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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第5楽章 向日葵聖戦編
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79.ファーストキスは睡眠薬のお味


※15歳未満の方へ、ブラウザバックを推奨します。






 生い茂った緑に、はるの体は受け止められる。


 恵業けいごうが、陽の身代わりになった。


 さっき、オルタ湖に沈みゆくぼろぼろの機体を見た。どんなに叫んでも、もうなんにも届かないだなんて、信じたくなかった。


(ボス…………)


 あれだけお世話になったのに、ありがとうもごめんなさいも、うまく形にならなかった。


 恵業が最期に見せた笑顔を思い出す。きっと、一生忘れられない。


(私じゃ、ボスの代わりなんて、できっこないと思う)


 でも。


 陽はキッと、前を睨む。


 すでに、走り出していた。


 教会に、向かわなければ。


 


 大聖堂の門は重い。陽はゆっくりと、深呼吸する。讃美歌のために使われていそうなパイプオルガン。神秘に満ち、冷たくて排他的な香りが、そこには漂っている。


 陽は口もとをおさえた。


ーーいた。見つけて、しまった。ステンドグラスの前に、聖田きよだはぼんやり佇んでいた。手には斧のようなものを、携えている。


 チャーチチェアに、パンプスの角が引っかかる。陽の足音に気づいた聖田は、思い切り頬を緩ませた。


「……貴女なら、絶対に僕のところに来てくれるって信じてました。」


 はるは震える手で、ポケットの中の銃を取り、構えた。


「ひっ…………ちかづか、ないで!」


 "再会してしまった"悔しさと、苛立たしさ……それから少しの、安堵感。


 抑えてたのに、葛藤の中ではるは揺れていた。


 ふたりの視線が、混じり合う。


 聖田は遊びに誘うように、微笑みながら一歩、また一歩と、こちらに距離を詰めてくる。


「ずっと、ずうっと、お会いしたかった。」


 抵抗しようも強い力で腕を捕らえられ、腰をぐいと引き寄せられる。



 一瞬、何が起こったのか、よくわからなかった。


「〜〜〜〜〜ッ⁈」


 唇が、奪われる。陽の口にはーー聖田の舌が入ってきた。


 ぐにぐにしていて、今まで味わったことのない変な感触に、陽はえずきそうになる。


 厚い胸板をどんどん叩いても、びくりとすらしない。


 息をするのが苦しくて、両足をじたばたとさせる。だけど、それすら許さないといったふうに、聖田は足を挟み込み、乱暴に陽の頭を掴んだ。


「んっ、ふぇ……あ、あ、んむっ」


(いやだ、こわい、どうして……こんなこと、するの)


 結局、聖田を拒否する言葉たちはぜんぶ、情けない吐息にしかならなかった。


 余裕たっぷりの笑み、幼子をあやすように片側だけ繋がれた手を見て、改めて力の差を思い知らされた。


 生理的に溢れ出てくる涙に、陽は絶望する。


 それなのに、陽の全細胞が「この人がいい」と叫んでいる。まるで感電してしまったかのように、身体中が甘く疼いた。


(もう、おかしくなっちゃーー)


「ふぁ……んんッ、」



 もはや抵抗するのすら諦めて、すっかり身を委ねてしまう。


 永遠とも思える長い時間、陽は聖田にされるがままになった。



「ん、はあっ…………すみ、ません。いきなり、ひどくして。怖かったですよね? はるさん」


 聖田はそう告げると、絡まり合った銀糸をーー美味しそうにぺろりと舐めた。


 慣れた手つきで、頬を撫でられる。聖田は丸いカプセルみたいなものを、口に含んでいたーーそのまま顎を、上向きにされる。また、熱い舌が入ってきた。


 水音だけが、頭の中で鳴り響く。


「んぅ……なに、のませっ…………」



 聖田は、もったいぶったようにこう言った。


はるさんお得意の、睡眠薬です。」


 ーー信じられなかった。



「っファーストキス(はじめて)、だったんですよ……?」


 ぴちょぴちょ落ちてゆく唾液を止めるために、口もとを強く拭う。


「うふふふふっ。いいですねえ、その顔」


 会話する気はなさそうだった。


 とってもそそります、と、聖田が耳もとで囁いてくる。


 陽は反射的に、それを突き飛ばしてしまった。




 聖田はちょっと不思議そうな表情を浮かべると、


「……ひどいですはるさん。僕にあんなに懐いてくれていたのは、嘘だったんですか?」


 陽は、ああ、と崩れ落ちる。どうやら、雛の刷り込みだったみたいだ。


「ひどいのは、どっちですか。ボスーー恵業けいごうさんをあんな風に、あんな風に……!」


 聖田が、くすくす笑っている。


「彼らは犯罪者だ。死んで当然の人間なんですよ。さては、長く暮らすうちに情でも湧いてきてしまいましたか」


 ズボンを何度か直すと、聖田はふいに、首をひねらせた。


「性的興奮による、血圧の上昇……やはり少々、がっつきすぎてしまったようです。こんなふうに取り乱した陽さん、初めて見た……もっと段階を踏んで、続きはゆっくり、()()()()()()()()でしましょうね」


「どういう……ことですか」


 意味深な単語に、陽の声は上ずる。


「言葉どおりの意味ですよ。共に、目指すんです。ふたりしかいないーーまっさらな世界を」


ーー僕たち以外の存在、それら全てを無に帰しましょう!


 愚民たちの一斉解放。聖田は明るく、そう言った。




あとがき


まえがきで注意喚起をしたのは、初めてのような気がします。ディープ……に関しては、ちょっと大人っぽい恋愛漫画を熟読して、雰囲気を頭に叩き込みました。あとはあれですね!レオさまが出演している「ロミオ&ジュリエット」の、熱いキスシーン! あそこの場面、大好きです。


いかがでしたか?^_^


↓以下、12話より一部抜粋(雛の刷り込み〜について)


「ーーって! 大丈夫です! 自分で食べられるくらいには回復していますから‼︎」


「いえいえ、これがなかなか。雛鳥に餌付けしているみたいで楽しいですよ」


 聖田はにこにこと笑いながら、"餌付け"を止める気配がない。


 陽は聖田の圧に若干押されつつ、黙って世話されることを決意した。

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