うようにはいかなかった。次はもう少し目立つことをするか。そうすれば騎士の奴らだって」
「この衣の活用方法をもう少し考えてみるか。もしかするとまだ何かあるかもしれない。今わかっているのは、暗闇を纏うこと、裏返すと透明で見えないこと、伸びること、軽いこと。このくらいか。何かあるだろうか」
「前回この看板を包んでいた時に中の重さはそのままだった。だからものを隠すくらいにしか使えないな。裏返せば透明だから着ていてもわからない。これを活用できるか?」
「表は暗闇、裏は透明。そうだリバーシブルなら。いや、うん?うーん、なんだ、今僕は何を閃いた?ゆっくり考えろ、焦るな。暗闇を纏えば中のものは判別できない。裏返せば、衣が見えない。なら、表を裏で包んだらどうなる?」
「まずは暗闇にして自分を包む。次は先の方を絞りひねって、もう一度包む、よっと。おっ?おいおい、ハ、ハハハッ、アハハハ!透明だ、僕が透明になっている!なんだこれ、すごい、すごいぞ!どういう原理か知らんがサイコーだ!フフッ、ククク。いいぞ、これならなんでも自由にできる。待ってろよ騎士共!この暗闇の。いや、今の僕は暗黒の影。フフフ、このダークネスシャドーが騎士共に制裁を加えてくれる!ククク、アハハハハ」
「ん?あれ、これどうなって、どこから包んであるんだ?脱げない。ど、ど、ど、ど、どうしよう。あ、焦るな僕。落ち着け、落ち着くんだ。ま、まずは、そうだ深呼吸だ、おお落ち着けぼくー。すぅーはぁー、すぅーはぁー。これ二重で包んでるから息しづらいな。こ、このままだと酸欠だ。うあぁ、まずい、これはピンチだぁ、はぁはぁ、ウワァァァァ!」
「フゥー、死ぬかと思った。思っていたより危険な代物だったようだ。全身透明化は遠近感もつかみにくくて困るからやめよう。焦った挙句タンスに足をぶつけたのは痛かった」
「次はどうするかな。前回よりも目立つこと、注目を浴びるようなことをしよう。注目をあびる、か。誰に見せたいかをまず決めないと。そうだ、騎士達に何も思わない奴らにも問題はある。庶民が騒ぐようにしてやる。恐怖を与え、そして騎士に頼る。しかし肝心の騎士は役に立たない。民衆は怒りをつのらせ、そして。ああこれでいい、この流れで行こう」
「さてどうするかな。僕にできることは少ない。魔法が使えたらいいんだが、仕方がないか。出来ることで目立つこと。そして恐怖におちいるような何かを」
「恐怖はどんな時に感じる?不安、例えば、未知だ。迫る何かは恐怖の対象として十分だ。だから直接的に何かをするよりも間接的に感じさせる。五感、視覚を刺激する。そうだ、まずはこの間のことをもっと知らしめてやろう、フフフ」
「おはようございますー」
「おはよ」
「あ、ナミチさんおはっす」
「ねえシモザ、オージョータイムズは読んだ?」
「まだですけど、何かありました?」
「あんたがこの間行ったとこの話が載ってる。ほらここ」
「どれどれ。どこです?」
「ほらここ、隅っこに」
「えー、ほんとだ。謎の看板泥棒現る、か。親方さん届け出たのかな」
「ムグラがそんなことするかなぁ。いつもモンスターにちょっかいかけられてて、なんていうか今更でしょ」
「ですよね」
「まぁだから気になったんだけど」
「他の誰かがリークしたとか?」
「なんのために」
「実はあの日、1人怪しい人が来たんです。通るわけでもなくなんだか見に来たって感じの」
「そいつは記者だったのかもよ。この記事を書いた人とか」
「確かにそれなら納得ですけど、だけど情報が欲しいって感じじゃなかったような」
「へぇ、もしそうなら不審者といえなくもないね」
「うん、何事もないといいんですけどねぇ」
「記事になれば目につく、のはいいんだけどなんだコレ。こんな端っこに小さく書かれてたら気づかないじゃないか。クッ、これじゃだめだ。もっと、もっと目立つ何かを。何かないだろうか。新聞の一面を飾れるような大スクープ。注目の的になるには、ああそうだこれだ!この塗料を使えばやれる。前に家の壁を塗るために買ったはいいが使わなかったやつ。ちょうどいい。フフフ、僕ならできる。やってやる、今度こそダークネスシャドウの力を知らしめてやろう」
「ここならいいか。市場というだけあって賑わっているな。これだけの人がいるなら十分話題になる。あの新聞記者にちょっとした事件なんかよりも僕の方が目立つってことを教えてやる。そして民衆は恐れおののくがいいのさ、フフフ」
「あ、そこのお兄さんお花いかがですかー、育ててみると心が和みますよー」
「いらん。僕が花を買ったところでどうせすぐに枯らせるだけ。だからいらない」
「じゃあ切り花はどうです?水差しに飾るだけ、枯れるのは前提ですよー」
「しつこいな。そんなに買ってほしいのか?」
「だってあなたすごく暗い顔してるから、お花でもあれば和むかなって」
「余計なお世話だ」
「あらごめんねー。あら、そこの旦那さんお花いかがですかー、暗い心に一輪の花をー」
「フン。誰でもいいんじゃないか」
「よう!お兄さん、この野菜はいかがかな?」
「いらん」
「野菜を食べれば健康になれるぞぉ!」
「僕が不健康だって言いたいのか」
「まぁ、その、顔色悪そうだから心配になって、つい」
「お節介な奴だ。どうせ料理の出来ない僕が買ったところで腐らせるだけ。だからいらない」
「すまん、じゃあ果物でも買ってけよ、そのまま食えるからよ」
「今お腹は空いていないんだ。それに僕は行くところがある」
「そうかい?んじゃまたの機会によろしくなぁ!」
「フン。どうつもこいつもうるさい奴らばかりだ。いつもなら声なんてかけてこないくせに」
「あーあ、やめやめ。庶民をターゲットにしたってどうせ騎士は気にしないし。どうせなら金持ちとか貴族とか、日頃ムカつく奴らにしよう。フン、花なんて似合わないだろ。それに、元気な僕を誰が想像できるよ」
「よーし、ここだ。貴族然としたこの家のたたずまいなら悪くない。ククク、慌てふためく貴族が目に浮かぶ。フフフ、アハハハハ。さて、誰もいないな。暗闇を纏いダークネスシャドウに変身だ、フフフ。よいしょっと」
「ククク、この塗料を使えばいとも容易くペイントができる。大きく描けばそれだけ目立つわけだ。さぁて、始めようか。インパクトのある絵がいい。だが塗料が寒色系のものしかないな。そうだ!自分のこの姿を描くか。この暗闇の姿を描き僕の存在を知らしめてやる。フッ、これで明日のトップは僕のものだ。フッフッフーン」
「いい感じに描けたな。会心の出来栄えだ」
「おいキサマ!何をしている!こら守衛、寝てないで働け!」
「あいさぁー」
「ハッ!しまった、夢中になって気づかなかったか。まだ名前を描いていないのに。だが、だめだ逃げないと。仕方がない!」
「そこの怪しい奴、待たんかぁー!我が屋敷の塀に何をしておった!」
「自分の目で見るがいいさ。じゃあな」
「こんのぉ待てぇ!ふぅー、ふぅー!なんて逃げ足の速い。ん?な、なんだこれは、我が家の塀になんて絵を!」
「ハァハァ、無事逃げ切ったか。この、暗闇のお陰で僕だってことは、さすがにわからないはず。ハァー、全力疾走なんてするもんじゃないな。あとはこの文を、この間の記者の家に置いていけば完了だな。無事任務完了だ。明日が楽しみだな、フフ、ハハハ!はぁー、疲れた」
「おい聞いたか?」
「落書きの話しだろ」
「そうそう、貴族様の塀にでっかい落書きがしてあったんだってな」
「ほんの少し目を話した隙に描かれたそうだぜ」
「居眠りしてた守衛の証言だとそうらしいな」
「どんなやつが描いたんだろうなぁ」
「ねえ暗闇坊主のこと聞いた?」
「なにそれ」
「貴族の家の壁に落書きがあって、その近くにいた人が言うには真っ黒な影が歩いてきて落書きしていったそうよ」
「へー、それで暗闇坊主」
「みんなその話で持ち切りよ。しかも貴族様はその絵を随分気に入ったって話しじゃない」
「そんなに素敵な絵なのかしら」
「みんな見に行くって言ってるし、気になるから私達も行ってみましょうよ」
「そうねぇ、せっかくだし見ておこうかしら」
「やった、やったぞ!僕のやったことが目立っている!新聞の一面を飾るほどではなかったが上々だ。よーし、次はもっと目立ってやる。次こそはトップを僕が頂いてやる。フハハハハ!ん?何かを色々忘れているような?まあいい、大事なことならその内思い出すだろ。ああ、今は勝利に酔っていたい気分だ」
「世間では暗闇坊主の話題でもちきりですねぇ」
「はい。ブンドウ殿、調査をお願いできますか」
「騎士団長の命とあらば」
「ではよろしくお願いします」
「御意に。ところで落書きはどうされるのですぅ?なんでも芸術的なまでに下手だとか」
「それなんですが、そこの家の貴族が気にいったらしく記念に残そうと言っているのです」
「放っておきますかぁ?」
「いえ、風紀の乱れにつながります。消しましょう」
「では手配しておきましょうかねぇ」
「頼みます」
「それと、民衆が野次馬となって集まっています。人払いもお願いします」
「そちらは、また交通課に協力を要請しますか」
「ええ。はぁ、連携することが多いとはいえ頼ってばかりはよくありませんね。早く人材不足を解消しなければ」
「焦ってもどうにもなりませんよ。今は北がどう出るかわからず、兵もそちらに取られています。仕方ありません。頼れるところは頼りましょう。そうそう、なんでも交通課に率先して手伝ってくれる職員がいるとか」
「ああシモザさんですね。民のため、といつも嫌な顔せずに来てくださいます。素晴らしい方です」
「ありがたい話しですねぇ」
「はい。個の力は強くとも数が少ないのが我らの弱み。治安維持を掲げる我々としては悔しいものです」
「カーバン殿。受けた恩はいずれ何かで返せば良いのではありませんか?」
「そうですね。ではブンドウ殿、調査お願いします」
「お任せを。騎士の名誉にかけて」




