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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第4楽章 ザンザアラ・マスカレヱド編
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63.Fラン




「はははっ、理解できないって顔してるね。君たちは知りすぎたんだよ。それはもう、色々とね。」


 冷淡に告げると、男は銃を一丁取り出した


「おいおい! 殺すんなら、せめて自己紹介くらいしてからにしろよ。礼儀だろ?」


 恵業けいごうはひょうきんな態度を取りつつも、陽たちをさっそうと庇ってくれる。


 



 すると、険しい目つきをして事の次第を見守っていた獅子が、自分の背中を顎でしゃくった。陽はすぐさまそれに気づいて、近くまで寄っていく。


(え、なあに?)


 獅子は鼻すら鳴らして、背中を強調している。


ーーもしかして。


「"乗ってもいいよ"って言ってるの?」


「ああそうだ。そこのアバズーー女性、日楽あきらさんだけは助けてあげますよ。なんたって、そういう契約ですからね。」


 さあこちらへ、と手招きされるも、陽は後退りしてしまう。


「どうしてですか? 蝶よりも花よりも丁重に扱おうというのに」


 陽は首をふるふる振った。


 優しい手つきだけれど、なんというか、どこか、引っ掛かる部分がある。


 陽は、にこりと笑う男の口もとを注視する。その瞬間、身体中にいなずまが走った心地がした。


 そうだ、あの薄い唇は。


(……昨日、御代さんに見せてもらった写真に写ってた人だ)


 名前はたしか、若狭ーー





 思い出しかけたところで、聖田きよだに腕と腰を掴まれる。気づいたときにはもう、陽は獅子の背中に跨っていた。


「先に、獅子と逃げて……大丈夫。何があっても、陽さんには指一本触れさせません」


「でも、おふたりは」


「僕達のことはいいから。心配せずとも、後で必ず追いついてみせますよ」


 聖田はそう陽に耳打ちすると、獅子にゴーサインを出した。




 陽はだんだん遠ざかっていく二人の名前を叫ぶ。獅子の全速力に、舌を噛みちぎってしまいそうになりながらも。


 最後に、絶対約束してくださいね、と叫んだら、笑顔の聖田から前を向くよう促された。



__________________________________________



「一緒に頑張りましょうね、ボス」


「もちろんだ。でも、間違って老いぼれの魂まで掠め取らないでくれよ……聖田朧ディアボロさん?」


 恵業がからかうように返事したとき、向こうから、どたどたと足音が聞こえてきた。どんどん、足音は近づいてくる。


「はあ、ぜいっぜい、やっと……見つけた……って、はあ⁈ 日楽あきら はるは⁈」


 恵業は目を凝らす。小柄な体躯に、特徴的な猫っ毛。恵業の記憶が正しければ、彼は多分、昨日のパーティーに出席していたような気がする。


 聖田はちょっと考えるそぶりを見せると、右の人差し指に軽めのキスをした。


 たまに、ポーズを取りたがるのはやっぱりさがなんだろうかとひそかに恵業は思う。無論、人のことばかり言っていられないが。


「ついに追いついてしまいましたか、御代みよさん。うふふ、申し訳ありません。そのことに関しましては企業秘密なんです」


 御代、と言ったか。彼と目が合う。ここまできて骨折り損かよ、と激烈に地団駄を踏んでいた。


「あんた一人、いてもいなくても変わんないんだよ!」






「置いてきぼりとは腹立たしい。さて、そろそろご退場願っても?」


 若狭は、三人の足もとに容赦なく銃を撃った。場数を踏んでいる恵業と聖田は避けられたが、御代の左親指あたりに、弾が入ってしまった。


「痛っ……く、その声。あんたまさか、司会の……? 嘘だ、そんなはずは……若狭わかさ 縁由よりよし本人だったって、いうんじゃないでしょうね?」


「ああ。そうかそうか。つまり、こそこそ嗅ぎ回っていたのは君だったというわけか」


 御代は興奮した様子で一枚の写真を取り出すと、それを殴りつけるようにして若狭に見せていた。


「あ、あんたがマフィア……ッザンザーラと繋がってるってのは、こっちだって分かってるんだからな! しょ、証拠だってバッチリ押さえてあるし⁈」


 若狭は一瞬、顔に戸惑いの色を浮かべたかと思ったら、すぐに唇の端を醜く歪めた。


ーーなら、話が早い。


 笑いを押し殺した若狭は、御代にじりじりと詰め寄る。



「いいかい? いけすかない記者の分際で探偵ごっこなんてしている暇があるのなら、さっさと浅薄に学でもつけたらどうなんだ。え? なぁに。

ーーどうせ、地方のFラン出身なんだろ?」


 その場に、戦慄が走る。若警視総監の若狭わかさ 縁由よりよし。彼はたしか、京都の難関私大卒だったはずだ。


 生粋のエリートを前に、顔面蒼白の御代。おそらく御代にとって、"学歴マウント"をとられることは、死ぬよりも恐ろしいことなのだろう。恵業は正直、なんともいえない思いでいた。


「そうそう、君みたいな人種は特に、変にプライドばっかり高いんだ」


 若狭はほうれい線を気にするように薄く笑いながら、写真を破り捨てた。


「弁えろ、御代みよ 武美たけみーーい〜や。みのたけくん♡」


 若狭は、固まったままの御代をさらに煽るように、肩にポンと手を置いた。


「さ、分かったらもっと、賢くなろうか……なんせ、世の中まだまだ学歴社会だ。いつだって、カースト上位の者には君たちみたいなゴミ人間を淘汰する義務があるんだよ」


 若狭は、スイッチが切り替わったように細い目をさらに細める。


 照準が、御代に定められた。



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