アメリカ合衆国憲法[4] 第2条
第二条 〔行政府〕
第一節 (一)行政権は、アメリカ合衆国大統領に帰属する。大統領の任期は四年とし、同一任期で選任される副大統領と共に、左記の方法で選挙される。
(二)各州はその州議会の定める方法により、その州から連邦議会に選出できる上院および下院の議員の総数と等しい数の選挙人を任命する。ただし、両院の議員、または合衆国政府の下で信任あるいは報酬を受ける官職にある者は、選挙人に任命されてはならない。
(三)〈選挙人はそれぞれの州で会合し、秘密投票によって二名を選挙する。その中の少なくとも一名は、選挙人と同一州の住民であってはならない。選挙人は得票者およびそれぞれの得票数の表を作成し、これに署名し証明をした上で封印をし、上院議長に宛て、合衆国政府の所在地に送付する。上院議長は、上院議員および下院議員の出席の下に、すべての証明書を開封し、次いで投票が計算される。最多得票数が選挙人総数の過半数である場合には、その最多得票者が大統領となる。過半数を得た者が一名を超え、その得票数が同じ場合には、下院は直ちに秘密投票により、その中の一名を大統領に選任する。また、もし過半数を得た者のない場合は、前述の表の中で最多得票者五名の内から、同じ方法により下院が大統領を選任する。ただし、この方法で大統領を選挙する場合、各州の下院議員団はそれぞれ一票を有するものとし、投票は州を単位として行う。この目的のための定足数は、全州の三分の二から一名またはそれ以上の議員が出席することによって成立し、また選任のためには全州の過半数が必要である。いずれの場合においても、大統領に選任された者に次いで最多得票をした者が副大統領となる。しかし、もしその場合、同数の得票者が二名以上あれば、上院がその中から秘密投票によって副大統領を選任する〉。〔本項は修正第十二条で改正〕
(四)連邦議会は、選挙人を選任する時期および彼らが投票を行う日を定めることができる。この日は合衆国全土を通じて同じ日でなければならない。
(五)何人も、出生による合衆国市民あるいはこの憲法確定時に合衆国市民でなければ、大統領となることはできない。三十五歳に達しない者、また十四年以上合衆国の住民でない者は、大統領となることはできない。
(六)大統領が免職、死亡、辞任し、またはその権限および義務を遂行する能力を失った場合は、その職務権限は副大統領に帰属する。連邦議会は、大統領および副大統領が共に、免職、死亡、辞任あるいは能力喪失の場合について法律で規定し、その場合に大統領の職務を行なうべき公務員を定めることができる。この公務員は、これにより、右のような能力喪失の状態が除去されるか、あるいは大統領が選任されるまで、その職務を行う。
(七)大統領はその役務に対して定時に報酬を受け、その額はその任期中増減されることはない。大統領はその任期中、合衆国または各州から他のいかなる報酬も受けてはならない。
(八)大統領はその職務の遂行を開始する前に、次のような宣誓あるいは確約をしなければならない。「私は合衆国大統領の職務を忠実に遂行し、全力を尽して合衆国憲法を維持、保護、擁護することを厳粛に誓う(あるいは確約する)」。
第二節 (一)大統領は、合衆国の陸海軍および合衆国の軍務に実際に就くため召集された各州の民兵の最高司令官である。大統領は行政各部の長官から、それぞれの部の職務に関するいかなる事項についても、文書による意見を求めることができる。大統領はまた合衆国に対する犯罪につき、弾劾の場合を除いて、刑の執行延期および恩赦を行う権限を有する。
(二)大統領は、上院の助言と同意を得て、条約を締結する権限を有する。ただしこの場合には、上院の出席議員の三分の二の賛同が必要である。大統領はまた、大使その他の外交使節ならびに領事、最高裁判所判事、および本憲法にその任命に関する特別の規定がなく、また法律によって設置される他のすべての合衆国公務員を指名し、上院の助言と同意を得て、これを任命する。ただし連邦議会は、その適当と認める下級公務員の任命権を法律によって、大統領のみに、または司法裁判所あるいは各省の長官に与えることができる。
(三)大統領は、上院の閉会中に生じたすべての欠員を、任命により補充する権限を有する。ただし、その任命は次の会期の終わりに効力を失う。
第三節 大統領は連邦議会に対し、随時連邦の状況に関する情報を提供し、また自ら必要かつ適切と考える施策について議会に審議を勧告する。大統領は非常の場合には、両議院またはその一院を招集することができる。また閉会の時期に関して両議院の間に意見の一致を欠く場合には、自ら適当と考える時期まで休会させることができる。大統領は大使その他の外交使節を接受する。大統領は法律が忠実に施行されるよう配慮し、また合衆国のすべての公務員を任命する。
第四節 大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪またはその他の重罪および軽罪につき弾劾され、かつ有罪の判決を受けた場合は、その職を免ぜられる。
「第2条は行政府、日本で言うところの内閣に関してだね」
「あれ?」
ここで桃子が何かを思い出したようだ。
「たしか、学校ではアメリカに内閣はないって言ってなかったっけ」
「そう、日本のような内閣は、アメリカにはないんだ。その代りに『アメリカ合衆国大統領顧問団』という組織があって、そこが事実上の内閣として機能しているよ。憲法上は、行政権は大統領が一手に握っているから、顧問っていう形をとっているんだね。ちなみに正式には『アメリカ合衆国連邦行政部』っていうよ」
「日本にも似たような文言がある文章もあるね。第5章に書いてあったはず」
「内閣の部分だね。第65条から第75条までだよ。日本とアメリカの同じような点を挙げるなら、第1節|(1)の『行政権は、アメリカ合衆国大統領に帰属する』と、第2節|(2)の最初の文である『上院の助言と同意を得て、条約を締結する権限を有する』というところだね。法律レベルにまで広げたら、何か所かさらに出てくるよ。日本の方には、第65条に『行政権は、内閣に属する』って書いてあるし、第73条3項には『条約を締結すること』と書かれていて、但し書きとして『事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要』だと書かれているね」
伊野上が憲法の本を横に並べながら言う。
「違うところは、軍についての規定と、行政権を一手に大統領が握っているっていうことかしらね。日本では内閣が持っているっていうことになってるでしょ。形式上は内閣総理大臣が内閣を代表するっていう形になっているはず」
「その通りだよ。日本の場合は、内閣という一つの生命体のように動く事を想定しているんだけど、アメリカは、大統領が行政のすべてを仕切るということになっているんだ。だから大統領がいなくなれば、すぐに定められた順位によって敬称をするっていうことになっているよ」
「日本だと?」
「副総理っていう役職があるよ。だけど、法的なものじゃないし、首相が辞任や志望した時には、即総辞職って言うことになるから、アメリカのような副大統領とは相当違うね」
「アメリカ大統領は直接選挙だったね。ここにその規定が書いてあるみたいだね」
「そうそう、日本の首相は間接選挙っていって、議会が選挙をして首相を決定するんだ。いろいろ批判もあるけど、一番簡単だからね。でも一番民主主義的だと言われているのが、直接選挙だって言うことらしいよ」
「へぇ~」
「ただ、形式上は間接選挙とも見えるのが、問題とか言われていたり。なんでも、アメリカ合衆国の市民権を有している18歳以上で重犯罪人などを除き、通常は選挙人登録を行っている人たちが選挙人団を選出した上で決定されるんだ。ただし、統一された連邦法はないから、それぞれの州法によって投票の形式は大きく変わるけどね」
「連邦法?」
「アメリカは50の州と呼ばれる国から成り立っているんだ。だからアメリカ合衆国のことをアメリカ連邦って言う人もいるよ。それで、国全体に適応される法律で、アメリカ合衆国連邦議会によって制定された法律を『連邦法』、それぞれの州の議会で定められた法律のことを『州法』って言うことになっているんだ」
「なるほどね」
桃子は、憲法の条文を目で追っていた。
「それで、次は?」
「第三条、司法府についてだね。裁判所についてだよ」
そう言って伊野上は、アメリカ憲法が書かれた本を桃子に見せた。