01. 王子からの命令
「おつかれー」
「セツ、ちょっとちょっと」
「なに?」
「さっきロー所長の部屋に結構位の高そうな人が入ってたのよ」
「そうなんだ。なんか商談でもあったのかな」
「大きな仕事はわたしたち事務も大変だもんねぇ。今くらいの仕事量でいいんだけど」
「まったくだわ。ちなみにどんな人だったの?」
「ちゃんと見てないけど、若めな感じだったよ」
「ふーん、若いのはともかくなんで偉いって思ったのよ」
「だっていい服着てたもん。控えめなかっこしたつもりかもだけど明らかに質のいいモノ着てたからね」
「おバカさんね。うーん、わがままじゃないといいなぁ」
「そうねぇ。権力持ってる人って身勝手が多いもんね。あ、出てきた」
「ええ、ええ。皆おりますので気に入ったものがいるかどうぞご覧ください」
「ああ、そうするよ」
「しかし、条件に合うのは1人しか」
「だとしてもだ。念の為見ておきたい。取り返しのつくことではないからな」
「何だろう」
「ヒソヒソといやな感じね」
「ちょっと聞いてきてよ」
「いやよ、そんなことして万一怒られでもしたら。わたしー、もしかしたらここにいられなくなっちゃうかもー」
「はいはい大丈夫よ。セツならどこでもやってけるって。だから行ってこーい」
「ニーナちゃん冷たい」
「みんな、おつかれさん。帰宅のところ悪いんだがちょっと残ってくれ。こちらの方が、求める人物がいるか確かめたい、そうおっしゃっている。すまんがそのままここにいるように」
「えー」
「そこ!失礼がないように」
「なんのためですか。それにどちら様です?」
「ああ、すまない。名乗りもせず成り行きに任せてしまった。私は第2王子のショウだ。お疲れのところ悪いが協力してくれ」
「王子様だって。これってもしかしてお妃探しってことかな。セツ、立候補したら?」
「いやよ。そもそも違うんじゃない?平民のわたし達なんて相手にしないでしょ」
「そうねぇ。あの、王子様。どんな人を探していらっしゃるんです?」
「どんな人物をか。そうだな。度胸があって機転が効く。そして仕事を完遂してくれる人物といったところか。あとは可能なら運動もそこそこできるといい」
「そんな出来た人ここにはいないでしょ」
「おい、セツくん。いい加減にしなさい。お忍びとはいえ王族の御前でいくら何でもそれ以上は許さんぞ」
「はーい。でもそんないい服でお忍びというのはさすがにね」
「ははは。なるほど。所長が言っていたのが誰かわかったよ。確かにこいつしかいないな」
「申し訳ありません、礼儀をあまり気にしない子でして。ですが私が推すのは」
「まあいいさ。公務の最中なら笑って済まさんが、今は見て分かる通りお忍び中だ。それに小憎たらしい方が遠慮もいらん」
「それは、まあそうですが」
「よし。お前に決めた」
「へ?わたしを、なんで?」
「残念だったねセツ。候補から外れるように振る舞ったつもりが逆効果ね」
「だからなんでわたしが」
「追って指示を出す。王命だ。さすがに背くなよ」
「いやいや、せめて何するのかくらい教えてくださいよ」
「なーに、たいしたことじゃない。魔王討伐についていくだけだ」
「まおうの、とうばつって。そんな」
「後方にいればいい。安心しろ」
「いやそうじゃなくて」
「お前の力が必要なのだ。上手くやってくれると信じているさ」
「わたしのこと全然知らんでしょ。魔王討伐とか、あの」
「お前なら大丈夫だ。じゃあな」
「あの、わたし事務なんですけど!」