アメリカ合衆国憲法[3] 第1条:第6節から第10節
第六節 (一)上院議員および下院議員は、その役務に対し、法律で確定され、合衆国国庫から支出される報酬を受ける。両議院の議員は、反逆罪、重罪および公安を害する罪以外のあらゆる場合において、会期中の議院に出席中、あるいはこれへの往復途上で、逮捕されない特権を有する。議員はまた、議院内における発言あるいは討議について、議院外で審問されることはない。
(二)上院および下院の議員は、その任期中に新設、または増俸された合衆国の文官職にその選出された任期の問任命されてはならない。また何人といえども、合衆国の官職にある者は、その在職中にいずれの議院の議員にもなることはできない。
第七節 (一)歳入の徴収に関するすべての法案は、まず下院で発議されなければならない。ただし、他の法案におけると同じく、上院はこれに対し修正案を発議するか、または修正を付して同意することができる。
(二)下院および上院を通過したすべての法案は、法律となるに先立ち、合衆国大統領に送付されなければならない。大統領が承認する時はこれに署名し、承認しない時には拒否理由を添えて、これを発議した議院に還付する。その議院は、その拒否理由の全部を議事録に記載し、法案を再審議する。再審議の結果、その議院の三分の二がその法案の通過に同意した場合は、法案は大統領の拒否理由と共に他の議院に送付され、他の議院でも同様に再審議を行う。そして再び三分の二をもって可決された場合には、その法案は法律となる。すべてこれらの場合に、両議院における表決は、賛否の表明によってなされ、法案の賛成投票者および反対投票者の氏名は、各議院の議事録に記載されるものとする。もし法案が大統領に送付されてから十日以内(日曜日を除く)に還付されない時は、その法案は大統領が署名した場合と同様に法律となる。ただし、連邦議会の休会により、法案を還付することができない場合は法律とはならない。
(三)上院および下院の同意を必要とする命令、決議あるいは表決(休会決議を除く)はすべて、これを合衆国大統領に送付するものとする。それが効力を生ずるに先立ち、大統領の承認を得なければならない。大統領の承認のない場合には、法案の場合について定められた規則および制限に従って、上院および下院の三分の二により、再び可決されねばならない。
第八節 (一)連邦議会は次の権限を有する。合衆国の国債を支払い、共同の防衛および一般の福祉に備えるために、租税、関税、付加金、消費税を賦課徴収すること。ただし、すべての関税、付加金、消費税は、合衆国全土で同一でなければならない。
(二)合衆国の信用において金銭を借り入れること。
(三)諸外国との通商、および各州問ならびにインディアン部族との通商を規定すること。
(四)合衆国全土で同一の帰化の規則および破産に関する法律を定めること。
(五)貨幣を鋳造し、その価値および外国貨幣の価値を定め、また度量衝の標準を定めること。
(六)合衆国の証券および通貨の偽造に関する罰則を定めること。
(七)郵便局および郵便道路を建設すること。
(八)著作者および発明者に、一定期間それぞれの著作および発明に対し独占的権利を保障することによって、学術および技芸の進歩を促進すること。
(九)最高裁判所の下に、下級裁判所を組織すること。
(十)公海における海賊行為および他の重罪ならびに国際法に反する犯罪を定義し、処罰すること。
(十一)戦争を宣言し、敵国船傘捕免許状を付与し、陸上および海上における捕獲に関する規則を設けること。
(十二)陸軍を募集し、維持すること。ただし、この目的で使われる歳出予算は、二年を超える期問にわたってはならない。
(十三)海軍を創設し、維持すること。
(十四)陸海軍の統轄および規律に関する規則を定めること。
(十五)連邦の法律を施行し、反乱を鎮圧し、また侵略を撃退するための民兵の招集に関する規定を設けること。
(十六)民兵の編制、武装および規律に関し、また合衆国の軍務に服する民兵の統轄に関して規定を設けること。ただし、各州は、将校を任命し、また連邦議会の規定に従って、民兵を訓練する権限を留保する。
(十七)ある州が譲渡し、連邦議会が受諾することにより、合衆国政府の所在地となる地区(ただし十マイル平方を超えてはならない)に対して、いかなる事項に関しても、独占的な立法権を行使すること。要塞、武器庫、造兵廠、造船所およびその他必要な建造物の建設のために、それが所在する州の議会の同意を得て購入した区域すべてに対し、同様の権限を行使すること。
(十八)上記の権限、およびこの憲法によって合衆国政府またはその省庁あるいは公務員に対し与えられた他のすべての権限を行使するために、必要かつ適当なすべての法律を制定すること。
第九節 (一)現存の諸州のいずれかが、入国を適当と認める人々の移住および輸入に対しては、連邦議会は一八○八年以前においてこれを禁止することはできない。しかし、そのような輸入に対して、一人当たり十ドルを超えない租税または入国税を課すことができる。
(二)人身保護令状の特権は、反乱または侵略に際し公共の安全上必要とされる場合のほか、これを停止してはならない。
(三)私権剥奪法または遡及処罰法はこれを制定してはならない。
(四)人頭税〈その他の直接税〉は、前に規定した国勢調査または算定に基づく割合によらなければ、これを賦課してはならない。〔〈 〉内は修正第十六条で改正〕
(五)各州から輸出される物品には、租税または関税を賦課してはならない。
(六)通商または徴税を規定することによって、一州の港湾を他州の港湾より優遇してはならない。また一州に向かう船舶あるいは一州より出港した船舶を強制して、他州に入港させ、出入港手続きをさせたり、あるいは関税の支払いをさせてはならない。
(七)国庫からの支出は、法律で定める歳出予算に従う以外は一切行われてはならない。すべての公金の収支に関する正式の予算決算書を随時公表しなければならない。
(八)合衆国は貴族の称号を授与してはならない。何人も、合衆国政府の下に報酬または信任を伴う官職にある者は、連邦議会の同意なくして、国王、公侯あるいは外国から、いかなる種類の贈与、俸給、官職または称号も受けてはならない。
第十節 (一)各州は条約、同盟あるいは連合を結び、敵国船拿捕免許状を付与し、貨幣を鋳造し、信用証券を発行し、金銀貨幣以外のものを債務弁済の法定手段とし、私権剥奪法、遡及処罰法あるいは契約上の債務を損うような法律を制定し、または貴族の称号を授与してはならない。
(二)各州は、その検査法施行のために絶対に必要な場合を除き、連邦議会の同意なしに、輸入または輸出に対し、付加金または関税を課することはできない。各州によって輸出入に課された関税または付加金の純収入は、合衆国国庫の用途に充てられる。この種の法律は、すべて連邦議会の修正および管轄に服する。
(三)各州は、連邦議会の同意なしに、トン税を賦課し、平時において軍隊または軍艦を備え、他州あるいは外国と協約あるいは協定を結び、または現実に侵略を受けた場合、あるいは猶予しがたい急迫の危険がある場合でない限り、戦争行為をしてはならない。
伊野上と桃子は、1条の続きを見ていた。
「それで、第6節の部分は、見覚えがあるんだけども…」
桃子が伊野上に言った。
「日本の第4章を見れば、よく似た条文が見つかるよ。日本のはアメリカに影響を強く受けているからね。でも、大きく違うのはその後の方」
伊野上が、本の文章を指でなぞりながら教えた。
「たとえば第8節11号以降の文言とかね。軍について規律されているところだよ」
「日本は第2章で戦争放棄とか言って軍を持たないっていうことにしてるから、こんな規定はありえないわけね」
「そういうこと。で、この軍の規定は、陸海軍を作るということにされていて、それに足される形で民兵を組織するとされているんだ。実は、空軍の規定は憲法になかったりするんだ」
「でも、いまじゃ立派な軍の一つとして機能してるんでしょ」
「憲法がすべてっていうわけじゃないからね」
「海兵隊っていうのもあったね。それは?」
「憲法上軍といえるのは陸と海だけ。でも、法律によって他に軍を創ることは、当然可能だよ」
「憲法に軍を創るなと書かれていない限りっていうことね」
「まあね」
伊野上は、素直に認めた。
「次は?」
「第2条、行政府についてだね。日本では内閣にあたるものだよ」