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第十二話

 今日の放課後、秘密の溜まり場にはひとりギターを弾いている新田君の姿があった。


「よ! 上条!」


 そして私に気付くと、手を止めて挨拶をしてくれた。


「こ、こんにちは……」


 初めは金髪でピアスをしているからやんちゃな人だと思って怖かったけど、藍沢さんに似た雰囲気だし、話をしていていい人のように感じていた。


 今日は誰もいないのかな……。


 それでも男子とふたりきりだと何だか落ち着かない。


「ああ、藍沢は弟が風邪だからって休んでたな。真田はもう帰っていったわ」


 私の不安な表情から察した新田君に、私が聞きたかった事の答えを先に言われてしまった。


「えっと、松岡君は後で来るって言ってました」


「じゃあ、来るまでギターの練習でもすっかな」


 新田君がギターを弾きはじめると、私はそれをなんとなく聴いていた。そのうちどこかで聴いたメロディに何だっけと頭を働かせる。


「それライナの曲……確かセカンドアルバムの」


「お! 当たりだ! さては上条も相当なライナファンだな?」


 そういえば新田君もライナが好きだと言っていたのを思い出した。


「お母さんと一緒に小さい頃から毎日聴いてて」


「俺も、親父が好きで毎日聴いてたら好きになってたな」


「一緒ですね」


「親父がリストラにあって、それが原因でお袋が家を出てって家庭がメチャクチャになってさ。まさにドン底にいた時だったよ……テレビから流れてきたライナを聴いてたらなんか励まされてる気がしたんだ」


 新田君の悲しい過去を知った。最初こそ怖いイメージがあった新田君だけど今は全然違う。それに昔そんな辛い事があったのに、一生懸命夢に向かって頑張ってる姿が羨ましかった。


「分かります……私もライナを聴いてると元気が出るんです」


「ライナって元々はバリバリのロックバンドだったのに、急に路線変更したのかバラードとかポップスの明るい曲がメインになったんだよなぁ」


「それ、私も思いました! あ、ごめんなさい。いきなり大きな声で……」


 何でだろう……ライナの話になってから自分が抑えられなくなっている。今までずっとクラスメイトがライナの話をしていた時、私も話に加わりたくてしょうがなかった……だけど、そんな勇気もなくて我慢をしていたのに。


「ははっ! 上条がそれ程ライナが好きな事は分かったぜ! いいじゃん話そうぜ!」


 何だか話したくてしょうがない自分がいた。


「確かファーストアルバムが発売されて、それがヒットした後、ライナは事務所と揉めて活動を停止していた時期があったんですよね? まだ私達が生まれてない時ですけど」


 一時期それが気になって色々ネットで調べたけど原因は公表されていなかった。


「ああ、その後別の事務所に移って発売されたセカンドアルバムは全くジャンルが違うってファンの中でも有名になっている話だよなぁ」


 ネットでは様々な憶測が飛んでいたけど、結局は分からないし、ライナ自身からも言及がなく、時間が経つにつれてその話題は薄れつつあった。


「俺さ、歌で人が救えるんだって衝撃を受けたんだ。だから俺もそうなりたいって思うようになってライナを目指してはいるけどやっぱライナは凄いよ」


「奇跡のバンドですから」


「そうそう、バンドの誰もが一流のテクニックを持ってるし、何よりシュウヤの歌詞と作曲が神なんだよ。何であんなに共感できる歌詞が書けるのか、心を揺さぶるメロディが思い浮かべられるのか……俺には雲の上を遥かに超える存在だよ」

 

「新田君のギター上手かったですよ? これから色々経験を積んでいけばライナにきっと近づけると思います」


「サンキュー。そういや上条って蒲中だったんだよな?」


「はい、そうですけど」


「前にその学校から来た女の子達に聞いたけど、上条の事知ってるやついなかったんだよ。皆んな首を傾げてさ」


「私メガネかけてたし、髪もボサボサで……学校が終わったらすぐに帰ってましたから」


「上条も色々大変だったんだな」


 その一言が嬉しかった。分かってくれる友達がいるのがこんなに安心できるものだったなんて初めて知った。


「ごめん、遅くなった」


 そんな時、松岡君が合流すると雑談をして時間はあっという間に過ぎていった。


 最近毎日と言っていい程松岡君と一緒に帰ってる。今日も部活をする生徒の視線を集めながら学校を後にしていた。


 今日はなんだか申し訳ない気持ちで松岡君の隣を歩いていた。それは今日学校で私と松岡君が付き合ってるって噂になってるってクラスの女の子に言われていて、松岡君に悪いと思っていたからだ。


「あの、松岡君? クラスの子に聞いたんだけど私達に変な噂が立っているみたいなんです」


「ああ、僕も聞いた。まあ、確かにほとんど毎日一緒に帰ってたらそう噂されてもしょうがないね」


 悩む私とは対照的に松岡君は何も思ってないような感じだった。


「松岡君はそれでいいんですか? 私は何か悪い気がして……」


「誰に?」


「もしも……その……松岡君が好きな人がいたらその人に悪いかなって……松岡君モテるから……」


「ははは、上条さん考えすぎだよ。最近よく付き合ってるのかって訊かれるけどちゃんと違うって言ってるから安心して」


「まあ、それならいいですけど……」


 やっぱり松岡君はこうゆう事に慣れてるんだな……。


「ねえ、ちょっと寄り道したいんだけどどうかな?」


「え?」


「凄くいい所なんだ。行こうよ」


 私が頷くと松岡は嬉しそうな顔をした。


「ほんと? よし、行こう!」


 松岡君の案内でいつもと違う道を歩く。久しぶりに見た知らない風景に、私はどこへ行くのか少し楽しみになっていた。


「着いた!」


 そこは街を一望できる公園だった。今日は天気がいいから清々しくて気持ちいい。今は6月も中旬で、まだ暑すぎないちょうどいい時期だったから尚更だ。


「綺麗……ですね。近くにこんな所があるなんて知らなかったです」


「あそこのベンチなら更にいい景色が見られるよ」


 ふたりでベンチに座ると、しばらく心地いい風に当てられながら開放感溢れる景色を見ていた。


「上条さんごめん」


「え?」


 なんで謝るんだろう?


 急に謝られて戸惑ってしまった。何か謝られるような事をされた気すらなくて、次の言葉を待った。


「この前藍沢と話してるの聞いちゃったんだ……別に盗み聞きするつもりは無かったんだけど、部屋に入るに入れなくてつい……」


 藍沢さんとの会話……確か色々私の事を話してた気がする。


「別に隠している事じゃないですから」


「上条さんが僕の想像していたより遥かに苦しんでいたんだって分かった。まさか最近お母さんが亡くなってたなんて……」


「……お母さん半年前くらいから身体を壊しちゃって、大丈夫だって言ってたのに……私を置いていくなんて酷いですよね……」


「上条さん、お母さんは相当無念だったと思うよ。凄く生きたいと思って頑張っていたと思う」


「お母さん私がいたから……身体を壊しちゃったのかな……私のせいで死んじゃったのかな……」


「違うよ! 君がいたから頑張れたんだよ! そう思ったらお母さんかわいそうだよ……」


「本当はそうだって思いたいんだけど、どうしてもそう考えてしまうんです……」


 気付くと空はもう日が暮れ薄暗くなっていて、まるで私の心を表しているようだった。


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