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エル・カルド(失われた聖剣)  作者: 夜田 眠依
第六章 結界の中で
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031-2 流刑地 二人の行方①

「なあ、じいさんたち。あんたらは、何をして流刑地に入れられたんだ?」


「何も」


「……何もって。何もしてないのに、流刑地にいるのか?」


「そうじゃ。儂らはここで生まれ育った。この地こそ、儂らの故郷じゃ」


 その声音には疑問も恨みもなく、ただ事実を告げるだけの響きがあった。暖炉の火に照らされた横顔は、あまりに揺らぎがなく、シルヴァは言葉を失い目を瞬いた。


「じゃあ、何かしたのは……親か?」

「いや」

「じゃあ、その上の世代か?」


 老人たちはふと天井を仰ぎ、深く息を吐く。


「さぁなあ。もう儂らにもわからん。最初にここに送られたのは、エル・カルドが結界に閉じこもることを反対した人々だと聞いておる」


 シルヴァは思わずスープを喉に詰まらせかけた。


「それ……エル・カルド創設の頃ってことか?」


 老人たちは当然のように頷いた。


「そうじゃ。その者たちは幾人かがこの地に送られ、幾人かは外へ逃げたと伝わっておる。もちろん、その後も罪人は送り込まれ続けた。儂らは、その子孫に過ぎん。ここ以外の世界も、人も知らん」


 火のはぜる音が間を埋め、沈黙が小屋を包む。


「昔はアレスルが時折訪ねてきてな。手に入らぬ物を持ってきてくれたりもした。だが、いつしか誰も来なくなった」


 窓を支える棒をかけながら、老人が外を見やる。その先には鉱山の入り口らしき影が霧に沈んでいた。


「……ここへ送られるのは、どんな連中だ? エル・カルドにも牢屋くらいあるぞ」


「七聖家に逆らった者。あるいは、魔道を広めようとした者もいた」


「魔道を……広める?」


 シルヴァの眉が寄る。


「ああ。魔道は七聖家の独占じゃ。それを誰でも使えるようにしようと研究した者たちがいた。魔道符を使えば可能だと噂された……」


「いや、(プルード)が足りなければ命を落とす、とも言っていたな。何が本当かは忘れた」


 老人同士が顔を見合わせ、肩をすくめる。


「なんせ、もう昔のことじゃ」


(プルード)? 七聖家の独占? ……俺、魔道なんて全然わからねえんだけど」


 シルヴァは頭を抱えた。彼の物心ついた頃には、魔道を使う人間などほとんど残っていなかったからだ。


「情けないのう。お前さん、本当にアレスルか?」

「一応はな……」


「その連れの子も、そうなのか?」


「ああ。剣を抜いただろ。――そういえば、ウィラード殿下の剣はどこだ?」


 老人が部屋の隅を指さす。そこには聖剣が立て掛けられていた。


「慌てるな。ちゃんと持ってきてある。抜き身では危ないじゃろ。鞘はどうした?」

「……落としてきた。聖剣の間に」

「仕方ない。そのうち代わりになるものを作ればいい」


 味は薄くとも温かい食事が腹に収まり、鍋が空になる頃には身体の芯まで暖まっていた。ウィラードも額にうっすらと汗をかき、すっかり元気になっていた。


「助かった。暖まったよ。この集落、他に誰もいないのか?」


 老人は小さく首を振った。


「十年ほど前までは子どももおったがな。皆、怪我や病で死んでしまった。残っておるのは儂ら二人だけじゃ」


「……そうか。よし。助けてもらった礼に、何か手伝わせてもらう」


 シルヴァは空になった鍋を抱え、老人たちに案内を促す。洗い場で鍋を洗い、軒下に立て掛けた。


「さて。やってほしいことはあるか? 薪割りでも屋根の修理でも、何でもやるぞ」


 老人たちは急に現れた若い労働力に目を輝かせ、屋根の修理、家畜小屋の掃除、鍬の柄の交換と次々に頼みごとを言い立てる。


 シルヴァは嫌な顔ひとつせず、黙々と作業をこなした。ウィラードも隣で手を貸そうとするが、出来ることはあまりなかった。せいぜい道具を渡すか、牛舎の掃除くらいだった。


「皇弟子が牛舎を掃除するなど」とシルヴァは止めたが、ウィラードは長衣の裾をたくし上げ、綺麗に掃除を終え、藁を入れ替えた。サンダルで牛舎の床を歩くのは、さすがに勇気がいったが。



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