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第二十一話

 私は見せたい物があるって言われて、椎名さんとお父さんの住むマンションに来ていた。


「とりあえず何か飲む? シュウヤはもう少し時間がかかるって言ってたから」


「うん、それにしても凄い家だね……」


 私はその部屋の広さと豪華さに目を奪われていた。


「彼はライナのシュウヤよ。そりゃあね」


 それだけで頷けた。よく考えればあれだけ人気なアーティストなんだから当然だった。


 しばらく椎名さんと過ごしていると玄関から物音がした。お父さんが帰ってきたみたい。


「た、ただいま」


「お、おかえりなさい」


 何だか恥ずかしかった。お父さんも同じ気持ちなのか、恥ずかしそうに下を向いていて私の顔を見れないみたいだった。


「ご飯作ったから食べましょ。可奈が作ったのよ!」


「そ、そうか、楽しみだな」


 お父さんは着替えに消えると椎名さんと夕食を並べ始めた。


「ふふっ!」


「どうしたの?」


 椎名さんがいきなり思い出し笑いみたいな笑い方をして私を見た。


「ふたりのぎこちなさが可笑しくて! 実の親子なのにね」


「それはそうだよ! まだお父さんがどんな人なのか分からないし……何て話かけたらいいか……」


「年頃の女の子だもんね、シュウヤも可奈と仲良くなりたいけどどうしたらいいか戸惑ってる様子が可笑しくて笑っちゃうの!」


「悪かったな……」


「あら、いたの?」


 いつの間にか後ろにいたお父さんのジト目をする姿に私は笑ってしまった。



「お! 美味い!」


「ほんと⁉︎」


「ああ、なんか家庭の味って感じがする」


 お父さんに料理を褒められて思わず頬が緩んだ。


「真帆はあんまり料理が得意じゃなかったのにね」


 椎名さんからそんな話が飛び出すと私は興味津々に耳を立てた。


「俺と同棲していた時は色んな試作品という名の不味い物を食わされたな……いつか上手くなるからって笑ってたよ」


「へぇ〜 そうなんだ。でもお母さんの料理美味しかったよ? これだってお母さんから教えてもらったんだもん」


 それを聞いたふたりは顔を見合わせて驚いていた。


「あの後、本当に頑張ったのね……」


「ああ……」


「でも、可奈がそれを受け継いでくれて良かったわ。また色々作ってね?」


「うん」


 夕食が終わって片付けを済ませると、ふたりに連れられてある部屋に入っていた。


「ここは?」


「この部屋は真帆の部屋よ」


「え?」


 どういう事なのか……もう一度部屋を見渡すとその意味が分かった。


 女性用の小物や音楽のCDに古いファッション雑誌と可愛いクッション……それが誰のものなのかを……。


「俺は真帆を見つけたらここに住ませるつもりだったんだ」


「それで当時真帆が使っていた物をこの部屋に置いたのよ」


「そっか……」


「だけどもうこの部屋は片付けようと思う。真帆は見つかった。いつまでもこのままにはしておけないからな」


「だから片付ける前に可奈に見てもらいたかったの」


「少しこの部屋にいていい?」


「うん、何か取っておきたい物があったら言ってね」


「俺達はリビングにいるから……」


 私は小さく頷くとふたりは部屋を出て行った。


 なんだろう、この気持ち……。


 若い時のお母さんの物に囲まれた私は感傷的になってしまう。


 おもむろに本棚に手を伸ばすと、ボロボロになったノートを取ってパラパラとめくった。そこにはお母さんの字で料理のレシピが書いてあった。


「お母さん……」


 ここにいるとお母さんに会いたくなっちゃう……。


 私は棚の物を物色していると段々胸が締め付けられていった。遂にはここに居られなくなってリビングに戻っていった。


「可奈、もういいの?」


「うん、これだけ持っていってもいい?」


 私は手に持ったネックレスを見せた。お母さんはよく大事な物を箱に入れて保存していた。あの部屋にも同じような箱があってそこにこのネックレスだけが入っていた。


「それは……」


 お父さんは懐かしむような目でネックレスを見ていた。


「知ってるの?」


「ああ、それは真帆の誕生日にあげたんだ。付き合って初めてのプレゼントだったからよく覚えてる」


「そうなんだ……いいよね?」


 お父さんが頷いた。


「さ、そろそろ時間だから帰るわよ?」


 時計を見ると9時を回っていた。


 玄関で見送るお父さんはなんだか寂しそうに見えた。


「可奈……」


「ん?」


 突然お父さんに呼ばれて振り返った。


「急ぎじゃなくていい、一緒に暮らさないか?」


「うん!」


 私は笑顔で返事をするとお父さんは嬉しそうな笑顔を返してくれた。

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