031-2 流刑地 二人の行方①
「なあ、じいさんたち。あんたらは、何をして流刑地に入れられたんだ?」
「何も」
「……何もって。何もしてないのに、流刑地にいるのか?」
「そうじゃ。儂らはここで生まれ育った。この地こそ、儂らの故郷じゃ」
その声音には疑問も恨みもなく、ただ事実を告げるだけの響きがあった。暖炉の火に照らされた横顔は、あまりに揺らぎがなく、シルヴァは言葉を失い目を瞬いた。
「じゃあ、何かしたのは……親か?」
「いや」
「じゃあ、その上の世代か?」
老人たちはふと天井を仰ぎ、深く息を吐く。
「さぁなあ。もう儂らにもわからん。最初にここに送られたのは、エル・カルドが結界に閉じこもることを反対した人々だと聞いておる」
シルヴァは思わずスープを喉に詰まらせかけた。
「それ……エル・カルド創設の頃ってことか?」
老人たちは当然のように頷いた。
「そうじゃ。その者たちは幾人かがこの地に送られ、幾人かは外へ逃げたと伝わっておる。もちろん、その後も罪人は送り込まれ続けた。儂らは、その子孫に過ぎん。ここ以外の世界も、人も知らん」
火のはぜる音が間を埋め、沈黙が小屋を包む。
「昔はアレスルが時折訪ねてきてな。手に入らぬ物を持ってきてくれたりもした。だが、いつしか誰も来なくなった」
窓を支える棒をかけながら、老人が外を見やる。その先には鉱山の入り口らしき影が霧に沈んでいた。
「……ここへ送られるのは、どんな連中だ? エル・カルドにも牢屋くらいあるぞ」
「七聖家に逆らった者。あるいは、魔道を広めようとした者もいた」
「魔道を……広める?」
シルヴァの眉が寄る。
「ああ。魔道は七聖家の独占じゃ。それを誰でも使えるようにしようと研究した者たちがいた。魔道符を使えば可能だと噂された……」
「いや、力が足りなければ命を落とす、とも言っていたな。何が本当かは忘れた」
老人同士が顔を見合わせ、肩をすくめる。
「なんせ、もう昔のことじゃ」
「力? 七聖家の独占? ……俺、魔道なんて全然わからねえんだけど」
シルヴァは頭を抱えた。彼の物心ついた頃には、魔道を使う人間などほとんど残っていなかったからだ。
「情けないのう。お前さん、本当にアレスルか?」
「一応はな……」
「その連れの子も、そうなのか?」
「ああ。剣を抜いただろ。――そういえば、ウィラード殿下の剣はどこだ?」
老人が部屋の隅を指さす。そこには聖剣が立て掛けられていた。
「慌てるな。ちゃんと持ってきてある。抜き身では危ないじゃろ。鞘はどうした?」
「……落としてきた。聖剣の間に」
「仕方ない。そのうち代わりになるものを作ればいい」
味は薄くとも温かい食事が腹に収まり、鍋が空になる頃には身体の芯まで暖まっていた。ウィラードも額にうっすらと汗をかき、すっかり元気になっていた。
「助かった。暖まったよ。この集落、他に誰もいないのか?」
老人は小さく首を振った。
「十年ほど前までは子どももおったがな。皆、怪我や病で死んでしまった。残っておるのは儂ら二人だけじゃ」
「……そうか。よし。助けてもらった礼に、何か手伝わせてもらう」
シルヴァは空になった鍋を抱え、老人たちに案内を促す。洗い場で鍋を洗い、軒下に立て掛けた。
「さて。やってほしいことはあるか? 薪割りでも屋根の修理でも、何でもやるぞ」
老人たちは急に現れた若い労働力に目を輝かせ、屋根の修理、家畜小屋の掃除、鍬の柄の交換と次々に頼みごとを言い立てる。
シルヴァは嫌な顔ひとつせず、黙々と作業をこなした。ウィラードも隣で手を貸そうとするが、出来ることはあまりなかった。せいぜい道具を渡すか、牛舎の掃除くらいだった。
「皇弟子が牛舎を掃除するなど」とシルヴァは止めたが、ウィラードは長衣の裾をたくし上げ、綺麗に掃除を終え、藁を入れ替えた。サンダルで牛舎の床を歩くのは、さすがに勇気がいったが。




