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第33話 陽菜との約束

 「やったー」


 両手を挙げてその場で飛び跳ねるのは試合の勝者。

 それは勿論――リリーだ。

 勝負は日頃の練習の成果が出る場所。

 実力がなければ、まぐれやラッキーなんて起きないのだ。

 そもそも私が攻め手になった時点で勝負は決まっていたのかもしれない。


「今日は負けちゃったけど、明日は私が優勝するんだ」


 私の言葉に張り合うように宮子も言う。


「いや、私だね。師匠を今度こそは倒すんだ」


 静香も続くが、控え目な目標がなんとも静香らしい。


「えーと、わたしはね、一回戦は勝てるように頑張る」


 勝負が終わった瞬間外野が一気にさわがしくなった。

 どうやらこれは明日からの恒例行事になりそうだ。

 ワイワイと喋っていると陽菜が私に言葉をかけた。


「あ、そういえば涼音ちゃん。ちょっと相談があるんだけど……」


 相談?どんな話なのか全く思い当たらない。


「私と涼音ちゃんのポジション入れ替えない?」


「え⁉でも私ポイントカードやったことないよ。今さらポジション入れ替えてもチームに良い影響を与えられないんじゃ――」


「勿論デメリットもあるよ。でもメリットの方が大きいと思うんだ」


 メリットとデメリットか。

 確かに、攻撃面で重要な役割を担う二番を私がしているのは良くないだろう。

 となると、メリットは攻撃の活性化ということになる。

 対するデメリットは経験のなさと、私のパス能力が低いことだろう。

 特に後者はパスが重要なポイントがというポジションをやるにあたって大きな課題だろう。

 陽菜もそのことは理解しているはず。

 それでもメリットが上回ると考えているようだ。

 正直、今から新しいことにチャレンジするのは不安だ。

 でも、現状のままでは黒山高校には勝てないだろう。

 すると、選択肢はおのずと一つに絞られる。


「分かった、ポイントガードやってみるよ。けどダメそうだったらすぐに中止ね」


「やった、これで涼音ちゃんのパスセンスが生かせるね」


 あれ……私のパス能力はかなり低いはずなんだが。

 もしかして陽菜は昔を忘れてしまっているのだろうか。


「ちょっと待って、私のパスの能力はかなり低いよ。陽菜も小学校の時の私を知っているでしょう?」


 先生に「雨宮はパスさえ上達すればプロにもなれる実力はあるんだけどなあ。もっと相手のことを考えてパスを出しなさい」と注意されたことをよく覚えている。

 それに私のパスの下手さは一緒にプレーしていた陽菜が一番知っているはずなんだけど。


「それは昔の話でしょ。今は周りのことがよく見えてて、ポイントガードにぴったりだと思うよ」


 自信満々に陽菜は言うけど、ちょっと過大評価なのではないかと思う。

 まあ、周囲の評価が高いにこしたことはないけど。


「それじゃあ、合宿中に涼音をポイントガードにして練習していこうか」


 まとめるようにリリーが言った。少し無謀とも思えるが、まあ、まだ一日目。あと六日もあるのだ。焦らずできる限りのことはしよう。


 合宿も終わり試合を控えた日の夜……って合宿終わり?試合を控えた?


「あれ……もしかして、明日試合?」


「急にそんな顔してどうしたの?」


「いや、とんでもなく飛ばしたな、と」


 練習も終わって、寝る前に布団の上で陽菜とおしゃべりしていたのだが……いつの間にか合宿が終わろうとしていることに気づいてぞっと背筋が凍った。

 もちろん頭では明日に試合があることを理解しているのだが、実感が伴わないのだ。

 なるべくそのことは考えないようにしていた。

 考えれば考えるほど、不安になってしまう。

 ちなみに寝室は来客用の部屋の一つを使わせてもらっている。

 この部屋には陽菜しかいないが、静香たちも別々の部屋で寝ているはずだ。

 最初はみんなで一つの部屋に泊まる予定だったのだが、ベットが固定のものしかなく別々となった。

 雑魚寝を覚悟していたが、この豪華なお家にはちゃんと客室が用意されていた。


「合宿楽しかったから、あっという間に感じたんだよ。ほら、楽しい時間はあっという間にすぎるじゃん」


「そうは言っても……だって明日にもう試合なんだよ!まだポイントガードにも慣れてないし、一回もリリーに勝てなかったし、辰巳さんを止められる気しないし……不安はないの?」


「無いと言ったら嘘になるけど、でも同じくらい自信もあるかな」


 私はどれだけ現状がピンチなのかを伝えたのだが、向かいのベットでくつろぐ陽菜は余裕綽々といった表情を崩さない。


「一体そんな自信どこから沸いてくるの?」


 その自信の源を教えて欲しい。


「みんながいるじゃん」


 凜としたまっすぐとした声で簡潔に陽菜は言った。

 みんながいる、か。随分漠然とした理由だなあ。もっと具体的な根拠が欲しい。

 私の胸に渦巻く不安を消し去るほどの。


「逆に私は涼音ちゃんが黒山高校を過大評価しているように思えるなあ」


 そうだろうか。練習試合の結果を見る限り、彼女たちとの間には大きな差があるように思えてならない。


「確かに点差は開いていたけど、実力の差はあんまりないと思うんだ。ただ前回はチームとしての完成度に差があり過ぎたかな」


 あの練習試合を思い出したのか悔しそうに陽菜が言った。


「チームとしての完成度?」


「そう。積み上げてきた時間の差とも言うかな。でも私たちにはリリーと涼音ちゃんという県の代表に選ばれてもおかしくない二人がいるんだから、個人の実力ではこっちの方が勝ってると思う」


 私が県の代表?

 そんなわけない。リリーが代表レベルというのは同意だけど。

 首をかしげていると、陽菜があきれた様子で言った。


「なんで分からないのかなあ……あとは自信だけなんだよね」


 陽菜はやれやれ、といった様子で首をふった。


「そうだ!明後日だけは涼音ちゃんは自分のことを日本一のプレーヤーだと思ってプレーしてみてよ」


「日本一?」


「うん、そういう気持ちでプレーしてほしい。そうしたら試合終わった後、別の景色が見えてるはずだよ。ねえ、お願い」


 わざとらしく手を合わせる陽菜。


「まあいいけど、でも実力は……」


「うっし、これで勝利間違いなし!」


 私の言葉は陽菜の声に覆い隠されてしまった。

 冗談めかした口調は陽菜が私の緊張をほぐすためにしてくれている気がする。


「試合がんばろうね」


 そう言うと電気を消して、陽菜はさっさと布団に潜ってしまった。

 明日試合があるんだから私も早く寝ないと。

 朝は藤原家の執事さんが会場まで送ってくれるんだっけ。

 布団を頭まであげて、目をつぶる。

 別の景色が見える、か。

 その景色はバスケをするのが、コートに立つのが怖い私を変えてくれるのだろうか?

 深い闇の中に意識が落ちていく中で、ふとそんなことを考えた。

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