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第七話

「良かったよ、上条さんがオッケーしてくれて」


 生徒会室に向かう途中で言われた松岡君の言葉に、本当にこれでいいのかと少し後悔がちらついた。でも、松岡君の嬉しそうな顔を見て、後には引き返せないと腹を括った。


「ちょっと不安ですけど……」


「大丈夫だよ。生徒会の先輩達良い人が多いから色々教えてくれるよ」


「良かった……」


 その言葉で少し気が楽になると松岡君に連れられて生徒会室に入った。


 う……狭い部屋に人が沢山いる……。


 教室の半分くらいしかない部屋にはすでに3人ずつ男女の生徒が椅子に座っていた。何か会議でもしていたみたいで、6人の視線が一斉に私達へ向けられると、私は恥ずかしさのあまり下を向いてしまった。


「お! 来たか!」


 その男の人の聞き取りやすいハキハキした口調から入学式で熱弁していた生徒会長だと気付いた。


「どうやらうまく行ったみたいだな!」


「流石松岡だ! 俺の眼に狂いはなかった!」


 生徒会長と男子の先輩のそんな会話が聞こえてくる。


 何の事だろう?


「とりあえず新しい仲間に拍手!」


 生徒会長の音頭で6人の先輩達が拍手で私達を迎えてくれると2つ空いている席に松岡君と座った。


「やっぱり松岡に頼んで正解でしたね!」


「ああ! あの上条と生徒会ができるなんて皆んなに羨ましがられる! 後で自慢しよう!」


 何でそんなに盛り上がれるのかと思いながら会話を聞いていると、隣で松岡君が私にバツの悪そうな顔で大袈裟なくらい大きく頭を下げてきた。


「ごめん! 実は上条さんがいいって生徒会で決まっていたらしくて、僕から誘うようにお願いされてたんだ。もちろん僕も大賛成だったから受けたんだよ」


「別にいいですけど……」


「よかった……それを聞いて安心したよ。ありがとう上条さん」


 いきなり誘われたから何かあるとは思ったから別に驚きはなかった。でも、何で私が選ばれたのかは分からない。


「じゃあ会議を始めましょ?」


 少し表情が恐い女子の先輩と目が合うと、睨まれているような気がして少し怖かった。堪らず視線を下に逸らしてしまった。


 怖い……これから大丈夫かな……。


 不安が段々と大きくなってきて、会長が今後のスケジュールと私達の役割を説明してくれているのにそれが頭に入ってこない。説明が終わると先輩達は机を移動し始めて私と松岡君の歓迎会と言ってお菓子とジュースを出してくれた。


「私は佐倉舞っていうの。2年生よ。これからよろしくね上条さん!」


「よろしくお願いします。佐倉先輩」


 隣で優しそうな女子の先輩に笑顔で話しかけられると、私も笑顔で返す事ができた。


「はぁ〜 やっぱり近くで見るとほんと可愛いな〜 あ、俺2年の佐田って言うんだよろしくな! 分からないことがあったら何でも訊いてな!」


「はい、よろしくお願いします」


 短髪でスポーツをやっていそうな元気のいい先輩に返事をすると、今度はおとなしそうな童顔の先輩が私に話しかけてきた。


「上条さん、僕は中野です。よろしくね」


「よろしくお願いします」


「コイツこれでも3年なんだよ! 間違えてタメ口きいても怒らないから気にしなくていいぞ?」


 会長が笑いながらそう話すと中野先輩は怒る事もなく「あはは」と笑っていた。


「私は瀬奈よ。よろしくね上条さん」


「よ、よろしくお願いします……」


 あの恐そうな先輩がちゃんと挨拶してくれて少し安心するもやっぱり怖い。


「ふふ、そう怖がるのも無理はない。瀬奈は背筋が凍るような視線と冷たい雰囲気で氷の女と呼ばれているが、根はいい奴だから安心してくれ」


 いきなり会長の補足が入ると皆んながクスクスと笑い出す。


「よ、余計なお世話よ!」


 瀬奈先輩は怖い表情を崩してプイッと横を向くとそれがまた皆の笑いを誘った。それを見て生徒会は堅苦しいイメージだったけど、温かい雰囲気が感じられてホッとした。


「はむはむ……よろしく……」


「あ、よろしくお願いします」


 笑いが引いたところでやっと聞き取れるくらいの小さな声で小柄な女子の先輩が口を開いた。私も挨拶を返すと先輩はお菓子を頬張っていて、その仕草が小動物みたいに見えて可愛いと思ってしまった。


「コイツは2年の小石だ。これでよく生徒会にいるとこの学校七不思議になっている珍しい生き物だな。仕事はちゃんとできるからいいが……」


「会長! 小石はこんなだけど顔は良いし小柄で人気があるんすよ? 知らなかったんすか?」


 佐田先輩にツッコミ気味に話しかけられた会長は少し驚いて小石先輩を見ていた。


「む……そうなのか? あまりにも存在感がないから分からなかったな。じゃあ最後は俺だな……3年生徒会長の和田だ。まあ、この学校の陰の支配者とでも言っておこうか。何か困ったことがあれば相談するといい」


「会長はアイドルオタクで気持ち悪いけど仕事はできるから安心して」


「おい! 気持ち悪いは余計だ中野!」


「まあ、確かにそれでいつも生徒会長の座を守り続けているあたり裏で何かしてるんでしょうね。陰の支配者ってのも合ってそうだし」


 そう言う瀬奈先輩は何か思うところがあるのか、悔しそうな顔をしてる。


「瀬奈先輩はいつも会長の座を狙ってるんだけど、いつも和田先輩に勝てないの……」


 私が思った疑問の答えをヒソヒソと佐倉先輩が教えてくれた。


 そうして賑やかな歓迎会が終わって生徒会室を出ると、もう四時を過ぎていた。


 なんかあっという間だったな……。

 

 もう帰ろうと時計から目を離すと松岡君が隣に来ていた。


「ねえ、今日一緒に帰らない? 家はどこ?」


「松田駅の近くです」


「そっか、近いんだね。僕も松田駅に行くから近くまで一緒だし、どうかな?」


 そこまで言われたら断る事はできず、コクっと頷くと、松岡君は嬉しそうな顔を見せた。


「じゃあ行こうか」


 ふたりで帰る事になってしまい、緊張してくる。並んで歩く私達は学校を出るまで部活動をする人達の注目を浴び続けていた。


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