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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第1楽章 カルマファミリー編
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6.カルマの清掃員・君守 影助

条件はひとつ【1億分タダ働きすること】


ーーレトロ調の執務室へと案内されたはるは、お気に入りのメモ帳を取り出した。


「さあさぁ、こっからはおベンキョーの時間だ」


 影助えいすけは、はるがプレゼンで使っていた折り畳みホワイトボードをひったくり、もったいぶった様子で言う。


 ファミリーに加入したものの、右も左も分からないままのはるに、組織の全容を教えてやれとのことだ。ーーもちろん、ボス命令で。


__________________________________________


「まず、"丸火マルカ通商株式会社つうしょうかぶしきがいしゃ"が仮の姿だっつーのは、先刻さっきも説明したよな? 」


影助えいすけは、机に立てられたスタンドから高級そうな羽根ペンを手に取って、ホワイトボードに"火"が入った◯を書く。


(ガーン……! あれ、水性マーカーじゃないとだめなのにぃ‼︎)


 しかしながら、ついさっき急死に一生を得たばかりのはるにとって、影助えいすけ迂闊うかつに物申すことがどれほど危険なことか。それが分からないほどには、子どもではなかった。

 はるは、考えていることが言葉になるすんでのところで口をつぐんだ。



 影助えいすけは、"火"が入った◯をトントンと叩く。


「ここのロゴか何かですか……?」


「ああ、"マルカ"の方のな。ちゃんと商標登録もしてある」


 影助えいすけは、相変わらずにやにやしている。


(◯、火、丸秘……もしかして㊙︎⁈)


 これって、なんだかすごく。

 

 警察をあおっているんじゃないかーー。


 はるはそんな風に考えてしまって、また口をつぐんだ。少しだけ笑いをこらえる。


「オレたちはこのロゴに、天下布武の意を込めた。」

「マルカ……いや、カルマファミリーは、いずれ"日本"を手に入れるんだ」


 室内のはずなのに、2人の間を風がさあっと通り抜けたような気がした。


ーーああ、日の丸か。


 影助えいすけの背中には、紅白のめでたい旗がはためいているかのように見えた。





 影助えいすけは、深呼吸する。


「『死刑及び、終身刑を含めた残虐刑の一切を禁ずる』。……ヨウお前、この法律知ってっか?」


 はるはさらっとヨウと呼ばれていることに若干の不満を抱きながらも、もちろん知っていますよ、とつとめて明るく答えた。


「たしか、私たちが産まれる前には採択されていたんでしたっけ。高校入試でも出題されたなあ。懐かしいです」

「イカれてると思わねェ?」


 食い気味に問われる。

 はるは正直、返答に困った。


 なぜならはるは、罪を犯した人にだって更生の余地があるのなら、生きて償いをしてもらいたいと願っていたから。


(あれ? でも、そう思うようになったのって、いつからだったのかなあ)


 漠然とした疑問。


 影助えいすけは続ける。


警察サツは使えねェ、マフィアに媚びへつらう政治家は論外……この国は、犯罪者を野放しにしたあげく、今じゃあ肩入れし始めている。」


ーー無期懲役でも、10年弱で仮釈放がなされる。


「言いてぇこと分かるか? オレらはな、当然ですみてーな顔して世の中に甘える、弱者ぶったクズが大嫌いだ。」


「だからこそカルマファミリーは、悪をもって悪を制す。()()()()してやんだよ」


 ホワイトボードは、弱者とか、クズといった言葉によってぐちゃぐちゃに埋め尽くされていく。

 はるはもう、目を覆ってしまいたかった。


「"死刑執行人のカルマファミリー"ってな。マフィアをおちょくンのにはうってつけだろ?」


 影助えいすけの灰色の目が、こちらを捉える。


「ま、かといって正義漢ぶりたいワケでもねぇがな。オレたちのやることが、世間サマにどんな影響を与えようがお好きにどうぞ、だ。」



「歪んで見えようが、狂って見えようが、一度決めたコトを死ぬまでやり通すーーそれだけだ。」


 ガリ、とホワイトボードに流儀、と書くと、羽根ペンはたちまち壊れてしまった。


「おおい、影助えいすけー、ちゃんと上手くやってるかーー」


 恵業けいごうが部屋に入ってきて、あ、と影助えいすけはるは顔を見合わせる。


 影助えいすけ俊敏しゅんびんな動きではるに壊れた羽根ペンを握らせる。


「俺の、羽根ペンはどこだ……。それも本国製のいいやつだ。」


 影助えいすけは悪びれる様子なく、はるを指差す。


「オレじゃありません、コイツがヤリましたー」


(あ、ありえない!)


「なっ、違っーー」

ヨウがやったのか。」


 影助えいすけは笑いを堪えきれず、腹を抱えて笑っていた。


「今のはフェイントだ、かかったなあ? 影助えいすけ


 恵業けいごうはくるりと影助えいすけの方に振り向いた。


「⁈ いや冤罪冤罪! 何かの間違いですよボス!」


 必死に弁明する、影助えいすけの憐れな姿。


「2,8578ラリイ分、仕事でちゃあんと返してもらうぞ」


 恵業けいごうはにっこりと笑う。


ヨウも、演技とはいえ疑って悪かったな。今ならアイツになんでも言っていいぞ」


(死刑についてとか、終身刑についてとか、せっかくさっきまで格好よく話してたのに……!)


 はる汚島おじまによく言われていたことを思い出す。


 それは、今のはるが考えうるかぎり、最大限のののしりの言葉。


影助えいすけさんの、影助えいすけさんの……タコ()()()()()‼︎」


 はるの顔は、それこそタコのように真っ赤になってしまっていた。



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