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第23話 曇りのち雨

 「な、なにを言っているんだ?負けてはしまったが、たかだか練習試合だぞ。また練習して、今度は試合でリベンジすればいいだけじゃないか!それに雨宮さんが辞めてしまったら誰が私にバスケットを教えてくれるんだ?」


 「宮子さんの言うとおり、また練習してやり返せばいいだけだよ!涼音ちゃんが辞めたら上手くいくなんて絶対、絶対にそんなことない!涼音ちゃんがいなくなったらわたし、わたしは……」


 宮子さんと静香の言葉が静寂を打ち消す。

 二人とも私が辞めることに反対みたいだ。


 「今日の負けの責任を感じているならそれは違うぞ、また一緒に練習しよう。そして、今度はあんなやつコテンパンにしてやるんだ」


 「涼音ちゃん辞めちゃダメだよ……」


 いや、二人だけじゃない。

 リリーも陽菜も私が辞めるのをひきとめようとしてくれていた。

 リリーの口調はやけに明るい。

 周りの暗い空気とはあえて逆のテンションの高い口調にした気がする。年長者のリリーらしい。

 けど、陽菜の声は普段の元気の良さとは正反対に、か細く弱々しかった。

 みんなが私を引き止めようとしてくれている、そのことがすごく嬉しいのと、申し訳なさが胸に押し寄せる。

 けど、一度消えた私の中の炎が再びつくことはなかった。


 「でも、実際今日チームに迷惑をかけたのは私だから。辻裏のことも、陽菜のせいじゃない。私がみんなを巻き込んだんだ……だから私にはバスケ部にいる資格がない……」


 「やめて、そんなこと言わないで!資格なんていらないよ!みんな涼音ちゃんと一緒にバスケやりたいと思っているんだよ。居てくれるだけいでいい」


 陽菜は私の言葉に駄々っ子のようにイヤイヤと首を振った。その目には涙が溜まっていた。でも、私はもう……。


 「今日は一回帰って頭を冷やした方がいいんじゃないか。雨宮も雨宮で思うところがあるんだろうし、お前らもそうだろう。けど、このままだと冷静に話すことはできないだろう?」


 赤城先生がそう提案した。

 確かに今わたしの思考は冷静とはかけ離れているかもしれない。

 みんなそう思っているのか、異論の声は出なかった。


 「さあ、帰った帰った。帰らないなら私が先に帰っちまうぞ」


 赤城先生が手をたたいて、さっさと帰るように促す。

 私はみんなから逃げ出すようにいの一番に出口に向かって走った。

 みんなの視線が怖い、どんな顔で私を見ているのだろう?

 自分から言い出したくせに考えてしまう。

 でも、仕方ない、これがみんなのためには良いんだ、と言い聞かせる。

 外に出ると大粒の雨が私を出迎えた。

 空が私の代わりに泣いてくれているのだろうか、それとも無責任な私に対して怒っているのだろうか。

 なんにせよ、今の私には似合いの天気だ。

 土砂降りの中駅に向かって走る。

 駅に着くとちょうど電車が出発するところだった。

 駆け込み乗車はやめて下さいと言う、機械的な音声を無視して電車に飛び乗る。

 席に座っていたお婆さんは私の行動に眉を顰めて、こちらを見た。

 私はその視線から逃れるように下を向いて寝たフリをする。

 結局、家から最寄りの駅に着くまで私はずっと瞼を閉じたままだった。

 今日はずっとこんなことばっかり……。

 

 「おかえり〜どうだっ……そう」


 玄関に入ると笑顔の母が手を広げ立っていた。

 もしかして私の帰りを待っていたのだろうか。

 しかし、私の顔を見るや母親の笑顔は消えてしまった。

 母親の顔が見れない。

 わざわざ朝早く起きてご飯を作ってくれた母親に申し訳なかった。

 勝負にも負けて、逃げ出して。負け犬のように帰ってきたことが恥ずかしい。


 「涼音、」


 床を見つめる私の耳に母親が名前を呼ぶのが聞こえる。けど、どんな顔を見せればいいんだ?


 顔を上げられずにいると、衝撃とともに体が包み込まれる感覚が私を襲った。母

 親が私を勢いよく抱きしめたのだ。

 私の服は雨でビショビショになっているのに、そんなことお構いなしに抱きつかれた。


 「なーにそんな顔してんのよ、靴に穴でも空いたか?」


 顔を上げるとニカッ、と笑った母親の顔が見えた。

 おどけたような口調が、なんとなく心地よかった。

 別に今日の出来事を母親が知っているわけではないのになんとなく見透かされているような気がした。


 「今日は失敗だったけど、そんなもん忘れちまいなさい。明日には明日の風が吹くものさ。きっと、今日の涼音の失敗は明日の涼音が解決するのよ」


 さっきまでの口調から一転して落ち着いた、心に染み渡る口調で母親が言った。

 その瞬間、私の目から涙が溢れた。

 高校生にもなって母親の前で泣きたくなんかないのに、けど私の意思とは反対に涙は止まらなかった。

 まるで目だけ別の誰かが神経を持っているみたいで、涙の勢いは強まるばかり。

 今日の苦しさがなだれ込んできたみたいだ。

 みんなの役に立てなかったこと、陽菜を馬鹿にしたあいつに負けたこと、最後のシュートを外した自分に対する失望が胸にどっと押し寄せてきて、涙に変わった。

 突如号泣し始めた私を何も言わずに母親は抱きしめてくれた。

 ああ、服濡らしちゃったな、母親の胸に顔をうずくまらせながらふと思った。

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