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第十三話

 7月に入ろうとしていた頃、今だに松岡君達のグループで唯一話せていないのが真田君だった。いつもスマホを見ていて会話にも入らないし、なんで毎日のように溜まり場へ来ているのか不思議でならなかった。


 そして今日、偶然にも真田君がひとりでいる所へと足を踏み入れることになった。


「こ、こんにちは……」


「こ、こんにちは!」


 人見知り同士挨拶もぎこちなくて、ふたりとも視線を合わせる事ができず、私はいつもの場所に座った。


 ふぅ……。


 一応いつも返事は返してくれるから嫌われてはいなそう……でも何であんなに恥ずかしそうなんだろう?


 しばらく沈黙が続くと、私は意を決して話しかけてみることにした。


「あの、真田君はいつもスマホで何をしているんですか?」


 真田君はピクッと反応すると、視線はスマホに向いたまま話し始めた。


「……普段子供達の勉強をみてて、分からない所があるってメッセージがきたからその質問に答えてるんだ」


「子供達? 真田君は兄弟がいっぱいいるんですか?」


「一人っ子だよ……家の近くに親がいない子が住む施設があって、そこで色々勉強を教えてるんだ」


「じゃあいつも用事があるって言ってたのはそれだったんですね」


「うん……たまに松岡君も来てくれる」


 私は凄いと思った。まだ高校生になったばかりなのに人の為にここまでできるなんて。


「それに家に帰っても誰もいないし………」


「真田君も片親なんですよね……」


「父さんと暮らしてるけど仕事で会えるのは朝とたまの休みくらいで、最近は話す事もあんまりなくて」


「昔の私と一緒です。家に帰ってもおかえりを言ってくれる人がいない……私の為に仕事をしてくれるお母さんに不満とか絶対に言えなかった」


「上条さんは優しいんだね……僕は中学生になるまで父さんにいっぱい文句を言っちゃったよ。今になってみると本当に悪いなって思ってる」


「私も一緒に行こうかな……」


「へ?」


「その施設の子供達に勉強教えるの手伝ってもいいですか?」


「いいの? 凄く助かるけど」


「生徒会とかあるから。行ける日があったら誘って下さい」


「ありがとう上条さん」


「あ、連絡先交換してないの真田君だけなんですけど……」


 そういえば真田君以外の人とは連絡先は交換していて、交換しようとは思っていたけど中々機会がなくてそのままになっていた。


「え⁉︎ いいの⁉︎」

 

 真田君が凄く驚いてるのが、手に持っているスマホが震えているので分かる。それが何故かは分からない。


「はい、その方が連絡しやすいと思うので」


 連絡先を交換すると真田君は嬉しそうな顔をしていた。


「松岡君が新しくグループ作るって言ってました」


「いいね。あ、そろそろ行かなきゃ」


「今日もこれからその施設に?」


「うん、16時くらいに施設で勉強したい子が待ってるんだ」


「じゃあ私も行っていいですか? 今日は皆んな来ないみたいだし」


「ほんと! じゃあ皆んなに紹介するね!」


 かくして私と真田君は並んで学校を後にすると周りから好奇の目で見られていて、少しざわついているのが分かったけど知らないふりをした。


 真田君についていく事30分経ったくらいにその場所はあった。


 アパートより一回り大きい建物は真田君曰くこれでも規模が小さいらしい。


「ここは父さんが支援していて、小さい時から来てるんだ」


 真田君は自分の家のように玄関の扉を開けて中に入っていったので後について行った。


「あら、今日も来てくれたの? ありがとうね」


 玄関で迎えてくれたのは優しそうな年配の女性だった。その人の視線は真田君から私に移ると手を口に当てて少し驚いている。


「まあ、綺麗な子ね! 和君の友達?」


「うん、一緒に勉強を見てもらうことになったんだ」


「そう……子供達もきっと喜ぶわ!」


 それから大部屋に入ると小学生や中学校の制服を着た子が5人、机で教科書とノートを広げてわいわいと話していた。


「あ、来た! あれ? 誰?」


 小学生の元気そうな男の子が私を見て大きく首を傾げている。


「みんなの勉強を教えてくれる上条さんだよ。学校で上位5人に入る人だから安心して教えてもらいな」


 真田君はそう子供達に私を紹介した。


「みんなよろしくね」


「お姉ちゃんよろしくね!」


 私が挨拶をすると元気な返事が返ってくる。


 それから勉強は始まった。私と真田君で5人の勉強を見ながら分からないところを一生懸命できるだけ分かりやすくを心掛け、教えていった。


「じゃあ今日はここまで!」


 真田君の声を聞いて時計を見ると既に5時を回っていた事に気付く。時間が経つのを忘れるくらい集中していた。


「今度は来週の月曜日に来るからね」


 真田君はそう言って立ち上がった。私も立ち上がると子供達にお礼を言われて嬉しかった。


 帰る時も職員の人達にありがとうと声をかけられながら建物を後にした。


「どうだった?」


 帰り道に真田君からそう訊かれた私はさっきの事を思い出すと、とにかく一生懸命になってやっていた事しか覚えていなかった。


「初めて人に勉強を教えたから緊張しました……もう必死で、いつの間にか時間が過ぎてた気がします」


「見てたけど凄く分かりやすい説明だったよ。相手が分かるまで根気強く説明して、時には励ましたりしてさ。本当に上条さんは優しいんだね」


「そうですか? 私、昔から友達が居なくてお母さん以外の人にそう言われた事がなかったから」


「そういえば最近お母さん亡くなったんだよね……あ! ごめん! この前話を聞いちゃて!」


「松岡君にも言ったけど別にいいです。隠してたわけじゃないから……」


「僕は3歳の時お母さんが病気で亡くなったんだ。まだその時はよく分からなかったからまだ大丈夫だけど、もしこの歳になってからだったら僕は相当参ると思う……上条さんはずっとお母さんとふたりだけで暮らしてたから余計にだよね」


「でも、あの施設の子供達は両親が居ないんですよね……それに比べれば私はまだ……」


 もし、あの時上条さんが現れなかったら私も施設で暮らしてたのかな……。


 そう考えると今の生活がいかに恵まれているかがよく分かった。


「あの施設の子供達は色々な事情があって、辛い経験をしてきたんだ。それでもああやって勉強して将来の為に頑張ってる……だから上条さんも今は辛いと思うけど乗り越えていこう」


 私だけが辛いんじゃない……世の中には沢山そういう子がいるんだって励まされ、少しだけど頑張ろうって気になった。


「ありがとう真田君」

 


 

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