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エル・カルド(失われた聖剣)  作者: 夜田 眠依
第十三章 侵攻の爪痕
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077 山積する課題

 ウィラードは、困惑した表情で長椅子に座っていた。手には、(さや)に収まった聖剣があった。


「ああ、鞘が見つかったんだ」

「うん。聖剣の間に落としていたって」

「よかったじゃないか。それで、何かあったのか?」


 ウィラードは一瞬、息をのんだ。

 

「聖剣のことなんだけど……。シルヴァ、どうしよう。剣が抜けなくなった」

「……え?」


 シルヴァは、耳を疑った。


「聖剣の間に落とした(さや)を、夕べ受け取ったんだ。それで何気なく鞘を着けて、もう一度抜こうとしたら、――もう抜けなくなっていた。これって、やっぱり僕は〈アレスル(選ばれし者)〉じゃないっていうことなのかな」


 シルヴァは、もう理由(わけ)がわからなくなっていた。剣が抜けたり抜けなくなったり、そんなことがあるのだろうか。シルヴァは不安になり、壁に掛かった自分の聖剣を手に、おそるおそる抜いてみた。

 

 ――抜けた。


 シルヴァはほっとして剣を戻した。こんなことを一体どうすればいいのだろうか。シルヴァが考え込んでいると、ウィラードが遠慮がちにささやいた。


「誰かに、こんな前例が無いか聞きに行くのは駄目かな?」

「できるだけ、大事にはしたくないんだが、〈アレスル(選ばれし者)〉のことを聞くならファーラ婆さんかな。話が出来る状態かどうかわからないけど、あとでグレインネにでも聞いてみるか。あ、でも町の状況も聞きに行かなきゃならないし……」


「僕の方は急がないよ。今は、それどころじゃないし。こんな時に邪魔して、ごめん」

「あ、そうだ。親父が帰ってきたら、町に被害状況を聞き取りに行くんだが、一緒に行かないか?」

「いいの?」

「ああ、ローダインの援軍もいるから、ウィルが顔を見せてやったら喜ぶぞ」


 二人で話をしていると、マイソール卿が第一聖家から戻って来た。


「これはウィラード殿下、お越しでしたか。お、この匂いは、……()()か?」


 鼻をひくつかせるマイソール卿を見て、シルヴァはにやりと笑った。

 

()()だ。いるか? 親父」

「頼む」


 シルヴァは調理場へ引っ込むと、急いでカップを手に戻って来た。ウィラードは鼻をつまみたいのを我慢して、マイソール卿が飲み終えるのを待った。今は、マイソール卿の働きなくして、エル・カルドの政治は動かない。

 

「ミアータ夫人の様子は、どうだった?」

「もう、どうにもならんな。話しもできん。本来であればウィラード殿下の聖剣の儀をどうするか、取り仕切って欲しいのだが……」


 ミアータ夫人はアルトが居なくなってから、部屋に閉じ籠もりきりらしい。誰が声をかけても、返事一つないそうだ。


 マイソール卿が長椅子にどっかと座り、大きなため息をついた。すると、チャイブと大蒜(ベリ・ルク)の匂いが部屋に倍増した。

 

「シルヴァ。お前、今から第二聖家へ行ってくれないか?」

「第二聖家? 何かあったのか?」


「屋敷の中の被害を調べていたらしいんだが、保管していた魔道書が、無くなっているのがわかったと言いに来てな」


「魔道書が? ドナルはどうしてる?」

「ドナルなら、まだ城外から戻っていないらしい。体調を崩していると、衛兵が知らせに来たそうだ。今、第二聖家にいるのは弟のジェレイントだ」


「ドナルは、肝心な時に役に立たないな。町の被害状況を聞くのに協力してくれって、さっきローダインの部隊長がきたんだ。どっちから手をつける?」


「第二聖家だ。魔道書が奪われたと知られたら、ローダインから何と言われるか」


 マイソール卿は、頭を抱えた。


「マイソール卿、今回エル・カルドが侵攻を受けたのは、ローダイン側の手落ちでもあります。魔道書が奪われたことで、エル・カルドが責められる事態にはならないと思いますよ」


「殿下、そう言っていただけるとありがたい。我々も、まさかこんなことになるとは……」


 エル・カルドが国を開いてからというもの、他の国々と同じように運営していくために、ローダインの援助は不可欠であった。知識、人、金、物。今も、それらなくしてエル・カルドは成り立たない。


 そして、その援助の条件として出されたのが、魔道をエル・カルドの国外へ出さないことであった。それだけ帝国にとって、魔道の存在は厄介なものだったのだろう。


 かといって、アルドリックが魔道を禁止することはなかった。流行病で魔道に通じた者はほとんどが亡くなっており、放っておいてもいずれ魔道は途絶えるのではないかと、アルドリックは考えていた。


 エル・カルド開国の頃から帝国との交渉にあたっていたのが、若い頃のマイソール卿であった。他の聖家の人間は、基本的に国外の者たちと接することを嫌ったのだ。


 マイソール卿自身、好んでやったつもりはない。だが、〈アレスル(選ばれし者)〉だった父や身重だった妻を流行病で亡くし、まだ幼かったシルヴァのためにも、国をなんとかしていかなければならないと腹を決めていた。帝国との信頼関係も、それなりに築いてきたつもりであった。


 なのに、魔道書がフォローゼルへと渡ってしまった。通常であればウィラードの言う通り、エル・カルドが責任を問われることはないはずだ。だが、今回はドナルが絡んでいる可能性がある。


 頭を抱えるマイソール卿を見て、ウィラードはためらいがちに聞いた。

  

「シルヴァ。第二聖家には、僕も一緒に行っていい?」

「そりゃあ助かる。俺より、ウィルの方が魔道書には詳しいしな」

「そうなのですか? 殿下が魔道書を?」


 マイソール卿は目を丸くした。シルヴァは流刑地を脱出するのに、いかにウィラードが魔道書を調べたかをマイソール卿に語った。目の前に座るウィラードは照れ臭そうに聞いていた。


「結局、シルヴァに背負ってもらって脱出したから、僕は何の役にも立たなかったけど……」


「そうですか。流刑地にそんな物が……。流刑地については儂も、うっすらと聞いた記憶があるのですが、書蔵庫については初耳でした。おそらく〈アレスル(選ばれし者)〉同士の秘密だったのでしょうな」

  

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